第21話 脅迫? 交渉?
シューリアの首都マーリスはとてつもなく大きい街である。
レイドルのエルディアも規模はそこそこ大きいが、マーリスは桁が違う。
街の外周には巨大な外壁が築かれており、門の前に到着した時には巨大な壁が延々と続いているようにしか見えなかった。
それもそのはずで、シューリアの国土はレイドルと比べて格段に広い。
シューリアはこの大陸内に存在する五ヶ国の中で国土が一番広いらしい。
レイドルと比べると五倍近くの国土と国民の数で大陸一の大国である。そんなシューリアの首都マーリスはこの大陸で一番広く賑やかな街なんだそうだ。
こんな大国ならばわざわざレイドルと和平交渉なんてしなくてもいいだろうと思ったのだが、この世界では俺の元いた世界の常識は通用しないらしい。
リード曰く、大量の兵士がいても大局に影響はないそうだ。
エーチやエメリアの様な大量虐殺を片手間で行えるような奴がいる戦場では確かに意味が無い。
それにこの世界の戦争は精鋭同士が殺し合いをして決着をつけるのが常識なのだそうだ。
その方が被害も少なくて済むという事らしい。
その辺に関しては細かい条約があるらしく、戦争というより決闘みたいな感じになっているようだ。
故にレイドルは兵士の数は少ないが圧倒的に一人一人の質で優っており、強国となっているのである。
ただ、表向きはそういう事になってはいるが、暗殺や移動中の襲撃は多々あるらしい。
そのための護衛部隊なのだそうだ。
さて、俺達はマーリスの入口の門を抜けて真っ直ぐに目の前にそびえ立つ城に向けて移動をしている。
どうやらマーリスの中心に城があり、それを取り巻くように住居や様々な施設が並び立っているようだ。
この街がこの城を守るための外壁の役目をしているみたいだ。
それにしても広い。
さっきから二十分近く馬車を走らせているがまだつかないのか?
「まだかかりそうか?」
「いえ。もうすぐですわ」
俺の問に昨日までのフランクな態度ではなく、姫として凛々しい顔をしたアルテイシアが窓の外の広場に手を振りながら答えてくれた。
これで半分なのか……。
そもそも街中を馬車がすれ違える程の広さを持った道が何本もある時点である程度の大きさには納得していたのだが、これほどとはな。
「そういえば、マーリスには来たことがあるのか?」
「ええ。ありますよ。元々シューリアとレイドルはそんなに険悪な関係ではなかったのですわ」
なかった?
凄く引っかかる言い方だな。
「何かあったのか?」
「姉さんが騎士団を結成する半年前程にシューリアの手によって、レイドル領土の街を焼き落される事件がありました。それの報復に姉さんが出向いてからはかなり険悪な感じですわね」
おいおい、条約とかどうなってんだ?
「焼き落されるって……シューリアがやったのか?」
「こちらで首謀者の一人を捕まえて尋問した結果です。それでもシューリアは否認していましたが姉さんは容赦しませんでしたね」
アルテイシアはニコリともせずに城の周りにある壁の一部を指した。
その壁は他の壁と色が違っていて少し新しく見えた。
「まさか……あれを?」
「そうですわね。街の外からやったと言っていましたわ」
マジか……。街の外からかなり離れてるよなあれ……。
あそこまでぶち抜かれたならそこまでにあった家とか全部壊滅して甚大な被害が出ただろう。本当に化け物だな。
あー。それで出禁か。
とは言っても、今の俺達にはエーチがいる。大して火力としては変わらないんじゃないだろうか?
「エメリアの出禁は分かるが、エーチがいるけどそれはいいのか? シューリアとしては」
「姉さんは怒ると何をするか本当にわからないですから……。その点エーチは私には従順ですからね。
それに今回の交渉では相手側の意見を聞く必要はありません。姉さんを置いてきたのは交渉をスムーズに進めるためですわ」
なるほど。出禁に従う必要は無いが、エメリア連れてくると話がややこしくなるから従ったという事か。まだ会った事がないがかなりネガティブなイメージがついていくなエメリア。
「そもそも、聞きたかったのだが。何でわざわざ俺達が出向かないといけないんだ?」
「ん? 交渉の為ですわ」
んお? 話がわからん。交渉の為は分かるが何故俺達が出向くのか?
俺とアルテイシアは両者ポカンとしながら顔を眺め合った。
「詳しくお願いします」
とりあえず頭を下げて詳しく話をしてくれるようにお願いした。
「ん~そうですわね。今の私達がシューリアの王宮で話し合いをした場合、有利だと思いませんか?」
「有利……?」
「ええ。だってあちらは強気には出られないでしょう?」
「……」
「……」
「それって……交渉になるの? 脅迫っていうのでは?」
「国家間の交渉に脅迫意外何があるのですか?」
どうやら俺の常識はまったく通用しないようだ。
そもそも何で俺達が出向くのかという疑問自体、アルテイシアには考え付かないものらしい。
俺達がこの街に来たのは、人質をとるためのようだ。
つまり相手の首に刃を当てた状態で交渉をする。気に食わなければ街ごと吹き飛ばす。こちらはリードの盾でガードするから大丈夫です。という感じだろう。
リードのラームとエーチの馬鹿げた魔力があってこそできる交渉術なんだろう。
もし、エーチが来なければエメリアで代行か。
もはや交渉という名の脅迫だ。これだと相手側は頷く事しかできないな。
シューリアもシューリアだ。何故こんな状況を受け入れたのだ。
いや、そうか。受け入れざるを得なかったのか。
この条件じゃなければ交渉をしないと突っぱねられれば受けざるを得ないか。
結構ヘイトを集めそうな交渉のやり方だな。大丈夫なんだろうか。
あ、それも込みでの護衛部隊なのか。そういうことか……。
そんな話をしていたら馬車が動きを止めた。
「お、着いたのか?」
「そのようですわね」
そう口にしたアルテイシアは既に王女の風格を纏っていた。今までのような話しやすい雰囲気ではなく、空間を静止したような、そんな緊張感すら感じる程だった。
初めて会った時もこんな感じだったな。さすが姫とでも言っておこうか。
馬車の扉が外側から開けられた。
俺はすぐさま外に飛び出して周囲を警戒する。
とはいっても、中から外の状況は把握できていたので、扉を開けた者が襲い掛かってこないか見張っていただけなんだがな。
扉を開けた男は執事服のようなものを身に着けていて、襲い掛かって来る気配は感じられなかった。
だが、気は抜けない。シューリア側もこのままこちら側の交渉に対して手を打たないはずがない。
何かを仕掛けているだろう。
それを見抜かないと、俺たちの方が危ない。
俺は注意深く執事服の男を注視し続けた。
【まだ、大丈夫だと思いますよ】
【お前は楽観的すぎる】
【ここは城の入口ですよ。国民の目もありますからね。ここでは来ないでしょう。来るなら中です】
【わかってるなら。お前も最大限警戒しろ】
【わかっていますよ。それにこのためのチロです。あと城の中では言葉は話さないでくださいね。全てこれでお願いしますよ】
【ああ。わかった】
俺が人の言葉を理解できるというのは内緒の方がいいのだろうか? 今一つその辺の特殊性が理解できてはいないが、それもカードの一つにはなるのだろう。こちらの有利に動くならそれに従おう。
「失礼します。そちらの方。もう結構ですのでお離れになってください」
「はっ」
リードが黒服の執事に声をかけて下がらせた。黒服もすぐにその言葉に従い馬車から離れた。
リードからも威圧するようなオーラのようなものを感じる。殺気とまでは行かないが近寄りがたいようなそんな強い力だ。
姫の外交モードみたいなもんなのかな。正直あんなもの直接向けられたら全身硬直して動けなくなってしまいそうだ。
それを受けて即座に動いた執事服も中々のやり手という事なのだろう。
やはり注意しないといけないな。
俺のすぐ隣にいたリードが膝を着き、右手を馬車の入口に差し出した。
馬車の中からアルテイシアがその手を取りながら、真っ白な髪を揺らしながらゆっくりとした動きで降りてくる。
アルテイシア動きは洗練されていてとても美しい。そしてその傍に控える白騎士もまた、流麗な動きだった。
絵画として部屋に飾りたくなるような一場面を目にして俺は一瞬見惚れてしまう。
ダメだ。今は警戒が最優先だ。
黒い執事に目をやる。
あれ!? いない。 どこいった?
俺は急いで周りを見渡して執事を探した。
いた。
気づくと執事は馬車の前方に移動して、姫に頭を垂れていた。
速い。
ついさっきまでそこに居たのに……。
俺は安堵と戦慄が入り混じった複雑な感情を覚える。
今手を出されていたら、危なかった。
気を引き締めろ。
ここは敵地の真ん中だ。
俺はマーリスの中心に位置する城を睨み付けた。




