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第10話 所有権者 言葉

「なんか休み時間に喋ってたら急に爆発したんですよ、あいつ」

「別に俺らはなんもしてませんよ。あいつが俺らのことをはめようとしてるだけです」

「もういいっすか? これから部活なんで」


 カッコつけるって行為がカッコ悪い行為なのに、それをわかっててもやっちゃうあたり思春期だな〜。暗黒時代のトラウマを思い出してしんどくなってきた。


 気まぐれに降る雪のように気まぐれで雪が降る二月のある日、警察省の管轄内にある高校で、爆発事件が起こった。それは休み時間の教室内で起こったにもかかわらず、壁も床も天井も傷一つ付かず、怪我人はゼロ、死者は一名、それも亡くなったのは爆弾のように爆発した高校生だった。爆発した結果、この世から塵も残さず消えたのだ。


 今は被害者と関わりが深かっと思われる三人のクラスメイトから話を聞いてる。負の重力屈性のある髪がワックスっぽい濡れ方してる生徒に、ズボンからシャツを出してるのにネクタイはしてる生徒に、袋に入れたサッカーボールで座ったままリフティングしてる生徒。こいつは多分ガム噛んでるな。試合中だと思ってるのか。


「もう少し協力してもらえますか。田口さんがどんな方だったかお聞きしたいので」

「知りませんよ。別にそんなに仲良かったわけじゃないし」

「そうですよ。あいつ、俺らのグループにいる時も影薄かったから」

「どこにいても存在感なかったよな」


 人が一人亡くなってるというのに。まあでも、悪気があってそうしてるんじゃなくて、有り余るエネルギーを扱いきれなくてそうなってるだけだから、悪人を見るみたいな目で見るのは駄目だよね。


「田口さんが爆発する直前に何を話していたか教えていただけますか?」

「何話してたっけ」

「覚えてねー。別に大した話はしてなかったと思いますよ」

「それで最後ならもう行っていいですか? 時間ないんで」


 お前の入ってるクラブはそんなに時間に追われるクラブなのか? 爆発物処理部とかじゃなかったら爆破するぞ。


「ご協力ありがとうございました」

 それを聞いた途端、全員が椅子と机をガタガタ鳴らして乱暴に立ち上がった。

「よっしゃ、行こうぜ!」

「もち!」

「あと何分残ってるかな!」

「え? 爆発物処理部?」

「そんなロックな部活ある?」

「いや、別になんでもないです。とりあえず次、どうしますか? ほとんど何もわかってませんが」

「担任に話聞いてみよか。もうクラブ行ってるかな?」

「え、生徒に混じってですか?」

「顧問としてに決まってるやろ。自分が通ってた時のこともう忘れた?」


 私たちは、滑らかな白い床ときめ細かな白い壁と天井で囲まれた新校舎の廊下を通り、職員室に向かった。と思ったら廊下の真ん中、白のコルクボードでポスターが張れるスペースの前で、先輩が突然立ち止まった。


「えっ! マジで!」

「どうしたんですか? 急にテンション上がって」

「これ見て! 張り紙禁止の張り紙やで! まさかこんなところでお目にかかれるとは〜」

「そんなに珍しいものなんですか?」

「わからん。探そうと思ったこともないし」

「さっきのテンションはどこから来たんですか?」

職員室は、放課後だからなのかいつも通りなのか、入り口の前から非常に混雑してた。制服の生徒にピチピチのラグビーユニフォームの生徒に、赤と青の髪の大学生臭がする男女はOGOBか。あれ、今職員室からマッハで飛び出していったのは二宮金次郎? まったく、情報処理にはスーパーコンピューターが必要なレベルだ。


 なんとか職員室内にたどり着くと、外と変わらないぐらいの入り乱れようだった。ゾンビから逃げて建物の中に入ったら、その中もゾンビだらけだった時の気持ちになった。とりあえず、近くを通った猫背で度ギツい眼鏡の数学の先生っぽい人に、田口さんのクラスの担任を呼んでもらった。担任は、顔がいいとは言えないけど、肌が綺麗だしベリーショートな髪型だし清潔感がある。この社会を生きるのが上手そうだ。


「お待たせしてすいませ〜ん。会議室で話しましょっか」


 私たちは担任に連れられて、近くの階段を上がったところにある部屋に案内された。なんだか悪いことをして呼び出されたみたいだな。学生時代は呼び出されたことないどころか、点呼すら忘れられたこともあるぐらいなのに。私たちは教室よりほんの少し狭い部屋の、正方形を作っている事務所机の角付近に座った。


「それで〜、田口くんのことですよね? なんでも聞いてください」


 洗練された作り笑顔だ。にしても、軽いノリの先生なのかな。そういう感じの方が高校生には受けるのかも。


「ええ。亡くなった時の状況、は知らないんでしたね」

「そうなんです〜。その時は別のクラスにいて〜」

「では田口さんがどんな方だったか教えていただけますか?」

「田口くんね〜。いい子でしたよ? いつもニコニコしてて、誰とでも仲良くできて」

「クラス内ではどのような立ち位置でしたか?」

「クラスの中では〜、大人しめな感じではありましたね〜。でも案外アクティブな子たちとも仲良かったりしてたかな〜」

「そう、ですか。どうして案外アクティブな生徒たちと仲良くできたんでしょうか」

「なんでなんでしょうね〜。田口くんも、恥ずかしくて隠してるだけで、ほんとは賑やかなのが好きなタイプだったんじゃないですかね〜」

「何か田口さんの人となりがわかるものなどは残っていますか?」

「なにかあるかな〜。いやね、さすがに高校生にもなると、毎日毎日連絡帳でやり取りする〜みたいなのは面倒くさがっちゃってやらないんですよ。だから、残ってるものはないかな〜。あ、集合写真ならありますけど、見ます?」

「お願いします」


 先生はポケットからスマートフォンを取り出した。ケースの中に何かのシールが入ってる。サッカーボールのロゴマークだ。


「え〜っと確かスマホに保存してたはず。あ、これだ。秋の遠足の時の。田口くんは、ど〜こかな〜。あれ、見つかんないな。確か休んでなかったはずなんだけど。ああいたいた。この、三列目の端の方の」


 担任のスマートフォンに映っていたのは、山頂で撮られたと思われるクラスの集合写真だった。晴れててみんないい顔してる。だけど昔から、こういうみんなが同時に笑顔になってる写真って、怖くてあんまり好きじゃない。


「端から二番目の眼鏡の方ですね?」

「そうですそうです! よくすぐ見つけられましたね〜」

「どこか私と似た空気を漂わせていたものですから」

「あ〜なるほど〜」


 担任への聞き込みを終え、車に戻るべくクラブ活動中の生徒が走り回るグラウンドの端の方を邪魔にならないように歩いた。右側のゴールポストの前でラグビー部が、左側でサッカー部が、奥の砂場辺りで陸上部が何かしてる。さっきの爆発物処理部と兼部してる子たちはどこだろ。見つけたらバズーカを撃ってやりたい。


「みんな頑張ってんな〜。思い出されるわ〜、他人の記憶が」

「自分じゃないんですね。先輩は高校の時、どんな部活に入ってたんですか?」

「透明人間部っていう部活を勝手に立ち上げて一人だけで入ってた」

「奇遇ですね。私もネガティ部って部活に一人だけで入ってました。もちろん非公認です」

「やるな。俺と張り合える奴と出会ったのは初めてや」

「もう出ましょうか……」

「そうやな……」


 二、三日後には跡形もなくなる轍を残し、学校を後にした。そのまま二人とも自分の影を見ながら近くに停めていた車まで歩いていき、吸い込まれるように乗車した。この世に車の中のにおいの方がましなものがあるなんて。


「結局、ほとんど何もわかりませんでしたね〜」

「そうやな〜。友達からは影薄いって言われて、先生からは誰にでも当てはまりそうな特徴しか言われへん。昔の俺を思い出すようや」

「私も似たようなものです。母校にも同窓会にも行きたくありません。亡くなった田口さん、どんな方だったんでしょうね〜」

「どんな方やったんでしょうね〜。まあ一つ言えるのは、ナノマシンを使える優しい人やったってことやな〜」

「ですね〜。優しい人を小馬鹿にする世の中、頭がおかしくなりそうです〜」

「やな〜。やけど、やからこそ俺らは優しい人を見捨てたらあかんよな」

「それはそうですね。必ず最後に勝つのは優しい人なんですから」

「そうそう。早速、自分という優しい人に優しくするべく、これから帰ってタコパするか〜!」


 先輩はたとえ楽しいことでも、全然テンション高そうに言わない。正確には口調だけはハイテンションなんだけど、体に動きはないし、顔もそんなに楽しそうじゃない。誰かが顔を見てる時はわざとらしい笑顔。別に楽しくないわけじゃなくて、楽しいということが苦しみの前で何の役にも立たないことを知ってるんだと思う。


「い、いいですね〜。なんでタコパなのかわからないですけど」

「あ、そういえば自分って、あんまり人とご飯食べるの好きじゃなかったんやったっけ」

「あ、いや、別にそんなことはないですよ」

「気は遣わんでええからな。妥協のタコパは可哀想や、タコが」

「可哀想なのは自分じゃないんですか〜? つまらないこと言ってないで、さっさと帰りますよ!」


 過度な優しさで空回ってる先輩を見るのは好きだ。面白いから。まあ、優しさを当たり前にはしちゃ駄目だけど。


 私たちはそのまま倉庫室Bに戻った。途中で買い物したりはせず。買い物無しのタコパは初めてだ。いや、ちょっと強がったな、そもそもタコパ自体初めてだ。もちろん中はキッチンの間取りで、応接用の机にはクレーターだらけのホットプレートが置かれてる。でもコンセントに繋ぐコードがない。ここはなんでもありだから、多分必要ないんだろうね。


「おお〜、これがタコ焼き用のホットプレートですか〜」

「凄いやろ〜。これは一度に二十発タコ焼きを装填できるんや〜」

「そんな物騒な数え方しないでください〜。ていうかあれですね、このホットプレート、自分の産んだ卵を背中に押し付けて育てるカエルみたいですね」

「いやそれよりは弾丸の方がまだマシやろ」


 公平?な話し合いの末、私は具材を切り、先輩は生地作りを担当することになった。私はまだ潜在のエプロン。納得いかない。


「また自分だけ楽しようとか考えてないでしょうね?」

「いやいや、生地も混ぜるん大変やから。それに自分、細切れにすんの得意やろ?」

「どういうイメージですかそれ」


 冷蔵庫から細ねぎと紅しょうがとタコとコンニャクを取り出した。先輩は卵とだし汁を取り出してた。


「先輩、包丁ってどこにあります?」

「あ、包丁要ったんや。そっちの上から二個目の引き出しの中にある」

「包丁要ったんやってどういう意味ですか〜?」

「……どうぞ思う存分切り刻んでください具材を」


 まずは細ねぎを洗い、まな板に入るように空中で二等分にした。そしてそれらを並べて、端から二ミリぐらいの間隔で刻んでいった。初めは引っかかっていたものがストンと落ちていく感じ、なかなか悪くない。


 次に紅しょうがを切り刻んだ。紅しょうがは元から千切りになってたけど、それじゃあタコ焼きに入れるは大き過ぎるから、もうちょっとズタズタにしてやった。


 その次はこんにゃく。こんにゃくは見た目の割に往生際が悪かった。引っかかる感じがネギよりも強かったから。まあ私の敵ではないけど。


 最後にタコを自由にしてあげた。大きくてずっしりとしてるより、小さくて身軽な方が動きやすいかなって思って。ホットプレートの上で暴れ回ることになるだろうからね。激熱だもん。


「大丈夫? なんか変な扉開いたりしてない?」

「え? 何がですか? 全然大丈夫ですよ、って、それ、何持ってるんですか?」

「これは全自動泡立て機やな。ボタン押したら勝手にかき混ぜてくれんねん」

「やっぱり自分が楽な方選んでるんじゃないですか〜!」


 応接用机に生地と具材を移動させ、プレートを温め始めた。それはあっという間に私たちのタコパへの熱量に届いた。


「それじゃあ始めますか!」

「せやな! じゃあ飲み物取ってこよか」

「それは僕が取ってくるから座ってていいよ!」

「って天野さん! それに、マスターに張本さんまで!」


 気付いたら先輩と私、天野さんとマスター、横の椅子に張本さんの配置で座ってた。


「いつの間に来とったんや!」

「目的がわからない三文芝居だな〜」

「天野さんに招集されたんですよ。二人が生物の死体を、熱して固まる物質の中に閉じ込めて隠そうとしてるから来てくださいと」

「現行犯逮捕するつもりで来たってことですか?!」

「いざとなったら容赦しませんよ?」

「普通にタコ焼き焼くだけですから〜。それで、張本はなんて呼ばれて来たんや?」

「私はマスターから、知人が死体遺棄する現場は執筆の参考になるんじゃないかって」

「ド下手伝言ゲーム繰り広げられてたんやな」


 天野さんが2Lの麦茶と人数分のコップと取り皿を持って来てくださって席に着いた後、先輩によって、タコパの始まりを告げるように生地が注がれた。部屋中にジュワーというファンファーレが鳴り響いた。先輩は生地を全体に行き渡るように注ぐと、手際良く具材を上から振りかけていった。


「タコは落とされた……」

「賽は投げられたみたいな言い方せんでいいから、ちゃんと焼けてきてるか見てや」

「ウロボロスとか変わり種ロシアンルーレットみたいなのはしないんだね?」

「変わり種でボケるのはタコへの冒涜やからな、あれは邪道や」

「めっちゃ郷土民面してますけど、先輩大阪出身じゃなかったですよね?」

「そうやで? 縁もゆかりもない」

「本当に君はわけがわかりませんね」


 少しずつホットプレートに接している面が焼けて固まり始め、皆さんひっくり返し始めた。別に口にはしなかったけど、少しずつ例のカエルに近づいていってるなって思った。


「やっぱり先輩ひっくり返すの上手いですね」

「いっぱい練習したからな〜。雨の日も風の日も」

「屋内競技だけどね」

「張本さんもなかなかお上手ですね」

「マスターに言っていただけるとは光栄です」

「なんせ小説家やからな〜。どんでん返しみたいなんは得意なんやろ」


 そうこうしてるうちに、早速第一便が完成したみたい。食欲をそそる焼き色になってなってきた。


「お、これできたっぽいな。いい焼き色付いてるわ。じゃあ後輩から食べ」

「いいんですか! ありがとうございます!」


 私は竹串で遠慮なくタコ焼きをつつき、落とさないように素早く自分の取り皿に乗せた。タコ焼きは球形を保ったままだ。神が地球に災厄をもたらすように、私はソースとマヨネーズをタコ焼きにかけた。


「それではありがたく、いただきま〜す。あんっ、あっ、あふっ!」


 口の中に放り込んで一口噛んだ瞬間、光の速さで口の中の温度が上昇した。私は音速で麦茶を流し込み、溶口炉を冷却した。


「ああ〜、死ぬかと思った〜」

「タコ焼きはそういうもんやで〜。次から気ぃ付けや〜」

「口の中で核爆弾が爆発したのかと思いましたよ〜」

「タコ焼きは割って冷ましてから食べないとね〜。……うん、マグマを食べてるみたいだ」


 天野さんはタコ焼きを真っ二つにしてハムスターぐらいの一口で食べた。意外にも醤油派なんだ。


「そんなん自然冷却やったら三年ぐらい待たんとあかんで」

「もはや太陽レベルだな」

「そういえば、天野くんはたとえタコ焼きロシアンルーレットをしても、当たりがわかってしまうのではないですか?」

「わかっちゃいますね。何が入ってるかも」

「君が善人で本当に良かった」

「いやほんとですよ〜」

「自分で言うな」


 さすがは人格者の集まり。誰かが多過ぎたり、少な過ぎたりせず、自然とバランスよく分配されていった。マスターは塩で、張本さんはバジルソースで、先輩はポン酢で食べる人だとわかった。


「あっという間ですね」

「こんなに来ると思ってなかったからな〜。これからは天野にはバレてる読みで準備せなあかんわ」

「だから僕が参加できる日に開催してね!」

「では、来月ぐらいまではお休みになりそうですね」

「何かあるんですか?」

「ちょっと一つの事件が佳境に差し掛かっててね〜」

「どんな事件なん?」

「一言で表すなら、感じるということに対してゲシュタルト崩壊が起きそうな事件だね」

「あまり一人で抱え込み過ぎないようにはしてくださいね」

「もちろん! お気遣いありがとうございます!」


 最後の一口が先輩の口に運ばれた。ポン酢を吸って皿の上で萎れていた鰹節を全部乗せて葬りなさった。

ホットプレートの上は、戦の決着がついた後の戦場のように静まり返っている。こうして誰かと食事をする度に私は思う。目の前にいる人たちと同じ時間を過ごすのは、これが最後なんじゃないかって。


「どうしたんだ? いつもより目が翳っているが」

「あれ? そんなに暗かったですか? ご心配おかけしてすみません!」

「張本にはあんまりネガティブを隠さんでもええで。こいつの出身地心の闇やから」

「そうだ。だから道案内は任せてくれ」


 苦悩をユーモアに転換できるのは強さの証だ。ここにいるみんなは、どれだけの山を越えてきたんだろう。


「その辺も大丈夫だったんですね。てっきり立ち入ってはいけない領域なのかと」

「安心してくれ。出身地どころかそこから出たこともない。それに、立ち入ってはいけない領域というものは本来、人の道から外れた場所だけだ」

「逆に言えば、悩み苦しんでいるということは、人の道を歩いている証拠ということだね」

「ここにいる皆さんは、人生に対する、いわゆる私怨のような感情は、既に鎮静化済みのようですね」


 なんだか広大な山脈を見上げているような気持ちになった。本当に凄い人間は、周りの人を威圧するようなオーラをまとってるんじゃなくて、人々の心を解放するような心地良い風が周りに吹いてるんだね。


「では一つ、聞いていただけますか?」

「お望みとあらば」

「ありがとうございます。私は、永遠の別れが怖いんです。それは突然やってきて、人間にはどうすることもできない。その人が自分にとって大事になればなるほど、その影も濃くなっていく。もはや、人と人が出会っていることの方が異常なんじゃないかって……」


 張本さんは目線を下げて何度か頷いた。言葉では表せない表情をしてる。


「君は、何も間違っていない。これだけ広い宇宙の中で、これだけ多くの人がいる世界で、その人と出会った。その人と同じ場所で生きている。それが普通なわけがない。だから別れが怖くて当然だ。またとない奇跡によって起きたことならば、いや、またとない奇跡によって起きたことだから、次はもうないかもしれないと思っても不思議なことではない。それを当たり前だと思う方が異常だ」

「じゃあ、別れへの恐怖はずっとなくならないということですか?」

「そうだ。人間から苦しみがなくなることはない。ただ、この世に一意的なものはない。苦しみにももう一つの側面がある。それは愛だ。永遠の別れへの恐怖は、今この瞬間を大切にしようという愛情へと変えることができる。そしてその愛が、次なる奇跡への原動力になるのだと私は思う」

「……もう、別れてしまった人はどうなんでしょうか」

「……そうだな、それもやはり、現在を大事にしていれば、また奇跡は起こるんじゃないだろうか。なぜなら、その別れによって今があるんだから」


               *


 翌日の午後、私たちは学校が休日ということで、生徒がいない間に教室であることを決行していた。休日だけど、吹奏楽部の気配は感じるな。彼らはきっと、地球滅亡の日にも練習するんだろう。レクイエムの所以か。


「せんぱ〜い、これほんとに意味あるんですか〜?」

「まだ試作段階の機械やから俺にもわかりませ〜ん」

「わからないのによく熱心にできますね〜」

「これだから最近の若い刑事は。昔はこうやって地道に証拠とか手当たり次第探っていくのが普通やってん。今が恵まれてるだけなんや」

「は〜い。(先輩も若い刑事でしょーが)。あ、記憶の破片、ありました〜」


 私たちは、虫眼鏡みたいな物質的非物質検出装置と、小型掃除機みたいな物質的非物質回収装置を使って、爆発で飛び散ってしまった田口さんの記憶や感情の破片を集めていた。まずは脚立を使って天井を端から順にしらみ潰しに当たってる。先輩が脚立を押さえる係、私が天井を見ていく係だ。虫眼鏡に映る小さな光が破片で、それを虫眼鏡越しに掃除機で吸ってく。こんなに長時間掃除機を持ったのは生まれて初めてだ。そして今後二度とないことを祈ろう。


「その調子で頑張って〜」

「ちょっと! そろそろ半分まで来たんですから交代ですよ!」

「ベテラン刑事に重労働は無理なんやって〜」

「あなたまだまだ若手でしょ! ほら、文句言ってないで、交代する!」

「お母さん?」


 天井が終わり、手分けして壁も端から順に見ていった。結局、二人合わせて合計、記憶の破片が十三個、感情の破片に至っては六個しか見つからなかった。破片をジグソーパズル一ピースぐらいの大きさと仮定したら、一人の記憶と感情の大きさはそれぞれテニスコート一面分ぐらいになるらしい。無情なラブゲーム……。


「そろそろお昼休憩ですよね?」

「そうしよか。座る席だけ破片がないか見て、ご飯にしよか」


 田口さんが座っていた席から離れた席に、破片のチェックをしてから座った。入れっぱなしになってた英語の教科書と椅子の裏に、合計二個の感情の破片が見つかった。学校に来る途中にコンビニで買った昼食を机に出した。私は手榴弾おにぎり焼き鮭味。三角形じゃなくて丸いやつ。ラップに包まれてるし海苔は水分を吸って柔らかくなってるけど、逆にそれがいい。先輩はプラスチックの容器に仰々しく入った耳つきサンドイッチ。敢えて耳つきの方を選ぶなんて、先輩は耳なし芳一の生まれ変わりなのかな。


「それじゃあいただきま〜す」

「いただいて〜」

「ん〜、美味し〜。さすがは手榴弾おにぎり焼き鮭味」

「平和な時代に物騒な名前やな〜。俺なんか耳つきサンドイッチやで? 耳つきカチューシャみたいにキュートやのに」

「先輩には耳なし芳一の耳つきカチューシャがお似合いですよ。それにしても、なんで耳がある方を選んだんですか?」

「俺はな、パンの耳こそ大事な存在やと思うんや。ポッキィの持つ部分にせよ、たい焼きの尻尾にせよ、そういう一見必要なさそうな部分を排除してしまうから、今の世の中はこんなに退廃的になってるんや」

「いつの間に世の中の話に……」

「とにかく、全てに意味があるってことや」

「今日の仕事もですか〜?」

「そうや? この世界は必ずどこかに行き詰まりを突破する糸口を残してるもんなんや」

「は~い。でもまさかタコパがヒントになったなんて。人生に対する私怨が言葉に集約されて地雷のようになり、それに触れられたから爆発したと」

「人によって同じ言葉でも別な世界が広がってるってことやな」

「一体何が違いを生じさせてるんでしょうか」

「それはどんな人生を歩んできたかやな。学校っていう言葉でも、楽しい学生生活を過ごしてきた人は、その言葉を聞いたらウキウキした世界が広がるけど、俺らみたいな地獄の学生生活を送った人らが聞いたら、……ってなるわけや」


 先輩全然サンドイッチに手、付けてない。私はもう半分ぐらいまでいってるのに。長く喋るからだね。簡単に答えにくい質問を短くしようっと。


「なんだか前の事件の原因でもあった、言葉の定義と似ている気がします」

「そうやな。ただそっちは考えを改めることで修正したりできるけど、こっちは運命的などうしようもなさがあるな」

「確かにそうですね。起こった事実を変えることはできない……」

「そうそう。まあその事実に対する感じ方を変えることはできるんやけどな」

「感じ方ですか?」

「ほら、例えば辛い経験があったとしても、それが報われるような現実がやってきたら、その苦しみも味わってよかったって肯定できるやんか」

「なるほど〜。でも、そんな報われるような現実はやってくるんでしょうか」

「それは信じるしかないんちゃうかな、絶対にやってくるって。逆に信じひんかったら絶対にやってこーへんと思う」

「それまたどうしてですか?」

「信じるという行為に本質的な力があると信じてるからや」

「なんだかデカルトの信じる版みたいな感じがしますね」

「我信じる、故に我有り。って感じか」

「そうですそうです。それじゃあ次に、その信じるについて詳しく教えてもらえますか?」

「いい加減食べさせてくれ!」


 それから先輩は耳つきサンドイッチを、耳も本体もバランス良く同時になくなるように食べていた。


 昼食の後も破片集めは続き、結局その日の夜までかかった。午後からは床と、机と椅子を見たわけだけど、机と椅子一つひとつが思ったよりも表面積が大きくて、辛くて辛くて、学校に対する地獄だという印象が更新された。


 翌日の午後、実験室バージョンの倉庫室Bに集まった。物質的非物質回収装置を非物質計測機にType-λのコードで接続して、集まった破片の最終的な数を確認した。あ、非物質計測機は、ただのパソコンと見た目はほとんど変わらない、デスクトップ型の。ちなみに、七色に光ったりはしない。目がチカチカして目障りなんだって。


「えっと、最終的に集まったのは、感情の破片が全体の三分の一で記憶の破片が全体の十分の一でしたー。苦しみが報われたな」

「どこが報われたんですか〜。あれだけ頑張ってそれだけなんて……」

「まあまあ、まだ破片の純度とか破片が埋める場所で巻き返せるかもしれへんから」

「純度と場所ですか?」

「そうそう。破片にはそれぞれ純度があって、純度がいいと一個で全体の何割もの情報を持ってたりすんねん」

「めっちゃ凄いじゃないですか! それで、場所っていうのは?!」

「ジグソーパズルみたいに破片それぞれに配置があるってことや。たとえ全部集まってなくても、いい場所のピースが多かったらなんとなく全体がわかるやろ?」

「なるほど! じゃあまだチャンスはあるってことですね?!」

「そうそう。勝負は最後までわからへんやろ? ほな、解析開始!」


 先輩が号令と共にホログラムキーボードのエンターキーを押すと、モニターにメーターと、その割合を示すパーセントが表示された。メーターはあっという間に100%になった。


「知ってた? このキーボード、ほんまに有るみたいに触れるねんで。あ、キーは入力せんといてな」

「はい。あ、ほんとだ。これなら触れてる感覚があって頭が混乱しなさそうです」

「そうやろ〜。そろそろ無と有だけじゃ説明できひんことが現実になってきてるんや。あ、終わったみたいやな。どれどれ? まずは感情の方から見てみよか。そっちの方が破片多かったし」

「そうですね。本命から行きましょう」


 先輩はマウスでカーソルを感情のデータが入ったフォルダに持っていき、ダブルクリックした。すると、途切れ途切れの折れ線グラフだったり、明らかに四分の一も埋まってない円グラフが表示された。私の中の何かが砕けて破片になった気がした。


「あの、これは、どう読み取ればいいんでしょうか……。私の高校の時の模試の結果かな?」

「そうやったら良かってんけどな。使える破片は全体の五分の一ぐらいしかなかったみたいやわ。やっぱり爆発してるから粗悪な破片もあったっぽい」

「足元に私の感情の破片がポロポロ落ちていく感覚がします……」

「まあまあそう落ち込むなって〜。一日の努力が水の泡になったって言ったかって、シャボン玉やった後って案外地面汚れたりするやん?」

「……じゃあこの寝ぼけた人が書いたみたいなグラフで何がわかるって言うんですか……」

「まあ待ちなはれや。ええと、感情の変化の割合が共通する部分を集めたりしてみたら……。ほら、まだ使えそうな情報がわかったで」

「なんですか?」

「被害者が大事にしてた言葉がわかった。『海より広いものがある。それは空だ。空より広いものがある。それは人の心だ』。フランスの文豪の言葉やな。被害者はこういう言葉が好きやったんやな〜」

「……で?」

「……で?、って言うのは一旦禁止にしよか。一応ダメ元で記憶の方も見てみよ」

「全体の三分の一集まってた感情が結局五分の一にしかならなかったんですよ? 全体の十分の一しか回収できなかった記憶は単純計算でも五十分の三にしかなりませんよ〜」

「さらっと高速暗算せんといてくれ。もう俺らには失うもんがないわけやから、怖いもんなしや。はい、記憶のフォルダオープン! んぇっ?」

「もーなんですか〜、そんな声にならない声出しちゃって〜。一体何がそんなにすごえぇっ! こ、これ、どういうことですか? ゼロパーセントってことですか?」

「いや、これは百パーセントや。破片の中に純度の高い記憶の結晶が入ってたみたいや。一個で百パーセントの情報を持ってる結晶や」

「一個で百って……。そんなものが……」


 モニターには、途切れた部分のない完全な折れ線グラフと、ただの丸と化した円グラフが表示されていた。鏡のような水面、曇りない美しさ。


「苦しみが報われたやろ?」

「確かにそうですけど〜。その結晶さえあれば他の破片は必要ないのってなんだかズルくないですか〜? もはやタイミングの問題ですよ〜。もしかしたら朝一で帰れたんじゃ」

「ほらあれや、チョコっとボールは銀のルシファーが四枚まで集まったところで金のルシファーが出るもんやろ? きっと結晶が見つかったんは最後の方やって」

「もうそういうことにします〜。それじゃあ私の落ちた感情の破片集めなきゃ」

「それ素手では集められへんで〜」


 私が感情の破片を回収している間に、先輩はカチカチと音を鳴らしながら入手したデータを見ていた。先輩が真面目にパソコンを操作する姿を見ても、ギャップ萌えが起きることはない。もし会社に先輩がいたら、新入社員の女の子はみんな好きになってしまうだろう。私はもはや一面的な次元では生きられない。あ、床にクラインの壺落ちてる。


「それで、どうでした? 記憶からは何がわかりそうですか?」

「ほとんどなんでもわかったわ。幼くして両親を亡くして苦労してとか、被害者を死に至らしめた言葉とか」

「言葉ってなんだったんですか?」

「それは、(存在感ないよな)、や」


 自分に言われていないとわかっていても胸が痛くなる言葉だ。多くの人はその言葉を面白いと思って口にする。(お前何もできないな)(〇〇って地味だよね〜)(あいつ何の取り柄もないよな)(センスない)(パッとしない)(印象薄い)(華がない)(残念な人)(幸薄い)(鈍臭い)(いい人止まり)(無能)(陰キャ)(弱者男性)(弱者女性)(負け組)(オタク)(喪女)(チー牛)(豚丼)……。連鎖的に、現代の倫理観から逃げおおせている差別用語が次々と浮かんでくる。どれもこれも、そんな言葉を人に使う人間の方が弱者で無能で負け犬だというのに。


「……それが、田口さんにとっての地雷ワードだったと」

「そうやな。両親が亡くなってかなり早い段階で児童養護施設に入れられて、そこから亡くなる十六歳まで里親も見つからず、施設内でも学校でも孤独に過ごしてたみたいや。現実が悲惨やったから、内に世界を求めた……」

「本だけが唯一の友達だったんですね。あれ? このバツが付いてるファイルは何ですか?」

「それがな〜、なんでかわからんけどアクセスできひんねん。情報自体は百パーセント揃ってるから、データがないわけじゃないと思うねんけど」

「その時間の視覚情報は見られないんですか? それなら何が起きていたのかわかるかも」

「一回見てみるか〜」


 先輩は、フォルダを一つ戻って別のフォルダを開き、一番上のファイルをダブルクリックした。すると、画面が映像に切り替わった。最初の方は真っ黒がぼやけてるだけだったけど、カーソルで時間を操作すると、突然、一人称視点だとはっきりわかる映像になった。カラフルなパズル柄の床に、滑り台付きの簡易ジャングルジム、ミニカーとかマジックテープでくっついたニンジンとか、色んなおもちゃで遊ぶ子供たち。


「部屋が一望できてますね。田口さんは壁にもたれて座ってるんですね」

「せやな。それに加えて多分部屋の中におる全員が視界に入ってるから、人の輪の一番外におるってこともわかるな」

「部屋の真ん中にいる子供たちは楽しそうにおもちゃで遊んでるのに……。こんな頃から独りぼっちだったんですね」

「心の奥深くまで孤独が染み込んでいってたんやろな……。とりあえず、アクセスできひん時間まで飛ばすか。よっと。中学生ぐらいの時やな。あれ? なんか真っ黒なもん握ってるけど、これなんや?」


 休み時間なのか、視界の端の方で他の生徒が動き回ってるのが見える。田口さんは自分の席に座ったまま、何か黒くて四角いものを持ってる。


「もしかして、本じゃないですか? アクセスできないってことは、本の内容を見られたくなかったってことでしょうか……」

「この装置で見られへんって、よっぽど強い拒否反応ってことやで、人間の域を超えてる」

「ナノマシンの仕業なんじゃ。……あそうだ! この田口さんの視覚情報を見れば、ナノマシンを提供した犯人がわかるんじやないですか?!」

「って思って期待しててんけど、さっきのフォルダ見た感じ、ここからアクセスできひんゾーン結構多いねんな〜。とりあえず早送りしてみよか」


 結局、真っ暗なシーンが多過ぎて、何が何だかわからなかった。年齢制限のないアダルトビデオはきっとこんな感じなんだと思う。私は見たことないから知らないけど。知らないけど。


「これは、超常的ってやつですか?」

「超常的ってやつやな。嫌な記憶に蓋して見ないようにするとかやったら誰にでもあることで、それやったら記憶自体に何かしてるわけじゃないから記憶のデータが完全な状態で確認できるんやけど、これは記憶自体に細工されてるから、……異常や」

「どれぐらい異常なことなんですか?」

「過去を改変したレベルやな。彼は当時、休み時間に黒い何かを持ってたり、時々目を開けた状態で完全な暗黒を見てたりしてたことになってる」

「年齢制限とかってわけじゃないですか?」

「ないですね。どれだけエロくてグロいことでも鮮明に見えます。山から谷まではっきりくっきり見えます」

「こんなことをしたのは、一体誰なんでしょうか。犯人?」

「他人の記憶、っていうか過去を変えるのはさすがにナノマシンでも無理ちゃうかな〜。本人の強い意志としか……」


               *


「さっさとしてくださーい。このあと部活なんでー」


 今日も相変わらず髪が湿ってるな。一番後ろの席からわざわざ野次を飛ばしなさる。そのエネルギーを部活で使ったらいいのに。


「わかりました。では端的に済ませます。この度、血の滲むような捜査の末、田口さんがどうして亡くなったのかわかりました。田口さんは、これによって亡くなった」

「なんですかその瓶」


 左端の席の女子生徒が体を横に向けて壁にもたれながら言った。ほんのり茶色い髪に、唇には薄めの口紅をして、おめかししてるつもりかもしれないけど、そんな態度じゃ台無しだ。


「この瓶の中には小さな爆弾が入っています。その爆弾は、注射して体内に取り込むと、血管を通って心臓に留まります。そして、心に一定以上の痛みが走ると体ごと爆発して跡形もなくなる」

「……」


 元から下向いてる人が多かったのに、とうとう全滅してしまった。大人になってもやっぱり苦手だな。


「田口さんは爆発する瞬間、心に強烈な痛みが走った。どうしてだと思いますか?」

「……」

「それは、ある言葉をかけられたからです。(存在感ないよな)」

「……っ」


 思い当たる節はあったんだね。そう思えているうちはまだ間に合うよ。


「空気が変わりましたね。そうです。田口さんを死に追いやったのは、皆さんなんです。田口さんの記憶を見ました。例の言葉を聞いてから起爆するまでの少しの間にも、クスクス笑っている声が聞こえてましたよ。このクラスになってかなり早い段階から、存在感のないキャラとしていじられていたみたいですね」

「……」


 頬杖をついてそっぽを向いたり、机の下でスマホを触ったり、必死に自己主張してるつもりだろうけど、それが最も自分自身を失う行為だ。


「でも安心してください。別に田口さんはあなたたちを恨んでこういう死に方を選んだわけじゃありません。むしろ、皆さんを救おうとして亡くなったんです」

「……」

「ご命令通り、ここからも端的に話しましょう。彼は、他人を貶めて自分を保とうとするエゴを吹き飛ばそうとしたんです。自分がいなくなれば、クラスで蔑む対象がいなくなる。それと同時に、間近で人が亡くなったというショックで心が露わになる。そうなると、皆さんはもう自分の心に向き合うしかなくなる。田口さんは信じていたんですよ。心の中に、優しくなれる勇気も、幸せになる方法も、自分に必要なものは全部入ってるって」

「……」

「さあ、どうしますか? 自分と向き合うか、新たな生贄を見繕うか、皆さんの自由です」

「…………もう終わりですか?」


 おしろいが崩れたな。


「? はい、私たちの話はもう終わりました」

「じゃあ部活行っていいってことですよね?」


 セットした髪が崩れたな。


「ええ、ご自由にどうぞ」


 話し声と椅子を動かす音で、一瞬で賑やかになった。


               *


「あいつら絶対私が可愛いからって舐めてましたよ〜」

「いやいや、それはないやろ。だって……」

「だってなんですか?」

「なんでもありません……」

 私はココアでも酔える女だ、以上。

「一つよろしいですか?」

「なんですか?」

「先ほど話していただいた動機ですが、下手したら原因不明の神隠しとして処理されてしまう可能性があると思うのですが、どうして亡くなった方は実行に踏み切ったのでしょうか。それこそ、皆さんのような超常的な事件を専門に扱う方々がいると知っていなければどうにも……」

「記憶を見た時に、私たちのドキュメンタリーを見てる瞬間があったんですよ。あの、俳優の明石さんが亡くなった時の」

「ああそうでしたそうでした。皆さんはもう有名人なのですね」

「そうなんですよ〜。あれ? でもおかしいな。私、まだどこの芸能事務所からもスカウト来てない」

「たしか恐竜からお見合いの話が来てたような」

「え、なんですか〜? よく聞こえませ〜ん」

「お、今はなんでも言い放題か?」

「先輩、後で記憶見たら一目瞭然なんで、覚悟しててくださいね?」

「あの装置壊そ……」

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