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初日 2

 午後になった。

 予約の定員数は五十人で、受付開始からすぐに埋まったらしい。

 ランク上位の情報通な冒険者達の間で噂が広まったとか。それは予想していたので、特に疑問には思わない。

 当たり前だが、予約できる人間は、ギルド利用者に限定している。

 貴族や騎士はこの中にはいないはずだ。

 そのあたりは、不公平がないように先王陛下がバックアップしてくれている。

 希望する騎士や貴族達のステータスを見る時間は、別に設ける事になっている。

 その中には、国外の希望者もいるそうだが、そちらも色々と調整をしてくれるそうだ。

 そう説明を受けた時、正直ほっとした。

 貴族の中にポンと放り出されるのも、ギルドにそういった権力者が詰めかけるのも勘弁して欲しい。


「では、一番の方からどうぞ!」

 

 窓口に座ると、整理券を持った大柄な男が歩み寄ってきた。いかにも傭兵といった感じで、筋肉の塊みたいだ。


「よう、よろしく頼むぜ」


 迫力たっぷりに見下ろされ、ギルドカードが渡される。俺はそれを受け取り、水晶にかざした。


グンタ・アーテル

登録/アルビオン本部

ソロランク/B

パーティーランク/C


「では、ステータスの焼付けを行います。水晶に手をかざして、私の目を見て下さい」

 

 向かい合って、俺はグンタに目を合わせると、スキルを発動させた。

 カードに情報が焼き付けられていく。

 しばしの沈黙。

 問題なく作業が終わり、カードをグンタに返した。


「はい、完了しました。カードをお返しします」


「おいおい、あんだけ並んだのにもう終わりかよ。なんか説明とかねぇの?」


 気持ちは分からないでもない。

 しかし俺としては、後がつかえてるんで、はやくどいて欲しい。


「申し訳ありません。スキルのご相談は、隣の窓口へどうぞ」


「ここへ来て、また並ぶのかよ! ちったぁ、サービスしろよ」


 そう言って、グンタは俺の手を掴もうとカウンターにのり上がって来た。

 驚いて身を引こうとした瞬間、グンタが急に固まった。


「おいおい、お触りは禁止だぜ? この窓口で行われんのは、ステータスの焼付けのみだって、最初から説明されてんダロ?」


 筋肉の後ろから、銀色の髪がひんやり光って見えた。

 クインシーだ。

 いつ現れたのか、クインシーがグンタの腕を掴んでいる。ただそれだけで、グンタは体の動きを止めた。


「……アンタみたいなやつが、なんでここに」


「へぇ、俺の事知ってんなら話は早い。いいか、俺はこいつの護衛を任された。もしお仲間がいるなら伝えとけ」


 そこで聞いてるやつらもだ。

 クインシーはそういって、エントランス内を鋭く見回した。

 その眼光からか、クインシーを知っている者だからか、エントランスで順番待ちをしていた利用者が震え上がるのが見えた。

 何というか、けん制の効果は抜群のようだ。クインシーは、傭兵の中では有名らしい。

 グンタは、相談窓口に並びもせず、逃げるようにギルドを後にした。


「あの、ありがとうございました」


「ああ。ギルド内だからって、油断すんじゃねぇぞ」


 クインシーは俺の頭を軽く叩いて、エントランスが見下ろせる場所に陣取った。

 今度はあえて姿を現して、護衛がいる事を印象付けようとしているようだ。

 二番目の整理券を持った冒険者は、クインシーの存在がよっぽど気になるのか、ステータスの焼付け中も、ちらちらと上を見上げていた。


「次の方、どうぞ」


 それからは、怖いくらい順調だった。

 五十人目を見終わった所で、俺は一足先に裏へと引っ込んだ。

 一息ついていると、通常窓口の終業の時間になり、ユージン達も事務所に引き上げてきた。

 今回見た五十人は、そのほとんどがソロランクBクラスだった。ぽつぽつと、レアスキルの持ち主もいたが、ラヴァの顔を見る限り、目新しい発見は無かったようだ。


「お疲れ、みんな」


 俺がそう言うと、各々お疲れ様と返事が返ってきた。


「慣れてない事やったから疲れただろ。今日はゆっくり休むんだぞ」


 俺は机に突っ伏しているユージンに声を掛けた。

 のっそりと起き上がったユージンが、据わった目でこちらを見上げてくる。


「ノアさんこそ、お疲れでしょう。ずっとスキル発動してんのに、なんで平気なんですか……」


「それなりに疲れたよ。ずっと集中するのも、大変だよな」


 そう言うと、今度はユージンとレンジーの両方から、違う! と叫ばれた。

 なんだなんだ。

 俺は真面目に答えたぞ。


「俺達も、午後の相談中は鑑定士のスキルを発動させる事になってるんです。アビリティースコア習得の為、少しでも可能性がある事はやっておこうって」


「でも、連続して鑑定士のスキルを発動させるのは無理でした! わたし、二十人が限界!」


「俺もそんくらいで。普通、魔力も体力も続かないですよ」


 そんな事をやっていたのか。スキル発動には、魔力と体力が必要だ。

 属性魔術とは違うらしく、スキル発動と同時に勝手に消費される仕組みのようなので、俺も問題なく使用できている。

 強力なスキルを発動させると、息切れを起こしたりするらしいが、鑑定士のスキルを連続で発動させた所で、そんなに疲れたりはしない。

 そう思っていたんだが。


「あのさ、正しくスキルが発動していないから、余分に魔力が削られてるんじゃないのか?」


 なだめる様に言ってみたが、二人はそろって首を振った。


「関係ないです!」


「スキルを発動させた時点で、失敗しようが成功しようが、同じだけ魔力は減ってます!」


「俺、こんなに連続してスキルを発動させたのはじめてでした。こんなに大変な事だなんて。それを朝からぶっ通しなんて……」


 信じられないモノを見るような目が痛い。


「あらあら。魔法ギルドで実験を行っていた時も平気だったから、予約の定員数を五十人にしたのだけれど、多かったかしら。ノアさん、大丈夫なの?」


 にこにこと微笑みながら、ラヴァがすごく今更なセリフを言う。


「平気じゃなかったら、とっくの昔にぶっ倒れてんダロ」


「うわっ」


 突然後ろから肩を叩かれ、俺は思わず声を上げた。

 クインシーだった。

 ユージン達も同じように驚いている。


「驚かさないで下さいよ……」


「気配ぐらい読めるようになりやがれ」


 そんな達人みたいな事できるか。

 内心そう思ったが、反論はやめておいた。


「じゃ、予約の人数を増やしても大丈夫かしら?」


「いや、それはちょっと……。ほら、時間もちょうどよかったですし」


 ラヴァの目がきらりと光る。その顔にはデータと書かれているのが見えるようだ。


「あらそう? 残念だわ」


 本当に思っているのか。

 まだ諦めていないような顔でラヴァが言った。

 とりあえず様子を見る、と言う方向で落ち着いたようだ。



「どーも! ノアさん、初日お疲れ様です!」


 事務所のドアが開き、騒がしく入ってきたのはルークだった。

 様子を見に来てくれたルークに、なんとか乗り切った事を伝える。


「さっそく、絡まれたらしいじゃないですか」


 笑って言うルークに、こちらも苦笑いである。


「クインシーのおかげで、何もされてないけどな。しかし、もう知ってるのか」


「キューの旦那のけん制、さっそく効果出てますよ。傭兵達の間で噂になってます」


 手を出したらヤバいって意味で。ルークがクインシーを見ながら言った。


「そっか。これで少しは安心できるな」


 そう言った俺に、クインシーの容赦ないデコピンが飛ぶ。


「馬鹿ヤロウ。これからお前に何か仕掛けてくる奴は、俺の脅しが効かない奴だ。気を付けんなら、これからだろうが」


「痛い!」


 でもよく考えれば、そうだ。

 クインシーは、雑魚に用はないと言って、あくどい笑顔を浮かべた。

 全然、安心してる場合じゃなかった。


「とりあえず、ノアさんは今日は帰って休んでちょうだい」


 ラヴァの一声に、俺は帰り支度を始めた。

 帰っても、クインシーの訓練が待っているので休めないが、ここで言ってもしょうがない。


「じゃあ、俺は戻りますね」


 ルークがそう言って、事務所から出ようとする。

 本当にちょっと様子を見に来ただけらしい。


「あ、待ってくれ。なぁ、レンジー。午前中に相談に来た、例の若い男の名前って覚えてるか?」


「え? あの嘘を見破るスキルを探していた方ですかぁ?」


「そう、そいつ」


 レンジーは手書きの名簿をめくりながら言った。


「えーっと、ネスタ・オーデルです」


「ありがとう」


 ルークに振り返って、俺が口を開こうとすると、彼はニッと笑って言った。


「そいつを調べればいいんですね?」


 俺は二度ほど目を瞬いた。


「ノアさんが気になるんなら、なんかあるんでしょ。お任せ下さい!」


「ああ、無理はしなくていいから」


 ルークは、はいよ! と手を振りながら、今度こそギルドを去って行った。

全く、察しが良すぎて驚いた。


「よく飼い慣らしたもんだな」


「……人聞きが悪いですね」


 クインシーが極悪な笑顔を浮かべている。

 俺はちょっとビビりながらも、クインシーを睨んで言った。


「ノアさん、あの人って」


 ユージンが、ルークが出て行った方を見ながら言った。

 そういえば、紹介する暇もなく行ってしまったな。


「ああ、情報課のルーク。王都に来てから、ずいぶんお世話になってるんだ」


「へぇ……」


 ユージンの表情が硬くなった。

 何だよ、どうしたんだ?


「対抗心バリバリじゃねぇか。飼い犬が多いのも大変だな」


 クインシーがゲラゲラと笑う。

 やっぱり人聞きが悪い。


「ユージンは俺の弟子です。飼い犬じゃない」


「ノアさん……!」


 クインシーの冗談にうんざりして、俺は半ばやけくそでそう言った。

 弟子と言う言葉に、ユージンが目を輝かせる。

 あれ、また尻尾の幻覚が見える。

 やっぱり犬じゃねえか、と勝ち誇ったような顔のクインシーが憎たらしい。


「帰ります。明日もよろしくな、みんな」


 未だにニヤニヤした顔のクインシーの気配を感じながら、俺はギルドを出た。

 こうして、サービス開始の初日は無事終わった。



2015/01/12 修正

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