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精霊の歌姫  作者: ゆきあさ


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眠り

来ていただいてありがとうございます!





「リファーナっ!リファーナっ!リファーナっ…………!」


「ラーシュ様、会いたかった……」


塔の上で抱きしめられて口付けられた。ラーシュ様だ。また会えた!私も思いっきりラーシュ様に抱きついた。嬉しくて嬉しくて…………忘れてた。


「おかえりなさい、リファーナちゃん!」

「…………!ソフィアさん!みんな!」

そうだった!演奏会の途中だったんだ!み、みんな見てる……!

「しかも、私、寝間着のまま!!」

白い丈の長いワンピースだけど、生地はそんなに厚くない。精霊様達の世界では気にならなかったけど、これは恥ずかしい……。

「リファーナ、これを」

ラーシュ様が上着を貸してくれた。

「ありがとうございます」

「早く屋敷へ戻ろう」

ラーシュ様が私の肩を抱いて塔の中へ入ろうとした。


「ああ、その前に皆さんにご挨拶してくれる?」

「隊長さん!」

「リファーナさん、無事に帰ってこられて良かった、良かった」

「ご心配をおかけしました。……皆さんって?」


「下、下」

恐る恐る塔から外に顔を出すと、わっと歓声が上がった。

「こんなにたくさんの人達が……」

そういえば上からも見えてたかも……。

「さっきのはなかなかインパクトが凄かったからね」

「え?」

「精霊の歌姫が、精霊を引き連れて空からご帰還だ!」

隊長さんの声に応えるように、さらに大きな声が響き渡った。







降り積もった雪がほぼ溶けて王国はようやく落ち着きを取り戻していた。私が時の聖域、つまり精霊の世界から帰ってきたあの日から二日ほどが経っていた。私は花の聖地の街、グラソン家の別邸に用意された私の部屋でベッドの上から動かないように厳命されてるの。


「あの……ラーシュ様?治癒師の方は私の体は何ともないと仰ってましたし、もうベッドから出ても大丈夫……」

「駄目」

「……はい」

お屋敷に帰って来てからサーラに湯浴みを手伝ってもらって、何故か新しい寝間着に着替えさせてもらってベッドに寝かされた。すぐに治癒師さんが呼ばれて診察を受けて異常無しとされた。それなのにラーシュ様からもサーラからもベッドにいるように言われて、部屋から出してもらえないの。私、とっても元気なんだけどな……。


昨日はラーシュ様が手を繋いだまま離してくれないし、サーラは山のようにごちそうをつくって部屋まで運んでくるし、いつも止めてくれるヒースコートさんはにこにこ笑ってるだけで何もしてくれないしで少し困ったわ。でもそれだけ心配をかけてしまったのよね……。


「フローリア公爵様が?」

「ああ、そうなんだ。彼があの歌詞を収集してた古文書から見つけ出してくれたんだ。精霊界へ呼びかけるための歌を」

私は枕を背もたれにしてベッドに座ってるんだけど、何故かラーシュ様は私の隣で寝そべってる。手を離してくれるようになったのはいいんだけど、結婚もしてないのにいいのかしらこれって。その……未婚の男女が一緒のベッドの上にいるって、何もなくても駄目なんじゃない?


「僕は……恥ずかしいけれどリファーナがいなくなって何もできなくなってしまってた」

ラーシュ様は少し悔しそうにベッドに突っ伏してしまった。

「でもあの曲はラーシュ様が作ったのでしょう?」

「聞こえたの?」

「はい。届いていましたよ。ラーシュ様の曲だってすぐに分かりました。精霊王様達が褒めていました」

「そうなんだ」

あ、顔を上げたラーシュ様嬉しそう。頬が少し緩んでる。


「引きこもってた時にエミリア様が歌詞を持っていらしてね。喝を入れてくれたんだ。それから急遽歌詞に合わせて作曲をしたんだ」

ラーシュ様はそれから何日か夜を徹して作曲に打ち込んだんだそう。

「それからみんなで練習してあの演奏会につながるんですね」

ラーシュ様はほとんど休む間もなく頑張ってくれてたんだわ。それで少し眠そうなのね。


「うん。ずっと雪が降り続いていたけれど、次第に弱まってあの演奏会の途中から晴れてきたんだ」

「多分その時に精霊王様達の話し合いがあったんだわ……それに姿の見えなかった雪の大精霊様が何かしてくれていたのかも……」

私はあの時の聖地であったことをラーシュ様に詳しく話した。

「そう、そんなことがあったんだね。じゃあ、命を守るために精霊王様はリファーナを連れ去ったのか」

「はい。私は呪いのせいでかなり危ない状態だったみたいです。助けていただいたのは感謝してますが、精霊王様は私達に不信感を持ってしまったみたいで……」

「こちらの世界へリファーナを帰さない判断をしたのか」

ラーシュ様は複雑そうに眉をひそめた。


「あの時歌ってたエミリア様まで消えてみんな茫然としてたんだ。とうとう精霊王に見放されたと思ったよ。だけど青空からリファーナが精霊達と一緒に帰って来てくれた……」

「お願いしたんです。ラーシュ様の元へ帰りたいって。最初は寂しいって渋ってらしたんですけど、エミリア様が来てくださって……。精霊王様はエミリア様の事が好きだったみたいです。エミリア様も精霊王様の事をずっと想ってらしたそうです……。でも……」

「それは違うよ」

「え?」

「リファーナはエミリア様が自分の身代わりになったんだって思ってるでしょ?」

「…………」


そう。私はラーシュ様の所へ帰りたくて、エミリア様を身代わりにしたようなものだわ。

「精霊王はエミリア様がいなくてもリファーナを帰してくれたと思うよ。だって、前にエミリア様を時の聖地へ連れて行こうとしたんでしょ?」

「はい。前は来てくれなかったのにって仰ってました」

「ほらね。エミリア様の気持ちを優先してくれる優しい方だ。今回も同じだよ。ただ、エミリア様があちらへ行くことを望まれたから、希望を叶えてくれたんだと思うよ」

「……そうですね」

そうだわ。精霊王様は優しい方なんだ。なのに私ったらなんて失礼なことを……。


「リファーナは僕を選んでくれたんだね……。あちらにいれば永遠を手に入れられたかもしれないのに」

「そんなの!ラーシュ様がいなくちゃ意味がありません!」

「……うん」

「ラーシュ様……?」

「…………」

ラーシュ様は穏やかな寝息をたて始めた。


「安心なさったのでしょう」

ヒースコートさんが近づいて来てラーシュ様に上掛けをかけた。

「リファーナ様が体調を崩されてから、ずっとよく眠れていなかったようです」

私が思ってた以上に心配をかけてしまってた……。

「ごめんなさい……」

「いいえ!リファーナ様が謝られることではありません!リファーナ様もご苦労なさったのですから」

ヒースコートさんは優しい目で私とラーシュ様を見てる。

「今はどうかこのまま眠らせて差し上げてください。お願いいたします」

「……はい」

ヒースコートさんが部屋を出ていくと、私はそっとラーシュ様の隣に横になった。いつもより幼く見えるラーシュ様の寝顔を見てるうちに、私も瞼が重くなってきた。元気なつもりだったけど、まだ万全じゃなかったみたい。



帰ってこられて本当に良かった……



ラーシュ様の綺麗な頬に触れてみた。大好きな深い緑色の瞳が見えないことを少し寂しく思いながら、私も眠りについた。













ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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