久しぶりのログインとのろけ
この家に帰ってきてから数日が経過した。
まずロッキーさん達を化けオンに勧誘、これはあっさりと承諾してくれたけれど今月は忙しいという事でみんな来月からの参加になった。
テンショーさんとかは大会が近いって話で、ロッキーさんはライブが月末だとか。
複数のバンドが集まってやるって言ってたけど、本人曰く悪友集めてやってる身内の悪ふざけみたいなものらしい。
なんだっけな、たしかIAってバンドのナイアさんって人もやってるらしいしゲームも好きな人だから誘えば来るかもと言っていたからお願いしておいた。
直接的な知り合いじゃないけど、ネットの口コミでは結構評判いいみたい。
ただ今時CD音源しか売ってないとかで、ネットでその曲を見つけることはできなかったのよね。
それから化けオンをはじめとする、たった二日の間に溜まっていたお仕事を片付けること数日。
これが本当に大変だったわ、なにしろ量が多い。
まず運営とのお話し合いをしたり、レポートを書いたり、運営から書類を預かってはリムジンでの護送だったりと過去一番の忙しさだった。
それから祥子さんとの生活の取り決め。
まず怖い話は禁止、実家の話も極力しない、ホラー番組やっている日はテレビをつけない、録画もできればやめてほしいとの要望。
私はあまりそっち方面に興味ないから全面的に協力することにした。
ホラー番組ね、見ても本物か偽物かわかるからあまり面白くないのよ。
しかも基本的に偽物しか出てこない。
人を切った刀で怨念が染みついていますとか言われて出てきたのが儀式用の代物で、確かにそういった念みたいなのはこもっているけど人を切ったことなんてないとかよくある。
心霊写真も大したものはない。
たまーに、ほんとごくまれにぞわっとするほどマズいものもあるけれどそういうのはお父さんたちが動くから問題なし。
ということでこの家ではホラーは基本的に禁止となった。
それにしても祥子さん、ホラーに弱くなっちゃったのね……あの部屋永久姉に任せて正解だわ。
それで次に当番を決めることになったんだけど、これは祥子さんが言い出したこと。
「私の不手際でこんなことになったんだから家事はする」
という事でいくつかお任せすることになったんだけど……掃除ができない。
祥子さんが不器用だというのもあるんだけど、私が物置にしていた部屋にはインド土産の人形とかあるから祥子さんが怖がって近づかなくなったため掃除は私の仕事になった。
逆に料理なんだけど、私は量を優先するから祥子さんはもっとバリエーションが欲しいという事でそちらはお任せすることに。
寸胴鍋とか使っておかず作ってくれるから量も味も大満足よ。
あとはまぁ普通に洗濯とかそういうのは持ち回りでやることになった。
祥子さんあれで結構派手な下着持ってるのね……。
お風呂で見た時もスタイル良かったし、私が男だったらコロッと落ちてたわ。
今でもちょっとくらっときてる。
夜は一緒の布団で寝るから問題なし、夜のトイレ同伴も日課になったし私達の生活は安定してきたと言える。
あぁ、そういえば祥子さんの味覚が意外とお子様だったことを最近知ったわ。
辛いものと苦い物が苦手で、甘いものが好き。
ピーマンやしいたけなんかは食べられない、カレーも甘口じゃないとつらい、朝の珈琲はマグカップ通常サイズに対して角砂糖15個前後とまぁ甘い。
私はその時々によって変えるけど、コーヒーはミルクのみかブラックが多いわね。
疲れているときは砂糖をそのまま飲んでからコーヒー飲むわ。
なんだかんだで、ギャップがかわいいのよね……。
そんな祥子さんを今日も玄関で送り出して、私は久しぶりにVOTの中で横たわる。
「さぁ、ログインの時間ね」
数秒の浮遊感と共に視界が変わる。
前にログアウトしたグンダの町の中。
今日は刀君とか永久姉のために有用そうなアイテムを探したり、街の散策をしたりというのを目的としたログイン。
あとここしばらくログインできていなかったからリハビリと、情報収集。
手を握ったり開いたりして、それから体の調子を確かめる。
うん、良好。
「さて、と」
辺りを見渡すとプレイヤーの姿がちらほら。
グランドクエストの後この町にも人が増えてきたみたい。
街中で買い物をしているとあちこちで噂が聞けた。
例えば露店のおじさんに話を聞いてみると東にある塔が潰れたとか、王様が急病で寝込んでこの機会に子に王位を継がせるとか。
いろいろ順調みたいね。
それからプレイヤーさんから聞いた話だと、最近物騒な人が多いとかなんとか。
心臓だけを奪っていくプレイヤーや、辻斬りまがいのことをしている人、吸血鬼プレイヤーを見かけたら人気のないところまで追いかけて17分割して殺してしまう人に、突然叫びだして切りかかってくる人。
物騒なのはリアルだけで十分なんだけど……まぁいいわ。
その人たちにお礼を言って、近くで買ったクレープみたいなものを食べながらフレンドリストを確認する。
ゲリさんはログインしていないみたいね……いろいろ話を聞きたい相手の一人だったんだけど……と、顎に手を当てて考え事をしていた時だった。
「おい、そこの女!」
そんな声が響いてくる。
あぁ、これがさっき言ってた奇声あげて襲ってくる人か。
まぁ私には関係ないしスルー。
「無視すんなこら!」
まったく、不審者には反応しないのが暗黙の了解でしょう。
そんな態度だからみんな無視するのよ。
「お前だよ!」
そういって肩を掴まれた……え、私?
「ずいぶんと調子乗ってるみてえだな、ユニークアイテムだのグランドクエストだの独占しやがって! どんなチート使いやがった!」
「チート……?」
はて、この人は何を言っているのだろう。
とりあえず落ち着いてその恰好を確認してみるけど……特徴が無いのが特徴みたいな人。
暗殺者さんとは違った意味でこれらしい特徴がないわ。
なんというのかしら、あの人は意識的に自分の存在をごまかしている感じがしたけど、この不審者さんは2日合わないと忘れそうな顔をしている。
探偵とかに向いているかもしれないわね……いや短慮だからできても助手かしら。
装備も普通のもの、鎧とかじゃないから機動力重視なのかしら。
武器は見たところ大きい物を持っているわけじゃないからナイフとか、あるなら拳銃みたいな小さいものだと思う。
もしくは徒手空拳。
「そうだ! チートじゃなけりゃあんなに独占できるわけないだろ!」
「はぁ……じゃあこれ」
ピッとメニューを操作して相手にとある画面を見せる。
「やっぱり使ってやがったか!」
そう言って私が見せた画面を見て、顔を赤くした。
「ふざけんな!」
「ふざけてないわよ、私にチートの疑いがあるなら運営に聞いてみなさい。私はただ単に運がよかった、あるいは酷く悪かっただけの一般人よ」
見せたのは運営への通報画面、どうぞ通報してくださいな。
無実なので。
まぁイベント関連は動画の再生数が上がるという意味では運がよかったのかもしれないけど、こういうのに絡まれるのはね……。
「認めないぞ! お前みたいな奴が!」
何を思ったのか突然殴りかかってきた不審者さん。
その手にはきらりと光るものがある……暗器?
とっさに避ける。
「あまい!」
その瞬間、不審者さんの拳から無数のとげが生えて私の頬をかすめた。
何の種族かしらあれ……まぁそんなことはどうでもいいのよ。
問題はね、私の手にあったクレープをとげが抉り取っていったこと。
スローモーションで見えるそれは、抉り取られた生地とクリームと果物がゆっくりと地面に落下していく姿。
「まだまだいくぞ!」
そう言って私の視線の先に回り込んだ不審者さんが地面に落ちたそれを踏みにじり……。
「うわっ」
ずるりと滑ってぐちゃぐちゃに潰して……。
「くそっ、なんだ!」
悪態をつきながら足の裏についたクリームとかを地面にこすりつけ……。
「こんな小細工!」
そのまま殴りかかってくる光景。
「食べ物を粗末にするな!」
を、見ながらとっさに振り上げた足が不審者さんの股間をとらえて、その威力が高すぎたのか不審者さんの防御力が低かったのか、何かが潰れる感触と共に不審者さんが真っ二つにちぎれて粒子となって消えていってしまった。
……あぁ、なんたること。
光の粒子になっていくクレープの残骸、不審者さんの粒子を横にどかして手を合わせてごめんねとクレープに向かって謝る。
「はぁ、これは供養のためにももっと食べるべきね」
手に持った、抉られてしまったクレープを見て一口で食べる。
そしておかわりを求めて露店へと走った。
その最中、不審者さんが3回くらい絡んできたけど首を貫き、心臓を抉り、首を捥いでさっさとお店に向かった。
まったく、なんなのかしらね。
とりあえずハラスメントコードで運営に報告しておきましょう。
というかこういう時の英雄さんは何をしてるのよ。




