True
「え…?」
子供たちの間にも動揺が走るのが解る。
そう、憧れの騎士様は一人の女性であった。
「彼女は…リーナはガーネットを盗もうとしたときに気付いてしまったんだ。」
「じゃあ、お姫様はどうなるの…?」
とりわけライトに熱を注いでいた少女は、悲しそうな顔を浮かべて老人を見上げる。
「お姫様は…」
True
ライトはシャルの父親との話を終え、建物を出た。
皆が居る建物まではそんなに距離もない。
空を見上げれば、やはりそこには綺麗な星空が広がっていた。
だが、少し肌寒くも感じる。
「…ライト。」
名前を呼ばれた方向を向くと、そこにはイリスが立っていた。
「こんな時間に…どうしたんだ?」
「…嘘、だよね?」
ライトにはその言葉の意味が解らない。
だが、イリスは今までにない程の神妙な顔つきをしている。
「何が…ですか?」
ついライトは騎士として敬語になる。
ただならぬ気配を感じていたそうだ。
「…ライトが、女性だなんて…嘘、だよね?」
「誰が、そんなことを?」
「誰だって良い、大事なのは、そこじゃなくて…!」
ライトは何も言えなかった。
「どうして…ッ否定、しないの…!」
「俺は…」
いや
「私は…」
もう、貴女とは一緒に…いられませんね。
「女です。貴女と…同じ。」
息をはっと吸い込んで、眼に涙を溜めるイリス。
あぁ、こんな顔をさせるつもりなんてなかったのに。
「大好きだったのに…。」
ぽつりと呟かれたその台詞。
その言葉を最後に、背中を向けて彼女は走り出す。
「…俺もですよ、イリス。」
この言葉を聞いた者は、ただ一人事の成り行きを見守っていたアイリスだけだった。
「シャルロットだってそうだよ。」
イリスが出て行った部屋の中で、リーナの言葉は尽きなかった。
「ど、どういうこと?」
「海の上でエルフの少年、シャルを失ったから、その代わりにシャルロットの同行を許可しただけ。
もしも君がシャルロットという名前じゃなかったら…きっとライトは連れて行ってないよ。」
シャルも予想していた事実。
だけど…
旅の道中、ライトは言ってくれた。
「いい援護だった。」と。あれは、嘘じゃないと今でも信じている。
「なぁ、リーナ。…お前は何がしたいんだ?」
「君たちに事実を教えてあげてるだけじゃないか。」
ふふん、と自信満々に答えるリーナ。
こうしてパーティーをばらばらにして、喜ぶのは誰だ?
…奴らしかいない。
「魔王の手先…ってことか。」
「冷静だね、クレイン。」
クレインは容赦なく銃口をリーナに向けた。
「でもさ、そんなことをする前に…一番大事なあの人を助けてあげなきゃいけないんじゃないの?
初めて出会った時から、君はあの人の秘密を知っていたはず…ずっと傍で支えて、ずっと欲しがっていたはず…。」
「…それ以上喋ったら、てめぇマジで脳天ブチ抜くぞ。」
リーナは諦めたようなおどけた顔で両手を上げて抵抗する意思がないことを示す。
「…何してる。」
その時扉が開いて、小さくその声を発したのはライト。
その顔は、恐ろしいくらいの無表情であった。誰も何もしゃべれなくなるほど。
「リーナ。…話がある。」
その言葉だけ伝えると、踵を返して部屋から出ていく。
リーナは一度クレインとシャルを見てそのあとを追った。
翌日
早朝
「まさか、ライトにこんなこと頼まれるなんてね。」
「…お前は、誰に言われてここに来たんだ?」
「クライアントの名前は明かせないよ。
…はい、約束の物。」
「よく、短時間でここまで出来たな。」
「…僕は一流だからね!」
リーナがライトに手渡したのは、3つの宝玉。
クレインの持つエメラルド、イリスの持つローズクォーツそして、リンの持つアクアマリン。
ヤマトから預かったダークマターを合わせると、これで5つ揃ったことになる。
「助かったよ。」
その言葉と同時に、ライトはリーナの鳩尾に拳を突き刺し気絶させ、丁寧に抱え込んで芝生の上に寝かせた。
その時ライトはリーナの胸元に下がるペンダントを見つける。見たことのない形をした珍しいもので、随分使い込まれた跡を感じた。
形見なのだろうか、だとしたらこの女も何か目的のためにこのようなことをしているのだと?
そんなことを考えながら、ライトは立ち上がる。
広い芝生の上を振り返ると、そこにはあのお方がいた。
「女王陛下…。」
「…行くのね、ライト。」
この時強い意思を持って、ライトは頷いたそうだ。
もしかすると、元々一人でどうにかするつもりだったのだろうか。
それは誰にも解らないことだった。
「…泣かせて、しまいました。」
「あなたはどこまで本気だったの?」
「生涯守り通す、それしか考えていません。」
「それは…」
「騎士としての、勤めであり、誇りです。」
里と外の世界を繋ぐ光の扉が現れる場所へライトは歩き始めた。
本当は彼女を心の底から愛している
ただし、抱く愛は家族としての愛を越えられなかった
その一線を越えないように、ずっとその問題を避けていた
彼女がその一線を越えた時は、離れることでしか解決できないと考えていたそうだ
その瞬間が、ここで訪れた
ただ、それだけのこと
「精霊。私たちは、その術を見つけることができなかったの。…だから、セインくんを殺してしまった。」
背中から聞こえるアイリスの声。
それは女王陛下としての声と言うよりも、一人の女性としての、冒険者としての叫びに聞こえたそうだ。
「その術のヒントと本当のあなたは、故郷に行けば解るわ。」
「すでにセリアは訪れました。」
「あなたたちは、表しか見なかったのよ。」
ライトは振り返ってアイリスにお辞儀をした。
目的地は決まった。
エルフの里を出ると、あっという間に魔物に囲まれたが、石の力をすべて集めたライトの敵ではなかった。
「リン…あれほど石は手放しちゃいけないって言ったのに。」
「…油断しました、母さん。」
エルフの里では、全員の宝玉が無くなったこと、ライトが居なくなったことで騒ぎとなっていた。
エルフでありアクアマリンの保持者であったミシャの息子、緑色の長髪のエルフ、リンは落胆していた。
「取り戻します、必ず。そして…」
「世界を救う、ね?」
ミシャは笑顔を向ける。その笑顔をみて心を落ち着かせると、武器である弓を片手に家を出た。
里の出口に近づくと、そこには昨日やって来た一行たちと、怪しい侵入者として捕らえたリーナとやらがいた。
「…っんだよ!ライトは一人で行ったっつーのかよ?!」
男の叫び声が響く。確か…騎士クレインだっただろうか、とリンは記憶をさかのぼる。
「くっそー…ライトめ、僕の事思いっきり殴りやがってぇ…。」
「そんな…ライトさん、一人で…。」
レイティア王国の姫君だけは何も言葉を発しなかった。
だが誰もがその顔には不安をよぎらせている。
「…あんたたちは、石の保持者なのか?」
リンはそんな一行に声を掛ける。
「そういうあんたも石を?」
「あぁ、盗まれたけどな。」
リンはとぼけたように言うと、クレインは確信付いたような顔をした。
「…ライトを追おうよ。」
イリスは静かにそう言い、里の出口へ歩いて行った。




