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EP3:チームメイト

「アンタ誰?」


「おめぇ…誰だ?」

マリアと組み伏せられている男が、鋭い眼光をグレーのスーツの男へ向けた。


「おいおい、そんな警戒するなよ。チームメイトさ!!君たちのね!けど、まぁ…その、なんだ。お楽しみ中のところをお邪魔しちまったかな? 」

スーツの男はどこか飄々とした口調で、床に絡み合う二人をニヤニヤと見つめた。


「…!?」

気がつけば、マリアはシンの上に馬乗りになり、拳を振り上げた体勢だった。

だが、第三者から見ればそれは…


「ち、違うわよ!!そんな関係じゃないわ!!」

マリアは耳まで真っ赤にしながら、慌ててシンの上から飛び退いた。


「俺は、大歓迎なんだけどな…」

組み伏せられていた、男はゆっくりと立ち上がった。


黒髪のウルフヘアに、鮮烈な赤のジャケットを着たアジア系の男性。

そして、特徴的な蛇のような目つきは、獲物を逃さないヒットマンのそれだった。


「で、アンタもこの愉快なゲームの参加者ってわけ?」

マリアが気を取り直してスーツの男に尋ねる。


「あぁ。俺はウゴ・フェルナンデス。ウゴでいいぜ、アミーゴ!!」

ウゴと名乗った男は、スペイン系特有の陽気なアクセントで言い放った。


整えられた茶髪とラウンド髭。

どう見ても、戦場には不釣り合いなグレーのスーツに革靴。

一見すれば、ウォール街にいそうなビジネスマンにしか見えない。


「私はマリア・バックマン。マリアでいいわ」

マリアは短く自己紹介を済ませる。

二人の視線は、最後の一人へと向けられた。


「…なんだよ?」

男はバツが悪そうな表情をしながら、どこから取り出したのかタバコに火をつけた。


「名前は?」

マリアが男に尋ねる。


「…シンだ。…朝倉真。さっきは悪かったな」

シンは吐き出した煙に紛れさせるように、ぶっきらぼうに告げた。


「オーケー!マリアとシン、お前たちはラッキーだったな。この俺様がいれば百人力…いや万人力だ!!」

ウゴは根拠のない自信に満ちた顔で胸を叩く。


「アナタ、そんなに腕に覚えがあるの?そんな見た目には思えないけど…」

マリアが不審げに首を傾げた。


「そりゃあ、もちろん。かぁぁぁぁっ!!」

すると、ウゴはどこかで見たような独特の拳法の構えを取った。


「…なんだ、その変な構えは」

シンは呆れたように溜息をつく。


「オオジロ流という流派の空手の型だ。オンライン授業で習った!アチョー!」

ウゴは蹴りを繰り出す。

だが、その動きはあくびが出るほどスローで、隙だらけだった。


「…動きが素人ね。それよりも」

マリアの視線がテーブルの上に乗っているケーキに向けられる。


「甘いものでも食べたいわ」

大きく溜息をつくと、欲求を満たすべくソファの方へ歩みを進めた。


「…俺も小腹がすいた」

シンもソファにどかっと深く座り込む。


「素人じゃないさ!…これでも赤帯なんだ!…信じてくれよ!」

ウゴは大げさな身振り手振りで追いすがり、自分もソファに陣取った。


「赤帯って、そんなに強いの?」

マリアはチョコケーキを手に取り、シンに尋ねる。


「いや。入門したての雑魚だ」

シンはモンブランを豪快に頬張りながら切り捨てた。


「おいおい。雑魚ってことはないだろう!だったら、シン。お前は強いのかよ!?」

ウゴがフルーツタルトに手を伸ばした、その瞬間。


「グチャ!!」

空気を切り裂いて飛来した投げナイフが、ウゴの手にあったタルトを正確に粉砕した。


「…こんなもんだ」

シンは冷徹な笑みを浮かべ、ナイフを投げた手の残像を消した。


「あー疑って悪かった。俺は自分で見てみないと気が済まないタイプなもんでな。許してくれよ」

ウゴは、一瞬だけ引きつった顔を見せたが、すぐに新たなタルトを口へ運んだ。


「けど、二人はどうしてここに?」

マリアは、この場にいる理由を二人に尋ねた。


「…」

その問いに対して、シンは沈黙を貫く。


「はいはい!じゃあ俺からいいか?」

一方で、ウゴは手を挙げる。


「俺は、顧客に金塊投資をもちかけて資金を横領した! あとは暗号資産の強奪に、インサイダー取引。まぁ、ヘマって、捕まっちまった。で、臭い飯を食っていたある日、このゲームのテストプレイヤーににスカウトされたのさ。いやぁ、俺の優秀さを見抜く奴はいるもんだな。嬉しかったぜ」

ウゴは、まるで勲章でも語るかのように、自身の犯罪歴を誇らしげに語った。


「なるほどな。要するに、ただのペテン師か」

シンが紅茶を飲みながら鼻で笑う。


「おいおい、ペテン師じゃないぞ!奇術師とでも呼んでくれよ!」


「くだらない経歴だ。それに、口の軽いやつは一番信頼できない…」


「じゃあ、シン。お前はなんの罪で収監されたんだよ?」

ウゴがシンに尋ねる。


「殺人、住居不法侵入、暴行罪、傷害罪、公務執行妨害、銃刀法違反…それと…」

シンは、日常の買い物リストでも読み上げるように、淡々と罪状を並べた。


「あー!オーケー、もういい!ありがとう。君がすごくクレイジーな奴だってことは分かった!!けど、マリアはそんな物騒なこと…」

ウゴは恐る恐るマリアの方に視線を向ける。


「あら奇遇ね。私も殺人よ」


「…あー」

ウゴの思考回路が、音を立ててフリーズした。


「へぇ、どおりで『死の匂い』がしたわけだ。やべぇ…余計に惚れちまいそうだぜ…」


「はいはい。けど、私は(けだもの)に興味はないの」

マリアはシンの言葉を冷たく受け流した。


「(あぁ、イエス様!!アンタは最低だ!!猛獣の檻に閉じ込めやがって!…いや、待てよ。逆にこいつらを上手く飼い慣らせば、優勝できるんじゃないか? そうすれば…) 」

ウゴは強欲な笑みを隠し、マリアの隣にすり寄った。


「いやぁ、二人ともワイルドでカッコいいぜ!思わず惚れちまいそうだった。 サポートは俺に任せろ。俺にぴったりのアビリティが手に入ったんだ」

ウゴが気安くマリアの肩を叩こうとする。


「へぇ。弾除けになってくれるアビリティとかかしら?」

マリアは機械的な正確さでスッと横に移動し、ウゴの手を空振らせた。


「ありゃ!」


「そういえば、ここを出る前にピエロ野郎がアビリティがどうこうとか言っていたな…」

シンが呟いた、その時だった。


『間もなく、戦闘開始区域に自動テレポートいたします。参加選手は準備をお願いします』

室内に、血の通わない無機質なアナウンスが響き渡る。


「…始まるらしいな」

シンは立ち上がり、壁に刺さったナイフを無造作に引き抜いた。


「そうね。まだ全部を理解していないけど、やるしかないわね」

マリアも椅子から立ち上がり、銃のセーフティを確認する。


「ちょっと待って…今のうちに甘い物を…」

ウゴはテーブルのケーキをリスのように急いで口に詰め込んだ。

その直後…


「ブワァァァァァン!!」

空間そのものが爆発的な光に飲み込まれた。


「!!」

三人は網膜を焼くような眩しさに目を覆う。


数秒後。

三人の耳に届いたのは、風に揺れる葉音と、どこか原始的な鳥のさえずりだった。


「…ジャングル?」


「どうやら会場のようね…」


「あ、俺のケーキが!!」

周囲を警戒するシンとマリアをよそに、ウゴは消えたスイーツに絶望していた。


三人が立っていたのは、放棄されたコンクリートビルの屋上だった。

崩落寸前の壁からは鉄筋が剥き出しになり、目の前には緑の海のような広大な密林が広がっている。


「ジュラシック・パークかよ」

シンが吐き捨てる。


「恐竜が出てくるってこと?」

マリアが大真面目に首を傾げた。


「まぁ…とりあえず辺りを調べてみようぜ!何かあるかもしれないしな!…いや、なにもないかもしれないが…」

ウゴが無理やり空気を変えようとした、その時だった。


「ピコン!」

三人の目の前に、再びあの案内人『リュラ』のホログラムが鮮やかに浮かび上がった。

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