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018 すれ違う想い

「ううーん……」


 翌朝、体内時計によってマナは目を覚ました。


 洞窟の中であるため太陽の光は入ってこない。昨夜は借りたランプで光を作り出していたが、寝るために消してしまっているので真っ暗だ。

 だけど元々住んでいたホラの町も暗さという意味では変わらない。ホラの町でも明るさで時刻を計ることはなく、今日もいつも通りと言うわけだ。


 いったい昨日はいつ眠ってしまったのだろうか。

 最後の方にした話は覚えていない。シーニャとはどんな話をしていただろうか。


 そう思いながらマナは、ふと隣のベッドのシーニャに目をやる。


 薄暗い中でもそれなりに夜目は効く。

 視線を向けた隣のベッド。そこには畳まれた布団が置かれているだけ。

 

「シーニャ?」


 ゾワリとした感覚がマナの背中を這う。


「シーニャ!?」


 バタンと荒々しく扉を開いて部屋を飛び出す。


 悪い予感がする。

 ただ、トイレに行っただとか起きてから顔を洗いに行っただとか、そういう感じではないと心が告げている。


 通路の先。町の外を一望できる場所でシーニャの姿を求めて辺りを見回していると、この町の長に出会った。


「おや、おはようございますじゃ」


「おさ、シーニャは! シーニャはどこにいるか知らない!?」


「あぁ、お連れの方ならもう旅立ちましたよ。てっきりあなたも知っているものかと」


「どっちに!」


「え、ええと、太陽の方角へ」


 その言葉を聞いたマナは返事もせずに走り出す。

 姿は肌着のまま。女子が外でしていい恰好ではない。

 だがそんな事は些細なことだ。何よりもまず走り出さずにはいられなかったのだ。


 (馬鹿シーニャ!)


 岩部屋から地面に駆け降りて、畑の淵を全力で蹴って進む。

 足が土に取られようが、泥が跳ねて汚れようが関係ない。


 (お別れの挨拶だってしてないのに!)


 勝手にいなくなるなんて信じられない。

 怒りだか焦りだかよくわからない気持ちが溢れ出してくる。


 (バカ、バカ。バカ、バカっ!)


 心の中はそんな気持ち一色。

 周りの事を構う余裕も周囲を警戒しなくてはならないという気持ちも、全てをその色が塗りつぶしていく。

 朝靄のかかった森も、踏み折った枝も、時折肌に切り傷を付けていく草も、何もかも。

 何もかもがマナの心には入ってこないし残らない。


 (シーニャ! シーニャ! シーニャ! シーニャ!)


 心を埋め尽くすのはこれまで一緒に旅をしてきた少女の事。

 いつも笑顔で、深刻な場面でも彼女のたれ目の可愛らしい顔がマナの心を癒してくれた。

 やはり見た目どおり体を動かすのは得意ではなく、かといって前に進むのをあきらめない強さも持っている。

 ほんわかした様子からは想像しにくいが結構頑固で融通が利かない部分もある。

 

 そんな風にシーニャへの想いが強くなりすぎて、マナには目の前の景色がほとんど見えていない。

 

 何かに足が引っかかってこけた。


 だが、気にすることもなく立ち上がり、すぐに駆けだして。

 ただただ、心を一杯にしている女の子を求めて走り続ける。


 そして――


「シーーーーニャっっっっ!!」


「マナ……」


 ジャガストから少し離れた藪の中。

 一人して歩くシーニャの姿を見つけたのであった。


 溜め込んだモヤモヤと思いの丈を大声に乗せて吐き出したマナ。

 名前を呼ばれたシーニャは笑顔とは言えない顔で振り返った。


「どうしてっ! どうしてっ!」


 シーニャに追いつくと両手で肩を捕まえて、溢れ出す心のモヤモヤをぶちまける。

 考えが爆発して整理しきれず、そのまま心から口へと流れ込み放出されたのだ。


「なんでよ! どうしてよ!」


 マナは気づいていないが、シーニャの肩を掴む手には相当の力がかかっている。

 そんな必死の形相(ぎょうそう)のマナに、シーニャは申し訳なさそうにほほ笑んだ。


「ごめんね。お別れが寂しくなるから黙って出発したの」


「だからって! だからって!」


「ごめんね……」


 再び言葉を紡いだシーニャ。

 その瞬間、その目から涙がこぼれ落ちた。


 (!!)


 熱くなっていたマナだったが、シーニャの涙を見て冷静になり……その涙に込められた意味に気づいた。


 (シーニャだって寂しかったんだ……。アタシと別れるのが寂しいって思ってくれてたんだ……)


 命の軽い地上で友情を育んだのだ。そうなることは必然だった。


 だけどほんの幾日か一緒にいただけ。相手の全てを把握できるほどの長い時間でもない。

 昨日のシーニャはマナを町に売り込むのに熱心だった。

 マナの事を褒めたり持ち上げたり、言い過ぎではないかという話もあった。

 シーニャの行為だけ見ると、この後も一緒に旅を続けるよりも、マナをジャガストに残したいという思いが勝っている様に感じた。

 最初のおじさんに虹の雫の話をいきなりしたのもそうだ。

 虹の雫を全部マナに渡すと言って聞かなかったところもそうだ。

 全部マナと町で別れる前提だった。


 だからマナは心のどこかで引っかかっていた。

 シーニャにとって自分はそんなに大きな存在じゃないのではないかと。

 そして時が慌ただしく過ぎる中、マナはそんな気持ちに蓋をしていた。


 だけどシーニャの本心はマナが思ったとおりではなかったのだ。


 シーニャだってマナと別れるのは寂しかった。

 だけどマナの事を思うと町で別れるのが幸せなことだ。普通はそう考える。

 町で暮らすことと、どこにあるかもわからない場所へ向かって危険極まりない地上を進むことを比べると、幼子でも答えを出せる。


 その当然の答えに従ってマナの事を思って、マナが危ない目に会わないように、これからジャガストで幸せに暮らせるようにという想いからの行動だったのだ。

 言うまでも無くそれはシーニャの本心ではなかった。


 だけれども、それをひた隠しにして、マナには見せないようにと振舞って。

 そして……最後に何も言わずに出発することを決断したのだ。


「馬鹿シーニャ! 馬鹿馬鹿馬鹿!」


「そんなにバカバカ言わないでよ。マナに言われると本当に馬鹿なんじゃないかなって思ってくるから」


「思ってくるから、じゃないよ! 言わなくてもシーニャは馬鹿だよ! 大馬鹿!」


「それは酷いよ……」


「ひどくない! シーニャは大馬鹿だよ! 本当に心配になる!」


「……」


 追加の口撃でさらに打ちのめされたシーニャは言葉を発する事が出来ずに黙ってしまう。

 マナが怒るのも無理はない。自分がそれだけの事をしたのだという負い目もあって、うつむいてしまう。


「本当に! 本当にっ!」


 マナには嫌われたくない。

 自分が悪かったとはいえ、進んで嫌われたいはずもない。むしろ大好きになってもらって一緒にいてもらいたい。

 だけど自分でその可能性を潰してしまって、その挙句に嫌われてしまったのだ。

 一緒に歩いたり、一緒にお話ししたり、一緒に寝たり。そんなことはもうできない。

 もう昨日の様には戻れないのだ。


 そう思っていたシーニャは、次のマナの言葉を聞きとることができなかった。

 まさかそんな言葉を言われるとは思っていなかったから。


「だから一緒に行ってあげる」


「えっ……?」


 空耳かと思った。

 だからシーニャは顔を上げた。


 マナと目が合った。

 マナはしっかりとシーニャの事を見ていた。

 そしてもう一度マナは口を開いたのだ。


「一緒に行ってあげる。危なっかしくて見てられないから。こんなにお馬鹿でお人よしで、頑固で、融通の利かない子なんて、一人で送り出せるわけがない」


「マナ……」


 今度は間違いなく聞き取れた。

 自分と一緒に行ってくれると、マナはそう言ったのだ。

 間違いなく聞き取れたはずなのに、心がその言葉を受け入れることが出来ていない。

 そんな思いがシーニャの表情をポカンとさせていた。


「なに? いやだって言うの? 残念。あたしだって頑固なの。シーニャが嫌だって言っても一緒に行くから」


「ついてきて、くれるの?」


「ばか。付いて行くんじゃないよ」


「えっ……」


 シーニャは困惑した。

 楽園を目指す自分に付いてきてくれると言ったのではなかったのか、と。

 今まさにそう言ったじゃないか、と。


 その困惑はすぐに霧散した。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()。分かる?」


 シーニャはまだマナの言葉を受け入れられていなかったのだ。

 楽園を目指す自分にマナが付いてきてくれるのだと思っていた。

 でもマナの真意はそうではなく、マナもシーニャと同じに、並んで、二人で、一緒に、楽園にたどり着くというものだった。


「うん、うんっ!」


 その言葉の意味をようやく心で受け止めることができたシーニャは、笑顔を浮かべながらボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。


「ほら、泣き虫だ。アタシがいないとだめなんだから」


「うん、うん、うん。一緒に行こっ! 二人で一緒に!」


「あっ! シーニャっ!」


 感極まったシーニャに抱き着かれて押し倒されてしまうマナ。

 幸い落ち葉がクッションとなって背中の痛みはなかった。


「マナっ、マナっ!」


「ほら、シーニャ、泣いてばかりだったら可愛い顔が台無しだよ」


「ずずっ、だって」


「笑顔笑顔。アタシはシーニャの笑顔が好きだよ」


「うんっ!」


 涙と鼻水にまみれた笑顔。

 それは今までマナが見た中で一番キラキラしていた笑顔だった。


 (この笑顔が見られるのなら、安定した生活をするよりも絶対にいいよね)


 そして、ぐちゃぐちゃになっているシーニャの顔を(ぬぐ)ってあげるのだった。

お読みいただきありがとうございます。

これにて第2章は終了となります!


激しく揺れ動いた二人の気持ち。

それはガールズラブとはまた違ったものでした。

この後、旅の中で二人の気持ちはどうなっていくのか。楽しみにしていただけると嬉しいです。


区切りなのでまたお伝えいたしますが、良かった、続きが気になる、応援します! という方はぜひ評価の★を入れてください。とても喜びます。

感想もお待ちしております。良い、好き、などの2文字から気軽にどうぞ!

こちらも喜びます。


さてさて、次回からは第3章「心の内側」をお送りします。

と言いたいところですが、一つ幕間を挟みます。

お楽しみに!

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