8 竜の星にて
「ドラク様!あなたはご自分がどれだけ大それた事をしでかしたのか分かっているのですか!何とか事なきを得ましたが、一歩間違えればこの世界を滅亡させてしまっていたかもしれないのですよ!あなたの他に神龍はいないのですからね!」
ドラクは竜の星の記録の館で、司書の前で正座をさせられていた。
王宮の中庭で気を失うように眠ってしまったドラクは、司書からの心胆を寒からしめるような声による通信に飛び起きた。ドラクが神龍へと変化してからの行動は全て竜の星に筒抜けだったらしい。至急戻るようにとの有無を言わさぬ命令に従い、ドラクは竜の星へと転移し、記録の館で司書からの説教を受けていた。
傍らには長老も控えていたが、気まずそうに眼を逸らしており、ドラクを庇ってくれそうな雰囲気は無かった。
めったな事では声を荒げたりしない司書であるが、「怒っている司書には逆らうな」というのが竜の星で広く知られている教訓である。
ドラクが神龍になると同時に、先代の神龍の姿は掻き消えてしまった。それによって竜の国の人々は新たな神龍の誕生を知ったのであった。
「司書殿…すまぬ。俺が短慮であった事は否定せぬ。しかし、どうしてもアリシア殿を犠牲にはしたく無かったのだ…。」
後悔はしていない事を物語るドラクの瞳を見て、司書はため息をついた。
「二度とこのような勝手な真似はしないと約束して下さい。」
「約束する!今後は慎重の上にも慎重に事を運ぶと誓うぞ!」
しかし、実際のところこの約束は度々破られる事になるのだった。
ドラクはその後も神鏡でアリシアの行く末を頻繁に確認し、少しでも危ないことがあるとアザニア王国へと転移して陰ながら助けるのだった。
その度、司書からは叱責を受けるはめになったが、しまいには司書も諦め、アリシア関連の事であれば多少は大目にみてくれるようになった。
10年後アリシアは自国の貴族を伴侶に迎え、1男1女をもうけて幸せに暮らしていた。
アザニア王国は、ツワナ帝国からの侵略を救ってくれた竜を神と称え、王宮の隣に竜を祀る神殿を建てた。
子供たちを連れてその神殿に詣でるのが、アリシアの習慣となっていた。
「竜神様、これからも私たち家族を、アザニア国をお守りください。」
アリシアが竜神を祀る祭壇の前で両膝を付き手を合わせていると、子供たちも見よう見まねでお祈りをするのだった。
「ねえねえお母さま。竜神様って本当にいるの?」
「ええいますとも。お母さまは何時も竜神様に守られていると感じますよ。」
幼い娘の問いにそう答えたアリシアであるが、実際、危険な目に合いそうになったり、何か困難な事が起るたび、不思議な現象が起きて助かる事が度々あったので、それは竜神様の加護によるものだと信じていた。
アリシアはジッと自分の左手の薬指を見つめた。
「お母さま。何を見ているの?」
「ふふ。この薬指に赤い糸を巻いて貰ったような気がするの。多分夢でみたのでしょうね。」
「私そのお話知っているわ。運命の相手と結ばれているのでしょう?」
「ええそうよ。あなたにも早く運命の相手が現れるといいわね。」
アリシアは薬指を見つめたまま、頭に浮かぶ美しい金の目を持った少年の事を考えた。会った事も無いはずのその少年の事を考えると、まるで半身を失ったような寂しさを感じるのが常であった。
(あの金の目の少年が竜神様なのかもしれないわね。夢の中で私に会いに来てくれたのだわ。)
「お母さま?どうして泣いているの?」
アリシアは自分が泣いている事に驚いた。
「あら。どうしたのかしら? 目にゴミでも入ったみたい。」
「司書殿。たった一人で伴侶も無く永遠とも言える長い時を生きるとはどういうことなのでございましょうね?」
「さあ。私は一人で完全体ですからね。あなた方のように伴侶を欲しいと思う気持ちは理解できませんね。神龍殿もそうだと思っていたのですが…あの姿を見ているとそうではないのかもしれませんね。」
長老と司書の前には今日もまた神鏡でアリシアの動向を見守るドラクの姿があった。
「ドラク様の魂の半身は、偶然あの星にたどり着いたのかと思っておりましたが、何か惹かれるものがあったのかもしれませんなぁ…。」
おわり。
最後をどうするか悩みましたが、このような終わり方になりました。
恋愛要素を出すのがなかなか苦手みたいです。
しばらく忙しいので、新作はのんびり考えたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




