Family
「エルフの里の周りには魔物がたくさんいた。それはきっと、エルフの里の中は魔物を避ける力があるから、その周りには集まるんだ。」
遠い大陸の話を、子供たちは興味深そうに聞いている。この中にエルフの子はいないようだった。今ではこの国でもエルフ族は珍しくないのだが、と老人は周りを見回した。
この国は、あの方たちの統治によって、随分住みやすく豊かになった。周りの国々とも国交を結び、自国だけよければいいという古い考えは捨てられたのだ。
「エルフの里で、お父さんとかお母さんと、会えたの?」
「そうだね、会えたよ。」
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森での戦闘の最中、ライトはシャルの指輪が輝いていることに気づく。
ある一点に近づく度に強くなるその光は、エルフ里への入り口だった。淡くグリーンに輝く光の扉。
「みんな!飛び込め!!」
ライトは叫ぶ。誰も反対するものはなく、光の扉に飛び込んだ。
しばらくは空間を浮遊する奇妙な気分を味わい、もう一度光の扉を抜けると、そこは花と緑が生い茂る、綺麗な草原だった。
「遅かったな。」
その中に似つかわしくない、黒髪赤目の男。ヤマトのようでそうではなかった。
「え…あ…」
戸惑いの声をあげたのは、イリス。男の向こうに見知った顔が見えたからだ。
「おかあ…さま…?」
「無事で良かったわ、イリス…。」
「アイリス女王陛下…。」
騎士であるライトとクレインは思わず頭を下げた。横でミシャとアカギは顔を見合わせて笑った。
「アイリス、本当に女王様なんだ。」
「あの、サヤが…不思議なものだな。」
そう言うと、アイリスは恥ずかしそうに笑って二人を見た。ライトたちはそのやり取りにあっけにとられている。アイリスがまるで、幼い少女のようだったからだ。
「あ、英雄…」
シャルがぽつんと漏らすと、ライトたちも合点がいったように納得する。
初めて見る子供のシャルに、アイリスは優しい笑顔を向けて、二人を紹介した。
「こちらが、アカギで、こちらがミシャ。…昔の仲間よ。」
二人がよろしく、と言うので、ライトたちもそれぞれ自己紹介と挨拶を交わした。
「まずは、ここの里長に挨拶しておいた方がいいよ。私が案内するから行こう」
緑色の長い髪をしたミシャがライトたちに言う。エルフの英雄がいるというなら、自分たちも必然的にエルフの仲間を得るのだろうか、と思っていたようだ。
ミシャに案内されるがまま、エルフの里長の元へ向かう。
緑色のドームの屋根を持つ建物の中は、リーフの装飾が数多となされていて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
一番奥の部屋には、一段高くなったところに椅子が置いてある。
そこに座るエルフの長老と、横に男性が立っていた。見たところ年は人間で言う30くらいだろう。
「…!やはり。」
長老はライトを見るなり驚いた顔を向けた。
「…シャル。」
横に立つ男性は、ライトの姿を見てその名前を呟く。
シャルロットは、え?僕?と反応するが、どうも二人はシャルロットを見ているわけではない。
「…守り、きれません…でした。」
その目線を感じ取ったライトは、絞り出すような声で答える。
船上での出来事を思い出すと、誰もが苦い顔をした。
「あの子の…運命だったのだ。そなたに守りの指輪を託して…ッ。」
ぽつりぽつりと語りだされる長老の言葉。
エルフのシャルは、長老の孫であったそうだ、そして横に立つ男性はあの子の父親である。
その事実を認識した今、イリスは不安そうな顔で横のライトを見上げる。
ライトは苦い顔こそしていたが、その姿は凛としていた。
後方で見守っていたアイリスは、その二人の醸し出す雰囲気を見て、人知れず危機感を覚えていた。
あの二人がまさか、自分とセインのようになってしまうのではないか、という不安。
万が一そうなってしまったとき、娘のイリスは大層傷付くであろうという、確信。
「長老。」
その時緑の長髪で片手に大きな弓矢を持つ青年が部屋に慌てて駆け込んできた。
「どうした、リンよ。…今は客人と謁見中なるぞ。」
「失礼を承知で。里に不審者があり、処遇を決めて頂きたく連れてまいりました。」
「…不審者とは、ここに来るとは何か由縁がある者なのか?」
リンと呼ばれた青年の後ろに衛兵が二人やってくる。
その片方は少女を脇に抱えていた。
「こらーーーっ、離せーーーーっ!!!」
謁見室に響き渡るその声。
ライトたち一行は聞き覚えがあった。
全員が謁見室の入口に目を向ける。
彼女もライトたちに気付いたのか、指をさしながら言った。
「僕はあの人たちの仲間だよ!なーかーま!!だから、離して!!」
その台詞にリンをはじめ全員がライトを見た。
ライトは静かに首を横に振った。
「あ!う、裏切ったなぁ~!ライトぉ~!!」
「…知らない、あんなやかましい仲間を持った覚えはない。」
はっきりと言い放つライトにがっくりと項垂れるリーナ・プリシラ。
「おかしいなぁ…僕は君たちの秘密を知ってる仲だっていうのに。」
彼女は突然口調を変えて神妙な顔つきになる。
空気が張り詰めたものに変わる。
「ね?偽りの騎士様…?」
リーナの目線の先にはライトが居た。
物言いたげな笑みを浮かべるリーナに対し、ライトは表情を変えない。
「…あぁ、そうだな、俺は偽りの騎士だ。嘘つきだし、人も騙すし…何よりも可愛い子を苛めるのが趣味で。」
ライトの言葉に当のリーナは虚を突かれた表情をし、周りに居た全員が…いや、クレインを除く全員が信じられないと言った顔でライトを見ている。
この時のライトは信じられないくらい悪い顔をしていたそうだ。
くるりとライトはエルフの長老に向き直り、片膝をついた。
「申し訳ありません、長老様。
彼女…リーナ・プリシラは旅の道中に出会った仲間…訳あって途中から別行動を取っており、彼女もかながらここにたどり着いたのでしょう。
どうか自由にさせてやってもらえませんか?」
「そ…そうか。そなたがそう言うならば…致し方あるまい。」
衛兵は長老のその言葉を聞いてリーナを解放した。
「寛大なる配慮、痛み入ります。…リーナも。」
「は…はいー、ありがとうございまっす、長老様!」
「そなたたちも長旅疲れたであろう、今日はこの里でゆっくりと身体を休まれよ。」
「ライト・シオン・カーウェイ。…あとで、シャルの事を聞かせてくれ。」
シャルの父親の言葉に、ライトは静かに頷いた。
その夜、ライトはシャルの父親のところでシャルと出会ってからその最期について話していた。
「ならば…あの子は貴族の手に渡ることはなかったんだな?」
「…えぇ、その前に自分たちが保護しましたから。」
「それだけ解れば、私も安心だよ…。」
シャルの父親は静かに涙を流していた。
一方イリスとクレイン、そしてシャルロットはあてがわれた部屋で集まっていた。
リーナは外を散策して来るといって今は席を外していた。
「ねぇ、クレイン。…ライト、一体どういう風の吹き回しなのかな…?」
リーナを仲間だと言って助けた件に関してだということは誰もが聞かずとして解っていた。
シャルは全く解らないといった顔を浮かべ、クレインは俯いた。
「クレイン、貴方何か知っているの?」
俺が喋る訳にはいかない。
何年も隠し通してきた事実を。
クレインは考えていた。
この場をどう切り抜けるか。
だがそれは、すべて徒労に終わることとなる。
「逆に僕が気になるのは、どーしてお姫様が騎士様を慕っているか、だけどねー。」
突然部屋に入ってきたリーナ。
「どういうこと?」
言うな。
「一つ確認なんだけど、お姫様は、騎士様の事が好きなの?」
イリスは曖昧に頷く。
なんて言ったって、家族同然に過ごしてきた相手、どのような意味であれ好きだということに違いはない。
だが最近はそれが、恋愛感情としての好きだということに、気付き始めたところだ。
「それが驚きだよー。だって、騎士様って…。」
「リーナ!!」
クレインが声を荒げるが、リーナは止まらない。
こいつは一体何のためにここに来た。
「…お姫様と同じ。
女じゃん?」
この時のイリスの顔を、生涯クレインは忘れることが出来なかったという。




