掌握する者
朕の名前は掌握天下。
名前からしてとても偉大な、世界を掌握する為に産まれて来た様な男だ。
今は訳あって自宅をまずは掌握する所から始めている。
ここの家はとても居心地が悪い。
父・母・兄揃って全員医者なんかやってやがる。
朕はそんな家族からいつも高圧的なプレッシャーを受けているのだ。
とても良くない。
まずはこの環境を平定の後掌握、ひいては世界を、いや天下を掌握するのだよ。
夜は居心地が悪いけど、昼間はとても居心地がいい。
全員病院に行ってしまっているからね。
一先ず昼間はこの家を掌握出来たと言ってもいいだろう。
平和な昼間はゲームに限る。
朕の1日はまずPCに電源を入れる所からスタートだ。
一通り母親の用意した食事を平らげた後はシーナリーリピートにログイン。
ただ、あまり毎日ログインしていると怪しまれてしまうので程ほどにしか出来ないのがたまに傷だ。
朕はとりあえず主婦という設定でログインをしている。
使っているキャラも朕の嫁、もこもこちゃんだからあながち間違いではない。
ログイン出来ない時間帯は自宅警備を行っている。
掌握した自宅に何かがあっては掌握したとは言えなくなってしまうからね。
最近は自宅警備の回数が増えてきてしまった。
ログイン出来ない不具合がずっと続いているせいだ。
運営の奴等は何をしているのか。
朕が天下を掌握した暁には、クソ運営共は全員解雇だ。
自宅警備にも限界はある。
朕には時間が沢山あるのだ。
余っている時間はシーナリーリピートの運営に抗議の文面を送り付けている。
毎日こうして急かさないと仕事をしない奴らだからね。
返って来る返事は何時も決まって定型の謝罪文だしね。
定型文を送るだけの仕事でお金を貰っているなんて仕事を舐めているとしか思えないね。
今日もとても暇だ。
嫁のもこもこちゃんのお着替えも出来ないし癒しが足りない。
母親にも朝からヒステリックに罵られて今日はついてない日だ。
こういう日はゆっくりとお昼寝をして将来の天下掌握の為の体力を蓄えて置くに限る。
安霧野は田舎だ。
田舎だけれどもとてもいい所だ。
お昼寝をしている時にうるさい物音が外から聞こえて来る事も無い。
聞こえて来るのは鳥の囀り位なものだね。
とても心地がよく睡眠には持って来いだね。
自宅警備にも疲れてしまったしそろそろ眠く「ピンポーーーーン」なって来たしね。
このまま夜「ピンポーーン」のログインの時間まで寝ていよう。
今日の夜「ピンポーーーーン」もどうせ「ピンポンピンポーーン」ログイン出来ないんだろうけど。
確認はしないと「ピンピンピンピンピンポーーーーーン」ってうるさいな!!
誰だよこんな昼間から人の家のインターフォンを連打する奴は!
朕のお昼寝を邪魔する奴はどこのどいつだ。
顔を少し見てやるか。
と、思ったけどこの窓からじゃ良く見えないな……
まぁほっとけばその内居なくなるだろう。
ほらね、やっぱり居なくなった。
これでやっとぐっすりとお昼寝が出来るよ。
……なんか焦げ臭い気がするな。
外から……か?
え!?何?なんか玄関の方から煙が上がってるんだけど!
火事!?さっきのインターフォン連打の奴の仕業か?
確認しないと!!
----- ガチャッ -----
「ヒッ! 火ーーー!!?」
----- ザバーッ -----
「え……え!?」
「やっと出て来たか」
「火が消えた……水!?」
「俺が消したんだよ。お前が掌握天下か?」
「そうだけどあなた誰……」
「俺は上杉賢二郎だ。シーナリーリピートの世界からやって来た」
「は? 何を……」
---
覚悟を決めてインターフォンを押して見たはいいものの、誰も出て来ない。
ここは天羽宅で鍛えた秘技インターフォン連打を使うしかない。
これで中々出て来なかった天羽もイライラが募り飛ぶ様にして出て来たしな。
--- ピンポーーーーン ---
--- ピンポーーン ---
--- ピンポーーーーン ---
--- ピンポンピンポーーン ---
--- ピンピンピンピンピンポーーーーーン ---
むぅ、中々手強い奴だな。
秘技インターフォン連打が効かないとは……
まぁ不在という可能性もあるが、無職でほっつき歩いてるという事もないとは思うがな。
斯くなる上は煙を上げて燻り出すしかない。
火の手が上がれば動物は恐怖を感じて逃げ出すものだ。
この世界の奴等は火の手が上がったら集まって来たけどな……
まぁ寄って来たとしてもどちらにせよ出て来る訳だし結果は同じだ。
幸いこの近辺は山という事もあり、枯葉や小枝等が豊富にある。
そういった物を拾い集め、掌握家の玄関先に山にして置いていった。
軽い山となった枯葉達を目掛けて炎弾を打ち込んでやると、枯葉達は祭りに集まって踊り狂う人達の如く煙を上げて舞い上がった。
少し威力が強過ぎたのか、玄関上の軒を少し焦がしてしまった。
焦げた軒のお陰で煙の威力は増加、結果もうもうとした煙が立ち上がった。
結果オーライだ。
----- ガチャッ ------
「ヒッ! 火ーーー!!?」
お、やっと出て来たな。
そうとなればもうこの火はお役御免だ、消して置こう。
炊き立てのご飯の上に掛けられたおかかの様に、ゆらゆらと揺らめき煙をもうもうと上げた元枯葉達に向い水弾を打ち込んだ。
----- ザバーッ -----
「え……え!?」
「やっと出て来たか」
「火が消えた……水!?」
「俺が消したんだよ。お前が掌握天下か?」
「そうだけどあなた誰……」
「俺は上杉賢二郎だ。シーナリーリピートの世界からやって来た」
「は? 何を……」
さて、出て来たはいいがどこから話していけばいい物か……
まずはもこもこの存在と現在の状況から確認か。
もこもこの中の人と確定してからではないと話がややこしくなるからな。
「上杉 賢二郎の名に聞き覚えはないか?」
「賢二郎 上杉?」
「ああ、そうだ、それだ」
「シーナリーリピートの……」
「そのゲームお前もやってるんだな?」
「やってるけど……何?」
「もこもこ にくうまは知っているな?」
「!? 朕……ぼ、僕の使ってるキャラ名だけど……なんでそれを……」
「だからシーナリーリピートの世界からやって来たと言っている」
「そんなはずはないだろ! でたらめだ!」
ふむ、やはりもこもこの中の人だ。
面倒臭い。
中の人の性格がリンクして俺達の性格を形成しているのだから、もこもこが面倒臭い奴なら中の人も面倒臭い奴だとは思ってはいたが……
話がスムーズに行かないのであれば行かすまでだ。
「今お前はログインが出来ていない。そうだな?」
「出来てないけど何……」
「それはお前がギガコマのクエストを放置して俺達に手伝いをさせたからだ」
「放置してたんじゃない! 誰も手伝ってくれなかったんだ!」
「どっちでもいい。終わらせていなかった事には変わりない」
「うぐ……」
「そのギガコマの戦闘の後からログイン出来なくなった。違うか?」
「そうだよ。公式サイトにギガコマの不具合で、それ以降接続不可になってログイン出来なくなるって書いてあったし……」
「ログイン出来ない間、そのキャラ達はどうなっているかわかるか?」
「知らないよ。そこまで発表されてないもん」
「目の前に居る俺が上杉 賢二郎のキャラの賢二郎 上杉だ。同様にお前のキャラのもこもこ にくうまもこの世界にいる」
「何を言ってるの……」
「同時にあの戦闘で全滅した時に居た全員がこちらの世界に飛ばされているんだよ!」
「そんなわけ……」
「あるんだよ! 実際に目の前にいる!」
「普通の人じゃん……」
「わかった。普通の人かどうか良く見ておけ」
脳筋とはよく言ったものだ。
ブレイン=中の人まで筋肉の塊で理解が追い付いて居ない様だ。
言葉で理解出来ないなら体感して貰うしかない。
少し手荒にはなるが、極力最弱にした炎弾を奴の頭目掛けて打ち込む事にした。
----- ボボッ -----
「え? ギャッ! 熱! 火ーーー! あついいーーー!」
「これが炎弾だ」
「消して消して早くーーー!!」
----- ザバッ、ジュー -----
「冷た! 水!? 火が消えた……ハァハァ……」
「これが水弾だ。他にも雷、風、氷……何を食らってみたい?」
「もういい! 分かったから! やめて……」
「そうか。分かって貰えて嬉しいよ」
「魔法……なの? 今の……」
「そうだ。格闘士でも魔法を使っている所位は見た事あるだろう」
「そんな……信じられない」
「信じられないのはこちらの方だ。何故この世界に居るのか理解し難い」
「それで何をしに来たの……」
「もこもこを元の世界に戻す為に手伝って貰いたい事がある」
「何を……したらいいの?」
「簡単な事だ。もこもこと会ってくれるだけでいい」
「朕のもこもこちゃんと会えるの!?」
「あ? ああ、そうだ。ただ、1点問題がある」
「何……?」
「もこもこが元の世界に戻れるのはあくまで可能性であって、最悪消滅するかもしれない」
「消滅?」
「こちらの世界で言うキャラクターデーターの破損、ってとこか?」
「!? そんなの無理!」
「あとは成功したとしてもレベルは1からとなる。勿論所持品は全て失う」
「もっと無理! いくら課金したと思ってるの! また1からなんて絶対無理!」
「そうか。なら交渉は決裂と言う事だな」
「なんて事だ……これは公式に抗議をしなければ……!」
「おい! くれぐれも俺達がこちらの世界に来てしまっている事は内密にしろよな!」
「わかってるよ! どうせ言っても誰も信じてくれやしないよ!」
----- ガチャン! -----
話もなかなか理解して貰えない上に受け入れても貰えずか……
これは別の方法がない限りもこもこはこの世界に居残りだな。
やれる事はやった。
一先ず報告も必要な事だし、一旦梅園寺邸へ戻るか……
行く先の不安を抱えたまま、帰宅の途につく為茉莉華へ迎えのヘリコプターの用立てのメッセージを送った。
今後の方針を考えながらヘリコプターの到着を待ち、一時下野へと戻るのであった。
しかし最後の掌握の言葉、何をするつもりなのか……
信用出来そうな相手ではないが、馬鹿ではないと信じるしかない。
余計な事をしてくれなければいいのだが。
どうなる事やら……




