招待
来ていただいてありがとうございます!
風の演奏会の日から数日間、大風の日が続いて季節はゆっくりと移り変わっていった。
曇り空が続くようになり、水の精霊様が活発に飛び回るようになった。風の演奏会に続いて、水の精霊様を讃える演奏会が行われた。
ポツッ、ポツッと小さな水滴が落ちてくる。降り出した雨粒の一つ一つに精霊様が宿っているように感じられた。歌いながら頬や体にあたる滴が何かを伝えてくる。水の精霊様と一緒に旅をするような感覚。
雨、川や水たまり、大地に染み入って、海へ流れ、また空へ還っていく。そんな感覚を知る事ができた。私の中にも水があって、今までにない感謝と生きてる喜びを歌えることが幸せだった。
「リファーナ……!」
「ラーシュ様?」
ラーシュ様の焦りとホッとしたような顔に少し違和感を感じた。今日の歌は駄目だった?
「今、リファーナの体がうっすらと光っていたんだ。水の精霊と同じ光で……。光と一緒にリファーナが消えてしまうかと思った……」
ぎゅっと抱きしめられて驚いてしまった。雨はサラサラと細かく降り始め、精霊様達の光を反射してやわらかな光を宿してる。幻想的で綺麗な景色だった。雨に手をのばすと、精霊様達が集まって手に触れた。不思議……。温かい気がする。今まではそんなことを思ったことないのに。
「俺達もちょっと驚いたよ」
隊長さんも頭をかきながら苦笑してる。あ、みんなもう楽器をしまい始めてるわ。
「そうよ!リファーナちゃんずっと立ったまま動かないんだもの!」
ソフィアさんも近くにいてくれたんだ……。早く塔の中に戻らないと風邪をひいてしまう。まだぼんやりとする頭を振って、急いでみんなと一緒に塔の中へ戻った。
「何があったの?何か見えたの?」
ラーシュ様が心配そうに私を見てる。
「水の精霊様の見てるものが頭に入ってきたような気がします。上手く説明できないんですけれど、たぶん雲とか雨とか川とか海とか……とても目まぐるしく動く流れの中にいたような……」
くらりと視界が霞んだ。
「リファーナ、もういいよ。今は少し休むんだ」
「はい」
私は目を閉じて椅子に座り込んだ。片付けのお手伝いをしたかったけれど、ちょっと無理そう……。
これがグラソン公爵夫人が言ってた精霊様の目というものなのかしら。私はこの時から、歌いながら様々なものを「見る」ようになっていったの。
雨の季節が終わり、気温が上昇して夏が近づいていた。
「え?星の聖地へですか?」
「ああ、招待状が届いたんだ。ラーシュ君とリファーナちゃんに」
隊長さんが二通の封書を渡してくれた。銀の六芒星が描かれた真っ白な手紙だった。
「あらあ!凄いじゃない!なんて書いてあるの?」
ソフィアさんが後ろから抱き着いて来た。精霊様達も覗き込んでくる。
花の歌姫様
流星の時
星の精霊様を讃える演奏会にご招待いたします。星の精霊様を讃える詩をともに奏でませんか?
おいでをお待ちしております
「星の聖地での演奏会に招待されたみたいです」
「しかも、演者としてだね」
ラーシュ様のも同じ文面だったみたい。
「星の聖地では夏に流星がたくさん見られる時期があるんだよ。その時に開催される演奏会が「星の音楽会」と呼ばれているんだ。少し遠いけれど行っておいで。きっといい経験になるよ」
隊長さんはそう勧めてくれた。ラーシュ様と私は顔を見合わせて頷きあった。
「行きます!」
「行きたいです!」
「わかった。先方には俺から返事を出しておくよ」
ラーシュ様と一緒に精霊様の集まる聖地の逸話を探していたけれど、やっぱりあまり数が多くなくて詳しい文献も少ないの。歴史の古い「星の聖地」へ行けば、もっとたくさんの文献があるかもしれないわ。私もそうだけど、ラーシュ様もとても楽しみにしてるみたい。今年の夏は外国で過ごすことになるのね。
今年の選抜チームは辞退することにしたの。星の聖地の場所はここからは遠くて、ほぼ夏休みを丸々使うことになってしまう。そうすると選抜チームの練習にはほとんど参加できなくなる。
「そう、それは残念ね」
ミント先生に事情を話して辞退する旨を伝えたら了承してもらえたの。
「でも、星の聖地の演奏会に招かれるなんて素晴らしいことだわ!我が国の代表として頑張って来てね!」
国の代表?!そんな風に考えたこと無かったわ……。どうしよう、私で大丈夫かしら……。
「が、頑張ります!」
「まあまあ!そんなに気負わなくても大丈夫よ。リファーナさんならね。いつも通り歌えばいいのよ」
ミント先生の言葉に頷くように精霊様の光も明滅してる。そうだわ。私は一生懸命歌うしかできないもの。不安になってる暇はないわ。帰って練習しなくちゃ!
「頑張ります!ありがとうございます」
「精霊の歌姫様ともなると学園の行事など二の次なんですのね。ずいぶんと偉そうでいらっしゃるわ」
「ロッティー様?」
廊下に出るとそこにはロッティー様がいたの。話を聞かれていたみたい。
「どうしてここに?」
「私、ミント先生のレッスンを受けてますのよ。来年の為に」
ロッティー様は来年も受験をなさるのね。ロッティー様が諦めてないことが少し嬉しかった。頑張ってくださいって言おうと思ったけど、ロッティ様の様子がそんな雰囲気じゃなかった。
「次は邪魔しないでいただけますか?」
「どういう意味でしょうか?」
本当に意味がわからない。ロッティー様は何を?あ、精霊様が飛び去ってしまったわ。
「私が合格できないように裏から手を回したのでしょう?精霊の歌姫の立場を使って嫌がらせをしてくるなんて陰湿だと思いませんこと?」
え、ああ!そういうこと?勘違いをなさってるのね。
「試験の合否は私が口出しできるようなことじゃありません」
疑われたのは悲しいけどそんな場合じゃないわね。ここはきちんと説明しなきゃ。聖地の音楽隊の名誉に関わってしまう。
「確かに歌の技術も評価の対象になります。音楽隊の見届け人はそれを見ています」
「だったら!この私が合格じゃないのはおかしいわ!貴女が私に不利になるように仕向けたのだわ!!」
ロッティー様は私を悪者だと思い込んで睨みつけてくる。
「私はロッティー様の試験の時にはあの会場にはいませんでした。ですから技術の審査に口を挟むことはできません。ですから試験の様子はわかりませんが……」
「だから、事前に皆様に私の悪口を言ったのでしょう?!」
決めつけが酷いわ……。
「今回不合格だったということは、ロッティー様の所へは精霊様が現れなかったのですよね?」
「は?」
「最後に入隊の合否を決めるのは精霊様です。ほら、ラーシュ様の試験の時に大精霊様が顕現なさったでしょう?あんな風に認めていただけると精霊様が現れるんです」
「いい加減なことを言わないで!!」
「本当です」
証拠に少しだけ歌ってみせた。精霊様がたくさん集まって来てくれた。歌い終わるとすぐにどこかへ飛んで行ってしまったけれど。
「そんな……こんな事って……!そうなのね、分かったわ!!じゃあ、貴女が精霊に私の悪口を吹き込んだのね?」
ええ……?なんでそうなるの?何が何でも私を悪者にしたいのね……。これはどうしたらいいのかしら。
「私は精霊様とお話はできないです」
何となくの感情ならわかるんだけどね。今の歌を気に入ってくださってるとか、あ、この歌は大好きなんだわとかその程度だけれど。
「嘘よっ!そうじゃなかったら、リファーナ様が精霊の歌姫になれたのに私が合格すらしないなんて有り得ないですわ!!」
今度は嘘つきにされてしまった……。ロッティー様、これはマナー違反だわ。注意すべきかどうか少し悩んだ。
「ずいぶんな思い上がりだね。言いがかりも大概にしなさい」
「フローリア先生……!」
廊下の陰から現れたのはフローリア先生だった。ああ、またややこしい人が増えちゃった。
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