後輩たちと過ごした日々
今回は『青鳥』のリーダーを支えてきた物腰柔らかな男の人のお話みたいです。
どうぞ、ごゆっくり。
拝啓、兄さん。
今、僕が働いているところは、僕がよく話していたあの問題児がリーダーをしています。
信じられないでしょ?
僕も信じられてないからね。
でも──事実みたいだから、頑張ってる。
みんなが彼をクズとか言うけど、彼は彼なりに一応頑張ってるし、応援をしようと思う。
だから、見ていてね。
──十二年前の春
ある放課後の時だった。
いきなり、そのときはやって来た。
ガシャン、と大きな音も共に。
───窓ガラスが割れた。
割れたガラスから僕のところまでは机二つ分。
もとより、ガラスが割れることを窓から外を眺めていた為、知っていた僕は、破片が飛んでくるのを下敷きで防いでいた。
………今日は何が起こるのかな?
クラスでヤンチャな部類にはいる人達が、割れた窓から外を見る。
そこにいたのは下級生三五人みたいだ。
男の子が三人と女の子が二人。
だいぶ怒っているクラスメイト。
下級生の謝っている声が聞こえるのに無視。
うわ、無情だなー、とか思いながら、鞄を片付ける。
その時、ちょうどクラスメイトが下の下級生にそこを動くなとか何とか言っているところだった。
あー……嫌な予感する。
「よし、今クラスにいるの男子全員でシメに行くぞ!」
ほら来た。
面倒だな……なんて言うと殴られそうだから黙って従う。
僕以外は乗り気みたいだ。
………アホらし。
階段をおり、クラスメイトは靴も履き替えずに向かった。
僕は履き替えたよ?
だって来年は高校受験。
馬鹿なことしたくないじゃない。
両親や祖父母にこれ以上苦労してほしくないし。
だから、後ろから見守っていようってね。
ついでに馬鹿を見て、内心笑ってやろうってね。
そんなことを思いながら、外に出ると、クラスメイトが下級生を囲んでいた。
下級生は、五人中の男子二人は顔を真っ青にして怯えていた。
……あと三人?
女の子二人はあーあ、だから言ったのに、みたいな顔。
あと一人はね、真っ青にして怯えていた男子二人と同じような顔してたよ?
でも、なんか少し違う。
僕と似たような…………
そう、この状況を、後ろから見て笑ってやろうって奴の目をしていた。
みんな気づいてなかったみたいだけどね。
教師に見つかると厄介だから、という理由で校舎裏に連れ出した。
「(ありがちな漫画みたい)」
そこで始まるのは、一方的なリンチ…と、思っていたのだけれど…。
──案外、世界は面白い作りのようだ。
僕と同じような目をしている子が、他の男子二人を逃がしたと思ったら、女の子……の、黒髪をポニーテールにした女の子が無双をし始めた。
───え、なにこれ。面白い。
僕の感想は変なものだろう。
でも、そう思った。
だって、体格もそれなりにできあがってきた中学二年の男子がまだ小学校から上がりたての女の子に殴られてるって………。
単純に、面白いだろう?
それから間もなくして、逃げていくもの数名、倒れたもの数名で決着がついた。
あー面白かった。
「……君、強いね。すごいや」
「お誉めいただき有難うな、先輩。で?お主はどうするのじゃ?」
変わった喋り方だ。
「どうもしないけど。僕はただ、馬鹿なことして、成績を下げに行くクラスメイトに無理やり駆り出されただけだからね。ついでに笑いに来た」
「……すごい考え方じゃのう?とはいえ、この馬鹿のせいで巻き込まれたのは事実。今すぐ土下座させよう」
耳を疑った。
女の子に全く興味も知識もないが、僕の目から見ても可愛い、大和撫子のような女の子の口からだいぶ酷い言葉を聞いた。
「ほれ、妾にすべてを任せて傍観しておった屑め。さっさと土下座せい」
「いやいやいや、そこまでする必要ないよ!?僕はなにもされてないし!」
「しかし……」
「いいってば。ね?……って、よく見たら君、蹲ってる?」
「…私が、制裁加えたので。」
制裁!?
まって、こっちは一言で美人と表せる女の子だよ!?
え!?制裁!?
「………ね、ねぇ………手加減って………知ってる?」
「…………………………知らない」
「嘘だよね!?」
「まあまあ!落ち着いて!?君、大丈夫?」
「あー……はい。叩かれた痛みは引いてきました。心の痛みは引いてないんですけど」
「それは……カウンセラーのところ連れていこうか?」
「いえ、いいですよ。クズへの扱いはいっつもこんなんなんで」
よっ、と彼は立ち上がった。
そして、こちらを向いて笑顔を向けた。
「ところで先輩?あんたさっき、笑いに来た、とか言ってました?」
「ん?言った………ね」
その言葉を聞いて、彼がにやぁ、とすごく悪い笑みを浮かべた。
「まさか……こんなところで同類に出会えるなんて!!」
「…………へ?」
「………妾は帰るぞい。」
「……私も帰りたい…」
「あぁ、俺も帰りたい。先輩、今から帰ります?」
「え、あ、こいつらを保健室に運んでからね」
「じゃ、手伝いますよ」
「君、見返り求める気でしょ」
「よくわかりましたね!」
「はぁ………じゃ、頼むね」
「………あ、よく考えたら、運ぶ必要、無いですよ」
「え?」
「ねー、そうでしょ?いづ」
「………だから早く帰ろうと思ったのに」
いづ、と呼ばれた女の子が綺麗な顔に嫌そうな表情を浮かべて此方へくる。
「………はぁ…」
──その瞬間、その子の手から光が出てきた。
これは、能力か。
運ぶ必要ない、ということは治癒系なのだろう。
見ているとその通りだった。
傷がみるみると治っていった。
逃げていったのもいたので大した人数いなかったからか、すぐに終わった。
「……終わった」
「よーし、じゃ、帰りましょ?先輩!」
「え、あ、う、うん?」
あれ、いつの間にか僕も巻き込まれてる。
まあ、いいけど………
その後、彼らの準備が出来るまで校門で待つ、という約束を取り付けてわかれた。
その前にやることがあったので、公衆電話に向かったけど。
「………もしもし?母さん。うん、伊織です。今日、後輩と帰ることになったから帰り遅くなるかも。………うん、先食べててね。………うん、じゃあ」
電話を切る。
仕事が一段落ついていたみたいだ。
そうでなければ留守電をいれることになる。
繋がって良かった。
そう思い、電話ボックスを出て、校門へ向かう。
もうほとんどの生徒が帰宅していたので割と静かだった。
その時、三人が走ってきた。
「先輩、待ちました?」
「…ごめんなさい」
「すまんのう」
「いや、大丈夫。母に電話してたからね」
「そうですか~、待たせていないなら良かった!では帰りましょう!」
………そういって彼は歩き出した。
「……僕は若葉伊織。君たちは?」
「礼儀正しいですねー?俺は成宮彩雅です、なんとでもお呼びください」
「……糸坂いづる」
「夏野目桜之じゃ。よろしくたのむのう」
「よろしく。ところで……彩雅君。なんで僕と帰りたいの?」
「面白い人だなって思ったんで興味を持ちました」
───すっごいストレートに言ったな……。
変わった子だと思ってたけど、その認識は一ミリたりとも間違ってないみたいだ。
「ねぇ、伊織先輩。どうしてそんな達観した顔してるんですか?」
「え?僕、そんな顔してる?」
「……私にはわからない」
「妾もわからん」
「なんというか………人生を楽しんでない人の顔?」
「…………………………」
「あ、図星?」
「……まぁ、そうだよ。よくわかったね?」
「だって、その顔は見飽きるほどに家で見ましたもん。外ではなかなか見かけないし、貴方がこの学校内で一番そう見えたんで」
「ふぅん……話したくないから、話ずらしてもいい?」
「わざわざ聞く辺り、既に変な人ですよね。どうぞ」
君に言われたくはない、と思いながら言葉を発する。
「……成宮って、大手企業の彼処?糸坂は島の一番大きい病院の……。夏野目は高級文房具のメーカーだよね?」
「………正解です」
「いづや妾はわかりやすいからともかく、サイガのことまで、よく気づいたな?」
「いや、育ち良さそうだなって」
「……まあ、その通りだけど。伊織先輩はどこ出身?」
「東区」
「!?……私たちと、同じ…」
「……よう考えたら、若葉か。」
「?何が?」
「…若葉って、有名な呉服屋だよ」
「妾のところはだいたいそこで買っておる。そういえば、祝儀で見たことがあったかもしれん」
「僕は次男だから三年前まではのんびり生きてたんだけどね」
少し嫌な思い出だ。
あまり言いたくはない。
「そうなのか」
「なんかあったんですか?」
「……身内に不幸があってね」
「そりゃまた災難な」
軽いなこいつ、と思う。
まあ、見た目は悪くないし、絡んでも大丈夫だろう。
「そーだ、先輩~?これから暇ですか?」
「?うん、母には遅くなるかも、って入れてあるよ」
「じゃ、家に来ません?」
「へ?いきなり、今日知り合った人を家に呼んでいいの?」
「全然構いませんよ~。父様は家にいないし、せいぜい弟妹がいるぐらいですから!」
そして、連れてこられた成宮君のお家。
うん、デカイ。
これが中区にあるのがすごい。
東区なら、土地余ってるよ。
と、言ってみた。
「あ、東区に別荘あるんで」
───金持ちだった。
そんなデカイお家の中に入るとまず──
「彩くん、死ねぇぇぇぇぇェ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
電撃が横から飛んできて、成宮君の体を吹っ飛ばした。
………え?
「ら、雷羅!なに!?」
「なに、じゃなイ!私のフラスコ、ペンキまみれにしたでショ!!」
「……………あぁ!あの邪魔くさいのか!」
「殺ス」
「きゃー、先輩、助けてー」
「あぁん?」
ちょ、女の子こっち向いちゃったじゃん。
俺、死ぬよ?
あ、でも助けなくても死にそう。
とりあえず……………
「こんにちは、僕は若葉伊織。成宮君の学校の先輩です。君は?」
「……………………成宮雷羅。そこのクズの妹」
はっきり言ったな。
この子も凄いわ、うん。
「雷羅!急に走り出してどうし──────お客様?」
「……ちょ、愁……俺の心配してよ…………」
「お前はそのくらいで死なねぇだろ」
どうしようこの兄妹。
扱い辛辣すぎて可哀想に思えてきた。
「…どうも。成宮愁と言います。失礼ですが、貴方は……」
「あ、僕は若葉伊織です。よろしく」
「…うっす……こいつ、人付き合いとか超が二万ぐらいつくほど苦手なんで、どうぞよろしくお願いします、若葉さん」
「………う、うん」
「あっ!若葉先輩言ったね!?俺のこと見張る、みたいなこと言いましたね!?」
「見張るとは言ってないんだけど…」
「あ、見張らなくてもいいんですよ!ただ、仲良くしてください!」
………明るい子だなぁ。
そんな印象をもった。
しかし、隣から妹さんに殴られてる辺り、不安になるけど。
「……仲良くするんならさ、僕のこと、名前で呼んでくれない?名字はむず痒いからね」
「いいんですかっ」
「うん。あ、でも他の奴等の前では控えた方がいいかも」
「?なんでです?」
「……危ない奴、いるからね」
「「…それ、気にする必要ないと思う」」
「え…」
えと……愁君と雷羅ちゃん、だっけ。
その二人が同時に喋った。
気にする必要ないと思う、とは……?
「だって、この馬鹿の方が狂ってるからネ」
「こいつと仲良くするなら、俺、試してなかった練炭やるわ」
「…………え?」
どうしよう、話についていけない。
てか、練炭………?
「まあ、若葉先───じゃない。えと…伊織先輩!これから、学校でも他でも、よろしくお願いしますね!」
「あ、うん。よろしく、……彩雅君」
─────そのときは疑っとけば良かった、ってすごく思ったんだよね。
だって、本当に狂ってたんだもの。
その後、彩雅君はね。
まず、一年生を全て支配下に置いたんだ。
勿論目はつけられるわけで。
その後に、桜之ちゃんが……ね。
僕にも飛び火がかかるかなって心配してたんだけど、何故かかからなくて。
彩雅君、気を使ってくれたのかな。
僕が大学まで行きたい、って言ってたのを聞いていてくれたのかな。
……多少は荒々しい手も使ってたけど…僕にとっては大事な後輩なんだよね。
うん、見守ってあげようかな。
そこで、扉が開いた。
「あっ、伊織先輩ー」
「やぁ、彩雅君。どうしたの?」
「お仕事入ったんだよねー。電話に出ないから、ここかなって思って」
「よくわかってるね……GPSでもつけてるの?」
「……………………」
「え、ちょ、嘘でしょ」
「………さ、行こうか!」
「え、嘘じゃないの?え?」
「ほらほら、行くよー?今日は南区で聴き込み~」
…………はぁ、変わったようで変わってないや。
また来るね、兄さん。
次こそは起きててよね。
もう十年以上待ってるんだから。
他のメンバーにも、是非会ってね。
ばいばい。
そう思って、僕は病室の扉を閉じた。




