エミリア様の話
来ていただいてありがとうございます!
「まあ!それでわざわざ二人で来てくれたの?」
「はい。春の花の演奏会の後で結婚式をすることになりました」
「それで招待状を持ってきたんです」
穏やかな冬の日、ラーシュ様と私は新年のご挨拶と私達の結婚式にご招待をするためにエミリア様(精霊の歌姫様)のお屋敷を訪ねたの。もちろんエミリア様にお会いしたかったのが一番の理由だけど。
「まあまあ!二人とも本当におめでとう!ぜひ参列させていただくわね。楽しみだわ!」
お渡しした招待状を開いて、満面の笑みを浮かべたエミリア様はとても顔色が良くてお元気そうで、とても安心したの。ラーシュ様とも顔を見合わせて笑い合った。
いつものようにメイドさんがお茶やお菓子を準備してくれて、なごやかなお茶会が始まる。エミリア様とラーシュ様との楽しいお話のはずなんだけど私の心は晴れない。聖地の音楽隊の入隊試験の日があと三日と迫っていたから。今年の受験者の中にロッティー様の名前があった。そして花の聖地の街ではロッティー様が合格して、新たな精霊の歌姫になるのではないかって噂があるらしい。ロッティー様が歌が上手なのは本当だし、実力で試験に合格なさるのなら何も問題は無い。でも……。
「リファーナさん?少し顔色が良くないわね。大丈夫?」
「え?はい!大丈夫です。何ともありません!」
「リファーナ……」
ああ、エミリア様とラーシュ様に心配をかけてしまった。駄目だわ私って。でも考えないようにしてるのにどうしても気になってしまう。
「セドリックから色々と話は聞いているわ……。リファーナさんはお友達の事が心配なのね」
「セドリック……、ああ!フローリア公爵様のことですね!そういえばお二人は仲が良かったのでしたね」
「セドリックは私が息子のように思っている子なのよ。それでいてお茶飲み友達でもあるわね。私は貴族では無いけれど、セドリックはいつも対等に扱ってくれているの」
今日のお茶もフローリア公爵様が持って来てくれたものだって、エミリア様は嬉しそうに微笑んで美味しそうにお茶を飲んでる。
「……確かに美味しいお茶ですね」
ラーシュ様も少し悔しそうにお茶の味を認めていた。フローリア公爵様がエミリア様のことを本当に大切に思っているのが伝わってくる。
「そういえば貴女はセドリックの義妹になったのだったわね。不思議な縁ね。貴女もラーシュさんも私の子ども、いえ孫みたいなものね」
「エミリア様……!」
恐れ多い気がするけど、嬉しい気持ちが勝った。
「あら、孫だなんて言っては不敬かしら……?」
いたずらっぽく笑って片目を瞑るエミリア様はとてもチャーミングだわ。
「そんなことありません!」
「とても光栄です」
ラーシュ様も嬉しそうに笑ってる。ちょっと照れくさそうなラーシュ様がかわいい。
「…………人の愛と欲は限りがないものね……。やがて禁忌を犯した者は罰せられるでしょう」
ふっと一度息をつくと、エミリア様の顔からは表情が少しだけ消えた。
「エミリア様……?」
窓の外の景色、ううん、もっと遠くの何かをエミリア様は見つめているみたい。
「その昔、呪法を用いて精霊様を操ろうとして失敗し、精霊様の加護を失って滅びた土地があるのです」
「滅びた土地……」
「国」だけじゃなくて「土地」ごと滅んでしまったの?
「私達の国はそんなことにしてはならないわ。だって代々の音楽隊や美術家たちが精霊様達に思いの結晶を捧げ続けて守ってきたのですもの。あの事件以来、精霊様達と私達との間に見えない薄い隔たりができてしまったように感じるの。だから恐らくもう次は無いかもしれません」
「もし「次」があれば、僕達の国は完全に精霊から見放されてしまう……と?」
エミリア様はラーシュ様の言葉には返事をせずに悲し気に笑っただけだった。
「私がこの数十年、精霊様達から教わってきたことの中から、役に立ちそうなことはセドリックに伝えてあります。ここで詳しくは言えないけれど、呪法の事についてもね」
「そういえばフローリア公爵様がそのようなことを仰っていましたね。彼はあの事件の相談役をやっていらっしゃるとか」
「ええ」
エミリア様はフローリア公爵様を本当に信頼してるのね。
エミリア様が精霊様から教わってきたこと。それは以前の演奏会の時の私のように精霊様の目になって知った精霊様の記憶や知識の事なんだわ。あれを数十年も見てこられたのね……!恐らく呪法に関することも。やっぱりエミリア様は凄い方なんだわ。
「だからね、リファーナさんはあまり心配しないで、楽しいことを考えていてね。その気持ちは歌にのって精霊様達に伝わってくれる。そして精霊様も楽しい気持ちになるの」
「……はい。エミリア様、いいえ、精霊の歌姫様」
「まあまあ!花開く精霊の歌姫様、これからは貴女の時代よ。私は貴女が現れてくれるのをずっとずっと待っていたのだから……。どうか頑張ってね」
エミリア様はその温かい手で私の手をぎゅっと握ってくれた。
もっとお話ししていたかったけど、あまり長居をするとお体にさわってしまうから、夕方にならないうちにお暇することにしたの。
帰り際、エミリア様は私を呼び止めて耳打ちした。
「実は私にもずっと想う方がいるのよ」
「そうなのですか?」
「ふふ、こんなおばあさんなのにおかしいでしょう?」
「そんなことはありません!いつまでも恋をなさってるなんて素敵です!」
「ありがとう。これは女性同士のナイショの話ね」
「はい!」
今度お会いする時はできれば私一人で来て、その恋のお話を聞かせてもらおう。そんな風に思いながらラーシュ様の待つ馬車に乗り込んだ。
「リファーナ、なんだか楽しそうだね」
「はい!またエミリア様とお話ししに来たいです!」
その時は私の不思議な体験の話も聞いてもらいたい。きっとエミリア様なら信じてくれるような気がするの。
その日、この冬初めての雪がひとひら舞い降りた。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




