帰宅
そうこうして夜は明け、お母さんの手作り朝食を堪能した私達。
さすがに明るくなったこの時間帯なら大丈夫なのか、祥子さんもいつも通り気丈な姿を見せている。
というか、どこか恥ずかしそうにしていた。
「祥子さん? なんか顔赤いですよ」
「昨日の失態が恥ずかしくて……」
「まぁうちにきてあの程度なら可愛いものですよ。実際可愛かったですし」
「からかわないでよ……」
いや、どうしよう。
本当にこの人可愛いわ、嫁に欲しいくらいね。
「刀君は昨日遊んでたみたいだけどどうだった?」
「あー、なんというか面白いんだが……先行集団がかなり先にいる上に、始めたばかりの連中が少なくてな。なかなかオンラインゲームらしい楽しみ方はできなかった」
「それは……まぁ運営と相談して人口増やせるようにしてみようかな」
「そうね、公安でも動いてみることにする。ただあまり大々的に広まっても困るからコアなところに広めたほうがいいわね」
「なら知り合いのプロゲーマーとかバンドマンに声かけておきますよ」
「へぇ、どんな人たち?」
「既に参加が決まってるのはインドのトッププロの司馬さん。国内で声をかけられるのはプレイヤーネームしか知らないけれど同じくプロのテンショーさん。それとそのご兄弟という話のMr月を詠む人、あとは同人作家のこーりゅーさんあたりですかね」
全員プレイヤーネームしか知らないけれどメールなどのやり取りでそれなりに気心は知れてるから、こちらから声をかければ始めてくれるかもしれない。
こーりゅーさんなんかは他にも知り合いがいるからそっちに声かけてくれるかもしれないし、みんなゲーム上手いのよね。
「そうそうたるメンツね、プロなのに顔出しを一切しない人たちで有名じゃない。確かにコア人気層だし宣伝にはいいかもしれないわ」
「あとはバンドマンだとユグドラシルのボーカルやってるロッキーさんに、ギターのリルフェンさんなんかがコア人気ですね。あ、バンド地中海のドラム担当ヘカトンさんなんかもいいかも」
「知らないバンドね……アングラ?」
「そうですね、今時珍しい地下のライブ会場借りて公演するような人たちです。ネットは一切使わないタイプの人たちなんで」
「へぇ、今度探してみましょ」
そう言って祥子さんはお爺ちゃんと一緒に縁側に向かっていった。
多分食後の一服、あの二人は昨日からの短期間ですごく仲良くなったからね。
孫が増えたくらいに思われているかもしれない。
まぁ、祥子さんからしたら心外だろうしこの家に嫁ぐとなると相手がね……。
悪い子ばかりじゃないんだけど、辰兄さんはダメ、そうなったらマカロフ持ってくるしかない。
どうせなら私が祥子さんをお嫁さんとして貰うわ。
「刹那、永久、刀祢、今少し時間あるか」
そんなことを考えているとお父さんが神職の服で話しかけてきた。
仕事モードのお父さん、これは真剣な話だと思って全員で正座してお父さんの前に座る。
「これから地下に行く、三人ともついてきなさい」
「私たち三人だけ?」
「そうだ、永久と刀祢はそういう職業だからな。刹那は刹那で引き寄せやすい体質だ。だから地下の空気を吸っておきなさい」
「んー、祥子さんも誘った方がいいのかもしれないけど……」
ちらりと縁側を見るとこちらの会話を聞いていたのか、青い顔をした祥子さんがぷるぷる震えている。
「祥子さん?」
「やだぁ……こわいのやだぁ……」
あ、だめだ。
よわよわ祥子さんになってる。
こんな調子で地下に連れていったらあっという間に飲まれちゃうわね。
「見ての通りだ、蔵から政宗を一本持って行かせる。それで十分な魔除けになるだろう。親父の数珠やお守りもあるみたいだから心配はいらない。というか永久が何とかしてやりなさい」
「えー? 主任ちゃんの部屋ってあれでしょ? 刹那が住んでた部屋、あれ私一人じゃ無理よ。可愛い部下を送り込んだら可哀そうに、泣きながら帰ってきたわよ?」
「……そうなのか?」
「あー、斎藤さんだっけ。確かに泣きながら逃げていったけど……」
他にもお坊さんとかが逃げていった。
「そうそう、あれでうちの戦力激減して今予算引っ張ってくるのも大変な状況でね。うちのハゲ部長が怒髪天なのよ。髪無いのに」
「ははぁ……そりゃまた難儀な。でもこの後もっと面倒な仕事あるよ永久姉」
「え? なに?」
「刀君とかにも化けオンの調査手伝ってもらうために試作型VOTの追加発注を永久姉からお願いしてもらおうと思ってたの。数字は好きにしていいけど、祥子さんよりも永久姉の方から言ってもらえば話が通りやすいかなって」
「あー、まぁ確かにうちの部署からの方が上も動きやすいか。そのくらいなら引き受けるけど……数字は好きにしていいってことは私の分とかもあり?」
「それは永久姉の特権という事で」
その言葉に永久姉の表情が変わる。
先ほどまでの面倒くさそうな表情から、にやりと獲物を見つけたような笑顔になった。
元来笑顔とは攻撃的なもので~という通説を思い出したわ。
「そう、ならこっちで手を回しておく。それで父さん、地下から何か持ち出していいの?」
「いいわけがあるか阿呆。刀祢が持ち出したときの悲劇を忘れたのか」
「覚えてるけど……せいぜいこの町が阿鼻叫喚になったくらいでしょ? うちで管理した方がいい物もあると思うんだけどな」
「そう言って、本当は欲しいものを手に入れたいだけだろう」
「あ、ばれた? さすが父さん」
よくわかってるーと付け加えてデコピンを受ける永久姉。
刀君はおとなしくしてるけど……あの表情は昔のことを思い出しているのかしらね。
「さぁ、いくぞ」
「はいはい」
「まぁ、久しぶりにあの空気を堪能しますか」
「この面子かぁ……嫌な予感しかしないなぁ」
こきこきと骨を鳴らしながら背骨を伸ばす永久姉、あきらめたような表情の刀君、そして私を引き連れて父さんは仏間の畳をはがして、その下にある階段を下りていった。
なおこの後祥子さんがしばらくよわよわになるほどの事件が起こるのだけれど、私達にとってはよくある事故なのでそれはそれ。
なんだかんだ大変だったけれど無事地下の空気を纏って帰ってきた私達を見て気絶した祥子さんを迎えのリムジンに乗せて、永久姉もついでに乗って帰るとのことなんで3人でおうちに帰りました。
なお、夜中に祥子さんから「ひとりがこわい……」とよわよわ状態で電話がかかってきたのであの部屋の管理は別の人に任せることになった。
うん、永久姉が住むことになって給料上乗せされると喜んでいたし家賃ただにしてもらったと大はしゃぎだった。
そんな祥子さんだけど、心身不安定ということで私と同居することになり広かった一軒家が落ち着いた感じ。
お風呂一緒に入るのも、一緒の布団で寝るのもいいんだけど夜のトイレに起こされるのはね……。
子育てってこんな感じなのかしら。
同居スタート!




