仕方がないので神さまになった
「君にこの世界、神の箱庭の新しい神になってもらいたいんだ」
神界に広がる青空の下。
創造神クリエは、旅の果てに神の領域へと至ったわたしに微笑みながらそう言い放った。
丸テーブルを挟んで正面に座る神様から発せられた、あまりに突飛過ぎる提案に、わたしは困惑と共に目を丸くする以外なかった。
わたしは人として生まれ、孤児院で育った平民だ。
ちょっと普通の人とは違う力を持っていただけで、貴族の振舞いも知らないし、王族が学ぶ帝王学だって知らない普通の女の子だ。
そりゃついさっき魔界を統治する7匹の大魔王と天界を統治する7人の大天使を同時に相手にして、殺さずに制圧してきた所だけど、そんなのは魔法の力と腕っぷし。ようするにただの戦闘力だ。
わたしのような冒険者にとっては戦闘力が大事だけど、統治者とか誰かの上に立つような人に求められる力とはちょっと違う気がする。
それが王様よりも偉い神様になれだって?
わたしは18歳という若輩ではあるけれど、旅の中で国を治める王様や、命を賭してでも責務を全うする誇り高い貴族達と出会い、話をする機会にも恵まれてきた。
彼等はみんな、高い地位に見合うだけの重責を背負っていた。
王族や貴族でそうなんだから、神様ともなれば背負う責任はもっと重いんだろうなって想像くらい出来る。
そんな大役、わたしに務まるわけがないよ。うん。
「悪いけど、わたしには無理だよ」
普通なら、そう言って即答で拒否するところだった。
けれどこの提案には、わたしを悩ませる別の一面があった。
それはクリエの提案を断れば、これからも魔界から魔族の軍勢が人界へ攻め込んでくる『天魔戦争』は続くということだった。
この白銀の髪の美青年が世界の神様を続ける限り、有史以前から何万年もの気が遠くなるほどの時を、連綿と人界の人々を苦しめ続けてきた天魔戦争は終わらない。
孤児院の兄や姉、弟や妹、大切な友人が、その子孫が、クリエが不定期に起こす戦争によって傷つけられ、命を奪われ続けることになるんだ――。
そんなの絶対に嫌だ!
かといって、わたしにこの世界の神様が務まるとも思えない。
自分の願いのために、安請け合いだなんて無責任なことも出来ない。
クリエがこれまで通り世界の神様を続けた上で、天魔戦争だけは起こさないでくれたなら――。
そんなわたしにとって都合の良い願いは、クリエは聞き入れてくれなかった。
だって彼はわたしにはっきりとこう言ったんだ。
「僕が世界の神を続ける場合、君は僕と敵対しないか?」って。
神の箱庭の所有者が、神の箱庭の全てを自由にできる。
権利を得るということは、その責任を負うということ。
創造神クリエは半端な介入を許すような甘い神様ではなかった。
だからわたしは……わたしの答えは……。
「大丈夫さ。君の力で不足ということはないよ」
俯くわたしに、創造神クリエはやさしい声音で言った。
顔をあげるとクリエの隣に座るもう一人の神様、レイスリーも不安などない温かい笑顔をわたしに向けてくれている。
2人の神様から、やさしくも力強く背中を押された気がした。
わかっている。創造神クリエと敵対せず、穏便に天魔戦争を終わらせるにはこれ以外に道がない事は。
わたしは天魔戦争を止めるために、ここまで諦めずに旅を続けて来た。
そうだ――誰もが不可能だと笑っていたこの旅だって、わたしはこうして手が届くところまで辿り着けたじゃない。
初めから出来ると判っていた訳じゃなかった。
2年前、親友のエンリから彼女の背負う重責と本心を聞かされたあの日――絶対にやり遂げると誓って、出来ると信じて踏み出したのが最初の一歩だったじゃないか。
出来るかどうかの判断じゃない。
いま必要なのは、やるしかないんだという決意と、重責を背負う覚悟だ――!
「……わかった。じゃあやってみるよ」
胸を張って2人の神様を真っ直ぐに見据える。
わたしに出来る精一杯で、この世界の女神としての責務を果たせるよう、頑張ってみよう。
こうしてわたし――冒険者ティアズ・S・オピカトーラ改め、女神ティア・S・エルカードは、人界、天界、魔界の三界から成る、創造神クリエが創造したこの世界、神の箱庭の所有者――神様となったのだった。




