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約束の

来ていただいてありがとうございます!




ショーケースに並んだたくさんのケーキ達。宝石みたいにキラキラしてる。棚に並んだかごの中には焼き菓子や飴菓子、他にも色々な種類のお菓子がいっぱい。何?ここが天国なの?!


「考えてることが目に見えるようだね、天使さん。幸せそうで何よりだ」

ラーシュ様に呆れられてしまってる……。でもお店の中を見て回るのが楽しすぎる!わあ、あれ何が入ったお菓子だろう?!


選抜チームの練習はスモールウッド学園の夏休みの間ほぼ毎日ある。それでも前半と後半の間の十日間程はお休みを貰えるの。まあ、私はラーシュ様と一緒にほぼ毎日歌の練習と勉強をしてるけど。今日は約束通りに王都のお菓子店に連れてきてもらったの。楽しみにしてたから嬉しい。


王都にあるお店だからもっと煌びやかな所かと思ってたけど、素朴で飾り気のない店内で安心できる雰囲気だった。人気店で女の子のお客さん達がたくさんいて、数少ない男性のお客様のラーシュ様はかなり目立ってる。中にはお菓子よりラーシュ様をぽーっと見つめてる女の人もいるの。ラーシュ様、最近は更にかっこよくなってきてるから当然かも。私が釣り合ってないのは良く分かってるから、隣にいる私を見てため息つくのは止めて欲しい……。


「好きなのを好きなだけ選ぶといい。支払いは僕がするから」

「そんな、大丈夫です!私も歌唱料を頂きましたし!」

そうなの!実はこの前の演奏会は初収入になったの!正規隊員じゃないから、満額ではないけれどこの前の状況を鑑みてそれに近い金額がもらえたの。週に一度の演奏会は無料。募金だけで料金は頂かないんだけど、その分お金に余裕のある人はたくさん募金してくれるみたいで、聖地の音楽隊には結構な額が入るんですって。


自分で稼いだお金で何かを購入できるなんて誇らしいわ。貴族の娘としてはあり得ないのかもしれないけど、聖地の音楽隊は聖職者に近いからお父様達からは何も言ってこない。自立への第一歩ね。



このお店はトレーの上に好きなお菓子を選んでのせていくスタイル。会計をする場所では老齢のご婦人方が店員さんとして働いてらっしゃって、素早い暗算で会計をしてくれるの。全ての商品の名前と値段を覚えてるなんて凄い!


感心してて油断しちゃってたわ。


「婚約者としての僕の面子を考えてもらえる?はい、それ貸してね」

「あ」

買おうと思ってたお菓子をのせたトレーを奪われた……。ラーシュ様はそのトレーに更にお菓子をひょいひょいとのせて会計を済ませてしまったの。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます……」

ああ、結局支払ってもらっちゃった。


実はまだラーシュ様の顔がちゃんと見れない。可愛くラッピングされたお菓子(何故かラッピングは若い女性店員さんがしてくれた)を受け取りながら、私はラーシュ様から目を逸らしてしまう。



「…………はぁ」

ラーシュ様がため息をついた。

「ちょっと歩こうか」

手を繋いで近くの公園まで行き、森の中を歩いた。

「ごめん。謝るよ。そんなに嫌ならもうしないから、そんなに避けないで欲しい」

静かな森の中、手を繋いだまま立ち止まってラーシュ様は私を見た。


「……嫌とかではなく、その、ちょっと恥ずかしいだけです」

嫌なはずない。嫌だって思えない。

「怒ってない?」

「はい。でも……」

これを言うのはかなり辛いけれど、でもちゃんと言わなくちゃ。

「この先ラーシュ様の前に本当に結婚したい方が現れるかもしれません。もしそうなったらラーシュ様はきっと後悔なさいます。それにその方に悪いです。だから…………」

前と随分状況は変わってる。でも同じことが起こらないとは限らない。現にクレソニア様の前にはマーガレット様が現れたんだから。


「リファーナは……」

「え?」

ラーシュ様の声が震えてる。

「リファーナは僕が婚約者以外の女性に目を向けるような人間だと思ってるの?」

「それは……」

そうよね、今のこの時点では、まだラーシュ様はアグネータお姉様の事を好きじゃないのかもしれない。でも好きになっちゃったら?からかい半分でしたことを後悔すると思うの。

「婚約者じゃなくても好きになってしまったらどうしようもないと思います」

私がそうだもの。未来が無いのに好きになってしまったから、今苦しいし、胸が痛い。そう、私が辛いんだわ。これは私の我儘ね。


「恋人同士とか夫婦とかじゃないと、ああいうのは良くないと思うんです」

「…………そう、だね」

ラーシュ様が笑った。酷く傷付いているような、とても悲しそうな笑顔だった。どうして?ラーシュ様のその笑顔から目が離せない。

「わかった。結婚までは節度を守るよ……」

ほっとして、同時に悲しくなった。結婚する日なんてたぶん来ないのに。


「そろそろ帰ろうか」

帰りの馬車の中でもラーシュ様の手は私の手を強く握りしめたままだったけど、ラーシュ様はそれきり私の方を見なかった。会話も無くて、出会った頃に戻ったみたい。仕方ない……よね。









「おかえりなさい!二人ともっ!」

グラソン侯爵邸に戻ると、ラーシュ様のお母様が出迎えてくれた。

「母上?今日お戻りとは聞いておりませんが」

ラーシュ様が驚いてる。私も驚いたわ。グラソン侯爵夫人とは夏休みの開始直後に聖地の街の別邸でお会いしたの。そのあと夫人は長期旅行にでかけられていたのに。

「同行していたお友達が急遽、旅行を切り上げることになったの。だから私も二人に会いたくて帰ってきちゃったわ」

グラソン侯爵夫人は可愛らしく片目を瞑ってから少女のように笑った。



「ラーシュと何かあったの?」

着替えを済ませて広々とした居間へ行くと夫人が待っていた。っていうか夫人が待ってるから急いで着替えて下りてきたんだ。開口一番にそう尋ねてこられた。興味津々でラーシュ様と同じ色の瞳をキラキラさせてる。

「えっと、今日は王都のお菓子店に連れて行って頂いて、お菓子をたくさん買っていただきました」

「…………うーん、もうっ!そうじゃなくてね?ラーシュったら本当に珍しく落ち込んでたわ!今日は部屋で休むんですって」

「そうでしたか?」

私があんな事を言ってしまったから、気分を害してしまっただけだと思うけれど……。

「まあ、あの子がデートだなんてそれだけで夏に雪が降るくらいの驚きイベントだけれどもね!」

え?そんなレベルの珍事なの?夫人は私にお茶を勧めてくれた。シュネーのお茶だわ。いい香り。

「ありがとうございます。いただきます」


「どうせあの子が貴女に不埒な行いをして怒られでもしたのでしょうけど」

お茶、ふきそうになりました。

「なっ……」

「あ、やっぱり?そうなのね?あの子も普通に男の子よねぇ」

呆れたようにお茶を飲むグラソン侯爵夫人……。この方何者なの?そういえばラーシュ様も先回りして会話をしてた事があったような気がするわ。恐ろしく勘がいいか、凄まじく頭がいいか、そのどちらもを兼ね備えてる一族なのかも……。

「むっつりスケベって言うのかしら?」

ご自分の愛息子に酷すぎでは……?


「ラーシュはねぇ、小さい頃から自分に厳しかったの。昔は私と一緒に歌を歌ってたんだけど、早々に見切りをつけてクラヴィーアを練習するようになったの」

「ラーシュ様は歌の方がお好きだったんでしょうか?」

「同じくらいだと思うけれど、才能が無いって思ってしまったみたい。楽しく歌えばいいと思うのだけれどね」

「ラーシュ様はご自分にも厳しいですものね」


「リファーナさん!ほんっとうにごめんなさいねぇ!」

突然、がばっと侯爵夫人が身を乗り出してきたので物凄く驚いたわ。

「あ、あの?どうかなさいましたか?謝罪をしていただく理由がありませんわ、グラソン侯爵夫人」

「あら、私のことはセシリアと呼んでくださいって言ってるのに……お義母様でもいいのよ?」

「はい、申し訳ありません、セシリア様」

流石にお義母様は無理だわ。とても呼べない。


「ラーシュは貴女にも厳しくしたのでしょう?」

「…………はい」

「ああ、その間が物語っているわね。ごめんなさい。でもそれだけリファーナさんを気に入ってるってことのなのよ。許してやってね?」

気に入ってる?ラーシュ様が私を?

「あの子は才能が有って努力している人が好きなのよ」

「私に才能……ですか?」

「まあ、無自覚なの?可愛らしいわね。貴女には歌の才能があるわ」

努力はしてきたと思う。ラーシュ様のおかげで真っ直ぐに努力できたと思ってる。でも才能はどうかしら。お姉様と比べると全然な気がするの。


「ラーシュは不器用だけどいい子だと思うから、仲良くしてあげてね」

「はい。勿論です。私、ラーシュ様は厳しいけれど、とてもお優しい方だと思ってます。私には勿体ないくらいの方です」

たくさん教えてもらったし、何度も庇ってもらったもの。……大好き。

「まあ!ありがとう!わかってくれる人がいて嬉しいわ!これからもラーシュをよろしくね!」

「はい」



たぶん冬までの間になってしまうけれど……。私は心の中で付け加えた。














ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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