第三話
「ウチの社、撤退することになったよ」
久しぶりに会った洋平から急に切りだされた。まぁ理由が目の前に広がってるこの光景だってことくらいは分かる。このホテルのレストランから9ヶ月ぶりに見たダルエスサラームの港には、東京湾もびっくりするくらいにガントリークレーンが増えてて、浚渫船が泥水かき回してて、どー見ても気質に見えない貨物船が沖のほうまで列作ってる。
洋平がここの営業拠点からいなくなるってコトは、この物騒な街をガード無しに歩くってことになるから、もう気軽に出歩けないってコトね。地味に困る。そもそもあなたが誘ったNGOなのに先に抜けて、そん時の人脈使ってエリート商社マンとかずるくない? って思ってたのにまた先に抜けるって言うの??
「……こうもあからさまにやられちゃ民間企業じゃ太刀打ちできねーよ」
まぁ、そうよね。そりゃわかるけど、私はどうなんのよ。
「あいつらまだ田舎までは進出してねえし、する気もなさそうだから大丈夫じゃねぇか? あと数年は」
うーん、そうかなぁ。
「それよりさ、たまには東京帰んないか? オレは来月にはここ畳んで本社勤務になるからさ。次は賃貸じゃなくってマンションかなんか……」
そう続ける洋平のコトバを半分以上聞き流しながら、私はこの間ブマワ村で見た景色を思い出していた。
野焼きの季節でもないのに地平線に立ち上った細くて黒い煙のことを。