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精霊の歌姫  作者: ゆきあさ


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新しい季節

来ていただいてありがとうございます!




「是非ともお願いしたいのです!」


卒業を祝うダンスパーティーで、実行委員会の方々にラーシュ様と一緒に歌と演奏してほしいって頼まれたの。音楽隊の隊長さんに相談してみたら、学園内だけの事なら問題無いって言ってもらえた。


「リファーナはどう?歌ってもいいの?」

「私は構いません。ラーシュ様が良ければ。一緒に演奏できるのは嬉しいです」

「わかった。でも、一曲だけにしよう。僕らも最後のダンスパーティーをゆっくり楽しみたいからね」

ラーシュ様の言葉が嬉しかった。私はまだもう一年在籍するけれと、ラーシュ様は卒業してしまうからダンスパーティー参加は最後になる。ラーシュ様以外の人とパートナーになるつもりは無いから。

「せっかくなので、ラーシュ様が作ったあの曲を歌いたいです」

ちょうど今、二人だけで練習してる曲があるの。誰かを応援するような明るくて希望に満ちた歌。

「ああ、そうだね。あれは精霊の為の曲じゃないからちょうどいいね」



ダンスパーティーの開会の宣言の後、ラーシュ様と私はクラヴィーアと歌で新しい曲を披露した。特に精霊様を讃える言葉は入ってない歌だったけど、精霊様も講堂へ集まって来てくれた。ラーシュ様の曲は精霊様達にも人気みたい。演奏は成功でたくさんの拍手を貰えて、皆さん喜んでくれたみたいで良かった。


「さすが、精霊の歌姫様と精霊の奏者様ですわね」

「今までにお聞きしたことのない歌でしたね」

「まあ!グラソン様作曲の新曲でしたの?」

「とても素晴らしかったですわ!!」

「今度の演奏会も是非聞きに行かせてもらうよ」

「あら!わたくしは氷の精霊様を讃える演奏会にも行きましたのよ!!」


皆さん口々に褒めてくれて、私も嬉しかった。やっぱりラーシュ様の曲は素敵よね。

「リファーナ……、外へ行こう。これじゃゆっくりダンスも出来ない」

ラーシュ様に耳打ちされて、私達は講堂から夜の庭へ抜け出したの。


「まったく、せっかく学生最後のダンスパーティーなのに、これじゃ堪能できないじゃないか」

「春休みにはまた国王陛下との謁見の後、舞踏会がありますよ」

「舞踏会じゃないよ。堪能したいのはリファーナのドレス姿だ」

「え?」

ドレスならお城での舞踏会でも着るのに?


「そのドレスを身につけた、学生のリファーナの姿は今夜しか見られないからね」

今夜のドレスは淡いクリーム色のふんわりとしたドレスで、ちょうど今頃に咲き始める花の色なの。髪飾りは指輪とお揃いの宝石がついてる。ラーシュ様のタイピンもお揃い。

「よく見せて。ああ、やっぱりリファーナは花の精霊みたいだ。よく似合ってる」

ラーシュ様が嬉しそうに微笑んでくれるのは私もとても嬉しい。だけど、あまりにも見つめられてしまうとやっぱり恥ずかしい。私はそんなに美人じゃないし、ドレスに着られてしまっていそう。


「こら、また後ろ向きなことを考えてるでしょ?」

俯いた私の頬をラーシュ様の両手が上向かせた。

「リファーナは綺麗だよ。それとも僕の言葉が信じられない?」

「……ありがとう、ラーシュ様」

「うん。そうやって笑ってて。ただし、僕の前でだけでね」

軽く口付けられて、聞こえてくる音楽を頼りに私達は二人きりでダンスをしたの。



「…………!」

「……………っ」

月明りの中で一休みしていると言い争うような声が聞こえてきた。

「何だろう?喧嘩かな?」

「あ……」

近づいてきたのはロッティー様と、婚約者の……。


「これは……!精霊の奏者様と精霊の歌姫様!失礼をいたしました……」

ロッティー様の婚約者様が頭を下げた。ロッティー様も隣に並んで挨拶してくれたけれど、笑顔は無かった。

「先ほどの演奏と歌は素晴らしかったです!流石精霊様に認められただけありますね!」

「ありがとう……」

「お邪魔をして申し訳ありません。失礼いたします」

ラーシュ様が静かに答えると、婚約者の方はロッティー様の手を引いて行動の方へ戻って行った。


去り際にちらっと振り返ったロッティー様が、酷く怒っていたような顔をしているのが気になった。



「ああ、なんだか嫌な気分だな……」

「…………」

「リファーナ?どうしたの?気分でも悪い?」

「!思い出しました!ケント様です!ケント・メリッサ伯爵令息様!」

「……?」

「どうしても思い出せなくて……。ロッティー様の婚約者様の名前!思い出せて良かった!私、歌詞ならいくらでも覚えられるんですけど、人の名前って覚えてられなくて……。特に男の方の名前が致命的に駄目で……。情けないです」

「プッ……!」

ラーシュ様が珍しく声をあげて笑い始めた。笑ってくれるのは嬉しいけど、笑われてるのはちょっと嫌。複雑な気分。物覚えが悪い私が悪いんだけどね。


「ごめん、ごめん!そんなに膨れないで!さあ、もう一曲お相手願えますか?」

ラーシュ様は楽しそうに手を差し出した。私はそっと手を重ねた。

「喜んで」

その夜は何度も何度もくるくる回りながら笑いあいながら楽しく踊り続けたの。






その後、卒業式は滞りなく行われ、ラーシュ様はスモールウッド学園を卒業したの。「春の花の演奏会」ではサプライズでエミリア様も参加なさってとても楽しく歌う事ができた。ラーシュ様の国王様との謁見の為に一緒に王宮に行ったりした。舞踏会にも一緒に出席したわ。そうして結構忙しい春休みを過ごして、私はラーシュ様のいない学園で最上級生になった。



「やあ!精霊の歌姫。ご機嫌はいかがかな?」


入学式の日に、突然声をかけられて飛び上がるほど驚いたわ。どことなく幼い感じの新入生に交じって見覚えのある大人がいたの。

「どうして学園にいらっしゃるのですか?フローリア公爵様」

そうなの!何故かフローリア公爵様がスモールウッド学園の中にいたの。関係者以外立ち入り禁止なのに……。

「臨時の講師になったんだよ。ほら、最近は連続して精霊の歌姫、奏者が誕生したからね。そういったことに詳しい私の知識を若者達にも広めて欲しいそうなんだ」

「そうなんですか……」

そんなことってあるのかしら……。実際フローリア公爵様はここにいるんだし、あるのよね。


言われてみれば、いつものようなかっちりとした服装では無くて、教師が普段するようなシャツにズボンに上着といった格好をしてる。フローリア公爵様を回りの女子生徒達がうっとりと見つめてる。確かにとても整った顔立ちをなさってるものね。人気者の先生になりそうだわ。ラーシュ様ほどじゃないけどね。


「では私は授業の登録も終わりましたので失礼します」

そう。今日は入学式だけじゃなく受けたい授業の登録もある。

「え?もう?」

「はい。これから聖地の音楽隊の練習に向かいます」

「これからは教師と生徒の関係になるんだし、もう少し話をしないか?親睦を深めるためにも」

エントランスへ向かおうとした私をフローリア公爵様は通せんぼしてきた。


「残念ですが、フローリア先生の授業を取ることはありません。必要な授業数は既に昨年度でほぼ修得しておりますので、今年の出席は最低限になります」

試験やレポートが物凄く大変だったけど頑張ったの!ラーシュ様にも勉強をみてもらえてたくさん協力してもらったわ。

「なるほど、音楽隊の活動に専念するためか……」

フローリア先生は感心したようにも残念なようにも見えた。



「遅いと思って来てみれば」

フローリア先生の後ろから声がした。ラーシュ様が廊下を歩いてくる。

「迎えに来たよ、リファーナ」

「ラーシュ様!」

私はフローリア先生の横を通り抜けてラーシュ様に駆け寄った。

「ありがとうございます。でもヒースコートさんが迎えに来てくださるのだと思ってました」


私は結局スモールウッド学園の寮を引き払ってグラソン家の別邸にずっとお世話になることになったの。費用を払いますって言ったら、ラーシュ様に怒られてしまった。一応私もお給料はいただいてるんだけど、お言葉に甘えることにしたの。だから、授業のある時はヒースコートさんに送り迎えをしてもらえることになった。と言っても二年生の時に頑張ったから、週に一度だけなの。


「なんだか、妙な胸騒ぎがしてね。急遽僕も一緒に来ることにしたんだ。まさか、こんなことになってるとはね……」

ラーシュ様はフローリア先生を冷たく見据えた。

「君は卒業生だろう?関係者以外は立ち入り禁止だよ?あ、ちなみに私はここの教師だからね?」

フローリア先生がにっこりと微笑むと、遠巻きで見ていた女子生徒達から黄色い声があがった。先生だとわかると、女の子達に取り囲まれてしまった。

「参ったな……」

頭をかきながら、質問に答え始めたの。


「今のうちに行こう」

「あ、はい!」

ラーシュ様と私は急いで馬車に乗り込んだ。

「まったく……、こんな手でくるなんて油断も隙も無いな」

馬車に揺られながら、ラーシュ様は腕を組んで考え込んでる。

「仕方ないな、少し手段を講じよう」

「ご迷惑をおかけします……」

「ああ!ごめん。リファーナのせいじゃないよ。そんな顔しないで」

ラーシュ様は私の頬に口付けた。

「ラ、ラーシュ様っ……!」

「そろそろ、慣れてよ。まあ、真っ赤なリファーナも可愛いからいいけどね」

「慣れるなんて無理です」

私がそう言うとラーシュ様は楽しそうに笑った。



それにしても公爵様ってそんなに暇なのかしら……?それに引きこもってたって聞いていたけど、こんな所に来て大丈夫なの?前の時はただ優しくて穏やかな方という印象だったのに、人ってわからないものなのね。








ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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