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第1話

【作品について】


本作品はフィクションです。

作中に登場する人物、団体、組織、制度、事件などは架空のものであり、実在する人物、団体、組織、事件とは関係ありません。

また、実在する地名、施設、神社仏閣などが登場しますが、作中の設定や出来事は創作であり、実在する施設・関係者とは一切関係ありません。 


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黒い穴が、裏山に浮いていた。

 地面に開いているわけじゃない。

 木々の影の奥。

 ちょうど俺の胸の高さに、人ひとりが通れそうな真っ黒な入口が、ぽっかりと口を開けている。

「……は?」

 思わず、間抜けな声が出た。

 ここは、親父がキャンプをするために安く買った山だ。

 もともとは近所でみかん畑をやっている山田さんの山だったらしいが、手入れが大変になったとかで、親父が譲ってもらった。

 それから俺と親父は、休みの日に少しずつ山道を整備してきた。

 下草を刈って、落ち枝を片づけて、小さな平地を作って、焚き火をして、コーヒーを淹れる。

 売店も、水道も、トイレもない。

 ただ木々に囲まれた静かな場所で、テントを張れるだけの、俺たち用の小さなキャンプ場。

 俺にとっては、いつもの場所だった。

 昨日までは。

 俺は手にした鉈を握り直し、黒い入口を見つめる。

 最近、世界中で騒ぎになっている“普通じゃないもの”といえば、一つしかない。

「……もしかして、これがダンジョンか?」

 学校で教師たちが何度も言っていた言葉が、頭をよぎる。

 ダンジョンを発見した場合は、直ちに警察へ通報すること。

 絶対に立ち入らないこと。

 興味本位で近づかないこと。

 分かっている。

 分かっているのに、俺は鉈の先をそっと黒い穴へ伸ばしていた。

「触るだけ。触るだけだから」

 その言い訳が、誰に向けたものだったのかは分からない。

 鉈の先が、黒いものに触れる。

 次の瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

   ◇

 世界が変わったのは、二年生になって二か月経った六月一日。

 その日、世界中の政府機関や宗教団体に、正体不明の“何か”から一方的な神託が届いた。

『この世界も、邪神の脅威にさらされている』

『皆の者が自衛できるよう、職業とスキルを全員に付与した』

『また、それを鍛えるための場として、ダンジョンを作成した』

『邪神の脅威が訪れるのは十年後』

『ただし、ダンジョンは一か月間、誰も侵入しなければ“あふれる”よう設計してある』

『なお、ダンジョン内では、食料、資源、エネルギーなど、人類の争いの種となっている各種資源を産出する』

『大いに活用したまえ』

 最初は、世界規模の悪質なハッキングだとか、新興宗教によるテロだとか、集団幻覚だとか、いろいろ言われていた。

 ネットもテレビも大騒ぎだった。

 SNSでは「ついに現実にダンジョン来た」「ステータスって叫んだら出る?」「邪神って何だよ」みたいな投稿が飛び交い、専門家っぽい人たちが眉間にしわを寄せて、それっぽい言葉で解説していた。

 けれど、その日のうちに全人類が理解することになる。

 ――あれは、本物だったのだと。

 なぜなら。

 頭の中で念じるだけで、半透明の画面が浮かび上がるようになったからだ。

 試しに、俺も唱えてみた。

「……ステータス」

 その瞬間、目の前に淡い光の板が現れる。

 ==========

 小森透

 個人Lv:1

 現在の職業:無職 Lv1

 取得済み職業

 ・無職 Lv1

 職業スキル

 ・なし

 ==========

「……本当に出た」

 思わず、変な声が漏れた。

 ニュースによれば、全人類が似たような状態になっているという。

 もっとも、ステータスは本人にしか見えない。

 だから、誰がどんな職業で、どんなスキルを持っているのかは、本人が言わない限り分からない。

 世界は一気に混乱した。

 日本でも政府は自衛隊、警察など各省庁を総動員して、日本各地の調査を始めた。

 そして数日のうちに、国内でもいくつかのダンジョンが発見されたらしい。

 報道では、各県に一つ程度ではないかと言われていた。

 学校でも緊急集会が開かれた。

「ダンジョンを発見した場合は、直ちに警察へ通報すること」

「絶対に立ち入らないこと」

「興味本位で近づかないこと」

 教師たちは、何度もそう繰り返した。

 体育館に集められた生徒たちは、ざわざわと落ち着かない様子だった。

 まあ、気持ちは分からなくもない。

 ダンジョン。

 職業。

 スキル。

 そんな単語を聞いて、何も感じない高校生男子の方が少ないと思う。

 ただ、俺にとってはまだ、どこか遠い世界の話だった。

 ニュースの中の出来事。

 都会か、どこか知らない県で起きている事件。

 少なくとも、その時の俺はそう思っていた。

 ――あの日、裏山で“それ”を見つけるまでは。

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