第1話 追放された荷物持ち、実は“世界を記録する者”でした
雨だった。
石畳を叩く冷たい雨が、王都の裏路地を濡らしている。
「おい、まだ終わんねぇのかよ、ノア!」
怒鳴り声と同時に、蹴り飛ばされた木箱が胸にぶつかった。
荷物が崩れる。
中から高級ポーションの瓶が転がり、一本が砕けた。
「あっ……」
「てめぇ何してくれてんだ!!」
銀髪の剣士が、俺の胸ぐらを掴み上げた。
勇者パーティ《黎明の剣》。
王都最強と呼ばれるSランク冒険者たち。
その雑用係が俺――ノアだった。
「す、すみません……!」
「謝って済む問題かよ。お前、またやったな?」
「違っ……今のは箱が急に――」
「言い訳すんな」
腹に拳がめり込む。
息が止まった。
泥水に膝をつく俺を、周囲の仲間たちは冷めた目で見下ろしていた。
「やっぱ荷物持ちなんて入れるんじゃなかったのよ」
魔導士リリアがため息を吐く。
「最近、探索効率も落ちてるしな」
大盾使いガルドも腕を組んだ。
最後に、リーダーである勇者アレスが口を開く。
「ノア。お前、今日でパーティを抜けろ」
――来た。
いつかこうなるとは思っていた。
俺には戦闘能力がない。
剣も使えない。
魔法も使えない。
ステータスも最低ランク。
唯一持っていたスキルは――
【記録】
ただ、それだけだった。
戦闘には役立たないゴミスキル。
少なくとも、みんなはそう思っている。
「今まで世話になったな。まあ、お前みたいな無能でも、少しくらいは役に立ったぜ」
アレスが銀貨を数枚投げてよこす。
泥の中に落ちたそれを見て、仲間たちは笑った。
「拾えよ、荷物持ち」
「明日からはスラム生活かな?」
「魔物に食われないようにね?」
笑い声が遠ざかる。
俺はしばらく、その場から動けなかった。
冷たい雨だけが、静かに頬を打っていた。
◇
「……終わったなぁ」
王都の外れ。
古びた橋の下で、俺は一人座っていた。
腹は減っている。
宿代もない。
でも、不思議と涙は出なかった。
むしろ、少しだけ肩の荷が下りた気がした。
「……帰ろうかな」
帰る場所なんてないけど。
そう呟いた時だった。
頭の奥で、妙な音が鳴る。
【条件達成を確認】
【ユニークスキル《世界書庫》が解放されました】
「……は?」
視界に、青白い文字が浮かんだ。
驚いて何度も瞬きをする。
だが、文字は消えない。
【《記録》スキルが一定値に到達】
【世界の情報閲覧権限を付与します】
「な、なんだこれ……」
次の瞬間。
大量の情報が脳内へ流れ込んできた。
地図。
魔物。
迷宮。
古代魔法。
失われた王国。
神代文字。
世界中の知識。
まるで“世界そのもの”を閲覧しているような感覚だった。
「ぐっ……!」
頭痛に耐えながら、俺は必死に情報を整理する。
その中で、一つの情報が目に留まった。
【王都地下迷宮 第七層】
【隠し部屋座標:E-12】
【内部に神代級遺物《星喰いの指輪》を確認】
「……え?」
王都地下迷宮。
初心者用ダンジョンとして有名だ。
当然、勇者パーティも何度も攻略している。
だが、“隠し部屋”なんて話は聞いたことがない。
それに――神代級遺物。
国一つ買えるほどの超レアアイテムだ。
「……いやいや、そんな都合よく」
半信半疑だった。
だが。
脳内には、隠し通路の位置まで正確に表示されている。
まるで実際に見たことがあるみたいに。
「……行くか」
どうせ失うものはない。
俺は立ち上がった。
雨は、いつの間にか止んでいた。
◇
翌日。
王都地下迷宮、第七層。
「はぁ……っ、はぁ……っ……!」
俺はボロボロになりながら通路を進んでいた。
戦闘能力皆無の俺にとって、第七層は本来あり得ない場所だ。
だが、《世界書庫》の情報のおかげで、魔物の出現位置も罠の場所も全部わかる。
だから避けられた。
最短ルートでここまで来られた。
「……ここだ」
行き止まりの壁。
普通ならただの石壁にしか見えない。
だが、脳内の情報は告げている。
【魔力を流してください】
「こうか……?」
壁に触れ、意識を集中する。
すると。
ゴゴゴゴゴ――!!
壁が開いた。
「うそだろ……」
隠し部屋。
本当に存在した。
中央には、黒い指輪が一つだけ置かれている。
禍々しく、それでいて美しい。
【神代級遺物《星喰いの指輪》】
【装備者に“魔力吸収”を付与】
【あらゆる魔力を糧に成長可能】
「……これ、絶対ヤバいやつだろ」
震える手で指輪を掴む。
瞬間。
指輪が光り、俺の指にはまった。
そして――。
『適合者確認』
『継承開始』
膨大な魔力が体内へ流れ込む。
「がぁぁぁぁぁっ!?」
視界が白く染まった。
◇
一方その頃。
王都ギルド。
「……は?」
受付嬢ミリアは、計測水晶の数値を見て固まっていた。
「地下迷宮第七層で……異常な魔力反応?」
あり得ない。
Sランク魔物出現級の数値。
しかも反応源は一つ。
まるで“新しい災厄”が誕生したかのような――。
「すぐに勇者パーティへ連絡を!」
王都が騒然となる。
だが誰も知らない。
その力を手にしたのが、昨日追放された“無能の荷物持ち”だということを。
そして。
世界の運命が、ここから大きく動き始めることを。
【続く】
初めまして、うさみみです。
ずっと投稿してみたかったなろうをついに始めてしまいました!!
拙い物語かもしれませんがこれからノアがどのような運命と対峙していくのか、
ハラハラドキドキ、たまにほのぼの、、?
そんな物語をぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです!!
週1では投稿できるように頑張ります、、




