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-evening rain-  作者: 輝戸
ステージ1.5

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20話 golden week3

20話


 現在時刻は15時を過ぎたあたり、俺と言えば昼飯を食えども相変わらずのグロッキーには変わりないのだが……先程とは打って変わって1人きりなので時間を自由に使えるという点では先程よりも幾分かマシである。

 ちなみに1人になった理由は女性陣が男の子に秘密の買い物に洒落こんだからだ、雨乃曰く「察せ」とのお達しである。なんだろう? お花でも買うのかしら。

 そういやガキの頃女の子だけの授業あったよな、あれは未だに永遠の謎である。


「どーすっかねぇ」


 俺のポケットには1000円札が三枚ほど。俺の財布は基本的に雨乃管理なので実質的に雨乃さんからのお小遣いという事になる。

 やったねこの歳でヒモだよ、先行き不安だなぁ。

 ちなみに俺にお金を渡す雨乃とそれに喜ぶ俺を見て暁姉妹はドン引きしていた。仕方がないだろう、俺が財布持つと気がついたら金が消えてんだから。


 といっても3000円じゃ何ができるかという話だ、ゲーセンに行くのも1人じゃ些か寂しいし、ゲームでも買おうかとも思ったが3000円じゃ中古ソフトが関の山だ。

 育ち盛りの胃袋はたこ焼きだけじゃ埋まらなかったので、結局コーヒーでも飲みながら甘いもんでも食って時間を潰す運びとなった。

 

 選ばれたのはチェーンのドーナツ屋、ここなら安くで腹に溜まるのでちょうどいい。

 だが俺にしては珍しく店のチョイスを間違えてしまった、15時のおやつタイムなので他にもお客さんがずらりと並んでいる、並びすぎて少し店外まではみ出る始末である。まぁでも1回並んじまったしなぁ、今更動くのもなぁなんてウダウダと考えながらノロノロと列を歩き、ようやくドーナツが並べられたショーケース前まで辿り着く。

 

 何食おうかな……チョコ系は外せんな、あと新発売という言葉にグラついてイチゴのドーナッツ。あとは雨乃お気に入りのモチモチドーナツもチョイス、本当はあと2つくらい食えるが夜飯の事を考えて3個くらいでセーブすることにした。

 

 ドーナツを選び終えたところで不自然なまでに列が進まなくなる。

 列から少しはみ出して顔を出せば、レジの方では何やら若い女が半べそかきながら手持ちのポーチやらポケットやらをまさぐっていた。大方、財布でも見当たらないのだろう、彼女の後ろに並ぶコワモテの男性がイラついたような素振りで圧をかけている。


「……おい、嘘だろ」


 列が進まないのも問題だが、俺の呟きの原因はレジの前で泣きべそかく女。

 慌てまくってパーカーのフードが外れ、出てきた髪色は白と黒のツートンカラー。情けなく泣きべそかく顔は見間違えるはずも無い……昨日俺に襲撃をかけてきた旭、その人である。


「はぁ……ったく!」


 俺は列から大きく飛び出して並ぶ人々をごぼう抜き、圧をかけるコワモテのお兄さんと旭の間に割り込んで自分のトレイを旭のトレイの隣に置いた。


「連れです、これも合わせて幾らですか?」

「へ……!? ゆ、夕陽さん!?」


 店員さんは慣れた手つきでレジを打ち、更新された金額は2000円と少し。


「あ、あとコーヒーも1つ」


 ・・・


「そ、そのぉ……この度はお見苦しい所をお見せして」

「全くだ」

「ありがとうございました、恩に着るっす」

「おう、重ね着しとけ」


 締まらないにも程がある、昨日あんだけ黒幕感出した登場しときながら翌日にはドーナツ代払えなくて泣きべそかくとか……ほんともうやめて欲しい、なんかこっちまで恥ずかしくなってくる。昨日ちょっとカッコつけて南雲に連絡しちゃったよ俺、どうしてくれんだマジで。


「財布預けてたの忘れてて、後ろでは怖い人が睨んでくるし、今更やっぱいいですとは言えなくて……」


 あー、分かる分かる。テンパるよね、でもね旭? その怖い人を指さして大声で喋るのやめようか、背中にすんげぇ圧感じてるんだけど。


「んで、なんでいんの」

「なんでってそりゃドーナツ食べに」

「昨日散々暗黒微笑浮かべながら襲撃しといてドーナツ食べにってお前」

「暗黒微笑とかしてないっす! てかてか、黒幕だろうが敵だろうが、普通に生きてんだからドーナツくらい食べるっすよ! ウチってばピチピチのJKだし!」

「ピチピチのJKは自分のことピチピチのJKって言わねぇよ」


 なんて適当な会話を交わしながらドーナツを一口齧る、大変美味しいのだが今は味よりも気にしなければならない事が多すぎる。

 あんまりにも見てらんなくて助け舟を出したが、そっから先は全くもってノープラン。しかも相手は洗脳できる症状持ちと来ている。雨乃にバレたら怒られるじゃすまねぇぞコレ。


「いやーでもマジリスペクトっす、超尊敬っす」

「そーかよ」

「でもなんで助けてくれたんすか? 自分で言うのもなんですけど、昨日の今日じゃないっすか」

「本当に「自分で言うのも何ですが」過ぎるだろ。えー、なんだろノリ?」

「そこは嘘でも困ってる女の子を見過ごせなくて……とか言ってくださいよ」

「あ、じゃあそれで」

「すんげぇ適当だなぁ!」


 男子高校生なんてのは8割方ノリで生きてるのだ、適当なのが正常だ。


「いやでも本当に感謝っす、お金は返します!」

「金は返さんでいい、奢ってやる」

「おぉ、太っ腹!」

「その代わりテメェの持ってる情報教えろ」

「うっ、やっぱそうきますか」

「それが嫌なら身体で返せ」

「シンプルに最悪っすね!?」


 俺の軽口にペースを乱されたのか、旭は真っ赤な顔してウンウンと唸りながら「じゃあ、一つだけなら」と条件付きだがコチラの要求に応じた。

 だがまぁ、問題はここからである……一体何を聞き出すか、そして彼女の答えた情報が正しいのかを自分で見極めねばならない。

 こういう状況は基本的に全自動嘘発見器こと雨乃の担当なのだが、こんな場面を見られた日には旭共々血祭りにあげられること請け合いだ。

 つまり、自分でなんとかするしかない。


「おぉ悩んでる悩んでる」


 彼女はペースを取り戻したのか、またもや暗黒微笑を浮かべながら俺を嘲る。

 まぁ何にせよ先ずは相手のペースを崩す事から始めるのが大事だろう。幸い、この手の奴は自身のフィールドから引き剥がされると途端にテンパる、さっきのジャブ代わりの下ネタがいい例だ。


「お前今更暗黒微笑浮かべたところで遅いよ? 痛いからやめな? 俺もうお前がレジで泣きべそかいてんの見てんだからさ」

「あ、暗黒微笑っていうな! っす!」

「今完全に「す!」の部分後付けしたよな? なに、 キャラ付け? 悪いこと言わないから辞めとけ」

「うがぁぁぁぁあ!」


 あまりの恥ずかしに言語中枢に異常を来たしてしまったようだ、真っ赤な顔して机に突っ伏した。


「ぶはははは! 傑作!」

「ダメっしょ! そんな指摘したら! こっちだって精一杯やってんすから!」

「精一杯やってるって言っちゃった時点でもうダメだろ」

「思ったより人格最悪っすね! 完全に私の事弄んでるっす!」


 お前の目の前にいる男を誰だと思ってんだ、常に雨乃ペースを崩して茶化しては命の危機に陥ってる男だぞ。

 さてと、これでとりあえず会話の主導権は俺の手に渡った、こっからが本番だ。


「逆にどっからどこまで答えられんのお前」

「えー、なんすかねぇ……仲間が何人いるかとかそこら辺は無理っすね」


 今のでコイツに少なからず仲間がいることが確定した。


「あっ」


 自分の失言に気がついたのか恨めしそうな目で俺を見る旭。誘ったがまんまと策にハマってくれるとは思わなかった、自分の間抜けさを恨むがいい。


「今のはお前のおもらしだからな、質問券は残ってるぞ」

「うっ……いいっすよこんくらいなら」

「どーしよっかなぁ、スリーサイズとか聞いとくか?」

「さ、最低っす!」


 ガバッと自分の身体を手で覆いながら叫ぶ旭。


「おい旭、追加でなんか奢ってやるから質問券もう1個増やせ。ちなみに500円以内な」

「額がせこいし、その増やした1個でスリーサイズ聞く気でしょ!?」

「いいじゃねぇか減るもんでもなし」

「今みるみるウチの中の見えないゲージが減っていってるっす!」


 症状の発動条件は昨日の内に勝った気になった旭自身でゲロってくれたので聞く必要は無い、仲間の構成も先程ので充分……目的も、一応は昨日の時点で「症状持ちの回収」というのは本人が語っていた。

 あれ? こいつ意外と自分で情報ゲロってんな、もしやバカなのか?


「な、なんで急にウチの事を優しい目で見るんすか」

「いやぁ、なんでもないよ」

「はっ、まさかウチでいやらしい妄想を!?」

「思い上がんな、お前は甘ったるすぎる。冷たさマシマシ、塩っけマシマシ、冷たさの裏に隠した少しの甘さマシマシになってから出直せ」

「ウチ今振られました!?」


 雨乃さんに足らんのは胸だけだ、逆にアレで胸があったらとんでもねぇ傾国の美女になる。そうなれば俺は一体何人殺さねばならないのか分からなくなるので、雨乃には是非とも今のまま健やかに育って欲しいと切に願うのだった。


「ひどいっす〜、振られったす〜、傷ついたっす〜」


 などと言いながらドーナツを頬張る旭、お前せめてもうちょっと傷ついたフリしろや。


「てか、夕陽さんマジでウチと付き合いませんか?」

「んだ、藪から棒に……壺なら買わんぞ」

「変な押し売りだと思われてます!?」

「そもそも怪しいのに急に告白されても胡散くせぇだけだ、あともうちょっとシチュエーションに凝ってもらえる? 心がときめかないから」

「なんでちょっと乙女なんすかそこら辺」


 大体、モテ具合で行けば俺は南雲より下、瑛人より上程度の男だ。急に告白されたところで早々信じる気にならない。


「でも、あの暁姉妹を助けた夕陽さんカッコよくて……好きなのはマジっすよ? 一目惚れってやつです、よく見れば顔もまぁ……うーん、イける?」

「おいおい最後まで頑張れよ! ファイトだ旭、めげるな!」

「イケます!」

「ごめんなさい、好きな子がいるので」

「なんなんすかマジで!?」


 昨日も思ったが意外とノリがいいなコイツ、敵ながらちょっと好きになりそうだ。相も変わらずチョロいね夕陽君ってば。


「とりあえず連絡先交換しません? 夕陽さん」

「……なんで」

「何かとあった方が便利じゃないっすか? 敵の連絡先」

「敵と連絡先交換したらそれはもう敵じゃねぇと思うんだよな俺」

「まぁまぁ、いいじゃないっすか。どうせ住所も割れてんだし」

「そっちは全然良くねぇんだよな。まぁでも連絡先くらいならいっか」


 そうして何故か一応のところ敵であるはずの旭と連絡先を交換する運びとなった、彼女のホーム画面は可愛らしい猫ちゃんである。こいつ、真剣に敵キャラやる気があるのか?


「な、なんすかいいでしょ猫好きなんだから」

「なんも言ってねーよ」

「てかいい加減に質問するっす! あ、あとその新発売のやつください」

「……半分だけな」


 この女はどこまで面の皮が厚いのだろうか。

 質問、質問ねぇ……コイツが答えそうな範囲で俺が今気になっている事といえば。


「お前と月夜先輩の関係性について」

「……」

「おいどうした、答えれる範囲だろうがよ」


 旭は何故か青い顔をしたままフリーズしていた、ドーナツでも喉に詰まらせたのだろうか?


「ゆ、夕陽さん」

「んだよ」

「ドリフ見た事あります?」

「あ? ねぇけど何だ急に」

「志村後ろってやつっす」


 振り返る間もなく頭の上に何かが乗っかった。

 そうして嗅ぎなれた香りが鼻腔を擽り、脳内を最悪なシナリオが駆け巡り、心音がとんでもない速度に跳ね上がる。


「なにしてんの夕陽」


 凍えるような冷たい声に恐る恐る視線を上にあげると俺の頭の上には真っ白で細く美しい指が見えた。


「なに、してんの?」


 ふっと俺の頭の上に乗っていた彼女の手が離れ、不機嫌そうな靴音を鳴らしながら雨乃が旭を睨みつける。


「昨日の今日でまだ懲りないの? コレが誰のものか昨日教えたはずでしょ? 栄養が胸に取られて頭に回ってないのかしら?」

「はっ、付き合ってもないのに束縛ばっかする奴はメンヘラって言うんすよ。てか、鼻息が荒いせいで鼻毛が出てるのが見えますよ、てか鼻の穴ひろーい」


 胃がキリキリと音を立てて痛む、女同士のノーガードの殴り合いは俺のような若輩にはまだキツイ。

 両者バッチバチ、周囲の温度が2℃ほど下がった気さえする。


「修羅場きたぁぁぁあ!」

「3歩歩けば厄介事ってマジだったんですね夕陽先輩」

「うっせぇぞ暁姉妹!」


 遅れてきた暁姉妹が俺の背後に立っていた。

 ここにきて最悪のバッティングである、そして男女比は1:4に、生きて帰れる気がしない。


 


 

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