EP6:シンの力
三人は荒れた道を進む。
途中には放棄された軍用車両や獣の死体が転がっていた。
「ゲームとは言え、随分とリアルだな」
シンは歩きながら、周囲を見つめる。
「そうね。死臭までプンプン漂ってくるわ」
マリアは鼻をつまみ、不快そうに顔を曇らせた。
「最近のゲームはどこもそんなものさ! 五感をフルに活用するタイプは珍しくないが、これは格別だな!」
そんな二人を尻目に、ウゴは陽気な口調で答える。
その時だった。
「ガサガサ…」
横の茂みから、微かな物音が響いた。
「敵か?」
マリアが即座にアサルトライフルを構える。
「あー、多分気のせいだ。木の葉が掠った音だろうさ……」
ウゴが冷や汗を流しながら歩き出そうとした時、シンがその腕を掴んだ。
「気のせいだと?」
シンが冷たい口調で呟く。
「あ、あぁ…俺の勘がそう言っている…アハハ…」
ウゴはひきつった表情を浮かべていた。
「そう思うなら、お前が確かめてこい」
シンは躊躇なく、物音のする方向へウゴを突き飛ばした。
「おいおい!!仲間に対して、そりゃあないぜ…」
ウゴはよろめきながらも、渋々といった様子で茂みをかき分ける。
「…頼むぜイエス様。ここで死ぬなんてゴメンだぜ」
ウゴが恐る恐る茂みの奥を覗き込むが、そこには何もいなかった。
「ほら見ろ! 俺の言った通りだ! なんだよ、二人ともビビりすぎだって!」
ウゴは余裕の笑みを浮かべて振り返る。
「…ウゴ。後ろ」
マリアが、氷のような指先でウゴの背後を指さした。
「ちっ…やはりいたか」
シンがピストルを構える。
「二人とも!ジョークはほどほどにしてくれよ!サプライズは誕生日の時にしか受け付けないって決めて…」
ウゴは軽口をたたきながら、恐る恐る背後を振り向く。
「シュウウゥゥ…」
ウゴが震える体でゆっくりと振り返ると、そこには大木の上から鎌首をもたげる、規格外の大蛇がいた。
「…アハハ。とんだサプライズだ」
ウゴの背筋が凍りつく。
「キシャァァッ!!!」
大蛇は鎌首をもたげ、ウゴに襲いかかる。
「冗談キツイぜ!!」
一目散に逃げ出すウゴを追い、大蛇が地を這う。
「…ちょっと!また変なの引き連れてきて!」
マリアのアサルトライフルが火を吹く。
「ダダダダダ!」
「シュルル…」
しかし、大蛇は巨体を器用にくねらせ、弾丸を逸らしながら迫る。
「くそったれ……」
シンのピストルも頭部を狙うが、大蛇の回避速度は尋常ではない。
「シュルル…」
大蛇はそれを容易く回避すると、マリアとシンに向かって牙を向ける。
「こうなったら…」
マリアはアビリティである『サンダースネア』を放つ。
「バチチィ…」
マリアが放った雷の手裏剣が、大蛇の胴体に直撃した。
「キシャァァッ!!」
猛烈な電撃に焼かれ、大蛇の動きが止まる。
「…よくやった」
シンが口角を釣り上げる。
「この力…試してみる時だな」
彼は不敵な笑みを浮かべると、その身体が一瞬、不気味な黒い霧に包まれた。
「なんだ?」
尻もちをついたウゴが、呆然とそれを見上げる。
「…!!」
マリアはその様子をじっと見つめていた。
「射干斧」
刹那、シンの右手から漆黒の斧が投擲された。
「ザシュッ!!」
それは、的確に大蛇の頭部に突き刺さる。
「シャァァァ…」
大蛇は白目を剥き、崩れ落ちるように絶命した。
やがて粒子となって消えたその場所には、水とエナジーバーが残された。
「ふん…悪くない」
シンは静かに戦利品を回収した。
「それがあなたのアビリティ?」
マリアがシンに尋ねる。
「あぁ。黒い斧を投擲するらしい」
シンが小さく頷く。
「お、おぉ!さすがはシンだぜ!!あの蛇野郎を一撃で仕留めるなんて!いやぁ、さすがだ…!」
いつの間にか立ち上がったウゴが、隣でベタ褒めを始める。
「アンタは何もしてないでしょう…」
マリアは呆れたようにため息をつく。
「いや、そうでもないさ」
すると、シンが呟いた。
「?」
マリアが首を傾げる。
「ほらな!シンは俺の活躍を理解してくれてる!さすが、心の友だ!!」
シンの言葉に、ウゴが一気に顔を輝かせる。
しかし。
「囮役にはなった。次もその調子で頼むぞ」
シンは皮肉を込めてウゴにそう呟くと、先へと歩き始めた。
「そういうことね」
マリアはクスっと笑うと、シンに続いた。
「ちょっと待てよ!俺は釣り餌じゃないぞ!今回はたまたま…」
ウゴは愚痴を並べながら、慌てて二人について行った。
しばらく歩くと、三人の前に巨大な研究所らしき建物。
前庭には、放棄されている軍用車両やテントが見えた。
「ここが15番キャンプか…」
シンが全体を見渡す。
「思っていたよりも大きな場所ね」
マリアが敷地内に踏み出した時だった。
「ズドーン!!」
乾いた銃声と共に、彼女の足元のコンクリートが弾けた。
「敵!?」
マリアは反射的に車両の影に隠れる。
「方向的に屋上からか…」
シンが鋭い視線で上層階を睨む。
「ようやく俺の出番だな!ここらで一つ…」
すると、意外なことに、ウゴがスナイパーライフルを手に取った。
「ちょっと!さっきも言ったでしょ?鳩や兎を狩るのと違うって…」
マリアがウゴを制止しようとした時。
「いや…今回ばかりは、このペテン師に任せておこう…」
なんと、シンがウゴの行動を肯定した。
「正気?」
その発言にマリアは眉をひそめる。
「ペテン師。お前はここから屋上のスナイパーに向けて撃ちまくれ…」
シンがウゴにそう命じる。
「お、おう!任せておけ!!」
ウゴはコンテナを遮蔽にし、不慣れな手つきで狙撃姿勢をとる。
「…マリア。あのペテン師の援護射撃を頼む」
シンはマリアにそっと耳打ちをする。
「アンタはどうするのよ?」
マリアはシンに尋ねる。
「あそこにハシゴがあるだろ?俺が近づいて、スナイパーを殺る」
そう説明した途端、シンは遮蔽から飛び出した。
「ちょっと!」
飛び出したシンに声をかけるが…
「ズドーン!!」
再び、銃弾がマリアを襲ってきた。
「(アイツを信じるしかないわね…)」
マリアは小さく息を呑むと、アサルトライフルを手にした。




