第十四話、ケイデンス
”シェープシフター“の事件の後、キバたちは”エリンステーション“に帰って来た。
前回キバは、ユキノのハーレムマスターに登録された。
ついでにキバとユキノ達で、冒険者のパーティーを組んだ。
ユキノの財産と、永久凍土装甲のケアの仕事で十分食べていけるが、
「ヒモの生活などありえないっっ」
と、キバが強硬に主張。
「うふふふ」
ピトッ
ユキノがキバの二の腕にひっついている。
前回から、基本、ほぼこの体勢だ。
階段とか、ひょいという感じでユキノを二の腕に乗せて、上り下りしているからキバも大概である。
「あ、そうそう、キバ君の”知識や情報“にも報酬が出てるからね」
華麗な女スパイ?の女装をした監察官が言った。
例えば、”オマメさん“の起動方法とか。(とりあえずイカせましょう)
意外と小金が貯まって来たので、酒場のバイトはやめている。
「そういえば」
後ろに控えている”ヤマ“を見て、
「ユキノとヤマさんは、実の姉妹なんだろう?」
ユキノはスノーオーガーから、取り替えっ子で生まれてきたユキメ族である。
スキルが強力だったり暴走する時がある。
ヤマとは、両親とも同じだ。(父親が、ユキメの女王のハーレムマスター。 二人の母は、女王のハーレム要員)
「そうですわ」
「そうだぜ」
二人が、首をかしげてこちらを見る。
よく見ると、仕草がそっくりだ。
「なぜ?」
――ヤマとか姫様呼びなんだ?
「そりゃあ、勤務時間内だからなっ」
ヤマが言った。
ユキノがうんうんとうなづいている。
「ユキメの王族にやとわれて、侍女をしてるんだぜ」
仕事とプライヴェートは分ける。
そういうところは、二人とも律義だった。
「あらっ」
「ふふふふふ」
ユキノが何かを思いついたようだ。
キバの耳元に顔を寄せる。
「姉妹丼も可能ですわよ」
うるんだ瞳をキバに向けた。
――そういうところは、いい加減なんだよなあ
――言ってるだけなんだけどなっ
キバは、しみじみと思った。
◆
ドオオオオン
グラグラグラ
酒場全体が揺れる。
夕方5時を過ぎた。
勤務時間終了っ。
”シェープシフター“の事件が落ち着いた後の、最初の夕方だった。
「観察官っ、いや、アンディッ」
「部屋に行くぞお」
ヤマだ。
食堂の壁に監察官が、壁ドオオオオンされている。
「な、なんだ、なんだ?」
ザワザワザワ
夕食前の酒場である。
いつものゴロツキたちの他にも、客が沢山いた。
「ふふふふ」
「お前は、俺のことが好きだなっ」
「俺も好きだっ」
ヤマが、パッと頭のホワイトプリムを取り去った。
黒髪が流れる。
瞳は完全に情欲に濡れている。
「はっはいっ、大好きですっっ」
アンドロギュヌス監察官が大声で言った。
「では、続けっ」
「コルドバ星人のピーーは冷凍ピーー!!」
ザッザ、ザッザ
「お前によしっ!!」
ザッザ、ザッザ
「俺によしっ!!」
ザッザ、ザッザ
「味よしっ!!」
ザッザ、ザッザ
「全てよっしっ!!」
ヤマの居室まで続いた。
監察官も後ろをついて行った。
中に入る。
パチ
パチパチ
オオオオオオ
パチパチパチパチ
「すげえ」
「だれも真似できねえぜっ」
食堂に大きな歓声と拍手が起こる。
唖然とした表情のキバが、食堂に残された。
――姉ちゃんも頑張ってるわねえ
二の腕から、キバの顔を見上げながらユキノは思った。
「ふううん」
ヤマの声だ。
投げ間合いで、レバー一回転+パンチボタンだ。
ピッカ~~~ン
「ファ~イナ~ル」
「アトミ~クッ」
「バスタ~~~~」
投げ間合いで、レバー二回転+全てのパンチボタンだ。
深夜、ヤマの部屋から聞こえてきた声の内容である。
キバは、二人はプロレスごっこをしているのだと、思うことにした。




