2 神竜と魂の半身
国王一家はまた国王の私室へと戻った。
突然現れた少年も同じテーブルへ着き、ここに来た事情を説明していた。
「俺は竜の星からきたドラクという神龍の後継者だ。しかし神龍になるための魂の半身を兄に盗まれて次元の狭間に捨てられてしまってな。長い時をかけてやっとこの星に流れ着いた事が分かったので取り戻しに来たのだ。」
王族たちは少年の言っている事が全く理解できず呆然としていた。しばらくして第一王子のオラーティオが発言した。
「つまりあなたはどこかにある竜の国から来た王族で、後継者争いの末「魂の半身」というなにか大事なものを盗まれたということですか?そしてそれがここにあると?」
アザニア国のある星では、まだ自分たちの住む土地が空に浮かぶ「星」の一つであるという概念はなく、当然のことながら「次元の狭間」も理解できない内容であった。また、竜自体も神話や伝説に登場する生き物で、実際に竜が存在し人の形をとっていること自体、なかなか受け入れがたい事実であった。
「…まあ、そのようなものだ。」
「そしてその魂の半身をアリシアが持っていると?」
「うむ。魂は入れ物が無いと徐々に消えて無くなってしまうものなのだ。アリシア殿を器として俺の魂の半身が入るのは理解できるが、元々アリシア殿が持っていた魂と完全に融合してしまっているのだ。このようなことは初めての事態なので、どうすれば分ける事ができるのか調べて貰っているところだ。」
その話を側で聞いていた王妃が発言した。
「そう言えばアリシアは生まれたときは死産だったのです。皆が悲しんでいると突然アリシアが息を吹き返したという経緯がございました。」
アリシアは初めて聞いた事実に驚いた。
「その時に側で漂っていた俺の魂の片割れが空の器に入り込んだのであろう。体が生き返った事で、アリシア殿本体の魂も引き寄せられて元の鞘に収まったのかもしれぬ。」
取り敢えず、解決法が見つかるまでドラクはアザニア国の王都に留まることになった。
ドラクの強さを目の当たりにした王族たちは勿論この事を大いに歓迎した。尽きかけていた食料も、帝国軍が兵糧を置いたままで全軍撤退してしまっていたので、それを回収することでしばらくは持ち堪えられそうだった。
一方竜の星では竜族の長老が頭を抱えていた。
龍の星は、この宇宙全体の中心の存在である世界樹を有する星で、神龍は代々その世界樹を守り維持する役割を担ってきた。神龍は永遠とも言えるような長い寿命を持つ生き物であるが、それでもいずれその寿命が尽きる時が来る。神龍は己の命の灯が尽きかけていることを悟ると次代の神龍を生み出す。それは卵の形状で生まれ、神龍の後継者と呼ばれている。
生まれたばかりの神龍の後継者は、あまりにも膨大な力を使いこなす事ができないため、魂の半分をその卵に封印したまま、神龍になるための修行をするのである。
しかし、いまの神龍が最初に生み出した卵から生まれた後継者は、修行の途中で神龍としての素質に欠ける事が明らかとなった。そのため卵に封印されていた魂の半身は親である神龍によって破棄され、神龍となる資格を失った。魂が半分のままでは、本来の力の十分の一も発揮できないため、神龍としての仕事を全うできないのだ。
神龍は力を振り絞り、もう一つの卵を産みだした。その卵から生まれた二人目の後継者は、幸いにも神龍になるのに必要な100年にも及ぶつらくて長い修行を見事にこなし、神龍になる資格を得た。
しかし、後継者を神龍にする魂合わせの儀式の際、卵の封印が解かれた一瞬の隙をついて、前の後継者候補だったドラクの兄がドラクの魂の半身を盗み、事もあろうに次元の狭間へと投げ捨ててしまったのだ。
「ははは!これでお前もわたしと同じ神龍にはなれぬ落ちこぼれだ!」
兄を追いかけていたドラクは慌てて自分の魂の半身を追って次元の狭間に飛び込もうとした。
「ドラク様!お待ちください!この次元の狭間は、何億という世界とつながっております!そのまま飛び込んでもあなたの魂を見つける事など不可能ですぞ!」
長老の声に寸でのところでドラクは次元の狭間に飛び込むのを思いとどまった。
「この長老めがドラク様の魂の半身の行方を占いますゆえ、場所が確定されてから回収しに行くのが得策ですぞ。」
長老のもっともな提案にドラクも納得し、長老が魂の半身の場所を確定するのをおとなしく待つことになった。
ドラクの兄はその後捕縛され、地の果ての牢獄に繋がれている。
しかし、何億もある世界から魂の半身が行きついた場所を確定するのは、思いのほか大変な作業で、(アザニア国の暦で)15年もの年月がかかってしまったのだ。
長老は一つに融合してしまった魂の分離方法について調べるため、この世界のあらゆる知識が保管されているという世界樹の根本に作られた記録の館へと赴いた。
「司書どのおられるかな?」
「これは長老殿、お久しぶりでございます。」
記録の館はガラスのような透明な素材で作られた広大なドーム状の建物で、天窓からは世界樹の木漏れ日が降り注いでいた。ドーム状の壁一面には本棚がしつらえられており、何千、何万といった本が所蔵されていた。これらの本は、見た目は本であるが実際は記録を固形化したもので、一般的な紙でできた本とは異なるものであった。
司書と呼ばれた人物も竜の一族ではあるが、神龍と同様、永遠ともいうべき長い命を持ち、代替わりするときは自らの力で後継者を生み出す生き物である。
神龍は金目黒髪であるが、司書は金目に床まで届きそうなストレートの銀髪の持ち主であった。ちなみに一般的な竜族の者たちは、黒目に青い髪を持ち、人間と同様に男女の差があって交配により子孫を残す種族である。
「後継者であるドラク様の魂の片割れが次元の狭間に投げ捨てられてしまった事は聞き及んでおられるでしょうが、この度その魂の片割れがようやく見つかりましてな。」
「ほう。それはよろしかったですね。神龍様も一安心でしょう。」
「それがそうとも言えませんでな。ドラク様の魂の半身とそれが入っている器の魂が融合してしまったらしいのです。」
「なんと!めずらしい事がおきるものですね。余程相性の良い魂であったのでしょう。」
「ええ。それで融合してしまった魂を元通りにする方法を探してほしいのです。」
「かしこまりました。私の記憶の中にはございませんが、忘れているものや見落としもあるかと思いますので、再度探してみます。」
「くれぐれもよろしくお願いしますぞ。ご存じのとおり神龍様の寿命はあとわずかですからな…あまり時間がないのです。」
「ええ。至急探してみますので、しばしお待ちを。」




