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存在しない冒険者  作者: 凡々天々
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第一話 『孤独』

 この体のおかげもあり、難なく自分の過去最高記録である10階層へ到着することができた。

 この階段を下りれば、ここからは俺にとって未知の領域だ。

 11階層へ足を踏み入れた瞬間、俺は過去の自分を超えることになる。

 しかし、その階層に行くためには、階層主を倒さないといけない。


 目の前に大きな扉が立ち塞がる。中に入ると、広大な円形の空間が広がっていた。

 隠れる場所もない。まさに、戦闘という意味では最適化されている場所である。

 その中央には、腰ほどの高さの石碑がぼつんと設置されていた。

 地下迷宮に潜る冒険者なら、この石碑についてギルドから説明を受けているはずだ。

 ーーー階層主への挑戦権。

 

 10階層ごとに存在する階層主だが、普段は姿を現すことはない。

 この石碑に設置された石のボタンーーー”起動石きどうせき”を押した時だけ、その姿を現す。

 討伐に成功すれば、次の11階層に進む資格を得る。

 逆に、この階層主を倒さないかぎり、10階層より奥には進むことができないというわけだ。

 

 俺は石碑の前に立った。この起動石きどうせきを押したら、ついに階層主とご対面だ。

 少し緊張していた。初めて挑む階層主。額にはうっすらと汗が滲んでいる。

 

 「………やろう」


 俺は覚悟を決め、起動石きどうせきを押した。

 ゴゴゴゴゴゴゴ………地面が大きく揺れる。天井から無数の砂埃が降り注ぐ。

 その砂埃が集まっていき、一つの体を形成していく。

 

 「ドゥオオオオオオオオ!」


 魔巨人(ギガント)すら小さく見える巨躯。

 額から一本の角が生えており、手には巨大な棍棒を持っている。

 これが10階層の階層主———洞窟王鬼(ケイブオーガロード)


 その咆哮だけで、恐怖心が一気に高まった。

 だが俺は大きく呼吸し、荒れかけた心を落ち着かせた。

 

 「階層主でも、俺の存在を認識できないようだ」


 洞窟王鬼(ケイブオーガロード)は、まるで何かを探しているかのよう、あちこち動き回っていた。

 逃げも隠れもせず、突っ立っているのに、俺が見えていないようだった。


 これは少し意外だった。

 起動石きどうせきを押した時点で、その空間には冒険者がいることが確定している。

 だから、いくら存在が認識されない自分でも、階層主には例外になるのではと想定していた。


 「本当、寂しいものだな」


 階層主ですら、俺を認識できない。

 目の前に立っているのに、武器を構えているのに。

 それでも、俺という存在に辿り着けない。

 あの日が訪れるまでは、魔物と戦うことに怯えていたはずだ。

 それなのに今は違う。

 誰にも見つからない。誰にも狙われない。誰にも覚えられない。

 その代償としてーーー誰にも見てもらえなくなったことに胸が痛んだ。

 


 大胆に距離を詰め、両手で斧を握る。そして、大きく振りかぶる。

 相手が認識できない以上、渾身の一撃を簡単に与えることができる。

 

 「はあっ!」


 ザン!!

 斧が左足首へと深々と食い込んだ。

 鮮血が舞い、洞窟王鬼(ケイブオーガロード)が絶叫する。

 だが、相手は何が起きたのか理解できていない様子だった。

 

 洞窟王鬼(ケイブオーガロード)はむやみやたらに棍棒を振り回した。

 だが、その一撃は俺の大きく横を通過する。

 

 こうなるのは分かっていたはずなのに。実際に、目の当たりにすると異様だった。

 傷を負わせても、あいつは俺を見つけられていない。

 

 食い込んだ斧を抜き、今度は右足首に狙いを定める。

 そしてもう一度、渾身の一撃をお見舞いする。


 「ドゥオオオオオオオオ!」


 あまりにも一方的だった。これが本当に戦いと呼べるのだろうか。

 どこか虚しく、思わず苦笑が漏れた。

 ”認識されない”。それだけで、自分より格上の相手と渡り合える。

 洞窟王鬼(ケイブオーガロード)がまた叫び声を上げる。

 

 さっきの魔巨人と同様、両足首に筋肉が裂けたことで、その場に膝をつく。

 もう可哀想だ。この一撃で終わりにしよう。


 俺は洞窟王鬼(ケイブオーガロード)の巨体を駆け上がる。

 肩を踏み、胸を超え、首元へ到達する。

 踏まれている感覚はあるのか、その感覚を頼りに、洞窟王鬼(ケイブオーガロード)は必死に腕を伸ばしてきた。

 もし掴まれば、握りつぶされて終わりだ。

 だが、その手は俺を捉えられない。


 「終わりだ」


 俺は大きく跳躍した。空中で体を捻る。そして、その勢いのまま首元へ斧を叩き込んだ。

 ズドンッ!!

 骨が砕ける音が響く。一瞬の静寂。

 そしてーーー巨大な首が地面へ落下した。


 数秒後。洞窟王鬼(ケイブオーガロード)の体は砂埃へと変わり始める。

 やがて全身が崩れ、跡形もなく消滅した。

 

 「勝った………」


 達成感はあった。でも、それ以上に複雑な気持ちだった。

 これは俺が強くなったからではないからだ。

 正直、昔の仲間たちと挑んでも勝てたかどうか分からない。

 

 視線を奥へ向ける。そこには11階層へ続く下り階段があった。

 過去の俺が辿り着けなかった場所。未知の領域。

 俺は静かに息を吐く。

 そして、ふと思い出した。あの本に書かれていた一文を。

 『過去を超えた時、存在認識は徐々に塗り替えられる』

 もし、それが本当ならーーー11階層から何かが変わるのかもしれない。


 「………行くか」


 俺は階段へ足を踏み出した。

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