本性
来ていただいてありがとうございます!
国王様との謁見は国王様の執務室で行われたの。
グラソン侯爵様、音楽隊の隊長さん、そしてラーシュ様が付き添ってくださった。
「綺麗なドレス……」
「精霊の歌姫様にお似合いになりますよ」
いきなり着替えるように言われてとても驚いた。この日のためにって王宮で用意してくれた衣装に着替えさせてもらったんだけど、物凄く高価だと一目でわかる宝石のついたアクセサリーまで用意されてた。いつものようなふわっとしたドレスじゃなくて、体の線に沿ったラインの真っ白なドレス。裾は長くて幾重にも布が重ねられているけれどそこまで重くない。無色の宝石が花の模様に散りばめられていて歩くたびに光を受けて控えめに光っててとても綺麗。精霊様達が興味深そうにドレスの光を眺めてる。
ドレスもアクセサリーも私には分不相応な気がする……。こんな立派なお城も場違いだわ。うう、早く帰りたいわ。
「…………」
「ラーシュ様?」
着替えが終わって、三人が控室まで迎えに来てくれたんだけどラーシュ様はしばらく無言だった。やっぱりこんな大人っぽいドレスは似合わないかしら……。アクセサリーも……。
「おやおや、我が息子は婚約者殿に見惚れて言葉もないようだね」
グラソン侯爵様はラーシュ様をからかうように笑った。
「っ父上!……リファーナ!とても綺麗だ!良く似合ってる」
前のめりで言われてちょっと驚いたけれど、ラーシュ様に褒めてもらえて嬉しかった。
「ありがとうございます。ラーシュ様」
首をかしげるとベールについた小さな飾りが打ち合ってサラサラと澄んだ音を立てた。
装飾の多い、重厚な扉の向こうにいらした国王様と王妃様はとても優しそうな方々だった。
「この度は新たな精霊の歌姫の誕生、おめでとう。これからも精霊様の為、王国の為良き歌を歌ってもらいたい」
静かな威厳のあるお声でそんなお言葉を頂いたの。
「はい。これからも日々精進してまいります」
緊張したけど、グラソン侯爵様や隊長さん、ラーシュ様がいてくれたから何とか乗り切れたわ。マナーの勉強って大事だって思い知らされたわ。
国王様との謁見は無事に終わったんだけど、次は夕方からの舞踏会。また別のドレスが準備されていて、支度が大変だった……。できれば本当に早く帰りたい。
「わ、広い……。人がいっぱい……」
「そうか、リファーナは王宮は初めてだったね」
「ラーシュ様は来たことがあるんですか?」
「父の仕事について何度か」
「そうだったんですね」
お城の大広間は本当に広くて、とても煌びやかだった。着飾った人達に美味しそうなお料理やお菓子。食べたいけど、そうもいかないみたい。国王様と王妃様、そして他の王族様達のいる高座のすぐ真下に席が設けられていて、しばらく動くことができなかった。だって次々と挨拶に来る人達がいるから。ラーシュ様が隣にいてくれることだけが救いだったわ。誰が誰だか全然分からないの。
「リファーナ、僕達はまだ学生だからもうすぐ退席を許されると思う。あと少しだから頑張って」
「はい」
ラーシュ様の言葉に心底ホッとしちゃった。今までご挨拶した人達の事ほとんど覚えられてないわ。なんだか見世物になりに来たみたい。
そろそろ限界かも。そう思っていたらフローリア公爵様とアグネータお姉様が私達の所へやって来たの。
「やあ、未来の妹君。僕らは前にも会っているから今夜はいいかなと思ってたんだけど、人波が途切れたから来てしまったよ」
フローリア公爵様は私を見て、アグネータお姉様に話しかけた。
「精霊の歌姫様は少しお疲れのようだ。化粧室に連れて行ってあげてくれる?」
「ええ、もちろん良くってよ」
アグネータお姉様はフローリア公爵様に微笑みかけると私の手を掴んで大広間から連れ出した。
「お姉様、どこへ?」
「もう!みっともないわね。お化粧が崩れてきてるわ。こういう時は暇を見てお化粧室で直してもらうのよ!」
「そうなんですか?」
ドレスを着せてもらう時にそんなようなことを言われたような気もするけど、よく覚えてないわ。
「貴女がそんなだと私やセドリック様が恥をかくでしょ!」
アグネータお姉様はそう言って私をある部屋の中へ突き飛ばすように押し入れた。ちょっと痛い……。
お城にはお化粧直し専門の使用人の方がいて、私のお化粧を直してくれた。直すと言ってもちょっと汗を拭いてもらっておしろいをはたいてもらっただけ。そんなに崩れてなかったみたい……?
「えっと、どっちから来たっけ?」
はい。迷いました。だってお姉様についていっただけなんだもの。お姉様いなくなっちゃうし。初めてのお城だし。それにちょっとお手洗いにも行きたくて探してたら迷っちゃった。とりあえず人の声がする方へ行けば大丈夫のはずよね。
歩き出した私の前に立ちふさがった人がいる。
「フローリア公爵様……?良かった。大広間はこっちでいいんですよね。私迷ってしまって」
良かった。公爵様が来たってことは方向、こっちで合ってるわよね。
「精霊の歌姫……美しい……」
ん?何だか公爵様の様子が変みたい?もしかして酔ってる?微妙に焦点が合ってないような……。何だか嫌な感じがする。それにしてもこの辺りってどうしてこんなに静かなの?さっきから人の姿が無いの。
フローリア公爵様はやっぱり酔ってるのかもしれないわ。だってとんでもないことを言い始めたんだもの。
「私はね、アグネータ嬢を愛するつもりは無いんだよ」
もしかしたら、って思ってた。だって前の時もそうだったもの。たぶん今回もそうなんだろうって。
『お友達と出かけるのも自由にしていい』
お姉様はそうフローリア公爵様に言われていた。お姉様のお友達って男の人もいるわよね。つまりフローリア公爵様はお姉様が誰と会おうとも気にしないってことよね?
「貴族同士の結婚に愛情が優先されないことが多いとは理解しております。ですがどうしてそれを私に仰るのでしょうか?」
そうよね。お姉様に言うのならわかるけど、どうして私にこんなことを言うの?私、今回は関係無いわよね?訳が分からなくて戸惑っていると、いきなり腕をひかれて大きな柱の陰に引っ張り込まれた。そのまま抱き締められて、耳元で囁かれる。
「私には他に愛する人がいるんだよ」
全身が総毛立った。
「嫌っ!!」
渾身の力を込めてフローリア公爵を突き飛ばした。ううん、突き飛ばそうとしたんだけど、相手の力が強くて駄目だった。わずかに距離が開いただけ。でも、精霊様達がフローリア公爵様の目に向かって飛んでいき、ひるんだ隙になんとか大きく離れることができたの。
「その反応……、君は清らかなまま……?そうなんだね。安心したよ。このまま永遠に精霊の為だけの歌姫であってほしいな」
夢見るようにうっとりと微笑むこの人が不気味に見える。っていうか気持ち悪い。
「私は『精霊の歌姫』に恋をしている。君は私の理想そのものだ。君を大切にしてくれた彼には感謝したいところだけれど、彼、ラーシュ=オーラ・グラソンはちょっと邪魔だな」
うーん、と困ったような顔で腕を組んでるフローリア公爵様。
この人おかしいわ。ちょっと理解できない。私は少しずつ後退りした。
その時、向こうの方から名前を呼ばれたの!来てくれたんだ。心底安堵した……。
「リファーナっ!!」
「ラーシュ様!」
私はラーシュ様の腕の中に飛び込んだ。
「リファーナ、大丈夫?」
「はい。精霊様達が守ってくれましたから」
「っ!!フローリア公爵殿!貴方は一体何を……!!」
ラーシュ様はフローリア公爵様を睨みつけた。
「リファーナ嬢、私の元へ来る気はない?」
公爵様はラーシュ様を無視して私に問いかけてくる。
「以前にもお伝えしましたが、私はラーシュ様がいなかったら今この場にはいません。この先の未来もラーシュ様と二人で生きていきたいと思っております」
私の言葉に呼応するように、精霊様達の数がどんどん増えていく。
「そうか……。残念だな。私なら君を綺麗なまま守れるのに」
公爵様は私の周囲の精霊様達を見ながらため息をついた。
「そもそも貴方はアグネータ嬢の婚約者でしょう?不誠実すぎませんか?」
ラーシュ様は私を庇うように抱きしめてくれた。
「不誠実ね。でもそれはお互い様だからね」
「え?」
「今頃、君の姉君は私以外の男と楽しい時間を過ごしているよ?」
「そんな……」
お姉様……まさかまたクレソニア様の時と同じことを……?
「ああ、いいね。その嫌悪の表情。君が一途な証拠だ。ますます素晴らしい!」
「リファーナは僕の婚約者です。これ以上彼女を怖がらせることは許さない!」
あ、私の手ふるえてる。私、この人が怖い。だってその金色の瞳に狂気が見えるもの。
「怖がらせている……?そんな!とんでもない!私は『精霊の歌姫』の心棒者なのだから。大丈夫だよ。精霊の歌姫様にゆっくりと私を好きになっていただこう」
怖すぎて言葉が出ない……。この人ってこんな人だったの?前の時は優しい人だったのに……。これはちょっと知りたくなかったわ。
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