集う場所
来ていただいてありがとうございます!
「もう何日もここにいるのにちっともお腹が空かないわ……」
空気に栄養が満ちてるみたい。不思議なところ……。息をするだけで空腹になることも無い。
「でもケーキ食べたいな……。サーラが作ってくれたのがいい……。あ、あとラーシュ様と一緒に行った王都のお菓子屋さんの焼き菓子も」
夜が来て眠って、朝が来て精霊様達に起こされて、草原を歩き回ってもどこへも辿り着かない。なんとか精霊王様に会って、私の世界へ戻してもらいたい。だけど歩いても歩いてもその姿が見えないしそれっぽい場所もない。
「精霊王様ー!!」
何度も精霊王様を呼んでみたけど、やっぱり返事も返ってこない。
「雪の大精霊様もいつの間にかいなくなっちゃったし……。困ったわ」
特に疲れた感じはしないけど草原に座り込んだ。
高く澄んだ青空の中、相変わらず精霊様達がたくさん飛び回っていて、「歌って」とか「一緒に歌おう」とか誘ってくる。
「ラーシュ様に会いたい」
あの塔での事件からどのくらいたったんだろう……。小指の指輪をそっと撫で、ずっと持っていた白い石を握りしめた。
俯いて考え込んでいたら髪を引っ張られた。精霊様達が歌を催促してくる。座り込んでいた私は立ち上がって姿勢を整えた。
「まずは発声練習から」
いつもやってる基本の発声練習をこなしてから、私は空に向かって歌い始めた。最初は水の精霊様を讃える歌。その次は風の精霊様を讃える歌。精霊様達も楽しそうに一緒に歌ってる。色々な音色の楽器みたいに。でもおかしいの。何か足りない。
ああ、どの歌を歌う時もラーシュ様のクラヴィーアと、ラーシュ様と一緒だった……。
最後にラーシュ様の作った歌を歌った。この世界に生まれたことに、出会えたことに感謝を捧げる歌。
何処からか声が聞こえてくる……。
いい加減拗ねるのはやめてはどうか?
拗ねてなどいない
初めて人に傷つけられてへそを曲げておられるのでしょう?若き花の精霊王よ
そんなことは……
縁ある美しい歌声に誘われて来てみれば、花の歌姫が悲しんでいる
あのような声で歌われては我らも気になって仕方ないというもの
…………
気が付くと私は星空の中にいた。上も下も左も右も星空。私のはるか頭上には雲の上に立つあの不思議な建物。左の足の下、はるか遠くに湖と花の草原が見える。右下のはるか遠くには深い森が見える。ここはどこ?そして私の前には三つの人の形をした光が浮かんでる。
歌を歌う私に四つの声が聞こえる。一つはあの雲の上の建物から聞こえてくるような気がするわ。
花の精霊王様、星の精霊王様、闇の精霊王様……そして時の精霊王様……?
名乗られた訳じゃないけれど何となくそう思ったの。それぞれの聖地の精霊王様達だって。星の精霊王様の後ろにはあの星祭りの演奏会に姿を見せてくれた大精霊様達がいらっしゃる。一人だけ座り込んで後ろを向いてるあの方が花の聖地の精霊王様かしら。他の精霊王様達が話しかけて説得してるみたい。
そら、そなたの領域からも聞こえてくる 花の精霊王に呼びかける清き歌が
…………
なんとも美しい旋律だ
おお、もう一人の花の歌姫か
エミリア……?
応えてあげないのですか?あんなにあなたを呼んでいるのに
エミリア……!
立ち上がり振り向いた花の精霊王様。私達の聖地の精霊王様は年若い青年に見えた。その様子に満足したように他の精霊王様達がこの場を離れていく。星の聖地の大精霊様達が私に手を振ってくれた。闇の精霊王様が去り際に私を見て微笑んだ。手の中の守り石がほんのりと温かくなった。きっとハリエット様が縁を結んでくれたのね。
雲の上の不思議な建物も、深い森も、星空も遠く遠くなって見えなくなっていく。そして近づいてくる湖と花畑の聖地。でも、まだ遠くて私の手には届かない。それに近づいても「閉ざされてる」ような気がするからまだ戻れない。
やがてかすかに歌と音楽が聞こえてくる。私の歌に共鳴するように。これは……ラーシュ様の曲だ!
ソフィアさんやみんなの声と音。あ、エミリア様の声も聞こえる!お体は大丈夫なの?……そしてラーシュ様のクラヴィーアの音。「門」が開いてはっきりと青い湖が見えてきた。塔の上には聖地の音楽隊の皆が見える。鮮明になる音達。懐かしくて涙がこぼれる。
リファーナは帰りたいか?
いつの間にか隣に立っていた精霊王様が問いかけてきたの。
許していただけるのなら、帰りたいです
歌いながら心で答えた。その間にも歌と音楽はどんどん大きくなってきてる。
また、命の危険があるかもしれないのに?人の世界は恐ろしくはないか?
悲しいことも辛いこともあります。でも、楽しいことも嬉しいこともたくさんあるんです
私の歌姫がいなくなるのは嫌だ……リファーナも私のそばにいてくれないのか?
寂しそうな精霊王様の様子に困ってしまった。精霊様達に喜んでもらいたい。でも会いたい人が、ずっとそばにいたい人がいるの。
「それならば、私がおそばに参りますわ」
「エミリア様?!」
塔では突然エミリア様が消えてみんなが混乱しているのが見える。
「開いたから来ちゃったわ」
エミリア様は片目を瞑っていたずらっぽく微笑んだ。
エミリア、どうして…………以前に求めた時には来てくれなかったのに
あ、精霊王様ちょっといじけてるみたい。若き精霊王って言われてたけど、もしかしたら若いっていうより幼いのかもしれないわ。
「これからは新しい歌姫がいますし、心配する家族ももうおりません。これからはずっとおそばにいさせてくださいませ」
ずっとそばに?
精霊王様が伸ばした手を取ってエミリア様が頷いた。精霊王様は満面の笑みを浮かべ、エミリア様も幸せそうに微笑んでる。あれ?エミリア様少し若返ってるみたい?
「お別れ……なんですね」
「あなたが歌う限りいつでも会えるわ。それにね、やっとずっと好きだった方の元へ行けるの」
エミリア様の好きな方って精霊王様だったんだ。
「さあ、リファーナさんも大切な人の所へお帰りなさい」
エミリア様は私の背中をぽんっと押した。精霊様達の光が私の周りに集まって来た。
「花の聖地をよろしくね」
「はい。頑張ります」
青い湖に落ちながら、振り返る。
「グラソン様と仲良くね」
「……はい」
精霊王様とエミリア様が寄り添いあって笑ってる。私は私の世界へ目を向けた。たくさんの精霊様達の光に支えられて空を落ちていく。
私は大好きな人の姿を見つけた。
「ラーシュ様っ!!」
「リファーナっ?!!」
花の聖地の塔の上、ラーシュ様は戸惑いながらも両手を広げて待っててくれる。その温かい胸の中に飛び込んだ。
精霊様達の光の乱舞の中、湖と塔の周りの花々が一斉に咲いた。
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