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動物愛

もこもこを追い、山を降りて近くの住宅街までやって来た。

下野や深草の辺りと違い、家の数が少ない。

遠くには大きな山々が連なっており、直ぐ側には川が流れている。

いつもの公園の汚染された川と違い、綺麗な澄んだ水が流れていた。

水面には時折魚が飛び跳ねる姿が見受けられ、心なしか魚も水が綺麗な事により元気そうに見える。


ただ、ここら辺は町とは言い難い。

もこもこの性格からして、まずここら辺にはいないだろう。

町と言ったら「煌びやか」「派手」「賑やか」そんなイメージをもこもこなら持っているに違いない。

ここら辺にいないのであれば、目撃情報をまた得るしかない。

周辺を歩いている人々に片っ端から聞いて周ろう。


歩く事30分。

全く人がいない……

家が少ない分、住んでいる人も少ないのだろうが、それにしても見かけない。

たまに車は通るが、歩いている人がいないのだ。

日が傾いているという事もあり、もう既に帰宅済みなのだろうか。


更に川沿いを歩く事1時間。

見ろ、足が棒の様だ!だるいっす!

魔術師に長距離の徒歩移動は堪えるのだよ。

それもこれも、もこもこの中の人がこんな所に住んでいるのが悪いのだ。


川沿いに歩いていると、キラキラと夕日の光を反射した川面が綺麗だ。

川の水も綺麗だが、空気も澄んでいる様に感じる。

町がごみごみとして、水も汚い空気も心なしか汚れている場所を同じ様に歩いていたら、これ程長く歩けていないかもしれない。


川沿いを暫く進んで歩いていたが、それは正解だったかもしれない。

周囲に並ぶ家の数が徐々に増えて来ている。

この調子で歩けば町に着けそうだ。


更に歩く事15分。

少し休みたい気分になった頃、人の集まる場所があった。

<公民館>と書かれたそこは、人の出入りがそこそこある様だ。

特に子供が多い様だが、ここは子供の遊び場なのだろうか。

子供に混じって大人も少なからずいた。

やっと情報収集が出来そうだ。


「すみません、少しお伺いしたいのですが」

「はい、なんですか?」

「ここら辺で尻尾のアクセサリを付けた女子高生を見かけませんでしたか?」

「私は見てないわね。ゆうちゃんはどう?」

「私も見てないわ」

「りっちゃんは?」

「私は見てないんだけど、さっき旦那から変な女子高生がヒッチハイクしてたから竹本まで乗せて行ったってメッセージ来てたよ」

「竹本ですか。ここからだとどれ位距離ありますか?」

「そうね。車で1時間位じゃないかしら?」

「遠いですね……」

「私、この後竹本に行く用事あるから乗せて行こうか?」

「いいんですか? 助かります!」

「じゃあちょっと待っててね」

「ところで、ここは何と言う地名なんですか?」

「え? 安霧野よ? それがどうしたの?」

「いえ、ちょっと確認の為に」

「そう」


ここは安霧野という場所なんだな。

後にまたもこもこの中の人も探しに来る必要があるかもしれない。

覚えておこう。


車に乗せてくれると言ってくれた奥様が子供を連れて戻って来た

どうやら子供を迎えに来ていた様である。

全員が車に乗り込むと、竹本へと向けて車は発車された。


「竹本のどこで降ろしたらいいかな?」

「そうですね……竹本で一番メジャーな場所って何処ですか?」

「竹本城かしら」

「では、その竹本城でお願いします」

「はーい」

「お兄ちゃん竹本城に何しに行くの?」

「お兄ちゃんの仲間が迷子になっているから探しに行くんだよ」

「大人でも迷子になるの?」

「そうだね。困った大人なんだよ」

「ふーん、そうなんだ。大変だね」


子供にまで心配されるなんて、本当に困った大人だ。


恐らく、もこもこは竹本城にいるだろう。

町に着き、行く先が決まっていなかったら一番賑やかそうな場所に向かうだろう。

もこもことはそういう奴である。


車で走る事1時間。

目的地の竹本城へと到着した。

竹本の町は安霧野と違い、高い建物もある程度ある町という感じの町であった。

下野や深草と違う所は、町の中から城が見える所だろう。

威風堂々としたその城の佇まいは、遠目から見ても城と分かる程立派な造りである。

寺や神社と違い、その佇まいは来る者を威圧し、住まう者の威厳を表現した様な感じにも受け取れる。

築城から500年も経過しているとは思えない程の立派な建物だ。

まぁ、この内容は調べた訳じゃなく、そこに立っている看板に書かれた情報だがな。


さてでは、もこもこの捜索に取り掛かろう。

一番目立つ所、一番賑やかの所を目指せばもこもこはその中心に居るだろう。

この場で一番賑やかなのは、勿論城だろう。


俺は城へと近付いていった。

広い城下を進んで行くと、城の入り口と思われる場所へと辿り着いた。

城の入り口では、何やら人だかりが出来ており、騒々しく物騒な会話が繰り広げられていた。


「お金がないなら入城させる事は出来ません」

「お城に入るのにお金取るなんて、なんてあこぎな城主にゃ!」

「決まりですから……それにもう閉館時間も……」

「そんな城主はボクが退治してやるにゃ!」

「城主と言いますか……この城は国の所有物となりますので……」

「国王の城にゃ!? それはなかなか手強いにゃ……」

「そういう事ではなくてですね……」

「むむー。けんじろとりおにゃを連れて来るしかないにゃ……」


やっぱりもこもこか……

あいつは何処に行っても問題を起こすな。

しかも物騒な話に人の名前を出さないで欲しい。

ここは敢えて放置して様子見するのも一興だが、人様にご迷惑を掛けるのも良くないだろう。

仕方が無い、止めておくか。


「勝手に人を攻城戦に参加させるんじゃねーよ」

「ん? おー! けんじろ! 良い所に来たにゃ!」

「良い所じゃねーよ。人様に迷惑かけんな。すみません、直ぐに連れて帰りますので」

「助かりました。ありがとうございます」

「いえいえ、ご迷惑お掛けしました」

「何で帰るにゃ! この城の国王は悪いやつにゃ!」

「いいから帰るぞ……」


興奮したもこもこを宥めるのは苦労する。

ここに睦月が居てくれれば楽なんだろうな。

今は睦月も塀の中だ。

この厄介者を上手く扱える人物と言ったら、やはり睦月の中の人だろうな。

天羽の家に連れて帰ろう……


帰りの手段はやはり梅園寺のヘリコプターとなるが、何処に来て貰うか。

一先ず、茉莉華お嬢様に連絡を取り、今の居場所を伝えてみよう。


茉莉華お嬢様にメッセージを送り暫く待つと、返信があった。

竹本城の城下広場にヘリコプターの着陸が可能らしい。

流石は世界の梅園寺グループ。

何処にでも馳せ参じる。


待つ事数十分、ヘリコプターの到着。

梅園寺邸へと一旦帰還する。

相変わらずもこもこは「まどーへいき、まどーへいき」と五月蝿い。

そんなに警戒するなら乗らなきゃいいのに、しっかり乗る所があいつの駄目な所だ。


梅園寺邸に帰還すると、茉莉華お嬢様へ一通りの状況を伝え、一旦天羽宅へ戻る事を伝えた。

茉莉華お嬢様は、俺達を天羽宅まで車で送ってくれる手配をしてくれた。

まさに至れり尽くせりである。

俺は、無事もこもこの回収も終え天羽宅へ戻って来た。

まだ天羽母は天羽宅に滞在しているのだろうか。

一先ず、俺はもこもこを連れ天羽宅へと入った。


「ただいま」

「お邪魔するにゃー!」

「あらあら、おかえりなさい。この子がもこもこちゃんね」

「誰にゃ、このおばさんは」

「もこもこちゃん? おばさんって言う呼び方は良くないわよ」

「詳しく言っても分からないだろうが、まぁ睦月の母だ」

「色々な意味で間違いではないわね」

「むっちゃんの母にゃ? 通りでなんとなく懐かしい感じがしたにゃ」

「獣人族の勘ってやつか?」

「何となく……この人には逆らっちゃ駄目な感じがしたにゃ……」

「ああ、何となくそれは分かる」

「もう、けんじろう君まで……とりあえず中に入りなさい。睦月ももう帰って来てるわよ」


天羽母に促され、室内へと入って行った。

天羽は既に部屋着へと着替え終わり、用意された飯を食いながらだらしなくテレビを見ていた。


「あら、また来たのね。って、もこもこちゃん!」

「あ、どうもにゃ……お邪魔するにゃ」

「こっち来て! こっち!」

「は、はいにゃ……」

「今日は制服なのね! 可愛いー!」

「ちょ、あんまり触らないでほしいにゃ……」

「いいじゃない! 減るもんじゃないし!」

「けんじろ! けんじろー!!」


そう言えばもう一人、もこもこを制する者がいたな。

ここに連れて来ればもこもこも大人しくなるだろう。


しかし何でこんなにもこの親子はもこもこが好きなんだろうな。

獣人族が好きなのか、単に動物っぽいから好きなのか。

天羽と天羽母の間を、ピンボールの様にあっちでサワサワ、こっちでサワサワされるもこもこ。

その様子を生暖かく見守っていると、天羽母の携帯電話がけたたましく鳴り響いた。

天羽母は、もこもこを愛でるタイムを妨げられ、若干不機嫌そうな顔をしながら携帯電話の画面を見詰める。

その表情も画面を見た瞬間に真面目な表情へと変わって行った。


天羽母は、暫くメッセージのやり取りをしていた様だが、話が付いた様で携帯電話をテーブルの上にそっと置いた。

話の相手はリオ子ちゃん(仮)だった様だ。


「リオ子ちゃん、無事ギガコマと戦闘出来たって。まいぷーさんが護衛してくれたんだってさ」

「まいぷーさんが。珍しいな。それで戦闘の結果どうなったって?」

「前と同じく、まぁ即死なんだけどリターンポイントに戻るを選択したら、エラーで落とされてログイン出来なくなったって」

「じゃあ、またリオナールはこちらの世界に飛ばされている可能性はあるって事だな」

「そうね。確認が必要ね」


やはり転移のキーはギガコマとの戦闘だった。

リオナールはまた、この世界にやって来ている可能性は大いにある。

リオナールの記憶が残っているのかどうかで、この世界の事を覚えているかどうかが変わって来るだろう。


まずは、リオナールが本当にこの世界に飛ばされているか確認する必要がある。

リオナールが最初に飛ばされた場所は、下野駅前の大きな公園と言っていたな。

この時間から俺自らあそこに出向くのは少々難がある。

ここはリオナール大好き茉莉華たんに回収に向かってもらおう。


俺はすかさず、茉莉華お嬢様へリオナールがまた来ているかもしれないとメッセージを送り、迎えに行ってもらえないか依頼をしてみた。

茉莉華お嬢様からはすぐさま返事が返って来た。

二つ返事で直ぐに向かうと言ってくれた。

流石は愛の力である。


明日、またリオナールの様子を見に伺う事を茉莉華お嬢様へメッセージで伝えると、明日に備え天羽母に状況を伝え就寝する事とした。

もこもこはと言うと、両脇を天羽親子に抱えられ居心地悪そうに、だが既に観念した様でその場で眠る事にした様だ。

明日は、もこもこはこの親子に託して出掛ける事にしよう。


そんな事を考えている内に、いつの間にか眠りに付いていた。


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