星まつり
来ていただいてありがとうございます!
「綺麗な石……」
私は手に取った石を夕日にかざして見ていた。
中央広場は人々でごった返してる。毎年流星群の時に行われるという星まつりの真っ最中で、アクロアイト王国内外からもたくさんの観光客がこの星の聖地の街へ来訪しているそう。
星の音楽会の後、再び眠ってしまった私達が目覚めた時には夕方に近い頃になっていたの。ラーシュ様と私はヒースコートさんとサーラが待つ迎賓館に戻って軽く食事をしてから少し星まつりを見物することにした。
「お嬢さん、これはねぇ、石じゃなくて貝殻なんだよ。アイオルニアという名なんだ。遥か南方の海で取れる二枚貝でね、この貝には海の精霊様が宿るって言われてるんだ」
行商のおじさんが愛想よく笑って説明してくれた。おじさんの前に置いてある木箱の中にはたくさんの装飾品や貝殻や綺麗な石がたくさん並んでる。
「あなたは南方の国からいらしたのですか?」
「いいや、違うよ別嬪さん。私はこの国の南の地方の商人さ。この貝殻は南方の商人から仕入れたものだよ」
「虹のように輝く不思議な貝殻だね……」
ラーシュ様も一つを手に取って不思議そうに見つめてる。もちろん貝は見たことがあるし、食べたこともあるけれど、灰色や黒色や茶色のものばかりでこんなに美しい貝がいるなんて知らなかった。
「恋人同士で一つの貝殻を分け合って持ってるとずっと一緒にいられるって言われてるんだよ」
「そうなんですか?ラーシュ様!私と一緒に持ってくれますか?」
「そんなもの無くてもずっと一緒にいるつもりだけど、まあいいよ」
「ありがとうございます!じゃあ、この貝殻をください」
私が手に取ったのは少し青緑がかった色彩の貝殻だった。
「買ってくれるなら何かに加工してあげるよ。腕輪か指輪か首飾りか耳飾りに髪飾りとタイピン、それからブローチとかかな?」
私は少しだけ考えて決めた。
「指輪はもう持ってるので、お揃いのブローチが良いです!」
私は小指の指輪をそっと撫でた。
「了解。じゃあ、しばらくお祭りを回って来てよ。その間に作っておくよ。お代はその時で」
「はい。よろしくお願いします」
星の聖地の岩の座には白い鉱物がたくさん含まれていて、夕日を反射してキラキラ輝いてる。演奏は絶え間なく続いているみたいで時折風に乗って音楽や歌声が聞こえてくるの。
「精霊様達も団員の皆さんもとても楽しそうですね」
ラーシュ様と私は屋台で飲み物を買って、飲みながらベンチに座っていた。目の前を精霊様がすぃーっと飛んでいく。
「街中にも精霊が飛んでるのは精霊祭の時と同じだね」
「岩の座から見える草原には本当にたくさんの精霊様達がいて、歌いながら驚いてました」
周囲の広大な草原は遠くに見える雪の連峰まで続いているらしい。途方もない数の精霊様達がいるのね。
「音楽団の規模もうちとは全く違うし、国の大きさもシュクシュケヴァット王国の倍以上だ。この祭りにはうちの国では見たことがないような珍しいものがたくさん売られてる。本で知識を得ていたつもりだったけど、まだまだ知らないことはたくさんあるね」
ラーシュ様は星まつりを私よりもずっと熱心に見て回ってた。
「長旅は大変だったけど、来て良かったよ」
「ラーシュ様のお母様が旅行好きでいらっしゃる理由が分かりますね」
「……うん。「見る」ことは大事なことなんだね」
ラーシュ様と私は日暮れの街をまた歩き始めた。
「あ、これ、美味しいです」
今食べてるのは屋台の一つで売られてるふわふわなお菓子。手のひらサイズの薄切りのケーキ二枚でクリームと果実を挟んである。たぶんこれレンレンだわ。
「どれ?あ、本当だ。意外と甘さが控えめだね……」
ラーシュ様、私の持ってるお菓子を一口食べちゃった。それは全然構わないんだけど、この後を食べるのは恥ずかしい……。食べるけど。
「本が売ってる」
「え?あ、本当だわ!」
人込みを避けてちょっとした路地に入ってお菓子を食べていたんだけど、すぐ近くに本屋の看板のお店があったの。普段ならもうお店は閉まっているような時間だけど、お祭りだからか店は開いていて本を見てるお客さんも数人いた。
「ここ、見て行ってもいい?リファーナ」
「はい。私も見たいです」
実はアクロアイト王国の王都には王立図書館があるんだけど、ここから馬車で二日かかるそう。滞在期間中には行く時間がない。「星の宮」の建物の中にも書庫があって、精霊様についての伝承を記した文献があるんだけど、こちらはお祭りの間は閉鎖されていて入る事ができないって言われたの。クララ様や団長さんからも色々なお話を聞けたから分かったことが多かったけど、そういう事情で自分達での文献探しは今回は諦めていたの。
「ここに何か詳しい本があるかもしれない」
「そうですね。探してみましょう」
私達は薄暗い店内を探したけれど成果は無かった。ただ、一冊の絵本が目に留まった。
「精霊様の絵が描いてあるわ」
アクロアイト王国の言葉は私達の国の言葉とほとんど同じなんだけど、その絵本の文字はどこかの古語のようで私には読めなかった。精霊とお姫様の恋のお話みたいで、絵がとても可愛らしくて気に入ってしまった。
「ラーシュ様、私この絵本を買いますね」
「どれ?ああ、これは僕にも読めないな……。でも精霊の話みたいだね。帰ったら翻訳してみようか」
「はい。お願いします」
私達はその絵本と花の聖地の音楽隊の皆へとラーシュ様のご家族へのお土産を買って、最初の装飾品の行商のおじさんのお店へ戻った。
「やあ!来たね。お嬢さん。出来てるよ!」
渡されたアイオルニアは八つの光を放つ星が彫られた台座におさめられていて、とてもかわいいブローチになっていた。
「わあ!素敵ですね!どうもありがとうございます、店主さん」
代金を支払って受け取った。ラーシュ様が払おうとしたんだけど、いつも頂いてばかりなので私がプレゼントするって譲らなかった。
迎賓館へ帰った後、私達はお互いにブローチをつけ合った。
「可愛らしい形だけど、小さいから僕がつけても違和感がないね」
「これでずっと一緒にいられますね」
「一生一緒だよ。来年の春には結婚するんだから」
「……はい」
「帰ったら、結婚式用のドレスの準備を始めよう。宝飾品選びも」
「……はい」
この前ラーシュ様のお母様がいらした時にもそろそろ準備を始めましょうって言われたのよね。なんだか足元がふわふわする。だけど、本当に好きな人と、ラーシュ様と結婚できるんだわ……。家族になれる。
「ラーシュ様、私、嬉しいです……」
「何が起こっても絶対に離さない。リファーナは僕のものだよ」
ラーシュ様は私を抱き締めてくれ、私もラーシュ様に頬を寄せた。
星の流れる窓辺で、私達は唇を重ねた。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




