別れの時
来ていただいてありがとうございます!
前に進むために私は知りたいと思った。
前の時も私を塔から突き落としたのはロッティー様だった。前の時はロッティー様とはずっと仲が良かったと思ってたの。なのにどうして?
「呪法の影響なのか、少々精神的におかしくなっているようです。十分注意をしてください」
特別に許可をいただいてお城の地下へ案内してくれたお役人の方は最後まで私がロッティー様に会う事を渋っていた。そしてラーシュ様も。
「どうしてもリータ子爵令嬢と話すの?」
「はい。理由を知りたいんです。どうして私はそこまで憎まれてしまったのか……」
「それは……申し上げにくいのですが、リファーナ様のお立場を羨んでのことかと」
ヒースコートさんも何とか私を思い留まらせようとしてくれた。だけど辛くても私は真実が知りたかった。答えてもらえるかどうかはわからないけれど、自分の何が悪かったのか知るためのヒントが欲しかった。前の時の私は聖地の音楽隊に入ってもいなかったし、精霊の歌姫でもなかったから、もしかしてその他のところに何かあるんじゃないかって思ったの。
私は冷たく暗いお城の地下を進んだ。
「こちらです」
案内してもらった先には金属の柵。ごつごつとした石の床。簡単な寝台に、明り取り用の小さな窓。ランタンがなければ顔の表情が窺えない薄暗い空間。
こんな所にロッティー様がいるの?
いつも綺麗なドレスを着て、お化粧も上手で、おしゃれで、お話も、歌も上手で、たくさんのお友達にかこまれて眩しかったロッティー様。ああ、前の時の楽しい記憶が混濁する。いつから?どうして私はそんなに嫌われたんだろう。ずっと大好きだったのに……。
「ロッティー様……」
「あら?精霊の歌姫様じゃないですの!このような所へようこそ!」
ゆらりと寝台から立ち上がったロッティー様はふらふらと歩いて近づいてくる。
「スティーリア伯爵令嬢様、もう少しだけお下がりください」
鉄格子からロッティー様の腕が伸びてくる。届かない位置まで下がるように指示された。
「ここにはメイドもおりませんのよ。お茶もお出しできなくて申し訳ありませんわ!」
「……いえ」
やたら明るい声の調子に戸惑ってしまって言葉が出ない。そんな私を見たロッティー様の表情が冷たく変化した。
「何しに来たの?私を笑いに来たの?貴女、どうして生きてるの?」
さっきまで笑っていたロッティー様から表情が抜け落ちてしまったかのようだった。
「ロッティー様、どうして……」
「どうして?そんなの貴女の事が大嫌いだからよ?大体ちょっと私よりも身分が上だからってお高くとまっちゃって、婚約者が侯爵令息様だからっていい気になって馬鹿みたい」
ああ、大嫌いって言われてしまった。予想はしてたけど、面と向かって言われてしまうとやっぱり辛い。身分……。私にはどうしようもない事で嫌われていたんだ。
「大体、あんな美しくて素敵な方がリファーナ様なんかを相手にするわけないのよ。そう思ってたのに……。音楽室で迫られてるのを見ちゃったわ……。嘘つきっ!何が厳しい練習よ!どんな手を使ってグラソン様をおとしたの?!私だって彼みたいな人が良かったのに!」
「そんな……!ロッティー様にはメリッサ様がいらしたでしょう?優しくて愛情が深いっていつも嬉しそうになさってたじゃないですか!今回の事だって……」
ロッティー様を愛すればこそだったはずで。
「あー彼ねー。でもケント様って伯爵令息様だし、一応後継ぎだけど顔が普通なのよねぇ……。私みたいに才能も美貌もある女の子にはあまり相応しくないのよ……」
ロッティー様の様子がおかしい。たくさんお酒を飲んだ人のように目の焦点が合ってないみたい。これが呪法の影響なの?でもなんとなく、本当の気持ちを言ってる気がする。
「それにフローリア公爵様よ!引きこもりの公爵様って噂だったけど、すっごく素敵な人だったわ!どうしてあんな方まで、リファーナ様をちやほやするの?」
「フローリア公爵様は私ではなく、「精霊の歌姫」っていう存在がお好きなだけです」
この辺は私にもよく理解できない領域だから、説明が難しいわ……。そもそもロッティー様は私の話を聞いてないみたいで、夢を見るように上を向いて一人で話し続けてる。
「そう!精霊だってそうよ。みんなリファーナ様ばっかりひいきして!それだからダメなのよ。家族にも誰にも愛されなくて可哀想なリファーナ様だったら、友達でいてあげたのにね」
「可哀想」だって見下されていたんだ……。ロッティー様は最初から友達じゃなかったのね。もしかしたら前の時も私が「可哀想」だからやさしくしてくれたの?温かい思い出がサラサラと崩れていく。
「可哀想なリファーナ様、家族に愛されないどころかお姉様に婚約者を取られちゃって……。あの時はおかしかったぁ……」
「え?」
ひょっとして今のは……。
「それなのにすぐに次の婚約が決まって……。ほんとムカつく!公爵様だなんて!しかもかなりの美形……!公爵夫人?なんでリファーナ様ばっかりいい思いをするの?」
ロッティー様も前の時の事、覚えているの?
「何を言ってるんだ?この令嬢は。スティーリア伯爵令嬢様のご婚約者様はグラソン侯爵令息様なのに……。やはり少し精神に異常をきたしているのか。呪法というものは恐ろしいものだな」
後ろでお役人様が呟く声が聞こえる。でも、たぶんこれは精神の異常じゃないと思う。
「塔の上で歌ってるリファーナ様を見たわ。凄く綺麗な声で私より上手だった。精霊たちが集まって来てて歌を聞いてるみたいだった。美人で歌も上手くて心も綺麗で私よりなんでも持ってる……。なのに何も持ってないみたいにしてるあなたが憎らしかった……。だから突き落としたの。消えてしまえばいいって思ったから」
「ロッティー様だってたくさん持っていたのに!ミント先生だってロッティー様を認めていらしたのに!」
私の叫びは届かない。
「私は自分の醜さから逃げられなかった。いくら歌が上手くなれてもあなたには敵わない。私はあなたが永遠に嫌いよ。だからさようなら」
ロッティー様の瞳から光が消えて、私に背を向けた。そうして二度と私の方を見てはくれなかった。
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