第61話 モブサブの祝勝会!
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動く様子は、ない。
「やった、のか……?」
「……どうやら、やったみたいだよ」
スキルで生命反応が消えたことは分かっているのに、実感が湧かない。
しばらく森の無音を聞き、ようやく終わりを認識した。
「……はぁ、これで泣かせずに済むな」
脳裏に浮かんだ少女の顔に、そっと溜め息を吐く。
その息と共に力も抜けて、尻で森の土の感触を確かめる羽目になった。
強敵だった。過去で一番の。
けっきょくヤツの目的がなんだったのかは分からずじまいだが、仕方ない。それよりも早く帰って、あいつらを安心させてやろう。
その後は、しばらくゆっくりさせてもらいたいところだな。
ミラディスの街が日常を取り戻したのは、スタンピードが終息してから数日後のことだった。モンスターの死骸処理やら、市壁の補修やらでてんやわんやとしたせいだ。
市壁の方は俺たち職人勢がサクッと直したんだが、死骸の方がな。
あまりに膨大すぎて、傭兵や騎士、手の空いた職人なんかの外で活動できる街の住人総出でも、一日じゃ終わらなかったんだ。
まあ、その分金になる素材も多かったということ。今回の件で街はそうとう予算を使っただろうが、得た利益はそれ以上だろう。俺たちも十分な報酬を得られて満足だ。
せっかくだからその報酬で祝勝会をしよう、とうちの庭にケイン達を呼んだわけだが――
「なんでお前らまでいるんだ、勇者パーティ」
「一緒に戦った仲だから、かな?」
疑問形にするな。くそ、顔がいいから小首を傾げるだけで絵になりやがる。
「え、えっと、僕らはアルゴスさんに招かれたって聞いたんですけど……」
「後輩を騙したのか?」
「今招いてくれたら嘘じゃなくなるよ」
爽やかスマイルで言うセリフじゃないな。パーティメンバーも苦笑いしてるじゃないか。あ、いや、オーガの女性はなんかギラついた目でこっち見てるな。エルフの彼女も料理を見つめて涎を垂らしてる。
常識人はウンディナの魔法使いだけか……。
「まあいいじゃないですか。ロエも張り切ってましたし、こういうパーティは人数が多い方が楽しいですよ」
「はぁ。たしかにな」
何より料理人を買って出てくれたロザリエが歓迎してるんだ。わざわざ追い返すまでもない。ケイン達と勇者パーティの距離が近づくのは俺の目的上も良いことだしな。
「そういうわけだ。お前らも楽しんでいってくれ」
「ならお言葉に甘えるよ」
こいつ、ヌケヌケと……。やっぱり勇者だけ帰らせるか?
一応費用は俺持ちってことになってるし、それくらいの権利はあるはずだが。
ダメか。これはセフィアに許してもらう口実だからな。
死にに行くつもりなのがバレてたことを考えたら優しい方の提案だろうし、それを盾に勇者を追い返すのは筋が通らなそうだ。
量と種類からして、セフィアもいくらか出してくれていそうだから、なおさら。
「皆様お待たせいたしました。ひとまずはこれで全てです」
「ロザリエ、ありがとう。それじゃあお前ら、グラスは空いてないな?」
うん、全員分揃ってるな。ロザリエも席に着いた。
「防衛戦、よく生き延びた。よく街を守った。お前らは紛れもない英雄だ。色々と反省やらなにやらあるかもしれないが、今は忘れて、大いに飲み、食べて、楽しんでくれ。乾杯!」
「乾杯!」
カンと小気味よい音が鳴り、それぞれの酒が波をうつ。俺の手元で揺れているのは当然、ビールだ。
あー、美味い。生き返る。
やっぱ最初はビールだよな。色々と悪い記憶も呼び起こしてくれるが、それごと喉に流し込んじまえば関係ない。
「はぁー、生きてて良かったですー。じゃないと二度とこんなお酒、飲めませんでしたー」
まったくもって同感だ。その点は勇者に感謝するしかないな。
「あら、リリエってそんなお酒好きだった?」
「そういうわけじゃないんですけどー、これ、すっごく珍しいお酒なんですよー。貴族でも中々飲めないのに、よく手に入りましたねー?」
「はい、ちょっと頑張りました」
なるほど、そういうことか。そういえばセフィアのやつ、ここのところ妙に出かけていることが多かった。
あの笑みは、喜んでもらえてご満悦ってところだろうな。
「へぇ。じゃあ俺も少しもらっていいかい?」
「ええ、もちろんです!」
ち、不本意だが、セフィアが良いって言ってるんじゃあな。
せっかくだ。俺も少しもらおう。
……しかしなんだ。どうしてこう、勇者には当たりがキツくなるんだ? 一度背中を預け合った仲だからか?
まあ考えても仕方がない。それよりも、目の前の光景を肴にする方が大事だな。
「凄いな。こんなに芳醇な白ワインは初めて飲む」
「だな。ワインはあまり飲まないんだが、これは定期的に飲みたくなる」
「まったくだ。神輿状態を耐えた甲斐があった」
「だね。はぁ……」
ケインもカロルもずいぶんお疲れだな。そんなに大変だったのか。
まあ、こいつらの活躍ならあれこれ担がれてもおかしくないか。良くも悪くも。
勇者の方は森に消えた後のことも聞かれただろうし。
「他人事みたいな顔してますけど、アルゴスさんの装備のせいでもありますからね?」
まさかケインからジト目を向けられる日が来るとは……。
冗談はさておき、やっぱり注目されると色々大変だな。これだから目立ちたくないんだ。
「まあ、なんだ、お前らが強くなっててくれて俺は嬉しいよ」
「……なんだか凄く雑に誤魔化された気がします」
よく分かったな。
「言うだけ無駄よ。それより、そのワイン、私も少し飲んでみたい。ケイン、一口くれる?」
「え、うん、一口ね」
なんかルカに雑に扱われた気がするな。まあ、それだけ気安い仲になったということにしておこう。
しかしこの二人、なんか前よりも自然にいちゃついてないか? 距離感近すぎだろう。
ケインの方に若干の照れが見えるようになってはいるが、それが逆に二人の世界感を強めている。
まあ、二人の距離が近づく分にはいいが、時と場所くらいはわきまえてほしいもんだ。
「――平和だな」
「どうしたんですか、急に」
「いや、なんとなくな」
セフィアの顔は怪訝な様子のまま。俺自身、唐突な呟きだった自覚はある。
ただ、談笑に耽るケインたちを見て、ふと思っただけだ。
主人公のように目立つのは嫌だが、この光景は守りたい。勇者達にケイン達、セフィアにロザリエ。まだまだ若いこいつらが、笑っていられるこの光景を。
「ほら、ロザリエも取り分けてばかりいないで食え」
「あ、すみません。いただきます」
そのためにも、懸念は潰しておきたい。
おそらく今回の事件は、ゲーム時代の新ストーリーの導入だ。
あのスタンピードは最新ストーリーまで進んでいるプレイヤーなら楽勝だし、悪魔族もちょうど良い中ボス程度の強さだった。
つまりは、この先があるはずだ。
それはもしかしたら、聖命樹ユグロトで繋がった先の世界での話かもしれない。
ここには影響しないどこかでの話かもしれない。
だが、その影響がこの光景を壊す可能性が少しでもあるのなら。不安を抱えながらくらすことになるのなら。
急がないといけない。この街の戦力水準の強化を。職人に出来る方法で。
そう意味では勇者と近づけたのは僥倖だったかもしれないな。




