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-evening rain-  作者: 輝戸
ステージ1.5

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19話 golden week2

19話


「あぁ……疲れた」


 ため息混じりに呟いた視線の先には暁姉妹と雨乃が楽しそうに服を選んでいた。俺は店の外のベンチに背中を預けてただぼんやりと時間を潰す。

 結局、遊びに行こうと誘われても学生の身分では車も無けりゃ金もない、必然的に学生らしい場所が選ばれる。

 俺達の街から少し離れた超大型ショッピングモール、服に飯屋に映画館、スマホの修理屋やら何やらが実に雑多に詰め込まれる最近出来た話題の施設だ。

 そして必然的に男女比1:3の構図では男のヒエラルキーは最下層に、彼女達の行きたいところを着いて回る自立型荷物持ちが本日の俺の役回りである。


 雨乃も幼なじみと茜さんくらいしかマトモな同性の交友関係を持たず、尚且つ暁姉妹も今日に至るまで姉妹以外の関係性を拒絶していたものだから余程楽しいのか到着してからはしゃぎっぱなし……女が三人集まればなんとやらだが、特に普段抑圧されていた分その反動は激しかった。

 当然、俺がそんなキャピキャピ空間に馴染める訳もなく、人の多さも相まって早々にグロッキー。こんなことなら無理やり瑛人でも拉致ってくるべきだった。


「夕陽ー、次行くわよ」

「へいへい、お姫様の仰せのままに」

「あっ、いいな、あー先輩! ゆー先輩、私もお姫様扱いを所望します!」

「私も私も!」

「勘弁してくれ、好きにしてくれ、解放してくれ」

「駄目よ、誰が荷物持ちすんの」

「雨乃さん? 俺の人権どこいったの?」

「私が持ってる」

「俺の人権は俺のもんだろうがよ!」


 こ、この女! 真顔でとんでもねぇこと口走りやがったぞ今。この雨乃を校内で密かに彼女を慕う男子共に見せつけてやりたい、そうして皆幻滅して次の恋に向かうがいい!

 雨乃の隣は俺のものだ! あれ、気がつけば雨乃中心で世界が回ってる、やっぱ俺の人権って雨乃の物なのかもしれない。


「雨乃先輩、私も夕陽先輩の人権欲しいです」

「へいへい冬華ちゃん? 俺の人権はそんなチンコみてぇに取り外し出来ないんだけど」

「チンコって取り外しできるんですか!?」

「そうだよ知らなかった?」

「馬鹿三人、公衆の面前で幼稚な下ネタはやめなさい」

「え、あー先輩酷い……今私何も言ってないのに」

「同罪よ」

「暴君だ!?」


 この4人のヒエラルキーは雨乃が最上位で中間が暁姉妹、そして最下層が俺らしい。


「おーい、そろそろ買わねぇ服屋巡りはやめて飯食おうぜ飯。俺腹減っちまったよ」

「あっ、お二人共ご馳走しますよ。ね、冬」

「はい! お昼ご飯くらいこの前のお礼に奢らせてください!」

「だってよ雨乃さん、何食う? 焼肉」

「確か寿司屋もあったわよね」

「あー、あったあった回んないやつな」

「「無理です!」」

「冗談だよ」

「私はマジよ」


 などと言って暁姉妹をビビらせるイタズラ好きの雨乃さん。なんだか暁姉妹と居ると雨乃はいつもよりもお姉ちゃん味が強い。


「そりゃ手のかかる弟分がいるからね」

「おっ雨乃さんも紅星家の家系入り? 上に悪魔がいるけど大丈夫?」

「行きましょ、夏華冬華。知らない男が着いてきてる」

「待て、悪いのは姉共であって俺じゃないぞ!」


 幼なじみ5人衆はその全員が大なり小なり我が双子の魔王へのトラウマを抱えているが、両親同士が仲がいいだけあって俺と雨乃は他3人と比べ物にならない程のトラウマを植え付けられている。


「ゆー先輩のお姉さんも双子なんでしたっけ?」

「そうそう、俺そのせいで宗教上の理由で双子NGなの」

「ま、私達双子は別ですよね。可愛いから」

「解答は差し控えさせていただきます」

「ゆー先輩酷い! せめて可愛いの部分だけでも肯定して!」


 などといつもよりテンション高めな会話を繰り広げつつ、昼飯時を過ぎて比較的に人が減った飲食エリアを散策する。それでも多いことには変わらないが。


「暁姉妹は何が好きなの?」

「肉!」

「魚!」

「野菜以外!」

「今野太い声が混じってたし、好きなもん聞いてんのに嫌いなもん答えたバカが居たけど」


 シレッと暁姉妹入りを果たそうとしたがダメらしい、というか外食なんだし本気で野菜食いたくない。


「雨乃の気分は?」

「……なんか普段家で食べないもの?」

「なにそのアバウトな物……パクチーとか?」

「なんで夕陽先輩、パクチー1点狙いなんですか」

「いや、パッと思い浮かんだから」


 だって普通の家庭でパクチーとか食わねぇし。

 まぁこんだけ食いたいもんがバラバラなら各々好きに食えるフードコートがいいだろう。

 本来なら雨乃と俺で暁姉妹の分を奢るのが先輩としての正しい立ち振る舞いなのだが、前回の件の礼がしたいという彼女達の気持ちも無下にはできない。

 フードコートなら比較的に安めだし、暁姉妹の負担も少ないだろうしな。

 どうですか? 雨乃さん?


「そうね、それが無難ね」

「だろ?」

「うわまた出た、あー先輩とゆー先輩の会話を省いたコミュニケーション」

「いいなぁ……」

「ふはははは! 羨ましかろう、これが俺と雨乃の長年の愛の結晶だ!」

「誰この人」

「お前酷いね!?」


 相も変わらず俺への愛のムチが尖りすぎてて刃物のような鋭さになっている雨乃の軽口をいなしつつ、各々フードコートを散策することにした。

 うーん、何食おうか? 大抵の物は雨乃が作った方が美味いから、自ずと俺も雨乃が普段作らない物を食べたくなった。

 ハンバーガー……はこの前食ったな、暁姉妹の件の時に、吐いちまったけど。ラーメンも気分じゃねぇし、かと言って米の気分でもない。たこ焼き、たこ焼きでもいいな。

 そんなことをウンウン唸りながら考えていると、すれ違った男に見覚えがあった。


「あれ、月夜先輩?」


 思わず声をかけると振り返った月夜先輩は何故か黒髪。


「あ、なんで黒いの髪」


 あの男に兄弟が居たという話は聞いたことがないが、兄弟にしたって似すぎている、実は双子か? いや、ねぇな。


「……夕陽君じゃないか」


 月夜先輩は驚いたように俺の顔をまじまじと見たあとで照れくさそうに笑う。


「参ったな、まさかここで会うとは」

「ま、こんだけ人いたら知り合いの1人ぐれぇいんだろ」

「今日は? 1人かい?」

「あれ、話してなかったか? ほら、暁姉妹と雨乃と遊びに来てんだ。先輩も合流する?」

「おっ、いいねぇ……と言いたい所だけどこの後、人と会うからまた次の機会に」


 そういって爽やかに断る月夜先輩、髪色が違うくらいしか変わったところはないのだが……なんだこの胸に魚の骨がつっかえた時のような違和感は。


「なんで髪黒いの?」

「言ったろ? 人と会うんだよ、だからスプレーで染めてんのさ、シューッとね」

「へぇ……」


 なんだろうか、言ってはなんだが月夜先輩にしちゃ爽やかすぎる気がする。俺の知ってる月夜先輩ってのはなんつーかこう……もっと卑屈でねちっこい感じなのだ。


「おっと、雨乃ちゃんだ……そんじゃ僕はここらで失礼するよ夕陽君。雨乃ちゃんは僕のことが嫌いらしいから」

「へっ、いよいよ自分で言い出したな。時間ねぇなら今度でいいけどゴールデンウィーク中、空いてる日あるか?」

「……とりあえずまた連絡くれよ」

「あ? おう、まぁじゃあ連絡入れとくわ」

「頼んだ……それと、今日ここで僕とあったのは皆には内緒にしといてくれ。茜に知られると面倒くさい」

「なんだなんだ女に会うのか?」

「そうなんだよ、今度ラーメンでも奢るから見逃してくれ」


 なんだか爽やかに見えるのは女に会うためにカッコ付けてると見た……茜さんというものがありながら大した男である。浮気なんぞしたら命が幾つあっても足らんだろうに。


「じゃあね、また会おう」

「おーう、またな」


 珍しい黒髪の月夜先輩が去った後、背後からは雨乃が声をかけてきた。


「誰かと喋ってたの?」

「あ、おう……知り合いだ知り合い」


 月夜先輩の事をチクってやろうかと思ったが、雨乃は月夜先輩嫌いで茜さんを慕っているので間違いなく茜さんに報告するだろう。報告したが最後、我らが月夜先輩は世にも無惨な死体となって発見されること請け合いだ。ラーメンも奢ってくれるらしいし黙っておいてやろう。

 ま、これも雨乃が覗いてたらバレることなのだが……その場合は俺は喋ってないので知らない。


「ふーん、怪しい」

「何がだよ」

「女?」

「男」

「ふーん、怪しい」

「おっ、なんだなんだ? 嫉妬か?」

「ばーか、目を離すと厄介事に巻き込まれるからチェックよチェック」

「俺の心読んでもかまわないぜ、ほら読め!」

「いや、なんかキモいし。それにこんだけ人多いと夕陽の心だけ読もうとしてもノイズみたいに邪魔が入るのよね」

「キモイって酷いね、夕陽さん泣いちゃうよ」

「泣け」

「今日も俺の幼なじみは冷たくて可愛いねぇ」


 などと適当ほざきつつ、俺はたこ焼き屋の方に足を向けると後ろから雨乃が着いてくる。


「なに、なんで着いてくんの」

「たまたまよ、夕陽は何食べるの?」

「たこ焼きにしようかなって思って」

「なーんだ考えること一緒ね」

「ま、そりゃこんだけ一緒にいりゃ思考パターンも似てくるわな」

「やめてよ、私まで夕陽並の脳みそになったら我が家は終わるわ」


 それはそれで酷くないですかね……などと軽口を叩きつつ顔を見合せてお互い吹き出した。結局は案外似た者同士なのだろう。

 すると俺と雨乃の中からヌルッと冬華が生えてきた、お前その登場好きね。


「なんですかイチャついて、見せつけてます?」

「お、なんだ見てぇのか? なんならもっとすげぇの見せつけてやろうか」

「待って夕陽、今私びっくりして心臓バクバクってなってるからアンタの戯言拾えない」

「あー、ごめんなさい雨乃先輩! でもいい反応くれるからついつい……」

「謝ってるふうに見せて後半のセリフから反省の色が読めねぇな」


 多分この後輩はまたやる。

 暁姉妹は冬華の方がしっかりしているように見せかけて、その実どちらも基本属性は小悪魔なのだ。


「だって夏ってば偶に私がこうやって脅かすとチラッと私の方見て無視ですよ無視!」

「夏華ならもっと騒ぎそうなもんだが」

「夏ってば外ではあんなふうにはっちゃけてますけど、家では意外と静かなんですよね! ずっと少女漫……ッて痛いよぉ夏!」

「ふ〜ゆ〜! なんで余計なこと言うの」

「やめてよ、頬っぺ抓らないで! 私は夏の可愛い姿を知ってもらおうと!」


 この姉妹は本当に仲良いな。まぁずっと二人だけで居たんなら当然っちゃ当然か。


「なになに夏華後輩ってば家では意外と大人しくて少女趣味なの? いいんだよ、俺達の前でかしこまらなくて」

「そうよ夏華、私達は夏華が静かでも良いから」


 俺の軽口にここぞとばかりに雨乃が乗っかる、夏華は顔を真っ赤にして「先輩達なんて嫌いだぁぁー!」とフードコートの奥に走り去っていった、冬華が笑いながらその後を追っていく。


「意外と可愛いところあるな夏華も」

「私の後輩達は可愛いのよ。夕陽はどれにする?」

「サラッと自分のモンにしたねお前。俺チーズのやつ、ジュースはコーラで」

「ネギは多めでしょ」

「頼むわ。席取りしとく」

「りょーかい」


 適当に空いてる席を見つけて腰掛けて暁姉妹に連絡すると泣きべそかいた夏華と楽しげな冬華が番号札を持って席の方にやってきた。


「どったの泣きべそかいちゃって」

「ゆー先輩のせいです!」

「うける。お前ら何にしたの?」

「私は海鮮丼にしました、夏はステーキ」

「私の泣きべそはもう過去の話題ですか、そうですか」

「まぁまぁ、いいじゃねぇーか家の中で静かだって。雨乃さんもあんなツンケンしてっけど二人の時は意外と甘えッッッ!」


 言いかけて後頭部に衝撃が走る。チラリと後方に目をやれば今にも俺を殺さんばかりの表情で雨乃が立っていた。


「ごめーん、手が滑った」


 激しい棒読みであった。


「違う、今のは悪意のある攻撃だ」

「それ以上喋るとアンタのご飯しばらく茹でたブロッコリーだけね」

「はっ! ここはどこだ!? 俺は今何を言っていたんだ!?」

「いい子だね夕陽」


 目の前の暁姉妹は雨乃の恐怖政治を目の当たりにして二人で身を寄せあって震えていた。

 いいのか雨乃、お前確実に恐れられてるぞ。

 

 

 

 

 

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