008 暗闇の中の逃避行
暗闇の中を必死に進む。
明りが無いため手探りで進むしかなく、さらにはシーニャが脚をいためているためスピードも出ない。
ガスが迫っているため闇に眼を慣らす時間は無く、そんな状態で只々見えない道を前に前にと進んで行く。
「シーニャ、手を伸ばして」
「う、うん」
一本道の上り坂。それを進んでいくと壁に突き当たったのだ。
ぱっと見は行き止まりになっているが、頭上の一段上のところに先への穴が続いている。
二人一緒に登ることはできないと判断したマナは、自分が先に登って上から下へと手を伸ばし、シーニャを引っ張り上げようとする算段だ。
ぼんやりとしか見えないシーニャの手。
マナは地面に手をついて段から身を乗り出してその手をつかみ取り、ぎゅっと手を握って引っ張り上げる。
幸い片足を壁にかければ登れる程度だったので、足を痛めたシーニャでも登ることが出来た。
「ありがとうマナ」
「お礼は生き延びてから。行くよ!」
休む暇も無く先へ進む。
ガーヴァルのガスは下方にも進む。
煙のようなこのガスの比重は空気より重く、地下に注ぎ込むのに適しているのだ。
地下に人間が住んでいることが多いためガーヴァルが敢えてそういう性質をガスに付与しているのだが、それを二人は知るすべを持たない。
そんなガスに追われている二人は、口を開くことすら惜しんで無言で進んでいく。
命がけであり、普段以上の力を使って進む彼女たちの口からは荒い吐息が発せられていた。
しばらくずっと下り道が続いていた中、ふと二人は見通しの良い開けた場所に出た。
そこは僅かに地上から光が差し込んでいるため、周囲の様子が良く分かるようになっているのだが、幸運にもそれがガスの接近に気づくきっかけとなった。
「マナ! ガスが!」
「そんなっ!」
ガスは道など構いもせず、僅かでも空間があれば進み、満ちていく。
かたや、急いで進んできた二人には道が必要で。
そんな二人をあざ笑うかのように頭上から立ち込めてくる煙。
心臓をギュッと掴まれるような不安が襲って来たのはマナだけではない。
シーニャだって同じ気持ちだ。二人はまだ子供。12歳なのだから。
それでもマナは気を強く持つ。
「シーニャ、こっち!」
この様子では洞窟の上方はもうガスで満ちてしまっているに違いない。
マナはそう考えて、下へと続く道を選び、進んだ。
もちろんその先がどこに繋がっているかは分からない。
急に上方へと道が曲がるだけで二人の命運は尽きるのだ。
不安と焦りに包まれながらも先へと進む二人。
だが、選んだ道を抜けた先は行き止まりだった。
「道が……」
「うん……」
二人は唖然となった。
行き止まりと言っても四方を壁に囲まれているわけではない。逆に広大な空間が目の前に広がっているのだ。足元は切り立った崖のようになっており……その先へ通じる道は無かった。
通ってきた後ろの穴は狭く、服で塞いでしまえばガスを止められるかもしれないが、広大な空間の別の場所からガスが漏れ出してくればもう手立てはない。
ガスで死ぬかここから飛び降りて死ぬか。二つに一つ。
仮に飛び降りて運よく生を拾い生きていたとしても、地上に出ることが出来なければ再びガスに追いつかれて死んでしまう。
どう転んでも死は近い。
「行こう、マナ!」
「えっ!?」
反射的にマナは聞き返してしまった。
まさかシーニャの口からそんな言葉が出るとは思わなかったからだ。
この崖を飛び降りるというのは非常に勇気が必要だ。地上に出てガーヴァルと対峙するマナでも簡単には決心がつかないほどに。
「崖の下は砂かもしれないし湖かもしれない。私は少しでも可能性があるほうを選ぶ!」
だけどシーニャは言い切った。
先ほどまでのニコニコした笑顔ではない。真剣な目だ。
薄暗い中でもその青い目は強さを湛えている。
じっと、その目を見つめるマナ。
そして――
「分かった」
マナは決意を固めた。
決断するための背をシーニャに押された。
もはや自分とシーニャは一心同体。死ぬも生きるも同じ。
シーニャがやろうというのだ。自分と一緒に飛ぶというのだ。
それ以上のことは無い。
そんな思いを抱くマナには断る理由は無くなった。
二人が意識を合わせたのならそこからは早い。
「え~いっ!」
気合の入らないシーニャのかけ声とともに、二人は崖の底へと消えていった。
お読みいただきありがとうございます。
いつもより短いですが、区切りとさせていただきました。
次回で第1章は終わりとなります。
お楽しみに!




