019 【幕間】虹の雫は誰のもの?
ジャガストの町で改めてマナとシーニャが一緒に楽園を目指すと決めた時から遡る事少しだけ。
二人がジャガストにたどり着く前の事。
虹の雫を革袋に入れて持ってきたものの、その扱いについて二人の意見は割れていた。
マナはシーニャに全部あげたいし、シーニャはシーニャでマナに全部あげるといって聞かなかった。
マナに劣らずシーニャも結構頑固なのだ。
その時のやり取りはこうだ。
「その虹の雫なんだけどね、あんまりおいしくなかったから、良かったらマナが全部もらってくれるかな」
「いやぁ、美味しくなかったからって言われても。アタシもおいしいとは思わなかったし。やっぱりシーニャが持って行った方がいいよ。美味しくなくてもちゃんと効果はあるし」
「私が持ってるとこぼしちゃうかもしれないから、マナが持ってる方がいいよ」
「いやいや、シーニャはそんなにドジじゃないでしょ。アタシだってどこかにひっかけて袋を破ってしまうかもしれないから、シーニャが持ってるポーチの中がいいんじゃない?」
「っ! 虹の雫はキラキラしてるからガーヴァルに見つかりやすくなるかも!」
「外で出さなければいいんじゃない? 洞窟の中で飲むとか。虹の雫が光ってるから暗い洞窟の奥の方で安全に飲めるよ」
「っ! もう! マナのバカ! なんでそんな風に反対するの!」
「だって、突っ込みどころが多いんだもの」
「ううう! 私はマナに全部あげたいの!」
「分かってるけどさ、凄く回りくどい方法だったから」
「もう……。分かってくれたのならいいけど」
「いーや、分かってるのはシーニャの考えだけであって、アタシが虹の雫をもらうかどうかは別の事。アタシだってシーニャに全部あげたいから」
「ダメダメ! 全部マナのもの。生きていくにはお金がいるんだよ? マナ、お金ないでしょ?」
「そりゃ持ってないけどさ。働いたら生きていけるし」
「ホラの町ではお仕事無かったって言ってた」
「うっ……。で、でも、今まで何とかなってるし」
「それは危険な地上に出るからでしょ。それに、食べられない日もあるって言ってた」
「そ、それは、まあ、でも、ほら、今は地上の経験が豊富になったから大丈夫だよ」
「今も全然食べ物見つけられないのに?」
先ほどと立場が逆転した。
ここぞとばかりに攻めに回るシーニャと、なんとか受け流して逆転したいマナ。
二人の応酬が続く中――
「そう。食べ物は見つからない。見つからないんだよシーニャ」
「えっ?」
マナの雰囲気が変わった。
「旅をするには食べ物が必要。だけどこの危険な地上で食べ物を探すのは至難の業。そうだよね?」
「え、うん。そうだけど」
「食べ物が無いと、こまるよね。おなかすくよね?」
「うん。だからマナに――」
「そう。だからなんだよ」
「え?」
「もしシーニャが旅の途中で虹の雫の効果が切れてお腹がすく様に戻ってしまったら、それはもう大変! 鳥も一人で捕まえられないシーニャじゃあ、お腹がすきすぎて倒れてしまうのは目に見えてる。そこでこれ、虹の雫! これさえあれば大丈夫。アタシだってシーニャが持ってないと、安心して過ごせないかもよ?」
「すごせないかもよ、ってなんで自分の事なのに疑問形なの」
「ふふふ、シーニャの良心の呵責に訴える手段。でも心配なのは間違いないよ」
「……だったら一緒に、……」
何かを言おうとしてシーニャはそこで止まった。
「シーニャ?」
「んーん、何でもない。さてさて、今までのはただの雑談です」
「雑談って」
「マナが何を言おうと私はマナに虹の雫をあげるから」
「私だってシーニャがどう言ったってシーニャにあげる」
「きこえませーん」
耳を塞いてしまったシーニャ。
ぷいっとそっぽを向いてしまう。
「ずるいよシーニャ」
「なにもきこえませーん」
「ふーん。だったらこっちだって考えがあるから」
「えっ!?」
マナはシーニャに手を向けて、指をワキワキと動かしたのだ。
「嘘だよね、マナ?」
「嘘じゃないよ、って言っても耳を塞いでるから聞こえてないよね。じゃあどうなってもしかたないね」
ニヤリと笑ったマナは、シーニャのわき腹に手を伸ばすと、無防備なそこをこれでもかとくすぐり始めた。
「やっ、やめてマナ! あっ! だめっ! そこはだめっ!」
くねくねと身をよじるシーニャ。
それでも耳から手を離そうとしないため、マナはさらに動きを加速させる。
「これならどう! まいった? 虹の雫を全部もらうって言いなさい!」
「ひゃあああ! だめ! 絶対に言わないから! あれはマナのなんだから!」
手ごわい! マナはそう思った。
すでに全力のくすぐり。これ以上の効力は見込めない。そうなると持久戦になるのだが、なかなか口を割らなさそうなのだ。
「負けないから! 耐えきったら虹の雫はマナのものだからね!」
趣旨がすり替わっている。
「そんなことは約束してないから。でも、このままシーニャの良いようにはさせないよ!」
最終手段だ。
マナはするりとシーニャの服の中に手を忍び込ませて、お腹をなでた。
「ひゃぁっ! マナ! ずるい!」
「何を言ってるのか聞こえないなぁ。ほらほら、降参しなよ」
服の上からではなくて直接肌に触られることによって、くすぐったさが加速する。
「だっ、だめえっ! 絶対に負けないから!」
「っ! これでもか!」
「負けない! マナには幸せになってもらいたいから!」
「こっちだって負けないから! シーニャには無事に楽園まで行って欲しいし!」
乙女たちの魂がぶつかり合う。
「ああぁぁぁぁぁぁっ!」
ビクンビクンと体を跳ねさせたシーニャ。
「はあっ、はあっ、ど、どうさ、シーニャ」
仕掛けた側のマナも息が上がってしまっている。
「はぁ、はあ、はあっ、……。い、いまのは、ちょっと、身震いしただけ……」
「はあっ、はあっ、頑固だねぇ……」
「はあ、はあっ、頑固じゃないから」
「もう……。わかったよ。じゃあ、半分。半分こ、しよ。それ、ならいいでしょ」
「はあっ、い……。い、や。全部、まなの、だから……」
「すごい頑固。頑固シーニャ。半分こにするって言ってるんだから聞くべきだよ」
「はぁ、ふう。マナだって頑固じゃない」
「シーニャ程じゃないよ。だって譲歩してるし」
「私は譲歩しないよ。マナに持って行って欲しいから」
「むっ! アタシだってシーニャに持って行って欲しいよ! でもシーニャの気持ちも汲んであげたいから!」
「じゃあ、全部汲んで。全部マナの」
「こ、このバカシーニャ! 分からずや! 頑固もの! おたんこなす!」
「お、おたんこなすって! マナだってわからずやじゃないの!」
「ええ、ええ、どうせわからずやですよ! だからシーニャの気持ちもわかりません!」
「もう! マナのひねくれもの! そんなマナには負けないから!」
「頑固、頑固、頑固もの! アタシが譲歩するのは半分こまでだからね! これ以上駄々をこねるようなら、シーニャが寝てる間に全部のませちゃうから」
「だ、だめだよ!」
シーニャは気づいた。マナはシーニャに虹の雫を飲ませれば目的が達成できるが、シーニャはそうではない。同じようにマナに飲ませてしまうと無くなってしまうため、虹の雫を売ってマナにお金持ちになってもらうという計画が台無しとなる。
だからマナには虹の雫を持っていてもらわなくてはならない。
飲ませれば済むマナと持っておいてもらわなくてはならないシーニャ。
これは分の悪い勝負なのだ。
「ダメじゃないよ。全部飲ませちゃうから。言ってわからないシーニャには全部のませちゃう」
「そ、そんな事されたら嫌いになっちゃうから!」
「シーニャの事が心配だから、嫌いになられるくらいなんでも無いよ」
「う、うううううう! もう! 分かった。分かりました。半分こにします!」
「ありがと」
ニコリと笑みを見せるマナ。
「どっちが頑固なんだか」
「えっ?」
「なんでもないよ」
「そう?」
「あ、でも、思い出した。さっきすーーーーーーーーっごくくすぐってくれたよね?」
「あれは、シーニャが頑固だからじゃない」
「ふーん。じゃあ、私もやっていいわけだ。マナが頑固だから」
「ちょ、ちょっと、シーニャ。ほら、もう終わったことだしさ」
「そんな言い訳は通じないよ。私、頑固なんでしょ? 絶対にマナにも同じ目にあってもらうから」
「あの、シーニャさん? ちょっと、目が、怖い」
「うふふ、私もガーヴァルじゃないから、選択肢をあげる」
「せ、選択肢?」
「そう。一つはこのまま私にくずぐられ続けて恥ずかしい姿になるまで悶え続ける」
「ほ、他は?」
「もう一つは、今日の夜は私にだっこされて寝ること。もちろん抵抗はできません。大人しくずっと朝まで抱かれたままです」
「えっと、他は……」
「もうありません」
「もうない……」
「もうありません」
「そうですか……。その、……。だっこでお願いします……」
マナは折れた。
そうしてその日の晩は二人仲良く寝たのであった。
いや、密着されてドキドキしたマナはまったく眠れなかった、というのが正しい表現だった。
お読みいただきありがとうございます!
意図して尊さを出そうとしたわけじゃなかったのですが、完成したら尊くなってました!
仲良しな二人! 喧嘩してたはずなのに!
ですがこれはまだ友情の域を出ません。この先二人はどうなっていくのか。
次回第3章が始まります。
お楽しみに!




