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エピローグ:ハッシュタグのない明日

「配信」という煌びやかな地獄と「背信」という名の甘く痛い裏切り。

そのすべてを乗り越えそれぞれの道を選んだ三人の「数年後」を描いたエピローグ。


エピローグ:ハッシュタグのない明日


東京、六本木のオフィスビル。最上階にあるスタジオの窓からはかつてめぐみが「100万人」の景色を眺めたのと同じ宝石を散りばめたような夜景(デジタルの海)が広がっている。


けれど、今のめぐみの前にはあの狂乱を煽るカメラも自分を縛り付けていた緑の蝶ネクタイもない。


彼女は上質なシルクのブラウスの袖を捲りタブレットにペンを走らせていた。現在は若手クリエイターの育成と支援を行う団体の代表として彼女は「画面の向こう側の命」を守る仕事に就いている。


「隅島さん次回のシンポジウムの資料です」


「ありがとう。……置いておいて」


めぐみの声はかつての低い湿り気を帯びた「Megu」のものではない。透明で自信に満ちた、一人の成熟した女性の声だ。


ふと、デスクの引き出しの奥にある小さな小箱が目に入った。


中には銀色に変色し始めた古いペアペンダントと丁寧に畳まれた黒いレースのガーターベルトが入っている。


「……ふふ」


めぐみは小さく微笑んだ。


あの日々を「間違い」だとは思わない。あの地獄のような背信の日々があったからこそ、彼女は[#傍点]本当の自分[#傍点終わり]を誰の視線にも頼らずに見つけ出すことができたのだから。


一方、静かな地方都市。


夕暮れのチャイムが鳴り響く公園で健人は子供たちにサッカーを教えていた。


かつての鋭いエースの顔は今は日焼けした穏やかな指導者の顔になっている。


「コーチ! また明日!」


「おう、気をつけて帰れよ!」


子供たちを見送り健人はベンチに腰を下ろした。隣に買い出しを終えたこのかが座る。二人は結局、あの卒業式の後、一度距離を置いた。そして数年後に偶然再会し、今度は「罪の共有」ではなく一からの[#傍点]対話[#傍点終わり]を重ねて再び隣に歩むことを選んだ。


「ねぇ、健人くん。……めぐみちゃんのインタビュー、見た?」


このかがスマホの画面を見せる。そこには凛とした表情で「孤独を恐れないで」と語るめぐみの姿があった。


「ああ。……あいつどんどん綺麗になるな」


健人は少しだけ寂しそうに、けれど清々しく笑った。


「……俺たちも負けてらんねぇな」


このかは健人の腕を軽くつついた。


「当たり前でしょ。……私の次の個展のテーマ決まったんだから」


「なんだよ」


「……『三人の影』。……あの図書室の隅っこから私たちがどこまで歩いてこれたかを描くの」


健人は空を見上げた。


かつて自分たちの人生を狂わせた「はいしん」。


それは配信であり、背信であり、そして、世界への「発信」だった。


東京の空。


めぐみは仕事を終え一人で街へ出た。


ビルの巨大スクリーンに自分の広告が映し出されている。


かつての「Megu」を知る者はもういない。


彼女はスマホを取り出し自撮りではない、ただの夜空の写真を一枚撮った。


ハッシュタグも、加工も、偽りの潤みもいらない。


彼女は誰にも見せる予定のないその写真を大切に自分のフォルダに保存した。


「……めぐじゃーにー」


口癖のように漏れたその呪文はもう自分を解き放つ合図ではない。


「私は私として生きていく」という自分自身への祝福(エール)


めぐみはかつて健人がくれたガーターベルトの感触を思い出しながらヒールの音を響かせて歩き出した。


もう隅っこになんていない。


光の真ん分を彼女は一人で凛と進んでいく。


――[#傍点]はいしん?![#傍点終わり](配信×背信)


物語は終わらない。


彼女たちが生き続ける限り新しい「はいしん」は続いていくのだから。


(完)

これにて『はいしん?!(配信✕背信)』の全エピソードが本当に完結となります。

めぐみ、健人、このかの三人が、それぞれの「はいしん」を乗り越えて掴み取った光の真ん中の物語を、最後まで見守っていただき本当にありがとうございました!

読者の皆様の明日が、ハッシュタグのない、あなただけの素晴らしいものでありますように。

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