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こちら討伐クエスト斡旋窓口  作者: 岬キタル@鬼他
王都ギルド編

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初日 1

 久しぶりに訪れた王都のギルドには、新しく窓口が増設されていた。

 討伐クエスト受付の窓口とは別に、スキル相談窓口のカウンターが二つ用意されている。

 そして両窓口に挟まれる形で、新規ギルド登録者用の窓口が設置されていた。

 とうとう、このスキルを公開して使用する日がやって来た。

 スキル相談窓口には、ユージンと、もうひとり、少女が座っている。

 その二人と目が合ったので、挨拶しておこう。


「おはようございます、ノアさん!」


「ユージン、おはよう。それと……」


「おはようございます! わたし、レンジーって言います! ホントはもっと長い名前なんですけど、そう呼んで下さい。ノアさんとちゃんとお話するのは、初めてですよね?」


 そうなのだ。

 あまり時間も無く、まだ集められた鑑定士の全員と話せていない。

 本人がそう言うのなら、レンジーと呼ばせてもらおう。


「確か、テストでは全問正解だと聞いたよ。すごいね」


 アビリティースコアを習得する為の鑑定士候補にはまず、ラヴァや助手達が分析したデータをひたすら頭に詰め込んでもらった。

 そして理解度を見る為のテストを行い、成績の良い者の上位から、窓口に座って貰う事にしたのだ。

 この二人より、鑑定士のレベルが高い者はいたが、今必要なのはスキルへの理解度とコミュニケーション能力である。


「えへへ! ほめられちゃった! 窓口の経験は無いですが、人と話すのは得意なんで頑張ります!」


 明るく笑うレンジーは、初心者とはいえ、窓口としての素質がすでに備わっているように感じた。きっとすぐに仕事にも慣れるだろう。

 レンジーが表情を変える度、ポニーテールが一緒になって揺れる。

 髪は深い青色をしているように見えるが、角度によっては紫がかって見えた。


「ユージンも一緒に頑張ろうな。見知った顔があると心強いよ」


「は、はい! 俺、頑張ります!」


 のん気とも言える雰囲気のレンジーとは反対に、ユージンは緊張しているようだった。

 頑張ろうなんて声を掛けたが、逆効果だっただろうか?

 気合が入ったと思っておこう。うん。


 ラヴァや助手達は、新規登録者のデータ分析を行うのでここにはいない。

 窓口の裏にある事務所で、水晶に蓄積されたデータを整理すると言っていた。完全に裏方に徹するそうだ。

 護衛のクインシーは、始業準備に追われる職員にまぎれて姿が見えない。

 意図的に気配を消しているのか、本当にこの場にいないのか分からないが、必要な時には現れると言っていたので、心配はしてない。


「さて。そろそろ始業だな」


 慣れ親しんでいるはずのカウンターからの視界が、なんだか広く感じた。

 俺は緊張で強張る頬を両手で軽く叩いた。

 本日一人目の利用者に続いて、窓口前に人が殺到する。

 ……殺到?


「まさか、これ全員新規登録者か相談窓口目的か?」


 瞬く間にギルドのエントランスは人で溢れかえった。

 そりゃあ、新しいサービスを開始するとギルドから張り紙はしていたが、初日からこんなに人が集まるとは思っていなかった。

 どうやら俺の考えは甘かったみたいだ。

 窓口前では、他の職員が大慌てで列を整理し、ギルド入り口では入場規制が行われ始めた。

 中には人伝に聞きいて、新しいサービスについてよく理解していない者もいるらしい。

 ギルドの内でも外でも、今日はサービスを受けられないと知った者の不満の怒鳴り声が聞こえてくる。

 だが俺はそんな事を気にしている余裕なんか、全く無かった。

 俺の座る窓口前には、長い長い列ができあがっていたからだ。

 ステータスをスキャンする事で発生するリスクなんかの説明は、列の手前で他の職員がやってくれる。

 情報がギルドに登録される事の同意を取り、新規登録者が俺の元にやってくる。

 俺はラヴァ達と実験を行った時のように、ひたすらスキルを発動させて、ひとりひとりのステータスをカードに焼き付けた。

 朝からぶっ通しで数十人と捌いたが、列はまだまだ途切れる様子を見せない。

 新規登録者は、やはり若い男性が多い。中には少年少女や、旅の途中で噂を聞きつけた商人なんかもいた。

 それでもやはり、国内在住の十代後半から二十代半ばの男性の比率が高い。

 スキルを発動させて焼付けが終了するまでの間に、利用者の職業欄にさっと目を通していく。

 能力値が元から高い者、特殊な能力を持っている者、スキル持ちなどの判別は、裏方のラヴァ達がやってくれているだろうから、俺は自分の中で気になった人物がいれば、手元の名簿にチェックをした。

 職業の成長過程は、省略されて表示されるので、俺にしか分からない事もあるだろう。

 カードの情報だが、ギルドに来て専用の水晶にかざせば、成長したら成長した分だけ情報が更新される仕組みになってるそうだ。

 ラヴァが個人の魔力の波長がどうのこうの、と言っていたが、水晶の仕組みについての話が専門的すぎて途中で着いて行けなくなったのは秘密である。

 ラヴァに水晶についてたずねたら最後、いつもの三割り増しで興奮したまま、ひたすら論理について語られる。聞いたのは自分であるし、彼女に悪気は一切ないので、引きつる笑顔でひたすら相槌をうつはめになった。

 

 でだ、今のところそれほど珍しいスキルの持ち主はまだ現れていない。

 ステータスの焼付けが終わった者を相談窓口の列へ案内する。

 ユージンもレンジーも、なんとか頑張っているようだ。

 最初は緊張していてどうなる事かと思ったが、今のユージンの表情は忙しいながらも生き生きとした顔をしている。

 合間に、少し見ただけだがそう思った。


「昼まであと少し、もうひと踏ん張りだな……。お待たせしました。次の方、どうぞ!」


 俺は笑顔で呼びかけ、水晶に手をかざした。




「はぁあああ。疲れた……」


 窓口裏にある事務所にひっこんだ俺達は、ぐったりとイスに腰掛けた。

 表では通常の窓口業務が行われている。

 新規登録者の窓口は、普段から初心者向けのクエスト斡旋窓口が兼用している為、急ぎの利用者はそちらで対応してもらっている。


「お疲れ様。はい、飲み物用意しといたわ」


「あ、ありがとうございます」


 ラヴァが、差し出したコップを受け取り、一気に飲み干す。

 朝からずっとしゃべり通しで、喉はカラカラだし、口が回らなくなっていたので助かった。

 隣に座ったユージンとレンジーも同じように喉を潤している。


「いやぁ、予想以上の反応ね。順調にデータも集まっているわ」


 ラヴァがほくほくした表情で喜んでいる。

 助手達はさっそくデータの分析に取り掛かっているようだ。


「ユージン達、そっちはどうだ?」


「今のところ、レアスキルの相談者はいませんよぉ」


「皆さん、どうやったらスキルを習得できるかって相談ばかりです」


 だよなぁ。

 伸び悩んでいる者。これから冒険者としてやっていく為に、手っ取り早く強くなりたい者。

 相談の理由はこの二つが多いだろう。

 すでにスキルを習得していて、それを知られたくない者はわざわざ相談に来ないだろうし。

 珍しいスキルのデータを収集できる機会は、午後からの時間にあるだろう。

 昼休憩が終われば、事前に予約した利用者のステータスを見る事になっている。


「そう言えば、ちょっと気になる相談をされました!」


 レンジーが、今思い出したと立ち上がった。


「どういう相談だったの?」


 ラヴァがたずねると、うーんと首をかしげながらレンジーが言った。

 

「嘘を見抜くスキルを身に付けたいんだけど、どうすればいいですかって。なんだか切羽詰った感じで」


 少しドキッとした。

 もし、心の声を見通せるようなスキルがあれば、俺はすごく困る事になる。

 現在報告されているスキルの中には、存在していない。

 もしあるとしても、誰にも言っていないだけかもしれないが。

 皆、しばらく考えたが、心当たりが無かったのか、首を振った。


「すごく限定されてますね」


「でしょ? だから、現在の所、そう言ったスキルは確認されていませんって説明したわ」


 ちゃんと相談にのれなかった事が残念だったのか、レンジーは困った顔で言った。


「……嘘、ね。看破ってスキルなら、本当の事を言っているのか、嘘を付いたかぐらいは分かるかもしれないな」


 スキル・看破とは、ユージンの持つ、危険察知の上級スキル。

 魔窟に仕掛けられた罠の発見や、突然のモンスター出現を見破る事ができ、冒険者に重宝されるスキルである。

 そのスキルを応用すればと思ったが、まずは危険察知を習得してからとなるので、道のりは長い。

 特に危険察知は先天的なスキルである場合が多いから、習得は難しいかもしれない。

 その若い男とやらは、急いでいる様子だと言っていたし、参考にはならないだろう。

 と、ここまで考えを言ったところで、事務所のみんなの視線が集中しているのに気がついた。


「はぁ~。さすが、ノアさん! 俺、全然思いつかなかったです」


「わたしも! ああ、そんな応用方法があったなんて!」


 ラヴァも助手達も、データ整理の手を止めて話を聞いていたようだった。


「これは、もっとノアさんに話を聞くべきかしら? 発想が違うわ」


「い、いや、実際できるかどうか分かりませんし。嘘の種類にもよるんじゃないかな、なんて」


 そこまで感心されると、若干不安になってくる。俺の悪い癖である。


「ノアさん! 俺、上級スキルを習得してみせます!」


「ユージン……」


「そしたら、スキルデータの情報にも貢献できますよね? その、今すぐは無理かもしれませんが……」


 最後は自信がなさそうに小さな声になっていたが、俺にはちゃんと聞こえた。


「そうだな。ユージンならきっと習得できるよ」


 俺は笑ってユージンの肩を叩いた。


「さ、飯にしよう。午後も忙しいぞ」




2015/01/12 修正

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