攻略開始
まず塔のクリアにあたって必要なものを探そう。
戦力、これは正直期待できない。
ただ内部の戦力を外に出すという意味で、外部からの攻撃は有効な手段だと思う。
私とゲリさんじゃどうしても人数が足りないから。
あとはそうね、増援にしても囮を用意して中に人員を引き込むというのはできるかもしれないからこの辺りはゲリさんにお任せするつもり。
たぶん援軍待たずにクリアしたら報酬が美味しいとか言えばゲーマーは釣れる。
それにあながち嘘じゃないと思う。
というのもこの塔はミスリルや銀を大量に持っているみたいだから、国が動けばそれらは接収されてしまう可能性が高い。
国に関わらずプレイヤーがそう言ったものを得るには先んじてクリアしてしまう方がいい。
少なくとも、ねこばばくらいは簡単だと思う。
「というわけでゲリさんは外部との連絡要員もお願い」
「外部ねぇ……まぁたぶん釣れるだろうな。少なくとも検証班たちは貴重な鉱石やら研究データが手に入るとなれば躍起になって突撃してくるだろうし、攻略組もレア素材目的でヒャッハー始めるだろうから」
「まぁそうよね」
ゲーマーは現金である。
クエストにせよイベントにせよ、報酬が美味しければ喜んで飛びつく習性がある。
だから諸々の考えと共にゲリさんに呼びかけをお願いしたら不承不承といった様子で了承してくれた。
「さてゲリさんに問題です。私達がこれから先必要になるものは何でしょう」
「んー、まぁ現実的に見れば時間かな。少なくともこの塔、めっちゃ高いし」
そう、この塔は雲の上まで続いているのではないかというほどに高い。
これを攻略するにはかなりの時間が必要となる。
「正解、じゃあ他には?」
「えーと、ゴーレムに対する対抗手段……は外の連中に引き付けてもらえばいいから、なんだろ。まさか純粋な戦闘力とか集中力なんて言わないよね」
「それも必要だけどね。ヒントは私が暴食系列の悪魔だという事よ」
「あ、食料か。それは道中で奪えばいいんじゃないかな」
「そう、それ! 道中で奪うにしても出てくるのがゴーレムやさっきみたいな機銃だとお腹の足しにならない! つまり御飯が必要なのよ。それでこの場合ご飯は三つあるわ」
「嫌な予感……」
「一つ、私達が持ち込んだ食糧」
「まぁ妥当、俺の手持ちは7日分くらいあるから二人で分けて3日……いや2日くらいは持つかな?」
「私も7日分持ってるからそこは大丈夫。でも戦闘のたびに食事ゲージが減衰するのよ私、だから実際は3日持つかどうかといったところ」
「なるほど……」
「そこで二つ目! 現地人」
「は?」
「現地人を食べればいいのよ。食糧も蓄えがあるかもしれないけれど、効率で言えばね……」
「お、俺はパスで……」
ゲリさんが青い顔をして顔を背ける。
頬を膨らませて気持ち悪そうにしているけど……まぁいいか。
普通はこんな反応するだろうなと思って言ったし。
「それで三つめが奪った食料か」
「いいえ、ゲリさん」
「ん? なに?」
「いえ、だからゲリさんが食糧」
「……死ねと?」
「別に死ななくても尻尾齧らせてくれたらいいわよ。どうせ即死しないんだから」
「いたいのやだぁ……」
「大丈夫! 先っちょだけ! 先っちょだけだから!」
「それ悪い男が言うセリフ! 淑女が言っていい言葉じゃありません! 涎拭いて!」
おっと、つい……。
「でもまぁ、正直なところ本当にいざという時はゲリさんか私が身を削って食事ゲージを満たさなきゃいけないのよね」
「そっかぁ……うん、援軍に大量の食糧もってくるようにお願いするよ」
「それがいいと思うわ。でもあまり人数増えすぎても問題だからそこは注意。人間プレイヤーがすでに内部防衛にあたっているし、彼らは銀やミスリルの武器を持っている可能性があるから」
「あぁ、俺達みたいに武器とか防具用意してもらえるとは限らないものな」
むしろあれはイベントの一環として見たほうがいいかもしれない。
例えばそうね……フラグとしてエントランスに住民がいる状態で地下に落とされるとか。
「それでなんだけど、地下の人たちはどれくらいの戦力になってくれると思う?」
「話を聞く限りリスポンが呪い扱いで付与されているって話だからデスペナも付きまとうんじゃないかな。それを見越してデスペナ切れるたびに素材をとっていると考えると……レベルは俺達より低いと思う」
「そうね、でも人間相手ならある程度は立ち回れるんじゃないかしら?」
「それでも銀弱点とか持ってたらなぁ……いいとこ肉壁が関の山。少なくとも機銃掃射で一網打尽だと思うよ」
「なるほどね、なら彼らを地下から引き上げるよりも私達だけで先行偵察した方がよさそうね」
「まぁ状況によるけど、必要になったら助けるかくらいに考えておけばいいと思うよ。1回に助けられる人数も限られているし、時間も足りなくなる。なら何かしらの形で発動させている聖属性をどうにかして、地面の銀に触れないようにすればいいと思う」
「そうね、じゃあまずはその辺の管理をしているところを探しましょうか」
そう言ってゲリさんと二手に分かれることにする。
ゲリさんは地下を、私は上の階を探す。
理由はゲリさんの能力にあり、子竜化状態では戦闘力が人間プレイヤーよりも低くなる代りにあらゆるデメリットを無効化してくれるらしい。
ただしそれは外部からの物に限るため、ドライアドの毒弱点や銀を体内に取り入れるような真似をしたら即死だそうだ。
また魔法に対する耐性や防御力もガタ落ちするため、戦闘には不向きなものの聖属性エリアなどは無効化できるらしい。
ちなみに火山みたいな炎属性エリアは普通に無理だという。
物理的にダメージがあるかどうかの違いという事ね。
まぁ端的に言うと幼児と同じで、戦闘力皆無だけどちょろちょろするのは得意という話。
だから地下の探索をお願いしたわけで、上層に向かうには機銃掃射をどうにかしなければいけない。
ゲリさんは子竜化を解けば耐えることもできるけれどその先どうなるかわからないし、階段が狭いから上層の探索には不向きという事で私が行くことになった。
「それじゃ、またあとで」
「ういうい、あらかた探索したらリスポン地点で待ってるよ」
「こっちは行けるところまで行ってみるわ」
ふよふよと飛んで行くゲリさんを見送って、私は大きく深呼吸をしてから階段に近づく。
さっきと同じように掃射される機銃の弾丸を避けて、手甲で叩き落してと一歩ずつ前へ進んでいく。
さっきと違いこちらが前へ進んでいるからか、機銃は斉射を止める様子がない。
ここが正念場かしらね……。
「さぁて、どれくらいもつかしら」
1分、5分、10分、15分と機銃と向き合い続け、そしてようやくその時が訪れた。
真っ赤になった銃身、内部が変形したのか弾を詰まらせて機銃が自爆したのだ。
無理やり突破できないこともなかったけど、安全策を考えるとね。
今後のためにも、ゲリさんを上に連れていく必要がある時のためにも、これは潰しておいた方がよかった。
殴って潰すという手段もあったけどせっかくだからこの身体のポテンシャルを試したかったというのもある。
今までの相手が相手だし、正面きっての殴り合いは暗殺者さんくらいしかしてない。
妲己の狐とは試練だから真面目な勝負かと言われると疑問が残るしレベルというか相性の差みたいなのもあった。
ゲリさんとの初戦もごり押しで勝ったし、勇者パーティに関しては暗殺に近い。
英雄さんとはもはやお遊びにすらならなかったからね。
まぁそれはさておき上層へ。
階段をかつかつと上がるとそこには先日見た光景が広がっていた。
要するにエントランスをそのままコピーしたような、居住区ともいうべき場所ね。
そこに足を踏み入れた瞬間けたたましいサイレンと共に銃を構えた人たちが私にその銃口を突き付けてきた。
ふふふ、カーニバルの時間ね。
とかげの持ってきた七日分の食料。
主人公の持ってきた七日分の食料。
言葉は同じだけど……。
カーニバルダヨ! カーニバルダヨ! カーニバルダヨ!




