第20話 護衛部隊の戦力
俺達がエルディアを出発してから三日が経過していた。
既にシューリアの国境を越えて二日程馬車を走らせている事になる。
国境を越えてすぐに敵襲を警戒したが、国境付近には農地が延々と続き、のどかな雰囲気を漂わせるばかりで俺達を待ち受ける敵はいなかった。
それはこの二日間も同じである。
敵どころか、農地を耕す人から手を振られる始末である。
そんなこんなで俺達は安全にのんびりと旅を続けている。
よく考えてみれば敵襲なんてあるはずがない。
俺達は和平交渉をしにわざわざシューリアまで出向いているのだ。
歓迎されても襲われるいわれなんてないはずだ。
リードやエーチなどの五席以上の護衛をつけているのはあくまで戦力を誇示しているだけだろうと俺は判断している。仮に襲われてもこの戦力だ。負ける気がしない。
だが、俺はこの状況に慢心してはいけない立場だ。
この護衛部隊の影の指揮官を任されているのだ。
そして俺は、この慢心というもののせいで色々な物を失っている。
全てを想定して事に挑まないといけない。
そう考えてもう一度気持ちを引き締める。
この二日間で色々な情報を得られた。
俺とアルテイシアは話す事しかすることが無いのだから当然と言えば当然である。
レイドル帝国はエルガン大陸と言われる大陸の中央部に位置しているらしい。
北はアルペガ、西にシューリア、東にオルレイアス、南のキーンという国に囲まれている。
このエルガン大陸はこの五ヶ国で構成されている。
その中でも今のレイドル帝国は屈指の戦闘力を持っている。
光翼騎士団の発足により大陸最強国家になったのだ。
それまでは中央に位置する小国で、事あるごとに領地を奪われる存在だったのだというのだから騎士団の存在は本当に救世主と言えるだろう。
だが力を手に入れてもレイドル帝国はどこにも攻め込まずに大陸中央で今までと何も変わらない状況だったらしい。
その不気味さに東のオルレイアスと南のキーンは近年奪い取った領地をレイドル帝国に返還して和平を申し込んできたそうだ。
それに対してレイドル帝国はその和平を二つ返事で了承したのだという。
その状況を見たシューリアが和平を申し込んできたというのが今の状況らしい。
確かに普通に考えれば南と東を抑えたならば、西と北の国は気が気でないだろう。
もうレイドル帝国は後方を守る必要がないのだから全戦力を向けられる可能性がある。急いで和平に乗り出すはずだ。
そんな状況で俺達を襲撃するだろうか?
とてもできる状態ではないだろう。
もし襲撃されるにしても帰りだ。交渉が決裂してしまった場合、戦争開始前に戦力を削ぐ意味で襲いかかってくる事は考えられる。
その時に迎え撃つための俺達だ。
この護衛部隊は間違いなく強い。
第三席リード・エクシアス。この護衛部隊のリーダーであり命綱である。ラーム『光壁グランデュリス』を使い、魔法攻撃や近接攻撃全てを無に帰すことが出来る最強の盾。休憩中に一度見せてもらったのだが、あの盾は魔力を込めると展開する。あの盾を中心に透明なアクリル板のようなものが広がり、壁のようになる。その守護領域はリードの前方にしかないものの、重量は軽いそうで方向転換も可能なのだそうだ。
ちなみにジョブはタンク職最高峰のパラディンらしい。実にお似合いだ。
第五席エーチ・グリムノフ。赤い装備を常に身に着けていることから『赤き天災』という通り名であらゆる国から恐れられる存在であるらしい。彼女は若くして魔法の天才と呼ばれ、彼女の魔法はラームを使用する術者と同等の威力を持つそうだ。火土水風の全ての魔法を扱う事ができるが、全ての魔法が規格外に高威力らしく近接戦闘になったら使用はできない。もし近接戦闘で使えば味方もろとも自分までも吹き飛んでしまうそうだ。
だが、リードがいる場合は別である。リードの後ろから前方に魔法をぶち込み、その余波をリードが無効化することでノーリスクで戦う事ができるそうだ。この護衛部隊の主力である。
ジョブはエレメンタラーで魔術攻撃系統の最上級職である。
ゴードン・テゾア。この護衛部隊の近接物理火力担当である。巨体が振り回す巨大な鉄の棍棒は複数人を捉えても止まらない。いくら高い装備を装着しようと彼の攻撃が当たればそれで終わりだ。森の中だろうが彼の戦闘スタイルは変わらない。木ごと薙ぎ払ってしまうらしい。冒険者時代にリードに命を助けられたことでリードの為に命を使うと誓っている。冒険者ランクはS+で、バーサーカーというジョブらしい。
ちなみにバーサーカーは近接火力職の戦士系列最上級職だそうだ。
ゲイル・アーカイル。この護衛部隊の良心である。ヒューリーストーカーというジョブで弓と短剣の扱いに特化した遠近両方いける火力職である。キュシアも短剣の扱いに長けていたが彼女と同程度の腕前らしい。キュシアはそれに加えて狡猾な罠を仕掛けるのを得意とするブランクストーカーという職だ。
戦闘力という面では他のメンバーに見劣りするが、色々気が利くのでアルテイシアの世話役で度々連れ回されているそうだ。
この四名の護衛部隊がいれば大体一つの国くらいは吹き飛ばせるくらいの火力はある。
特にエーチがやばい。
リード曰く、エーチが本気を出せば俺達が住んでいたキスカ大森林を一日で灰にすることができるらしい。まさに『天災』である。
だが、この護衛部隊は実は簡単に壊滅してしまうのである。
それがこの護衛部隊の弱点である。
この世界にはネトゲのようにHPという概念はない。ただの生身の人間なのだ。
リードが盾を展開する前にエーチクラスの魔法をぶち込まれたらそれで終わりなのである。
そしてこの世界には医者はいるが、ヒーラーがいないのだ。死んだ者はそれで終わり。蘇生する方法も無ければ、腕が消し炭になってしまったら戻す手段もない。
そんな火力だけが歪にインフレを起こしているのがこの世界の特徴といえるだろう。
そんなこの世界で戦うために一番必要とされるのが実は俺だという事なのだ。
敵をいち早く見つける索敵がこの世界でもっとも役に立つと言われている。
気づかれる前に殺されるリスクを低くできるし、敵の数を把握して逃げることも可能だ。
そのために俺がこの護衛部隊に配置されているといっても過言ではない。
指揮を頼むなんてのは俺をおだてているに過ぎない。
リードは元から戦力として俺を契約獣にしたに違いない。
エリスやアイナの事もあったにせよ、まず第一に役に立つと考えたはずだ。
別にそれに関してはどういう感情も抱かない。当然の事だろう。
むしろ、戦闘に混じれない今の俺には少し嬉しいと感じている。
この部隊が生きるも死ぬも俺次第なのだ。
こいつらとはそんなに長い関係ではないが、知っている奴が死ぬのはもう見たくない。
必ず全員生きて返す。
慢心はしない。
俺はシューリアの首都マーリスの外壁を見ながら誓ったのだった。




