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040 お買い物デート 後編

「シーニャ、この服はちょっと……」


「え、なになに? 着れた?」


 ――シャッ


 入口の布を動かして、中を覗き込んできたシーニャ。


「うわっ! ちょ、まって、シーニャ、まだ! まだ着てないから!」


 さすがに服を脱いだ状態のままでは羞恥心が沸き上がってくる。

 温泉でちらっと見たけど、シーニャの肌は綺麗で自分とは違う、その思いが余計に羞恥心を駆り立てた。


「もう、楽しみにしてるんだから、早く早く」

「う、うん」


 見られたのか見られてないのか。さっと服で隠したけど大丈夫だったのか。

 そんな思いに加えて、もうこれを着る以外の選択肢がない事も悟った。


「これを着るのかぁ」


 手渡されていたのは長いスカート。

 青い空の色で綺麗ではあるが、生まれてこの方スカートなど履いたこともない。マナはずっとズボン生活だ。


 (こういうのは女の子らしいシーニャには似合うんだけど、アタシじゃあなぁ)


 シーニャの一張羅である巫女服はスカートだ。シーニャの可愛さと柔らかさにマッチしていて可愛さの権化だとも言える。


「シーニャは可愛いんだよなぁ……」


 服を着るのを忘れて脳内シーニャを再生させるマナ。

 むやみやたらとふわんふわんしていて、スカートがふわりふわりと舞う。


 (あ、でも、スカート以外のシーニャも見て見たいかな……)


 スカートに不満はない。むしろシーニャの最適解だとも思っている。

 とはいえ、それ以外の姿も見れるのであれば見て見たいとも思っている。


 (だったら……)


「ねえ、シーニャ、本当にこれを着るの? 恥ずかしいよ」


「だーめ、着て見せて」


「だったらさ、シーニャも着て見せてよ。あとであたしが持っていく服を」


「いいよ。だから早く着替えてよ」


 あっさりとOKが出た。

 仕方がない。シーニャの違う姿を見るためだ。


「き、着替えたよぉ」


 一体どんな姿になっているのか。

 この店には鏡はない。この店に限らず服屋があることも鏡があることもまれな世界なのだ。

 だから自分以外の人に見てもらうしかない。


 ――シャッ


 声を出したらすぐに布がめくられた。


「可愛い! マナ可愛い!」


 早速シーニャの声が返ってきた。


「そ、そうかな、似合わないと思うけど」


「んーん! そんな事ない! ボーイッシュなマナがロングスカートを履くギャップ! 情熱の赤じゃなくて清楚な青を基調とした流れるようなスカートと、シンプルさの中に上品さを追求したブラウスと、極めつけはその帽子!」


 服だけではなく、貴族が被るようなつば広の白いハットを手渡されていたのだ。


「いい、いいよ! でも次はもっといいよ!」


 そう言って次の服を渡された。


 (これって……)


「いいよいいよ! フリフリとリボンリボンのマナ! 次はこれ!」

「何を着ても似合うマナ、素敵、好き!」

「いつもの系統の服も好き! 次はこれ!」

「ああん!」

「最高!」


 そんなこんなで言われるがままに着替え続けたマナだったが、そろそろ限界。

 シーニャに褒められるのは嬉しいけど、自分だってシーニャの着替えを見たいと思った。


「シーニャ、交代。こんどはあたしの番だから」


「えーっ、もう? しょうがないなぁ」


 渋々役割を交代する。


 そして今度はマナが服を選ぶ番となった。


(ズボンのシーニャを見たいかなって思ったけど違うかなぁ)


 自分の番が過ぎ去ってみて冷静になったらコレジャナイ感がある。

 一度脳内で自分が履いているようなズボンを履かせてみる。


(うーん、イメージが違う。短パンは……シーニャには似合わないかな)

 

 短パンを履いて自分のように快活に動くシーニャを想像してみたが、イメージとかけ離れている。


 他の姿のシーニャが見たいのは間違いないのだが、いかんせんオシャレには疎くて、これ、といったものが浮かんでこない。


 (アタシ、本当はどんなシーニャが見たいんだろ?)


 町の人たちが着ていたような服装を頭の中で着させて見たけど、何かしっくりこない。

 並べられている服をざらっと見て見るが、どうにも気乗りしない。


「おっと、嬢ちゃん。あの金髪美少女の着せ替えをご所望かい? だったらいいのがあるぜ」


 おかみさんにやられていた店主のおじさんが復帰したようだ。

 ちょうどいいからとおじさんのお薦めを出してもらうことにする。


「ほら、こいつだ! これは俺の店で一番高価な代物だ!」


「ちょっと、これは下着でしょ!」


 おやじが取り出したのは、薄く面積の狭い布地のもの。申し訳程度に股間と胸を覆うことしかできない。


「おっと、そうじゃないぜ。こいつは水着ってやつだ。ナウなヤングは今こいつを身に着けて温泉にも入るし川で泳いだりする。どうだ? 本当なら試着はさせないんだが、巫女様なら特別に試着してもらってもいいぜ。そうだな、後でどうだったか感想を聞かせてくれよな!」


 (これでシーニャが……)


 ほわんほわんと温泉でのシーンが脳内で再生される。


「だ、だめっ! これはだめっ!」


 頭をぶんぶんと振って、思い描いた姿をかき消す。


「なんでだよ、巫女様も喜ぶにきまってるぜ?」


「だめったらだめっ!」


「そこをなんとか、げぶうっ!」


「あんたっ! ちょっと目を放したらこれだ! 今夜は寝かせないよ!

 お嬢ちゃん、この人のことは気にしなくていいからね」


 おじさんの頬に一撃をいれてKOし、引きずって店舗の奥へと消えていくおかみさん。


 それをあっけに取られて見ていたマナだったが、シーニャを待たせたままだと思って、再び店内を物色する。


「あっ……」


 とあるものがマナの目に留まる。

 それは服ではなく、棚の上に飾られたリボン。白地に金色のラインが入っているものだ。


 (これ、絶対シーニャに似合うやつだ)


 すでにマナの中にはシーニャの着せ替えの事は頭になかった。


「それが気に入ったのかい?」


 おじさんを血祭りにあげたと思われるおかみさんが戻ってくる。


「うん。絶対シーニャに似合う。これが欲しい」


「まいど」


「あとこれと……」


「ふふっ、いいよ。もっていきな! あの人も言ったけど、お代は結構だよ」


「ねえ、まなぁ~、まだぁ?」


 一向に服を持ってきてくれないのでシーニャがしびれを切らしたようだ。


「もうちょっと待って!」


 もう終わりだと伝えても良かったはずが、待てという指示になる。


「あの、こっそり渡したいので秘密にしておいて欲しいんだけど……。あと別々で……」


「あいよ。がんばりな」


「ありがとう」


 マナはおかみさんに包んでもらった二つのものを懐にしまい込んだ。


「シーニャ、ごめんね、やっぱりシーニャはいつもの服がいいな。それが一番好きだから」


「えーっ、まあ、マナがそう言うならしかたないね」


「ごめんね」


「いいよ。でも交代ね。次はまたマナの番だから」


「えっ! もういいよ」


「だーめ! どれを着せようかなぁ」


「あ、これ、アタシは、これがいいなぁ、これに決めよう」


 マナはそう言うと、手近にあった服を手に取ったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

平和な世界! ディストピアであることを忘れるくらいにラブコメでした。

そしてまだ旅の続きは始まらない! 始まるときは新章だ!

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