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Story Teller  作者: 冬耶心
第一幕
10/34

Sin

ライトたちが大陸を渡り、エルフの里へ向かって居た頃

レイティア王国でも変化が起きていた。


城の中には、魔族に取り憑かれた兵士たちが監視をしていて、玉座の間にはカリヤの仮面を借りたカルヴァスが居る。

ジークもよくそこにおり、今後の計画を立てていた。

そろそろどこかの街を破壊してもいいだろう、そういう打ち合わせも幾度となく出た。


アイリスは牢に監禁されたままであった。

常に監視下にあったが、食事は女兵士が持ってくるので、死を思うことはなかったそうだ。


そんなある日の夜だった。

格子の向こうから月がきれいに輝いているのを見て、アイリスは過去を思っていた。10年前、今のライトやイリスのように旅をしていた。 不謹慎だが、世界を回るのは楽しかった。


すると、目の前の見張りの兵士が血を流して倒れる。血も、また10年前に沢山見ていたので驚くことは出来なかった。


「アカギ…くん。」

「久しいな、サヤ。」


久しぶりにミドルネームを呼んだ黒髪赤目の彼は、アカギ・ヤマト・クロウレス。かつての仲間だった。


「逃げるぞ。」

「でも…!」

「この国を救うのは、セインの子たちだ。足枷にはなりたくないだろう?」

「…待っていると、娘に約束してしまったわ。」

「ミシャのところにいく。…そこで会えるさ。」


それだけ言うとアカギはアイリスに触れた。この者達が使えるテレポートの呪文を呟くように唱えた。


目を開くと、懐かしい場所にいた。

花と緑が豊かで、穏やかなエルフの里。


「ひっさしぶり~!アイリス、アカギ。」

「えぇ、ほんとに…会えて嬉しい、ミシャ。」


戦友であり親友同士の再会だった。



Sin



「後は…クライドか。」

「クライドくんは…今は国を離れられないと思うわ。」

「…セイン、いないんだもんね…。」


かつて5人いた仲間。

今では4人になってしまった。ミシャが呟くセインの名を聞いて、アイリスは特に悲しそうな表情を浮かべた。年々セインに似ていくライトの成長は、彼女にとっても複雑な部分だったのかもしれない。


「セインの子はセインに似ているそうだな、サヤ。」

「…えぇ、とても。」

「あれ?でもセインの子って…」


因果な物ね…とアイリスは呟いたきり黙ってしまった。

ライトたちが来るまでの間、アイリスとアカギはエルフの里で世話になることになる。この里は魔族を避ける力があるため、ここまでは中々カルヴァスといえども干渉出来ず、安全と言われているからだ。

もう夜も遅いということで、それぞれはあてがわれた部屋に向かう。


アイリスは一人部屋で、10年前を思い出していた。




「セインくん…どうして、その話を私に…?」

「これはきっと、罪なんだ…アイリス。」


まだ若い、世界を背負わされた戦士たちは、絆だけでなく愛情も深めた。

それが、セインとアイリス。

彼らには、故郷に残してきた伴侶や子がいた。


「多分…5人の力をラグナガンに集めて放って、カルヴァスを斬っても…輪廻は終らない。」

「そんな…!」

「でも、断ち切れなくても今平和を取り戻しておかなくては、世界は終わる。だから俺は…斬る。」

「それで…セインくんは…」

「…俺は、この力の大きさには耐えられないよ。」


自嘲気味に笑う彼。

光の戦士たちが、使命を全うせずに愛に逃げようとした、対価。

…償いきれない、罪。


「だからさ、アイリス。」


聴きたくないのに


「…ライトを頼むよ。あいつもきっと、俺と同じ使命を負うんだ。

でも、同じ結末を歩ませたくないから、その辺はアカギに頼んでる。」

「まさか…アカギくんたちが研究しているあれに…差し出すの…?」

「それであの子が、こんな運命で死なずに済むなら、俺は…それでいい。」

「セインくん…。」


一度だけ見たことがある、彼の子。

彼の村が焼けたとき、助け出した彼の子。

その時、彼の妻まで助けることは出来なかった。


「あの日、咄嗟にあそこに預けた。」

「そう…だったの…。」


彼は、しっかりとした目で私を見た。

迷いはない。死ぬとわかっているのに。


「アイリス。」

「…はい。」

「幸せになれ、カリヤと一緒に。」


あの国に危機が訪れる度に、何度も赴いて国を助けた彼。

その時に、カリヤとは何度も接触して、共に戦った。


「…はいっ。」


カリヤは私と彼の関係に気付いていたのだろうか。

気付いていて、見ないフリをして、そうして彼に、私を守る事を頼んだのだろうか。


アイリスの瞳は、涙に揺れていた。


「願わくは…ライトとイリスに間違いのないように。」



アイリスは一旦目を閉じ、ゆっくりと目を開けた。

あの時から10年、すっかり自分の身体も戦いには向かない鈍った身体になってしまったと思う。


「ねぇ、セインくん…私、セインくんとの約束…守れたかな…?」


私はきっと、良い死に方は出来ないだろうな、と考えて、眠りについた。

今まで気を張っていた場所とは違うため、久しぶりに深い眠りにつくことが出来たという。





イリスは目を覚ます。

ここ最近はずっと野宿が続いていた。


「おはよう、イリス。」

「おはよう、クレイン。」


最初にいつも通り明るく声を掛けてきたのはクレインだった。イリスが周りを見回すと、ライトがまだ眠っていた。


「…珍しいね、ライト。」

「最近たまーに、こうなんだよな…。まぁ、最近戦闘も激しいし、前衛のライトはかなりの戦闘を繰り返してるからな…。」


この時、クレインは嫌な予感を感じていたという。

激化する戦いの中、石を使った戦いをしているのではないか、と。


そんな話をしていると、ライトは身じろぎ一つして身体を起こした。どことなく気怠そうな表情を浮かべている。


「大丈夫ですか?ライトさん。」


心配そうにシャルが見上げると、ライトはシャルの頭を撫でて笑顔で返した。

誰もが憧れる騎士の姿、その点にはいつもと何の変りもない。



シャルが本を広げる。


「エルフの里まで…この本が正しければ、そんなに遠くないですよ。」

「よっしゃ、あと一歩だな。」


クレインの声に、皆は顔を見合わせて立ち上がる。


エルフの里に行けば何かが解る。


ライトは人知れず左手の親指のリングに触れた。

あの子の両親は、エルフの里に居るのだろうか、居たとすれば、どんな顔を向ければいいのだろうか。



そこで突然の再会があるとは、思いもよらなかったのだ。


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