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精霊の歌姫  作者: ゆきあさ


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真白き精霊

来ていただいてありがとうございます!




「リファーナさん、今日も届いているわよ」

「……そうですか。ありがとうございます……」

聖地の音楽隊の事務員さんから花束を受け取ってため息をついた。


あれから、学園の寮や聖地の音楽隊の練習場にお花が届けられるようになったの。送り主はフローリア公爵様。あまりにも多すぎるので受け取りを拒否するようにした。そうしたら今度は差し入れを持って練習場へ現れるようになってしまった。


支援者様だから、隊長さんも困惑しながらも強くは断れないみたい。ラーシュ様は今、聖地の音楽隊の入隊受験に向けて猛練習中だから、聖地の音楽隊の練習には来られない。ここは私がはっきり言わないと!


「こんなに頻繁にいらっしゃられては練習に集中できません。支援者様の見学の機会はきちんと設けられておりますので、ルールをお守りいただきたいのです」

応接室でフローリア公爵に苦情を入れたの。もちろんドアは開けたまま。

「君が花を受け取ってくれなくなってしまったから、私の気持ちを伝えられなくなってしまったんだよ」

悲しそうにため息をつく公爵様。流されたりはしませんよ。

「お花をいただけるのはありがたいですが、毎日大量のお花をいただいても飾る場所がありません」

「君に好かれたいからね。グラソン殿がいないうちに距離を縮めておきたいんだ」

にっこりと笑うフローリア公爵様には悪気が無いみたい。ラーシュ様がクラヴィーアの練習で忙しいこともご存じなのね。一体どうやって情報を得てるのかしら。


「フローリア公爵様にはアグネータお姉様という婚約者がいらっしゃいますよね」

「私の事はセドリックと呼んで欲しいな。アグネータ嬢のことは、前にも話した通りだよ?」

公爵様は全く悪びれる様子がない。

「でしたらどうしてお姉様と婚約をなさったのですか?」

精霊の歌姫が好きなのはわかったけれど、どうしてお姉様を選んだの?お父様から聞かされたけど、婚約は公爵様からの申し入れだった。


「私はどんな女性も妻として愛するつもりが無かった。だから()()()()女性の方が都合が良かったんだよ」

「ああいう女性……」

公爵様は何を仰りたいのかしら。

「私が何も調べもせずに婚約を申し込んだと思うかな?例えば婚約破棄の理由とか……」

この方はお姉様が本当は婚約破棄されるようなことをしていたのを知っているのね。


「でもね。そんなことはどうでもいいんだ。私が欲しかったのは見せかけの妻だけだ。金と自由を与えておけばアグネータ嬢は満足してくれる。こんな私の妻にアグネータ嬢はうってつけだろう?」

ああ、そうか。この方が前の時に私に婚約を申し込んだのもたぶん同じようなことだったんだわ。私はラーシュ様との婚約を解消されたばかりだったし、性格的に言うことを聞かせやすいって思われてたのね、きっと。


「ただ、大誤算だったよ。君がこんなに早く精霊の歌姫に選ばれるなんてね。もう少し早く君に出会えていたら……」

切なげに見つめられても、私は動揺しなかった。

「どんなに早く出会えたとしても何も変わりません」

だってこの方が好きなのは「私」じゃないから。前の時も今も。それを知っているから。


前の時、この方は私にとても優しかった。だから私は勘違いして有頂天になったの。この方は私を愛してくれるかもしれないって。そうでなくても私の話を聞いて、私の事を理解してくれる人なのかもしれないって思ってしまったの。でもそれは違った。この方は自分の思いを貫くために優しさを差し出してくれたに過ぎない。お姉様にお金と自由を差し出してる今のように。うん。勘違いした私が悪いわよね。でもあの時はどうしてもそれが欲しくて縋り付いてしまった。


でも今はわかる。本当に優しいのは全然優しく見えない、厳しいラーシュ様だった。ラーシュ様は真剣な人には真剣に答えてくれる人だもの。前の私にはそれがなかった。だからラーシュ様は私に関心を持たなかった。私もすぐに諦めてしまった。


「私は精霊の歌姫ではない私とずっと向き合ってくださっていたラーシュ様をお慕いしております。その気持ちがあるから今の私があります。ですから公爵様のお気持ちには答えられません」

「…………高潔な女性だ。尚の事欲しいな……」

満足そうに笑う公爵様が怖い……。何度何を言っても分かってもらえないのかしら。でもそうはならなかった。

「……しかし、精霊の歌姫の邪魔をするのは本意じゃない。君が迷惑だと言うのなら、今は引こう」

笑顔を崩すことなく、フローリア公爵様は応接室を出ていった。そしてこの後からは私の周囲に現れることはほとんど無くなり、ホッと胸をなでおろしていたの。








季節は冬本番を迎え、今日は聖地の音楽隊の入隊試験の日。


朝から小雪が舞うくもり空だった。私はどうしても出席の必要がある授業があって、朝から試験会場へは行けなかった。私は精霊の歌姫様、エミリア様の代わりに試験の未届け人になるべく、授業後急いで花の聖地の街へ向かったの。

「もう筆記試験はとっくに終わってしまったわね」

「お急ぎください、リファーナ様」

「はい。送って下さってありがとうございます、ヒースコートさん」

私はヒースコートさんにお礼を言うとすぐに音楽隊の建物に飛び込んだ。


「リファーナさん!急いで!今ちょうど歌の方の試験が終わったところよ。今年は受験者が多くてね、やっと楽器の方の試験に入れるわ」

事務員さんが実技の試験会場へ連れて行ってくれた。懐かしいわ。この部屋は試験の時にしか使われないから、あれ以来中に入ったことが無いの。


「遅くなってしまい、申し訳ありません!」

中に入ると私の試験の時とは違って、様々な楽器が置かれている。そして前は大きな窓に青空が見えていたけど今日はちらちらと雪が舞ってる灰色の空と湖。少しだけ不安な気持ちになった私が立ちすくんでいると、隊長さん達がにこにこと手招きしてくれた。

「いやいやいいよ!気にしないで!さあ、座った座った!今年は人数が多くて嬉しい悲鳴だよ。リファーナさんのおかげだな!」

人懐こそうな笑みを浮かべる隊長さんは頭をかいた。

「ただ、あまり成績は芳しくないわ」

副隊長さん(歌代表)が少し苦笑いしてる。

「ほら、次の受験者が入って来るよ」

副隊長さん(楽器代表)が人差し指を口の前に立てた。あ、次の受験者が入って来たわ。この人はどんな音を奏でるのかしら。とても楽しみ……!


立て続けに二人が不合格になった。演奏中、精霊様が現れなかったから。


……聖地の音楽隊の試験はいくつかのふるい落としがある。まずは受験に必要な推薦状を貰う事。この時にはお金の力を使って突破する人もいるみたい。次は筆記試験。一般教養の問題だけど、ここで落ちる人も一定数いるんですって。そして三つ目は実技試験の技術。これは見届け人の私達が行う試験。推薦状に相応しい実力を持っているかをチェックするの。実力が無ければこの時点で退出になってしまう。そして最終にして、一番重要な試験は精霊様に気に入ってもらえること。精霊様の数は関係なくて、一体でも精霊様が受験者の演奏を気に入れば、その時点で合格になるの。


「うーん、今回は調子が悪いなぁ……」

隊長さんをはじめ見届け人の人達がため息をついた。私も少し沈んだ気持ちになってしまう。不合格を言い渡すのは見ていても辛い。そして次の人の番になった。部屋へ入って来たのは、ラーシュ様だ!!


「よろしくお願いします」

ラーシュ様はそう言うとクラヴィーアの前に座った。

「始めて下さい」

副隊長さんが声をかけると、ラーシュ様は頷いて静かに奏で始める。ああ、ラーシュ様の張りつめたような音は今演奏してる氷の精霊様を讃える曲にとても合ってる。なんて繊細な音なんだろう。聞き惚れていると、精霊様の光が、一つまた一つとどんどん集まって来た。


「合格だわ!」

胸の前で手を組み、小さな声でつい呟いてしまった。隊長さん達、他の見届け人の人達も嬉しそうに笑ってる。そうしてるうちにも演奏は続き、やがて精霊様達ラーシュ様の周りいっぱいに……え、ええ?!



突然真っ白な光が部屋の中を満たした。


ラーシュ様の演奏に合わせてその光が強まり、白い光の人の形をとった。これ、私の時と同じだわ……!



『まばゆき旋律……心地よいな……』


雪のような真っ白な髪の長い女の人だった。とっても綺麗……。


『…………守る……』


ラーシュ様に近づいて耳元でなにかをささやいたみたい?それからその真っ白な精霊様は私の方を見て微笑み、そして消えて行った。たぶんだけど「また歌を聞かせて」って言われた気がする。



「…………」

しばらくの間沈黙が続いた。



「精霊の奏者……か」

隊長さんが立ち上がり茫然として呟いた。

「グラソン様!凄いわ!」

「最近はどうなってるんだ?」

「久しく奏者は出てないのに!」

「素晴らしいことだ!」

それぞれに驚きや喜びを口にする見届け人の皆さん。

「また出たぞ!」

って言ってる人もいて、精霊様に対してその言い方はどうなの?ってちょっと思っちゃった。


「…………」

ラーシュ様が戸惑ってるみたい。クラヴィーアの前で立ったまま。あれ?何だか様子がおかしいわ。私は慌てて駆け寄った。

「ラーシュ様?大丈夫ですか?お顔が真っ青です!寒いですか?」

「スティーリア伯爵令嬢……リファーナ……?」

「ラーシュ様?」

なんだか酷く驚いてるみたい。

「リファーナ……!」

強く抱きしめられて驚いてしまった。こ、公衆の面前ですよっ?


……ラーシュ様、ふるえてる?

「……ごめん。何でもない。大丈夫だ」

「本当ですか?まだ顔色が良くないです」

「ごめん。本当にごめん。でも僕は……本当に……」

見届け人の皆さんが大喜びしている間、ラーシュ様は私を抱きしめたまま静かに立ちすくんでいた。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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