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014 お腹が減った 後編

「シーニャ! ガーヴァルだ!」


 マナは一目散に木から飛び降りようとするが、高さがあったため登っていた枝をするりと滑り降りて下の枝に着地し、そこからシーニャの待つ地上へと飛び降りた。


「シーニャ、こっち! 急いで」


 シーニャの手を引いて全速力でやって来た道を戻る。

 視認したガーヴァルはマナの存在に気づいていた。つまりは気づかれないまま隠れてやり過ごすという事が出来ないのだ。


 いざという時のために、マナはどこにいても一番近い避難できそうな場所を頭に入れて行動している。


 それがこの洞穴。

 逃げ込みさえすれば巨大なガーヴァルは入ってくることはできない。


 スザザザザと洞穴に滑り込んだ二人。

 洞穴の存在は見つけていたが中までは調べておらず、実際に入ってみるとそれほど深くはなかった。

 これではガーヴァルの触手が届いてしまう可能性もある。


 だとしても今から別の場所に移動している時間は無い。


 二人が洞窟の一番奥へと陣取ると、入口の光が途切れた。

 それは入口までガーヴァルが来たことを示している。


「マナ……」


「大丈夫だから」


 そう言うとマナは自分が前に出て、シーニャを奥側へと誘導する。

 小さな体を大きく開いて、シーニャを守る体勢になる。


 ガーヴァルの体に遮られた光は洞窟の奥までは届かず、入口部分に僅かに漏れ入ってくるのみ。

 そんな僅かな光から天敵の様子を察するしかない二人。


「ひっ!」


 中の様子を確認するために、ガーヴァルの目がぎょろりと動いたのだ。

 さすがの恐怖に後ろのシーニャは声を漏らしてしまう。


 それで中に人間がいることに気づいたのか、ガーヴァルはにょろにょろと触手を一本伸ばして洞窟の中へと送り込んできた。


「大丈夫だから」


 シーニャを安心させるために力強くそう言うマナ。当人にしても大丈夫だという確信など持てるはずも無かったが、シーニャを守らなくてはという思いが、そう口に出させたのだ。


 二人を殺そうとして侵入してくる触手。

 グネグネ、うねうねとした大人の胴よりも太い触手がもうそこまで迫っている。


 ニョロニョロとした触手が進行を止める。

 届かないのか、と思ったその矢先――


 ――ダンダンダン


 入ってきた触手が荒く動き、洞窟の壁を、床を、天井を叩き出した。

 激しい音が洞窟内に反響して二人の耳を襲う。

 触れるだけで肉塊に変えられてしまうと分かる重低音。


 そんな様子にシーニャは縮こまって顔をうずめてしまい、マナはそんなシーニャに覆いかぶさるようにしてぎゅっと体を抱きしめる。


 ――ダンダンダンダンダンダン


 さらに触手が激しく動く。

 洞窟を広げて侵入しようとしているのか。はたまた洞窟を崩落させて二人を圧殺しようとしているのか。どのような意図があろうとも、二人を殺すという意図は明確。


 ――ダンダンダンダンダンダンダン

 ――ダンダンダンダンダンダンダン


 洞窟の壁が揺れ、バラバラと砕けた岩が落ちてくる。


(シーニャ! シーニャ!)


 マナには祈るための神はいない。目を瞑り、ただひたすらシーニャを守るという思いを念じていた。


 ――ダンダンダンダン

 ――ダンダンダンダン


 ――ダンダンダン

 ――ダンダンダン


 ――ダンダン


 ――ダン


「…………」


 どれくらいの時間が経ったのだろうか。音が聞こえなくなった。

 不思議に思ったマナは、そっと片目を開いてみる。


 すると、暴れていた触手の姿は無く、入口からも日の光が差し込んでいた。


「助かった、の?」


 マナはポツリと漏らした。


「まなぁ、まなぁ!」


 その様子を感じ取ったシーニャはマナの体をぎゅっと抱きしめる。

 そしてマナもそれに応じた……。


 結果として二人は生き残った。

 洞窟のほうが僅かにガーヴァルの触手よりも奥深かったのだ。


 命が助かったとはいえ、課題は山積していた。

 ガーヴァルの脅威、そして空腹。


 マナはごろんと洞窟の床に寝ころんだ。


「ガーヴァルがいるんじゃあ、卵を探すなんて無理だ」


「おなか減ったね」


 真似るようにシーニャも寝ころんだ。


 ぐうぐう、くうくうと腹の虫の大合唱が始まる。


「マナのおなか、鳴ってるよ?」


「シーニャのおなかもね」


「私は鳴ってないよ。鳴ってるのは全部マナのおなか」


「冗談ばっかり」


「あはは。ばれた?」


「ばれるもばれる。どうしてばれないと思ったのさ」


「うふふ」


 お腹が減りすぎてもう何もかも可笑しくなってきた。


 とはいえいつまでもこうしているわけにも行かない。

 行動に移さなければガーヴァルに殺される前に餓死してしまう。


「じゃあシーニャ、行こうか」


 マナは乗り切らない体を無理やりに起こす。

 

「うん。湧き水探そう」


「そうだね。せめて水だけでも飲んでおきたいね」


 方針を固めた二人は、のそのそと洞窟の入口までやって行く。

 気分が滅入っていることもあってゆっくり動いているのだが、もちろん勢いよく外に出る事なんてもってのほかだ。

 先ほどまでガーヴァルがいたのだ。まだ外をうろついている可能性も否定できない。


 マナは先頭を切ってそっと洞窟から顔を出し、外の様子をうかがう。


 正面にも、空にも天敵の姿は無い。

 とりあえずは一安心。


「あれ?」


 マナはとあるものに気づいた。

 洞窟に逃げ込むときには気づかなかったものだ。


「どうしたのマナ?」


「んーと、あれ見てよシーニャ」


 シーニャが近くに寄ってきて、マナの指さす方向を見る。


「わぁ、綺麗!」


 洞窟の脇にある草むらの一角、そこが虹色に光っているのだ。


「あれってもしかして」


「行ってみようよ!」


 二人は小走りで光っている草むらに近づいていく。


 七色に光を放つ根源。

 そこにたどり着くと、茂る草の上に光り輝く液体が溜っていたのだ。


「虹の雫……なの?」


 話を聞いたことがあるだけで、マナは本物を見たことが無い。


「間違いないよ、虹の雫。見たことあるから」


「えっ、シーニャ、虹の雫見たことあるの!?」


「うん。イングレッソではね、たまーに聖地に虹の雫が流れてくるの」


「そっかー。それで」


 イングレッソはシーニャの故郷。理屈は分からないが、聖地というのに虹の雫が流れてくるのなら、長期間繁栄していることも、服装がホラの町とは違う事もうなづける。マナはそう思った。


「さすがにこんなにキラキラした虹の雫を見たことはないけどね。どうするマナ。飲んじゃう?」


 少し興奮気味のため忘れていたが、腹は大合唱をしているところなのだ。

 虹の雫を飲めばしばらくは何も食べなくても大丈夫になる。食料の当てがない今、これほど望んだものはない。


「そうだね。これを売ったら何年も遊んで暮らせるらしいけど、でもお腹が減りすぎて死んだら意味無いしね」


「うんうん。もうお腹がペコペコだよ。私も飲んだことはないけど、どんな味がするのかな?」


「飲んでみればわかるよ」


 改めてマナは虹の雫を見つめる。

 雫の下の草は重みに耐えかねてしんなりとしている。サラサラの液体であれば流れ落ちているはずだが、どうやらある程度の粘性を持ってるようだ。

 量としてはマナの両手の平を合わせて1杯くらい。


「どれくらいの量を飲んだらいいのかもわからないし、本当に飲んでも大丈夫なのかも気になるし、アタシが先に飲んでみるね」


 まずは毒見が必要だと思った。何日も何も食べなくても良くなるものなんて、さすがに無謀に口の中に入れるわけにはいかない。


「だめ。一緒に飲もう」


「え、だって、危ないかもしれないし」


「どんな味がするのか気になるっていったでしょ。マナが先にのんじゃうとずるい」


「いや、ズルイとかそういう問題じゃなくって、もし危なかったらシーニャには飲ませられないし」


「うふふ、分かってるよ。冗談だから」


「冗談って。もう」


「ごめんね。でもね、だから一緒に飲もうって言ってるの」


「どうしてそうなるのさ」


「一緒がいいの。マナと一緒が。お願い!」


 熱心に頼み込んでくるシーニャ。ほわほわした普段の様子からはあまり見られない熱意にマナは押されて、仕方なしにOKしてしまう。


「じゃあマナ、いっせーのーで、で飲もうね」


「わかった」


 いっせーのーで、っていうかけ声は初めてきいたが、今そこを突くマナでもない。


 マナとシーニャの手の上にはすでに、草むらから掬い取った虹の雫が乗っている。

 謎の粘性を発揮している雫にそっと手を伸ばして掬い取ってみたら、思ったよりもサラサラしていた。手と手の隙間から流れ落ちることもなく、かと言って手に張り付いてとれなくなることもなく。

 先ほどそうこうして二人が掬い取って、今が飲む直前なのである。


「いい、シーニャ? ちょっとずつ飲むんだよ。たくさん飲んだらお腹が膨れて破裂してしまうかもしれないからね」


「うん。じゃあいくよ、いっせーのーで!」


 シーニャのかけ声とともに二人は手に汲んだ虹の雫へ口を付ける。


 (ちょっとずつ、ちょっとずつ)


 マナはほんの少しすすって口の中で唾液と攪拌する。そうしているうちに味が分かるはずだったが、どうにも味がしない。

 不思議に思って飲み込んでみたが、喉を通っても、これが虹の雫だ、っていう味はしなかった。


 舌がピリピリするような危険な味もしないので、もう少し飲んでみることにして、今度は直接喉に流し込んでみるものの、同じく味はしなかった。


「何の味もしないね」


 隣でシーニャが感想をくれる。


「ちょっとシーニャ! 全部飲んだの!?」


「え? そうだよ?」


「ちょっとずつって言ったじゃない!」


「うん。ちょっとずつ飲んだよ?」


 どうやら認識にずれがあったらしい。が、シーニャだけに毒見をさせるわけにも行かず、手に残った雫を一気に喉の奥に流し込むマナ。


 その効果はすぐに表れた。

 先ほどまで大合唱していた腹の虫がおさまっただけでなく、なんだか満腹感も込み上げてきたのだ。


「なんかすごく走り出せそうな感じがするね」


 シーニャのほうも同じようだ。先ほどまでの疲労感がウソのように、まるで爽やかな目覚めの後のように体が生き生きとしているのだ。


 これなら休憩も無く進むこともできるかもしれない。


「じゃあガーヴァルが戻ってこないうちに出発しよう」


 草の上に少しだけ残っていた虹の雫を革袋に入れて……そして二人は再び進みだすのであった。

お読みいただきありがとうございます。

激レアアイテム、虹の雫を手に入れた二人。

光る星を手に入れた赤い帽子の髭配管工のように無敵になるのか。

はてさて、次回をお楽しみに!

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