14話 頑張っても限界はある
{獣王達がダンジョン入り口付近に出て来る前}
{ダンジョン一層目に上がってきてます}
Side:ハウロウ 狼獣人
【闘士の門】所属 何故かイセに優しい
「それでは、ダンジョンマスターと交渉の結果、色々取引なり交易なりする形になった、という感じで説明お願いしますね、コーダルさん」
「ああ、分かったよイセ君。話し合った内容通りに説明しよう」
イセとコーダルがダンジョン入り口付近にいる【闘士の門】クランメンバーと国軍兵士達、市民や大臣向けに説明する内容に付いて話していた。
ダンジョンマスターであるイセは、ダンジョンマスターになりたくてなった訳では無いと、ダンジョンをこの国に作りたかった訳でも無いと皆に説明。
大体の形的には、イセがこちらに迷惑をかけたお詫びの品を渡してきて、リフォはダンジョンがある事と、ダンジョンマスターがそこで生活する事を認め、受け入れたという形に。
まだ解決するべきことはあるが、その話を進めるにも、一旦ダンジョン入り口に居る皆に説明をしなくては、という事になった。
出来立てのダンジョンに、獣王やマハガルといった強者として有名な者達が、ダンジョンから全然出てこないというのは、このダンジョンが凶悪な高難度ダンジョンだと誤解されてしまう。
イセにとってそんな評価は困ると、俺達に説明してほしいらしい。
確かに望んでダンジョンマスターになった訳では無いのに、今居るダンジョンが凶悪だと広まっては、イセに望まぬ面倒事が降りかかる。
そうならない為に、俺達に色々な物を、敵対したくないという意味で交渉材料の品を沢山くれた。という話をしてほしいと。
「しかしイセ、よいのか?お前がわしらに降伏した様な形で。今後の取引や交渉で鬱陶しい事をいう輩が出るのではないか?」
「どうせ出てくるってどうしても。というか僕が『皆相手に互角に渡り合った』とかいう方が面倒事が増える。まだ僕が降伏した形の方が対応できるからね。リフォやマハガルを相手にできるなんて変な噂広まった方が、鬱陶しい輩がわさわさ出てきそうだし」
ゴウの疑問に答えるイセ。
ふむ・・・。自分の名声などよりも面倒の方が大きいと、イセは考えて俺達に降参したという方向にもっていくと。
今後の展開で自分が不利になるとしても、対応できる方がまだ良いと。
・・・俺なら、俺がイセの立場だったら、どっちを選ぶのだろうか。
「それに、僕とこっちの魔法関連の知識の違いを、確認したり検証する為に、ゴウの通う学園の生徒達の協力も欲しいから。違和感を確かめたいので、手間賃というか人件費?みたいな感じで色々リフォ達に渡した、でいけると思う」
魔法関連を実験する為・ゴウ含めた学生達の能力向上の為に、イセの知識を学ぶ事は必要。
イセ本人もDP確保のためダンジョンに入ってもらいたいから、多少不自然だったりしても大量の魔道具なりで取引・交渉を有利に進めて欲しいから、リフォ達に色々渡したのだ。
「さてと、あっちはいい感じに出来てるかな」
とイセは沢山のテーブルがある所を見て、そっちに歩いていく。
俺達も後ろからついて行く。
テーブル近くの椅子にリフォとマハガルがリラックスして座っている。ゴドとビシャルはそこからだいぶ離れた所にテーブルを置いて椅子に座っている。
ゴド達にある程度近づくと、ひんやりとした涼しい空気を感じる。
テーブルに、リフォ達に近づく頃には、氷室と同じかもっと寒いくらい冷えた空気になっていた。
イセが発動し維持していた魔法【クーラースポット】という魔法空間。
暑い日や空間で熱い空気を冷やし、涼しい空気にして指定した空間内に広めたり、風を使って広い範囲に涼しい風を送る為に作った魔法だと言う。
極端に温度を下げて氷も作れる温度にも出来て、戦闘時・日常でも便利な魔法らしい。
空間を少しずつ建物の部屋の様に仕切り、涼しい・寒い空間を分ける事も出来ている。
・・・すごいのだが、氷菓を作ったり、暑い時涼む為の魔法とは。
いや、イセが、作った本人が良いのなら、他人がどうこう言うのは間違いだろうな。
実際、イセはそれを使い、あれを作っている最中なのだから。
ちなみに皆涼む為にこの空間に入っている。空間の外でもある程度涼しい風が吹いているので、俺やコーダル達は入らなくても、そよ風の様に冷気を感じていたので十分に涼しかった。
ダルヤは寒い空間に色々嫌な経験があるらしいが、俺達が中に入って行ったので一緒に入った。が、ゴド達辺りが限界らしく、そこで待つ事を選んだ。
コーダルとスレイ、ゴウ君も一緒に待つ様だな。
中央辺りのテーブル付近は、とても寒い。テーブルの上には、金属の皿の様な容器。
その中には、イセが作っている氷菓がある。
しっかりと出来てるか確認の為ここまで来たが、イセは変な奴を見る目でマハガルを見て言った。
「あのさぁ、マハガル。それはどうなんだよ?」
「いきなり何だぁ?イセぇ。どうなんだってよぉ」
「いくら涼む為だからって、アイス固める為の温度まで下げてる中央付近で、ほとんど裸でリラックスは、お前がイカれてるって感想しか浮かばねーよ。頼むから薄い上着だけでも着てくれねーかな」
「えーめんどいぜぇ〜」
「めんどいじゃねー!?見てるこっちがもっと寒く感じるんだよ!ダルヤさんなんてこっち見ようともしてないぞ!目を力一杯瞑ってんだぞ!」
ダルヤを見ると、ぎゅっと目を瞑って顔だけ向けていた。
さすがに俺も言うべきだな。
「マハガル。俺が言っても説得力は無いだろうが、せめて上を着ろ」
「上下半袖の奴が言ってもよぉ、ほんとに説得力ねーなぁ」
そう返すマハガルだったが、イセが上着を差し出すと渋々羽織る。
イセが俺にも渡してきたので俺も羽織る。
ちなみに獣王は珍しい物を見る目で、テーブルのアイスをじーっと見ている。
イセは呆れていたが、テーブルのアイスをスプーンて軽く突くと、
「あ、出来てるな。んじゃ、透明なカップに入れてっと」
イセが透明なガラスのカップに、アイスクリームと言う氷菓を入れていく。
凍らせた果物も入れている。
俺も入れるのを手伝う。
獣王とマハガルにゴド達も来て、アイスクリームをカップに入れる。
ダルヤはイセが用意してた厚手のコート等を着てこっちに来た。他の皆も少し上着を羽織っている。
「・・・イセぇ」
「だめ」
「言い切ってねぇ」
「食べたいって言うんだろ。だめ」
「何でだよぉ」
「さっきまで半裸だった奴に、寒い空間でアイス食べさせて、腹壊したり体調悪くなったら、さすがに俺の印象悪くなるわ!」
それはそうだな。
半裸でこの空間に居たマハガルが悪いが、そんなマハガルにアイスを食べるのを認めてしまうと、さすがにイセも悪いという事になる。
イセに対して優位になりたい奴はそこを大問題にしてくるだろう。
「上で皆の前で食べるんだから、いいだろ!我慢しなさい!」
「ガキの躾みてえに言うなよぉ」
「め!」
「ガキ叱るみてえに言うなぁ?」
口調はともかく、マハガルは本気で怒ってはいない様だ。
マハガルの中では、イセは面白い奴認定しているのだろうな。
「皆の前で俺らが食べる事で、安全というのとイセを信頼してるのを、アピールするってのはいいんだが。・・・・・・イセ、一口!」
「口いっぱい頬張るつもりだろ?ダメだっつーの!我慢しろやリフォ!中で先に食べてたのに上でまた食べたってバレたら、さすがのお前でも袋叩きにされるっての!」
「あ〜、俺が皆側ならやるわな。真っ先になぐるわ」
・・・リフォもマハガルと同じく、食べたいらしいな。
気持ちは分かる。が、俺達だけ先に食べるのは気が引ける。
上で熱い中警備・警戒してくれている皆にも一緒に食べるべきだろうな。
「しかしイセ君。よかったのか?DPを使い食材などに交換して、上の皆、市民達にも振る舞うなど」
コーダルがイセの提案による、『皆に、市民達にもアイスを配る』という事に、今更ながら質問する。
DPを何かに変換出来る『転換炉』という物を使って、食材などに変えたイセ。
黒い半径1メートルほどの円柱の台座。高さは1メートルほどの物。上に魔法陣が描かれている。
DPを消費して真ん中から光に包まれた後出てきた。
DPを魔力に変えて放出することが、ブルウィに頼まれた事なのに、食材や香辛料などの物に交換して、沢山の人に配る。
確かに今更だが、その分魔力に変え放出するべきだろう。
「ん〜。高価だって分かってる氷菓を、沢山作ってくれる相手を、敵に回さんだろうって事。それと僕がこのダンジョンに人を集めてDPを確保する為に、無償の支援・必要経費って事で配る。アイスが食べたい。この3つが大体の本音ですけど、建前も聞きます?」
「・・・・・・本音の後に建前って・・・。建前だけでいいだろう」
・・・コーダルの言う通り、建前だけで良かったぞ、イセ。
いや、まあ。その3つが本音なのはそうなんだろうが、わざわざ言う意味はないだろうに。
というか3つ目、自分が食べたいからなのか。
「ありがちで平凡な建前なんて、つまらないでしょう?あと僕の精神が色々限界近いのでふざけて回復したいんです。巻き込まれてください」
「そっかー。分かったよ。・・・と受け入れるのはリフォやマハガルだけだと思うよん?」
「俺らもそんな簡単に受け入れねーっての」
「精神限界でふざける道を選ぶなよぉ」
本気を先に言った理由を言うイセに、ビシャル・リフォ・マハガルがつっこむ。
・・・やはりいきなり俺達を相手取る事に、イセも圧を感じていたのだな。
黒いレンズのメガネなど小道具で頑張っていて、少しずつ俺達に慣れてくれたとはいえ、やはり限界はあるよな。
「・・・皆さん悪くないんです!悪いのブルウィ含めたやらか神共なの!僕を誘拐した奴とブルウィが特に!つーかブルウィの野郎は僕のアイテムボックスの中身、一部どっかやってやがるし!僕が何したってんだよぉ〜!?」
イセが崩れ落ち、泣き始めてしまった!?
た、大変だ!?
「い、イセ!?落ち着け!?・・・いや、泣け!全部吐き出すんだ!」
一度思い切り気持ちを出し切る。
我慢しすぎてこうなったのだ。
イセを抱きしめて背中を摩る。
皆も突然泣き出したイセにどうするべきなのかとおろおろしている。
「い、イセ君!?えっと、スレイ!?」
「コーダル様、見守るのが良いかと。我慢していた分出し切らせた方が良いです」
助けを求めるコーダルにスレイは見守るべきと回答。
スレイは俺と同じ考えか。
「あっと・・・。イセ・・・」
ゴウ君はイセの背中に触れて俺と同じく摩る。
何を言えばいいのかは分からないが、とにかく行動をと思ったのだろう。
「あ〜。やっぱ耐えられなかったか」
「・・・リフォ。分かってて言わなかったのか?」
「・・・私達が『我慢するな』と言っても効果は無いでしょう。一度爆発させて、慰めるのが一番良い選択だったとは思いますよ、ゴド」
リフォはイセの限界が近いと分かってて、あえて指摘しないを選んだ様だ。
ゴドは気づいていて何も言わなかったリフォに疑問を投げかける。
ダルヤは促しても遠慮するだろうという考え。
「あーらら、イセちゃんだいじょぶだよー。いっぱい泣いてスッキリしなねぇ〜」
「ブルウィに対する怒りはわすれてねぇみてえだなぁ」
ビシャルも俺とゴウ君と同じようにイセに寄り添う。
マハガルは先程のイセの叫びの内容で、ブルウィに対する怒りがまだあった事に感心していた。
今イセが怒っているブルウィのやらかしとは、イセがアイテムボックスの中の魔道具を俺達にお詫びの品として渡す為、中をしっかりと確認していた時。
「・・・・・・んん?」
「イセ、どうした?」
中を見ていたイセが怪訝な表情をしたので、俺が問うた。
イセが少しずつ怒りだし、言った。
「・・・僕が作った魔道具とか、他に一から製錬なり何なりして作った剣とか、色々無いんですよ・・・」
「・・・無い、って?」
「僕元の世界で色々作ったり、それを売ったりして生活してたって言いましたよね。作ったやつは基本的にアイテムボックスに入れて管理してたんです。んで、今しっかり確認してみたら、足りないんですよ。僕が依頼とかじゃなくて、僕好みの見た目やエンチャントのやつとか、お遊びで面白い効果付けたやつが、無いんですよ・・・」
つまり、イセのお気に入りが無くなっていると。
どういう事だ?
「ブルウィが僕をこっちに転移した時、アイテムボックスの中身もきっちりと転移した、って言ったんですよね〜。んで無いってどういう事かな〜」
「・・・ブルウィがやらかしたのだろう」
「・・・ぜってぇゆるさねぇ。今度出てきたら縦に引き裂いてやる・・・!」
と、こういう事だ。
お気に入りが無くなっていたら、まあ怒るよなと。
・・・縦に引き裂く?出来るのか?アレに?
・・・ん?この気配は・・・。
奴らか。
他の皆も気配に気づいた様だ。
「んぐ・・・。うぇ?どうじたんでず?」
涙を拭き、涙声のイセが、俺達の様子を見て不思議に思っている様だ。
・・・確か、イセが自分の事を話した時、「普通の獣人と比べて、僕はだいぶ感覚が鈍いらしいんですよね。匂いとか聴覚とか特に、他の人から見たら心配されるくらいに鈍感に見えるらしいです」と言っていた。
だからダンジョン入り口付近の奴らの気配が分からないのだろう。
それを教える。
タオルで顔を拭いたイセが聞く。
「・・・・・・そうですか。今更来たのか。・・・何しに?」
「俺らがダンジョンから出て来ねー事を、声高らかに馬鹿にしに来たとかだろ」
「だろうなぁ。くっだらねぇなぁ〜」
リフォとマハガルがイセの疑問に答える。
おそらく2人の予想通りだろう。
俺達がダンジョン攻略に苦戦していると考えて、俺達がくる前に上の人達相手に馬鹿にしに来た。
・・・本当にくだらないな。
「・・・皆さんどうしたいです?」
「・・・どういう意味で言っている?イセ」
イセの発言の意図が分からず、俺は質問する。
「上のアホ共をどうしたいですか?ぶっ飛ばすでも罵倒返しでも、皆さんが何をしたいか確認したいんです」
「・・・まあ、言われっぱなしなんざ、性に合わねーからな。ガツンと言い返す。後はあっちの態度次第だな」
リフォがイセの質問にそう返す。
あっちの態度次第。絶対に荒事になるな。
「じゃあ、僕があっちの挑発や煽りに対してやり返し、あっちから暴力に訴える形つくるから、リフォ達僕を守るって体でそいつらボコボコにする?」
「よし、それで!」
「それでじゃないですよ!?」
イセの提案にリフォが乗ろうとしたら、ダルヤが待ったをかける。
「わざと襲われる形を作るって、何を言ってるんですかイセ君!?かかって来いとか言うつもりですか!?」
「いや、皆さんの言っていた通りのアホなら、あっちは自分達偉いんだぜって態度で来るでしょうし、そこで仕事してねー奴が偉そうにすんなって言えば、勝手に怒って殴りかかってくるでしょう。これなら僕悪くないですよね、本当の事言うだけですし」
「う、うん。まぁ悪くは無いでしょうけど、問題はそこでなく」
「皆さんはムカつく奴からの暴力に僕を守るって形で、アホ共をボコれる。僕は色々スッキリできそう。みんなが幸せになるじゃないですか」
「いや、だからそういう問題でなく、あのアホ共をボコボコにするのは良いとして、ボコボコにした後に両ギルドマスターの上の、グランドマスターという奴らが出て来るんですよ。あのアホ共より権力が上の奴らは、君を相手にするか王を相手にするかは、分からないですが」
なるほど。ダルヤの懸念は奴らの上。
グランドマスターか。
この国でギルドマスターがボコボコにされたとなれば、こっちの評判・権威等を削ぐ上等な材料が手に入ったとして、ふざけた要求を言ってくるだろう。
本来なら平等な立場であるはずのグランドマスター。ここ数年前からだいぶ人族優遇の傾向で、獣国レオナルドだけでなく他の種族主体の国にも圧力をかけている事実がある。
リフォの責任として王を引退しろ、とかふざけたことを言ってくるかもしれないな。
「矛先僕なら素直に相対。リフォ達ならぶっ潰す。以上!」
「以上じゃない!?何する気ですか!?」
「秘密。もしくは黙秘」
「秘密も黙秘も駄目だぁ〜!?」
イセの返しにダルヤはイセの両肩を掴み揺さぶる。
本当に何をする気なのだ?
「落ち着いてくださいダルヤさん!?起きてもない事で取り乱さないでくださいよ!?グランドマスターがどんな人か知らないけれど、実際の所あっちが何かしてくるまでこっちは何も出来ないんですから!?」
「・・・そうだろうけども・・・」
ダルヤもイセの言い分に特に反論出来ずに、とりあえず落ち着く。
「とりあえずあっちの言い分に皆さん好きな様に返して、あっちのアホ共が自分に都合の良い様に馬鹿言い出したら、僕がどうにか上手く返してあっち怒らすから、なんかこう良い感じに合わせてください」
「だいぶあやふやな指示だなぁ」
「しっかり決めてると芝居臭くなって、不審がられるって。その場の勢いで行こうぜ」
マハガルの疑問にイセが答えて、とりあえずイセの提案で奴らをボコボコに出来るようにする流れとなった。
ダルヤは眉間を揉みながらも、イセが「責任は僕が全部背負うので」と言う条件を、紙に記してきたので受け入れることにしたらしい。
さて、まずリフォ達が先に上に行き、後から俺達が行くという流れに決まり、アイスを詰め終えたので実行する事に。
しっかりとイセを守らないとな。




