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青い世界と、きみが  作者: ひろい
なぜ青く、なぜキミなのか?
49/61

#48

 思わず叫んだ俺の守護天使を名乗る男は声に応えるように、左肘が外し、そこからなにか、よくわからない光の筋を放射し瓦礫を、蒸発させた。

 まるで創作物の中で見る、レーザーだった。

「進め。道は、オレが作る」

 戸惑い見上げた俺に、要は笑みと共に、アゴをしゃくった。

「行け」

「ああ」

 駆け出す。途中通れない瓦礫の山が出来ていた。這い上がって、一気に下った。途中どう考えても建物が横に地滑りしたとしか思えない壁じみた空間があった。要が空けた穴に体を滑り込ませた。途中足元を、亀裂が走った。穴に落ちる直前、要が飛んできてぼくの手を取ってくれた。引き上げられ、這い上がり、再び進んだ。道は険しくなっていく。体も傷ついていった。それが、嬉しかった。これは先ほど見た未由の光景に近づいていっているということだった。

 馬鹿でかいトレーナーが、横腹を見せて道を塞いでいた。

「要――――ッ!」

 ぼくの言葉に応えるように、要は左肘も取り外し両腕から巨大な光の塊を解き放ち、トレーナーを粉々に、吹き飛ばす。爆風と細かい残骸が身を打ち、その視界に――

「第一種、都市防衛システム」

 冗談のようなロボットが、現れた。

「…………」

 言葉を失う。ロボットには手もあり足もあり、そして丸い頭もあった。そしてそのどれも、信じがたいほどに巨大で、無骨だった。まるでクレーンの足、ブルドーザーのような手、そしてミサイル発射を指示するコクピットのような、その頭と目。

 その三階建ての家に匹敵するほどの右腕が、振り上げられる。恐怖も絶望も超えて、ただぼくは呆然としていた。振り下ろされる。

 ごぉん、という腹に響く音。

 目の前に、鋼の翼が見えた。

「……要」

「オレが共にいけるのは、ここまでだ。場所はほぼ、特定できた。このまま、真っ直ぐに行け。いいな? 思考を止めるな。自分で考えて、決めるんだ。わかったな?」

 その笑みに、ぼくは初めて笑みで、応える。

「……わかった。今は、オレは、未由を――助けてくるから!」

 恥ずかしくなるような単純な答えを叫び、ぼくは親友に背を向けた。微笑みが、送ってくれた気がした。

「さて……やろうか、K-litec9」


 真っ直ぐ。あの子を、目指して。

 もう三十分も走り続けた気がする。だけど実際は五分程度しか経っていないような気もする。走るなんて経験、ほとんどない。だから正直、目測は難しい。

「……ハッ……ハッ……ハッ」

 息を荒げて、足を前に進める。さっき何故あの場面でトレーナーが道を塞ぎ、そして動画から飛び出してきたような

ロボットがいたのか。要が指し示してくれた道を行くうち、わかってきたような気がした。

 ぼくはずっと、瓦礫が作った城壁のようなバリケード――の中心にあいた不自然な獣道を、走り続けていた。

 もう確信に近かった。これこそが先ほど要が見せてくれた、近くに居るであろう潔子ちゃんの視線を通しての映像へと続く、場所なのだろうと。

「ハッ……ハッ……ハッ……」

 息が乱れる。これは疲労のためだけではない。動悸といってもいいかもしれない。興奮。焦燥。同様。様々な感情が入り乱れる。その中でも、正直緊張と恐怖が、なにより胸の裡の大半を占めていた。

 久々にあの子に会う、という緊張。なにを話せばいいのか? なによりうまく話せるのか? そもそもが会話が成り立つ、つまりはあの子がぼくと話してくれるのか?

 危惧もある。あの子は映像の中でいっていた。もういいんだと。消えちゃいましょうと。なにが未由をそこまで追い詰めたかわからない。ぼくのことがどう絡んだのかは、わからない。だけど結果的にぼくの恋心が、好きだという気持ちがなにかしらの原因を使った可能性は、否めない。わたしを守りたいと言っていた。その結果ここに至ったあの子に、ぼくの心は届くのか? あの子を、止められるのか? むしろ逆効果に、ならないか?

 恐怖が、背筋を駆け上がる。

 ぼくがどうこう、という話じゃない。あの子が――居なくなることなんて、考えたくないし、考えられない。

 あの子のことを考えてきた。どうすれば話を聞いてくれるか。ぼくがどうこうという押し付けは、したくなかった。ただ当たり障りのない話で、接していたかった。新しい関係を、冷静にって、

 ――なのに今さら、意見を押し付けることなんて、出来るのか?

 矛盾する心が体に反映されたのか、足元の石に躓き盛大に、転んだ。体が宙を舞い、肩から落ちた。コンクリートがなくなったむき出しの地面は砂利だらけで、痛かった。くそっ! 悪態をつき、頭を起こす。

 そこでぼくの視界に、青い街の最奥の光景が飛び込んできた。元の無機質に、すべてが整然とされたその威容は、完全に消え失せていた。ただそこにあるのはボロボロに崩れ落ちた瓦礫だけ。それはもはや名前もつけられることもない残骸。ここまで来てもなお、それは今まで見てきた街の様子と、ただ量を除きまったく変わらないものだった。

 それに一瞬、ぼくは落胆とも快感ともつかない感覚を抱いた。

 しかしその一瞬あと、その何もかもが吹き飛んだ。


 道の先に、うつ伏せに倒れる小さな背中を見つけた。


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