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第37話 光翼騎士団上席会議


 光翼騎士団総本部はレイドル帝国の帝都エルディアにある。

 しかもその場所は、王宮に入るためには必ずこの総本部の目の前を通過しないといけない場所に鎮座している。まさにこのレイドル帝国の砦としてこの帝都と王宮を守っているのである。


 俺は今、そんな光翼騎士団総本部の一番奥にある会議室にいる。

 シューリア王城の煌びやかな応接室とは違い、壁も木目丸出しの板張りだし、机だってただの長机に見える。

 天井を見たってシャンデリアが並んでる訳でもない。

 だがこの部屋こそがこの光翼騎士団の方針、ひいてはこの国の軍事関連の動きを決定する場所なのだ。


 「なんかシューリアのあれ見た後だと凄い質素だな」

 

 俺は会議室の木の椅子を二つくっつけてその上にお座り状態のままで思った事を呟いた。


 「応接室と比べないでくださいよ。ここには基本的には内部の人間しか入らないんですからお金をかける必要なんてないんですよ」


 そう言って俺の右斜め対面に座っているゲイルが答えた。

 

 「そんなもんか。この建物の見た目に対して質素すぎると俺は思うがな」


 この総本部の建物自体はなかなか豪華なつくりをしているのだ。

 外面には魔法を吸収し軽減する真っ黒の高級魔吸石のレンガが使われていて、さらに4階立てだったりする。

 この街の建物は基本的には平屋や二階建てまでの建物しかないので凄く目立つ。

 王宮の目の前にそびえ立つ黒塔と帝都の住民からは呼ばれている。


 「あーあれっすよ。外見にお金掛け過ぎて内面まで手が回らなかったってやつっすよ」

 

 俺の右横の席からエーチが口をはさんだ。

 さらにリードが俺の対面から口を開いた。 


 「私達は実際のところ会議室なんてあんまり使わないですからね」

 「え、使わないの?」


 「エメリアは会議が嫌いですからね。寝ないようにさせるのがどれだけ苦労するか……」

 リードは苦笑しながら第一席のお目付け役としての苦労話を聞かせてくれた。


 「じゃあどうやって色々決めてるんだ?」

 「エメリアの思いつきですよ」

 「そうですね」

 「そーっすね」


 俺の問にリードが簡潔に答え、他の二人がそれに同意した。


 「思いつきって……」

 「でも、エメリアの思いつきはなかなかのもんですよチロっち」

 「そうなのか?」

 「そうそう、この前のシューリアのやつだって大体エメリアが……」

 「む」

 「あっ」


 シューリアのやつって……あれ全部エメリアが仕組んでいたのか?

 俺があの事を未だに引きづっていると思ってエーチが顔を背けて口笛を吹いた。

 なんだろう。コイツムカつくけど憎みきれない……。


 「もう別に構わねえよ。今日はその対価を貰いに来たんだ」

 「そーなんすか?」

 「ああ」

 「もーチロっちったら~。あっし焦っちゃったじゃないっすか~。このこの~」

 

 前言撤回、イラっとした。今間違いなく俺はイラっとした。


 「グルゥ」

 「ひぃっ! やめてっす。あっ!噛まないで。食べないでっす」

 

 俺はエーチに向かって大きく口を開けて威嚇する。


 「待たせたか?」


 俺とエーチがじゃれついていると会議室のドアが開き、エメリアが入ってきた。

 

 「おう。危うくエーチを食っちまうとこだった」

 「続けて構わねえぜ。左腕ならチロにやろう」

 「ちょっ! ちょっと待ってっすエメリア。あっし五席っすよ! 大魔法使いっすよ!?」

 「大魔法使いなら右手がありゃあ十分だろ?」

 「意味わかんねーっすよ」

 「じゃあ、遠慮なく。ぐるぅぁ!」

 「いーやーっ!!」


 俺は椅子から立ち上がり牙をエーチにさらけ出しながら飛びつく。

 俺よりも早く、エーチは椅子から立ち上がり壁際にまで退避した。

 そんな、俺達を見てこの会議室にいるメンバーは笑顔を覗かせていた。


 「ハイハイ。冗談はそこまでにしておきなさい」

 ひとしきり笑った後、学校の先生よろしくリードが場を治める。


 エメリアも席に着き、それを見た俺とエーチも大人しく自分の椅子に戻った。


 


 実はエメリアと会うのはこれが初めてではない。

 シューリアから戻った際に報告した時が初めてだった。それからは午後に暇を持て余したエメリアがアイナと世間話をしに家を訪ねることがよくある。その時には自然に俺も混ざるので割と話しやすい関係だったりするのだ。

 エメリアはアルテイシアと姉妹と思えないような粗暴な男口調の喋り方をする。

 ただ、アルテイシアと同じく女性としての整った顔立ちとショートボブの真っ白の髪をしているので、俺の中では『僕っ娘』ならぬ『オレっ娘』といった印象が強い。

 こんな綺麗な見た目の人間が、怒りに任せてシューリアの城壁をぶち抜くんだからこの世界はわからん。

 


 「では、始めましょうか」

 

 俺が椅子に戻ったのを見計らって、リードがこの会議の進行を始めた。

 ちなみに、今回のこの会議の名目は『キスカ大森林の守護獣への受け渡し事前調整』なのだそうだ。

  

 出席者は第一席エメリア、三席リード、五席エーチ、書記としてゲイルだ。

 本当にゲイルはいいように使われているな……。


 二席は空席で、四席は今別大陸にいるそうだ。

 

 「ああ」


 エメリアがリードに許可を与える。


 「ではチロ。まずはこれを」


 そう言ってリードが俺に向かって紙を二つ机の上に差し出した。

 その紙にはミミズが這ったような後がグチャグチャと並んでいるだけで全く読めない。


 「これはなんだ? 俺は喋れるけどまだ読めないんだ」

 「そうでしたね。まずこちらが……」

 そう言って、リードは俺の左側の紙を指さす。

 「レイドル帝国の守護獣契約書です。内容はチロに自治権を与える代わりに国の守護をお願いしますという内容です」

 

 リードが長々と書かれている文章を要約してくれた。

 「魔物にも契約書を発行するのか。律儀だな」

 「オレは別にいいだろって言ったんだけどな。アルテイシアとリードが妙に頑固でな」

 

 エメリアはもう飽きてきたのかあくびをしながら言った。


 「当然ですよ。チロには知性があるのですから、契約というのはしっかりとしたものでないといけません」

 リードはそんなエメリアの態度を咎めるように少し強めの口調で言う。


 「はいはい。続けて続けて」

 エメリアはもうそんなリードの態度に慣れきってしまっているのか相手にもしない。

 左手をしっしと動かして進行を促す。


 リードは珍しくむっとしながらも俺との話に戻る。

 「そしてこちらが、守護獣自治区の引き渡し契約書です。内容はチロのキスカ大森林での自治を認めるというところです」

 「つまり?」

 「チロにキスカ大森林をやるってことだ。好きに使え」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。


 俺は心の中で大声で絶叫した。

 俺……大森林の長ってことか? 自治区の長だから領主ってことか!?


 大出世じゃねーか。

 前から分かっていた事だが、いざ契約書を前にするとテンションが上がる。

 いい! これはいいものだ!! 契約書グッジョブ!

 書かせた、リードとアルテイシアもグッジョブ!!







 それに……これでやっと……ペコとロニとでゆっくり落ち着いて暮らせる。

 人間が攻めてくることも無い。命の危険もない。

 三匹でまたあの巣に戻って一緒に……一緒に……。


 「よかったですね。チロ」

 「あっしも遊びに行くっすからねー」

 

 リードとエーチが明るく声をかけてくれる。

 俺はエーチに返事をしようとして気づいた。


 視界が歪み……。

 俺は泣いていた。

 

 目が熱い。頭がボーっとする。

 そんな俺を見て、エーチが優しく頭を包み込むように抱き着いた。

 

 「いいんですよ。チロっち。嬉しい涙は周りを幸せにするっすよ」

 

 俺はエーチに抱かれながら涙を流し続けた。


 長かった……。

 

 




 俺が落ち着くまで会議室では無言で涙を流し続ける俺とそれを優しく介抱するエーチ以外動くものはいなかった。



 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 



 「すまん。落ち着いた」


 俺は落ち着いたあと口を開いた。


 「別に構わねえよ。お前は頑張った」

 「ありがとう」

 

 俺は素直に礼を言う。


 「まーまー。しんみりするのはここまでっすよ。今日はお祝いの日なんすから」

 俺の横でエーチが明るい声を上げる。


 「その前に今後の予定の話ですね」

 「今後の予定?」

 

 ん? 俺の引っ越しの段取りとかか?


 「チロの兄弟、アクライハムの野郎のとこにいんだろ?」

 「ああ」

 「当然迎えに行くんだろ?」

 「ああ」

 「オレとリードもついていく」


 んお? それはキスカ大森林に戻ってから行く予定だったんだが、どういうことだ?


 「それまたどうして?」

 「チロに自治区を与えた事を報告しねぇといけねーのと戦友と酒を飲みたい。ただそれだけだ」

 「ええっ!? 獣王と戦友なのか?」

 「当然だろ? この国の守護獣なんだから」

 「ふむ。そりゃそうか」 


 まあ、国を守る獣と国を守る矛と盾なんだから戦友と言えなくもない。

 冒険者時代のリードとエメリアの事はあまり聞いた事ないからよく分からんがその頃から親交があったのかな?

 

 まあいいさ、別に一緒に来て困る事もないし、道中暇だろうしな。

 話し相手には丁度いいだろう。


 「じゃあ一緒に行こう。獣王アクライハムも紹介して欲しいしな。だけど、結構遠いから時間かかると思うけどその間、騎士団放りっぱなしでいいのか?」

 「それに関しては問題ありません」


 俺の疑問にゲイルが答える。

 「団長については戦争が起こらないなら、いてもいなくても変わらないですし……副団長は出発前に色々片付けていってくれますしね」


 ゲイルが笑顔でリードに親指をグッと差し出す。


 エメリア……評価低っ!!

 

 リードに関しては休むなら仕事片付けて行けよ!! ってところだろうか。

 リードの顔が少し引きつっている……。


 でも、リードの顔がいつになく優しい表情で俺が驚くくらいだった。


 戦友との再会が嬉しいのか、俺が森に帰れるのを喜んでくれているのか……。

 気持ち悪いから前者にしておこう。そうしよう。



 「さーって難しい話はおわりっすよね?」

 「そうだな。やるかー。久しぶりにパーッと!!」

 「エメリアは年がら年中パーッとしてるでしょう」

 「何だリード、今日はやけに突っかかるじゃねーか」

 「まぁまぁ二人ともそこまでっすよ。今日はお祝いっすからねー」


 そう言ってエーチは立ち上がる。

 それにつられて、エメリアも立ち上がった。


 「じゃあ。チロっち守護獣就任記念飲み会行くっすよ~」

 「おっしゃ。払いはオレに任せろ!」

 「おーいいですね。私も行きます」

 「ゲイルはその議事録まとめてからですね」

 「そんなぁ~。副団長……」


 



 俺達はゲイルを残して酒屋に直行し、深夜まで飲み明かしたのだった。


 

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