もう一つの記憶②
来ていただいてありがとうございます!
※前半はラーシュ視点です
私達の歌姫を守ってあげて
白い光は夢の中に何度も現れて僕にそう告げていた
スモールウッド学園の初等部に入学して初めての休日。リファーナ・スティーリア伯爵令嬢と二度目の邂逅を果たした。当時の僕はまだそれが二度目だとは知らなかった。時々奇妙な夢を見ることはあったけれど、それはただの夢だとして気にすることは無かった。
顔合わせの時に、僕を全く無視してひたすらケーキを食べる姿に少し興味が沸いた。普通、印象を良くしようと愛想笑いの一つも浮かべるものじゃないの?そんな風に思ってたのに、どうやらこの子は僕の事に興味が無いどころか迷惑ぐらいに思ってるようだった。
「私、聖地の音楽隊を目指すつもりなんです」
驚くべきことに、貴族の令嬢であるリファーナは歌の練習も勉強も必死にやり始めたんだ。そうなってくると俄然この子に興味が湧いた。最初は何もできてないリファーナを指導して少しいい気分になってたのもある。
彼女は可愛らしいと思う。目立たないけれど透明感があって、素直で精霊にも好かれている。とても努力家で歌の才能もある。でもリファーナ自身も家族もそうは思ってない。彼女の両親はリファーナに無関心だった。美しくて優秀と評判の姉ばかりを贔屓していたんだ。姉もまたリファーナを見下していたようだ。リファーナを知っていくうちにそういった事情が見えてきた。リファーナが家から離れて自立したがった気持ちもよくわかる。
知れば知るほど僕はリファーナに惹かれていった。片時も手放したくないと思うほどに。リファーナの為といって、いつも二人で練習したし、なんとか二人で出かけることもした。苦しい程に愛してしまっていた。ただ、いつも彼女はどこか遠くを見ているようで、置いて行かれるような気持になることが多かった。だからスティーリア伯爵家から婚約の取り換えの打診があった時には内心ビクビクしていたんだ。でも……。
「私、婚約解消なんてしたくありません!ラーシュ様が好きです!」
嬉しかった。僕達の婚約は解消されず恋人同士になれた。そして新たな苦しみが僕を襲う。「我慢」という名の嬉しい苦しみが。リファーナの努力のかいもあって、リファーナは精霊の歌姫として認められた。僕もいずれはそうなるだろうと予想していたけど、それをはるかに超えてきたんだ。僕は内心少し焦っていた。リファーナを精霊に取られてしまうんじゃないかって。こんなことなら自分も一緒に聖地の音楽隊の試験を受けておくんだったと後悔したよ。だから強引に迫ることも多くなっていった。夜中にリファーナの部屋の前まで行って、アレンに連れ戻されるなんてこともあったな……。
今と違う記憶の自分を夢に見る。そんなことがあるだろうか。断片的な記憶は今のそれとは違っていて……。それが一つにつながったのはあの試験の日。雪の大精霊が現れて告げた言葉。
思い出して……『守る』約束……私達の歌姫を守って……
あの時思い出したんだ。全てを。愚かだった「一度目」の自分を。
今度は死なせない。僕が守る。そう心に誓ったのに……。
リファーナは僕の目の前で消えてしまった。精霊達と共に。
重たい体を光が包んでくれている。体に纏わりついて締め付ける黒い糸を、少しずつほどくように光が撫でていく。
「あったかい……」
横たわっている体の上の空で精霊様達が歌ってる。
「精霊様も歌うのね……いつもは聞こえないだけ?……綺麗な声……」
一度覚醒した意識は再び光に包まれる。眠りに落ちる寸前に、私を心配そうに見てる真っ白な綺麗な女の人の姿が目に入った。
ラーシュ様の試験の時の大精霊様だわ……ラーシュ様……いないの?……寂しい……
それからは目が覚めるたびに体が軽くなっていった。ベッドに入っているわけじゃないのにふわふわとした何かに包まれていて、とてもいい気持ちなの。
「ここはどこなのかしら……」
何度目かに目が覚めて、体を縛り付けていた何かは完全に無くなって、立ち上がれるようになった。
私は花がたくさん咲いている草原の真ん中にいた。ここは花の聖地に似てるけれど、やっぱり違う。だって春の花も夏の花も秋の花もみんな一緒に咲いてるから。精霊様達がたくさんいて話しかけてくる。
歌って!
って。精霊様達だってとても綺麗な声で歌ってるのに、私の歌なんて必要?精霊様達の歌を聞いているのが楽しい。それでも何度も言われるうちに私も一緒に歌い始めたの。ああ、やっぱり歌うのって楽しいわ……。この曲はよくラーシュ様と一緒に練習してて、ラーシュ様によく怒られた曲で……。
「ラーシュ様……」
歌いながら涙が零れた。ここは違う。だってラーシュ様がいない。
「私、帰りたい」
ひんやりした手が私の頭を撫でた。
「!」
泣かないで
顔を上げると真っ白な綺麗な女の人がいた。
「雪の大精霊様?」
その精霊様は優しく瞳を細めて微笑んだ。
「ここは時の聖地ですか?」
時の聖地はたぶん精霊様達の世界。雪の大精霊様は頷いた。
精霊王様はとてもお怒りになってる
メリッサ様とロッティー様が呪法を使って精霊様を操ったから。それを止められなかった私に罰を与えたのね。雪の大精霊様は一度頷いて次に首を左右に振ったの。少しずつ話を聞くと、私の体は呪いがかかっていてとても危険な状態だったみたい。命が危なかったのを見かねて精霊王様が助けてくれたんですって。そうだったんだ……。私はロッティー様にそこまで憎まれてたんだわ……。心に冷たい重石をのせられたような気がする。
次はもう助けてあげられないの
雪の大精霊様は悲しそうに笑った。
「あ、前の時に助けてもらったから……?」
二度は時を巻き戻せないから、ここへ連れて来て治してくれたのね。
「あの、助けてくれてありがとうございます!でも私、自分の世界に帰りたいんです」
雪の精霊様は悲し気な顔をするだけで何も答えてくれなかった。あれ?もしかして帰れないの?私はあの古語の絵本の事を思い出していた。
精霊様の怒りを鎮めるために精霊の世界へいった歌姫の女の子は元の世界へ帰れなかった。
「そんな……。私、もう帰れない……?ラーシュ様に、もう会えないの?」
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