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守護者の舞台

強さとは、何だろうか。


誰かを打ち倒す力か。

それとも、何かを守り続ける意志か。


目に見える結果がなくても、

届いていないように思えても。


それでも、そこに立ち続ける意味はあるのか。


答えは、簡単には出ない。


だが――


それでもなお、自分の役割を信じ続けた者がいる。


誰にも気づかれなくても、

舞台の上に立ち続けた者がいる。


これは、そんな一人の物語。

(守)


廊下は静かだった。もう平和の象徴じゃない。痛みを伴う記憶の前触れみたいな、そんな静けさ。


シンプルな靴が磨かれた床を叩く音だけが、寂しく響いてる。左側の長い窓から、夕陽の金色の光が差し込んで、床に四角い影を落としてた。ガラスに映った歪んだ反射の中に、ほんの一瞬だけ、もっと若い頃の俺が見えた気がした。あの頃の目には、もう失ったと思ってた輝きがあった。


その映像が、勝手に俺を数ヶ月前へと引き戻した。


* * *


エーテリアルと初めて直接接触したのは、あいつらが最初に現れた日でも、その後の無数の出現でもなかった。南庭での野外リハーサルの時だ。


古典劇の王子役を演じてた。名誉と守護について語るセリフを口にしてた時――空気が凍った。文字通り。青白い霜がバラの花に広がって、花壇の真ん中に、明滅する影でできた存在が姿を現した。


攻撃はしてこなかった。ただ……観察してた。空虚な好奇心で。非人間的な。


体が動かなくなった。独白が唇の上で死んだ。


その瞬間感じたのは恐怖じゃなかった。激しい否定だった。


『これ、台本にない』


馬鹿みたいに、そう思った。


『これはアカデミーの一部じゃない』


アカデミーで起こってることを受け入れながらも、夢を諦めたくなかった。でも……


その後の数日間は、アナウンス、安全プロトコル、そして背筋が凍るような現実の確認の渦だった。世界に今は『スキル』と『非実体の敵対的存在』が含まれてるって。


厳しい顔をした先生が、防御適性のある生徒たちに、バトルのためにスキルを発動する方法を説明した。俺や他の生徒に。


「君の盾が生死の境界線になるかもしれない、星山くん」


そう言われた。


ゾッとした。頭に浮かんだのは夢だけだった。立ちたかった全国の舞台。演出したかった作品。観客に湧き起こらせたかった感情。


『もしここで何かあったら』


寮の部屋の暗闇で、丸まりながら考えた。


『あそこには絶対に辿り着けない。全部……無駄になる』


目を強く閉じた。開けたら世界が元に戻ってるんじゃないかって。


戻ってなかった。


* * *


一年生のグループが笑いながら横を通り過ぎて、記憶から引き戻された。無邪気で、本物の笑い声。今じゃ普通の音だけど、長い間、贅沢品だった。


かすかに、ほとんど気づかれないくらいの微笑みを返して、歩き続けた。


目的地はいつもと同じ。でも、数ヶ月ぶりに、道のりが塹壕への行進じゃなくて、聖域への散歩みたいに感じられた。


演劇部の部室。


歩きながら、もう差し迫った危険の重さから解放された心が、もっと温かい記憶の海を漂い始めた。


なぜ演劇なのか?


答えは、鮮明でカラフルな映像として現れた。十歳の時の。


* * *


テレビのドキュメンタリーだった。大きな公演の舞台裏について。


本番の数時間前の俳優たちを映してた。声を温めて、静かな隅で集中して、変身していく。


ただのメイクや衣装じゃなかった。目の中の何かだった。


誰かが一人の人間としてバックステージに入って、別の人間として出てくる。


変装じゃなかった。変態――いや、メタモルフォーゼだ。


ナレーターが語ってた。「自分の現実が曖昧になるまで、キャラクターの現実を理解する」こと。「自分の体と魂を他者の真実に貸すこと」。


画面に釘付けになってた俺は、胸に火花を感じた。


そこにあった。


これがやりたいことだ。


その別の現実を探求して、命を吹き込んで、その過程で、人々に自分の現実を忘れさせたい。たとえ数時間だけでも。


中学で、学校に小さいけど情熱的な演劇部があった。真っ先に入部したのは俺だった。小さな講堂の埃の匂い、足の下で軋む舞台の板を覚えてる。


地方大会でいくつか勝った。豪華な賞じゃなかったけど、拍手、呆然とした観客の視線、共有された美の瞬間を創り出せたっていう感覚……一つ一つの成果が、自信を築くレンガだった。


『できる』そう思ってた。『これになれる』


母が、誇りと心配を混ぜた表情で、アカデミー・ハックウェイクのことを話してくれた時――エリート校で、最高の設備と成功の実績がある場所――そこにいなきゃいけないってわかった。


最大限の可能性を解き放つ場所になるはずだった。


到着した時の現実は、冷水を浴びせられたようなものだった。


アカデミーは灰色だった。色じゃなくて、雰囲気が。


緊張感が肌で感じられた。デジタルバトル・システムとポイントシステムが、硬直した容赦ない階層を作り出してた。廊下は無言のバトルフィールド、視線は絶え間ない評価。


そして噂があった。消える生徒、奇妙な事故、「えこひいき」や「実験」についての囁き、あらゆる種類のこと。


場違いな魚みたいに感じた。間違った舞台に立つ役者みたいに。


でも諦めなかった。


アカデミーがタレントフェスティバルを開催した時、チャンスを見た。メインホールの舞台に上がって、喪失と希望についての現代劇の独白に身を委ねた。デジタルスキルは使わなかった。声と体と表情だけ。


終わった時、一瞬、完全な沈黙が訪れた。


それから、拍手が爆発した。


客席を見渡すと、笑顔、輝く目、こらえた涙が見えた。


その瞬間、個人的な満足以上のものを感じた。この感覚を守りたいって、激しい欲望。自分のだけじゃなくて、一瞬でも灰色から逃れられた全員の。


『でも、俺の舞台は状況次第だ』


後で思った。高揚感が苛立ちに変わった。


『いつもそこにいられるわけじゃない。いつもこれができるわけじゃない。どうやって毎日、あの笑顔を守る?』


答えは演劇部の仲間と共に来た。クロエ・ハートフォード。


同じフェスティバルで見た。完璧なタイミングと伝染する エネルギーでコミカルな役を演じてた。


彼女の中に、自分が映ってた。同じ目の輝き、同じ演技の力への信念。


二人で、制御された旋風になった。授業の合間に廊下を駆け回って、小さなシーンを即興で演じて、おかしな声を出して、笑いの騒動を起こした。道化とか騒々しいとか呼ばれても、騒音で叱られても、気にしなかった。


使命は明確だった。単調さを壊して、色を注入する。叫びでも、しかめっ面でも。


先輩たちが卒業した時、二年生になった俺は演劇部の部長に指名された。迷わずクロエを副部長に任命した。


二年目は違って感じられた。俺たちが広めようとしてた色が、壁を染め始めてたみたいに。雰囲気はまだ緊張してたけど、光の閃きがもっと頻繁になってた。


そして、彼が来た。


アレン・ウェバー。


どのステレオタイプにも当てはまらない一年生。静かで、観察的で、でも視線に鋼鉄の決意があった。


驚いたことに、演劇部に入部した。


最初のリハーサル中、観察してた。アレンはテクニックが不器用で、感情表現に恥ずかしがってたけど、諦めなかった。自然には来ないように見えることを理解しようと、常に自分に挑戦してた。


『なぜ入ることにしたんだ?』


そう思った。


答えは、直感的に、演劇芸術への愛じゃなくて、もっと別の何かの探求だった。


あの生の意志が。


一度、クラスの仲間に関する厄介な問題で助けたこともあった。竜也、マウロ、アル、そして……ひめか。


ちょっと……社会的圧力みたいな方法を使った。助けられて良かったと思ったけど、それが一時的な応急処置に過ぎないってこともわかってた。


アレンとひめかの問題が解決したことは知ってた。でも、クラスの核心で何かが壊れたことも。


アレンとひめかの間で何が起こったのか、本当のところは知らない。ただ、ひめかがアレンに負けて、それが彼女の評判に大きな代償を払わせたってことだけ。特にAクラスでは。


俺もAクラスの一員として、よくわかってる。ひめかからみんなが離れていくのを、たった一度の敗北だけで、直接見てきた。


クラスには誰かがいた。「Aクラスの内部ルール」の下で全員を支配する抑圧的な存在。誰も弱さを見せてはいけない、誰も負けてはいけない。その人物は偽りの「保護」の名の下に全員を従わせてた。


知ってた。そして、何もできないことが痛かった。


Aクラスのメンバーとして、書かれてないルールの重さを感じてた。


それから、文化祭の時、凍りつくようなことを目撃した。


劇の最中、アレンのクラスのアヤって子が、台本から外れて、全講堂の前で告白した。


舞台裏で、舞台上の混乱、アレンの顔の困惑を見た。


『また自分のトラブルに巻き込まれてる』


心配と感嘆が混ざった気持ちで思った。


先輩として、後で近づきたかった。何か言いたかった。何を提供する? アドバイス? サポート?


でも言葉が出なかった。いつものように、遠くから観察するだけだった。


そして、三年生になった。


頂点。アカデミー人生の最後の幕。


自分の年になるはずだった。卒業公演を演出して、遺産を残す年。


* * *


演劇部の部室のドアが、もう数メートル先にあった。


立ち止まった。ドアに触れようとしてた手。


三年の始まりの後に来たものの記憶が、石板のように降りかかった……


* * *


夢見た年じゃなかった。


恐怖が具現化した年だった。


怪物――エーテリアル。


アカデミーは静かなバトルフィールドになった。


笑わせたかった男子は、寮の部屋で震えながら、警報音を聞いてる自分を見つけた。


スキル、『不可侵の盾インペネトラブル・シールド』は、純粋な防御。攻撃には役立たない。耐えるだけ、守るだけ。


でも隠れてたら、誰を守ってる?


極めつけは、エーテリアルの一体を間近で見た時だった。


麻痺した。


その日、卑怯な決断をした。演劇部を閉じた。一時的に、と言った。安全のために。


クロエが立ち向かってきた。


「これに負けちゃダメでしょ、守! 演劇こそがあたしたちを繋いでるのよ!」


炎に満ちた彼女の言葉が、氷の壁にぶつかった。


離れた。彼女から、他の人たちから、全部から。


授業と引きこもりの日常に沈んで、どんどん無力に感じた。


ある日、最初はヘルメットを被った女子がリーダーの生徒グループが、エーテリアルだけじゃなくてアカデミー自体にも堂々と立ち向かうのを見た。洗練された戦術は使ってなかった。純粋な決意とチームワークだけ。


自分たちを『白麗』と呼んでた。


まるで……「守護者」みたいだった。


その名前が、心の最も深いところで響いた。


……「守る」。


自分の名前、「守」は、まさにそれを意味してた。「守る」。


苦く、深い苛立ちが侵入してきた。


守護を命じられた名前を持つ俺は、誰も守ってなかった。


自分自身の周りに盾を閉じてただけだった。


恥が俺を蝕んだ。


その夜、何かをすることに決めた。何でもいいから。


時々、黒服の男たちがアカデミーの境界をうろついてるのを見たことを思い出した。いつも観察して、メモを取って、消えてた。


疑惑が血の中で沸騰してた。たぶん、全部と関係があるんじゃないか。


追跡を始めた。


危険だってわかってた。スキルは防御的。見つかったら、打撃に耐えられるけど、力強く反撃はできない。押すことしか、バランスを崩して逃げることしかできない。


ある夜、研究ラボ近くの制限区域まで一人を追った。


見たのは、秘密基地らしき場所への偽装された入口だった。


心臓が激しく鳴った。


情報はある。でも、どうする?


先生たちに行くのは危険だった。誰を信頼していいかわからない。他の誰かに話す……誰が信じる?


馬鹿げた、反抗的で、効果のない計画を決めた。


自分で立ち向かう。


毎日、男たちの出口やパトロールポイントの可能性がある場所を特定した。待って、小グループが出てきたら、姿を現した。


倒すつもりはなかった。疲れさせたかった、困らせたかった、棘になりたかった。


盾を発動した。銀色で半透明のエネルギーバリア。そして、目の前に立ちはだかった。挑発して、攻撃を避けた……時々全部は避けられなくて、防御を破ろうとしたり、追いかけたりするのにエネルギーを消費させた。


不条理な目標だった。精神的に弱らせる、誰かが監視してるって知らしめる。


『厄介なハエだ』


時々、苦々しく思った。副廊下を走りながら、フィルターをすり抜けた打撃で口の中に血の味がしながら。


『でも、これしかできない。守ること。たとえ無駄でも』


一度、しっかり捕まった。温室の近く。三人。


連携した打撃で盾を破壊された。その後の蹴りとパンチは残酷で、組織的だった。骨は折らなかったけど、数週間残るアザと明確なメッセージを残した。


「離れろ、ガキ。これはゲームじゃない」


離れた。数日間。


でも、白麗が戦ってる姿、組織してる他の生徒たちの中にアレンが見え始めたのが、無駄な任務に戻らせた。


続けた。罪悪感で歪んだ心の中では、何もしないよりマシだったから。


個人的な十字軍だった。自分の名前に相応しいと感じるための必死の行為。


* * *


部屋の中からの音、クロエのものだと思われる明るい笑い声が、現在に引き戻した。


深く息を吸った。


あの日々は終わった。黒服の男たちは、アカデミーの地下ラボの崩壊後に消えた。エーテリアルはもう脅威じゃない。バトルは終わった。


そして、俺は生き残った。


でも、何かを守れたのか?


そっとドアを開けた。


演劇部の部室は活気に満ちてた。ランプの温かい光が、様々な学年の生徒グループを照らしてた。床で台本を読んでる人たち、鏡の前で表情を練習してる人たち、シーンの照明について熱く議論してるカップル。


そして、隅で朋也と話してるアレンがいた。


そこにいる彼を見ること、普通に、風景の一部として、最後の記憶を引き起こした。


アレンがアカデミー全体の前に、学園長の前に立って、腐敗したシステムに公然と挑戦した日。


群衆の中にいた。観察してた。


アレンの声の決意、大げさなスピーチなしで他の人たちと繋がる方法……盾とは全く異なる種類の力だった。


団結させる力、鼓舞する力。


『彼は特別だ』


羨望じゃない何かの痛みを感じながら思った。深い諦念。


『本物の守護者だ。俺みたいな名前に相応しいのは彼だ。俺は……壁として立っただけ。どこに立てばいいかもわからなかった壁』


突然、疲れ果てた。


何ヶ月もの無駄な戦い、部を閉じたことへの罪悪感、全員を、特に自分自身を裏切ったという感覚の重さが、肩に落ちた。


ドアの枠に軽く寄りかかって、空虚さを隠そうとした。


「守、そんなところで一人で何してるの?」


声は優しかったけど、内側の霧を貫く温かさに満ちてた。


クロエが近づいてきた。いつもの笑顔だけど、鋭くて洞察力のある目が、俺を見抜いた。顔の苦悩を読み取ったみたいだった。


「次の傑作を企画すべき部長にしては重い考えごとね」


目の前で立ち止まって言った。


微笑もうとした。脆くて偽物に感じられた。


「ただ……思い出してただけだ、クロエ。この場所……起こった全部のこと」


クロエが頷いた。視線が一瞬、賑やかな部屋を漂ってから、また俺に突き刺さった。


「色々あったわね。でも、これ見て」


腕を大きく振った。


「みんなここにいる。戻ってきた。そして、あんたが連れ戻したのよ」


「俺は見捨てたんだ」


意図したより荒い声で訂正した。


「最も重要な時に、ドアを閉めた。俺の名前は……冗談だ」


告白がフィルターなしで出た。感情的な疲労に駆られて。


クロエは動じなかった。表情がさらに柔らかくなった。


「冗談?」


繰り返して、ゆっくりと首を振った。


「守、あたしが振り返った時に何を見るか知ってる?」


沈黙を守った。善意だけど空虚な励ましの言葉に備えてた。


「恐怖で部を閉じた演劇部長は見えないわ」


クロエが始めた。声は明確で力強く、二人だけに聞こえる。


「敵対的なシステムの真ん中で、舞台に上がって、あたしたち、多くの人に初めて、ここで何か美しいものが存在できるって感じさせてくれた男の子が見える。それはただ演技することじゃない。人間性のかけらを守ること。驚き、喜びの能力を守ること」


視線をそらした。居心地が悪かった。でもクロエは続けた。


「方法はたぶん……ドラマチックだったけど」


軽いコミカルなトーンを加えて。


「一年生の男子が、先生たちも触れない問題を解決するのを助けた守が見える。介入したのよ、守。自分のシーン、影響力を使って、誰かを社会的不正義から守った。それは『まもる』じゃないの?」


「馬鹿げたことだった……」


つぶやいた。


「重要だった馬鹿げたことよ」


彼女が主張した。


「それから……噂がある」


横目で見た。


「どんな噂?」


「銀色の幽霊の」


クロエが声を囁くように落としたけど、愛情に満ちてた。


「人通りの少ない廊下に現れて、不吉なグループと迷子の生徒の間に立ちはだかって、他の人が逃げられるように打撃を吸収した。歩く盾。誰かはわからなかったけど、バリアの色が……舞台照明みたいな温かい銀色だったって言う人もいる」


息が詰まった。


知ってた。少なくとも、疑ってた。


「いや……大したことはしてない。困らせただけだ」


恥ずかしそうに告白した。


「あたしたちに害を与えようとした人たちを困らせたのよ」


クロエが訂正して、優しく腕に手を置いた。


「棘だった。でも、合図でもあった。全員が頭を下げる気はないっていう合図。誰かが、最も頑固で馬鹿げた方法でも、立ち上がって『ここまで』って言う覚悟があったっていう。それも、守、守ることなの。希望を守る。抵抗しなきゃいけないっていう考えを守る。あんたの盾はエネルギーだけじゃなかった。頑固さ、演劇部への情熱、絶え間ない存在だった。ドアが閉まってた時でさえ、あたしたちの記憶の中でこのスペースを守ってた。そして今、またあたしたちに所属する場所を与えて守ってる」


クロエの言葉は、とても具体的で、本物の理解に満ちてて、俺が自分の価値の周りに築いた氷の壁を壊し始めた。


漠然とした賛辞じゃなかった。


見ることを拒否してた行動のバージョンを映す鏡だった。


喉の結び目がきつくなった。


アレンが朋也と笑ってるのを見た。今回は羨望を感じなかった。奇妙な誇りだった。


それぞれに戦い方があった。アレンのは団結させること。俺のは……たぶん、ただそこにいることだった。


盾のように。


静かに、しっかりと、存在して。


「クロエ……」


何とか言えた。抑えた感情で声がかすれてた。


彼女はただ微笑んだ。『わかってる』って言ってるような笑顔。


それから付け加えた。


「だから、自分の名前を過小評価するのやめて。『守』は完璧に似合ってる。思ってる以上に守ってきたから。そして、あんたの守り方、演劇を通じた守り方こそ、今最も必要なもの。自分が誰かを思い出させてくれる、灰色から引き出してくれる」


ゆっくりと頷いた。唾を飲み込んだ。


疲労は消えなかったけど、変わった。もう罪悪感の重さじゃなかった。長いバトルの後の疲れ。前を見ることを許す疲れ。


「ありがとう、クロエ」


今度は感謝が深かった。嵐の後の穏やかな海。


「卒業したら……市の演劇学校に出願する。もっと学びたい……必要なんだ。キャラクターを演じるだけじゃなくて、錨になれる俳優に。単調な世界に、悲しみや恐怖に囚われてる誰かが、作品で、シーンで、廊下での単純な馬鹿げたことで、一分でもそこから引き出せる小さな錨」


クロエが見つめた。目が激しい誇りで輝いて、視線を保つのが難しかった。


「知ってる」


ずっと確信してたように言った。


「成功するわ。だって、それがずっとあんたの本当のスキルだったから、守。盾じゃない。その……ドキュメンタリーで点火した火花。それが多くの舞台を照らすのよ」


深く息を吸った。部屋の空気――チョークの粉、紙、若者の夢で満ちてた――が突然、世界で最も純粋に感じられた。


みんな、クロエ、アレンを最後に見渡して、ページが閉じられるのを感じた。苦々しくじゃなくて、約束と共に。


部屋を出た。騒がしさを後にして。


夕暮れの廊下がまた空だった。


歩いた。でも今は歩調が違った。


より軽く、より決意を持って。


記憶はもう重くなかった。ここまで連れてきてくれた階段だった。


この新しい始まりまで。


窓の反射を通り過ぎる時、もう苦悩してる自分は見えなかった。


未来の舞台に目を向けてる自分が見えた。次の大きな役を演じる準備ができてる。


自分自身の役。守。


感じさせる芸術に盾を見つけた守護者。

次回――


見えない悪意。


すべてが終わったはずの世界で、

それでも消えないものがある。


それは制度ではない。


もっと静かで、もっと根深いもの。


視線。沈黙。距離。


何もされていないようで、

確かに傷つけているもの。


そして、その中心にいる少女。


かつて守られたはずの存在が、

今度は別の形で孤立していく。


過去の選択が、再び影を落とす。


見過ごされた感情。

積み重なった歪み。


それが、ついに表に出る。


これは戦いではない。


だが――確かに“対峙”だ。

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