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12:二度あなたに惚れる

傍迷惑な団長さんの本性が露見し、ひと段落した後、私達はお互いの身体をゆっくり話した。

向かい合ったまま、しばらくの間沈黙が流れる。


「あの、」


沈黙を破ったのは私だ。


「…何だ?」

「前に聞けなかった“理由”を今、聞かせてくれませんか。」


ガーウェルさんに告白の返事をしようとした時を思い出す。真摯に私のことを好いてくれるガーウェルさんに『なんでそこまで私のことを好いてくれるのか?』という疑問を持った私だったが、その時は分からずじまいだった。

その“理由”を今、ものすごく聞きたくなったのだ。


ガーウェルさんは私の言わんとしていることを察したのか、ゆっくり話し始めた。


「そうだな…、まずサーラと会ったのは店が初めてじゃない。」

「え?前に会ったことありました?」

「ああ。一度だけ。」


ぜ、全然覚えてない。こんなかっこいい人みたら、忘れたくても忘れられないような気もするのに。


「覚えていないのも無理もない。その時会ったのは暗闇で、お互いの顔も碌に見えなかったからな。」



その日のガーウェルは、ひどく酔っていた。

酔っているといっても我を忘れて痴態を晒すような酔い方ではなく、どちらかといえば気分が著しく悪くなる方の酔い方だ。

いつもの彼は酒はほろ酔い程度に嗜むのだが、どういうわけか今回はそうもいかなかった。


「モーリスめ…。」


もちろん犯人の目星はついている。悪戯好きの同僚のモーリスだ。今日は彼にやたら酒を勧められた。弱い酒だから、という言葉を信じて飲んだ自分も大概だが。


ふらふらとおぼつかない足取りで夜の街を歩く。この具合だと宿舎の自分の部屋に帰るのにはどれほどの時間がかかるだろう。すたこらと先に帰ってしまった同僚に舌打ちをした。


「あの、」


ふとどこからか声がした。ついに幻聴か、と思い気にせず歩みを進めると


「あの!ちょっと待ってください!」


やはり声が聞こえる。ようやく後ろを振り返ると、自分よりも頭ひとつ分小さな人影がいた。シルエットからして女だと分かった。


「フラついてますけど大丈夫ですか?どこか具合が悪いんですか?」


どうやら足取りがおぼつかないガーウェルを心配して声をかけてくれたようだ。

だが、残念なことに理由が理由なのでなんだか居たたまれなくなったガーウェルはつっけんどんに答えてしまう。


「…酒に酔っただけだ。」


大抵の人間はここで「ああ、そうだったんですか。」と身を引く。酔っ払いに絡まれてはひとたまりもないからだ。だが、その女は少し違った。


「大分酔われているようですが、どんなお酒を飲まれましたか?」


ガーウェルは予想外の返答に目を瞬いた。何故酒の種類を聞く必要があるのか。


「すれ違う時、トラバラの匂いがしたんです。トラバラ酒は適した薬湯を飲まないと翌日ひどい二日酔いになるので。」

「…すまんが、飲んだ酒はよく分からないんだ。人に勧められたからな。」

「色は何色でしたか?」

「……オレンジに近い赤だ。」

「やっぱりトラバラ酒ですね。」


「ここで待っていてください。」と言うと女は奥の建物に戻っていった。それを目で追うと見覚えのある建物だった。竜の憩い場──町で人気の酒場だ。

しばらくすると女は何かを持って戻ってきた。


「トラバラ酒に効く薬湯です。飲んで下さい。」

「いや…、」

「飲んで下さい。」


ずいっと女の顔が近づく。女からは逆光でガーウェルの顔は見えないだろうが、ガーウェルには店から漏れる光で女の顔が見えた。

有無を言わせない強い意志をもったその瞳が、やけに心に刺さった。


「分かった…。」


そうしてやっと大人しくなったガーウェルは、促されるまま薬湯を飲んだ。その様子を見ながら女はトラバラ酒は軽い口当たりで甘く、一見弱い酒と間違えられやすいが非常に度が強く、酔いも後から一気に効いてくるので多量を摂取するのは控えた方がいい、など何やらトラバラ酒の解説をしていたが、ガーウェルは可愛らしくてずっと聞いていたい声だ、という感想しか抱かなかった。




「…それから、気づけばサーラを目で追っていた。思えば一目惚れだったのかもしれないな。」

「え、ええっ!?あの時のトラバラ酒の人がガーウェルさんだったんですか!?」

「ああ、あの後サーラのおかげで二日酔いにもならなかった。」


それは良かった…って、いやいや違う違う!問題はそこじゃない!

私はグイッとガーウェルさんと距離を詰めた。青い瞳に私の顔が映る。


「なんでもっと早く言ってくれなかったんですか!」

「言っても困らせるだけだろうと思ってな。俺は顔を知ってるが、サーラはあの時顔も分からなかっただろう。」

「それはそうですけど…。」

「サーラ、」


ガーウェルさんが私の頬に手を添えた。少しカサついたその大きな手だ。


「あくまであれはきっかけに過ぎない。その後にサーラの人柄や仕事に対する姿勢を見てますます貴女の方が手に入れたくなった。…俺は貴女に二度惚れたんだ。」


カーッと頰が熱くなっていくのが分かる。でも、不思議と恥ずかしくない。

私はガーウェルさんの手に自分のそれを重ねた。深い青の瞳が細められる。


「…私もガーウェルさんに二度惚れました。今が二度目です。」

「…そうか。」

「はい!」


元気よく答えると、するりと後頭部を何かに優しく包まれた。???なんでガーウェルさんの手が?


「……サーラ。」

「はい?」

「キスするぞ。」

「えっ、んんーっ!?」


いやだから言うの直前すぎませんかね!!??



これにて本編完結です。


クレアの恋の行方や団長の趣味の話など、まだまだ書ききれていない所はあるのですが、それはまた番外編として書けたらなと考えています。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました!

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