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第97話 化物と呼ばれた男 2

 光を見た


 まだ弱い……消えそうな光だった


 でも、その光は少しずつ輝きを増した


 そして、いつの間にか


 温もりと共に……暗闇を晴らす存在になっていた



 ・・・・・・・・・


 メアリーをアルガンに預けて1ヶ月経った


 俺は毎日、朝から夜遅くまでメアリーの看病をしていた


 カックルがメアリーの容態を確認したり

 アルガンが仕事の合間に見舞いに来たり

 貧民街の住人が2人ずつだが、兵士に変装して見舞いに来たりした


 メアリーはというと


「おかわり!!」


「はーい♪ ふふ、可愛いわね」


 アルガンに仕えるメイドにサンドイッチのお代わりを貰っていた


「いやー予想以上に元気な子ですね、食欲が湧いたらあっという間に元気になりましたね」


 カックルが愉快そうに笑う


 1ヶ月前まで死にかけてたとは思えないメアリー


「もう……大丈夫なのか?」


 俺はカックルに聞く


「ええ、熱も下がりましたし、完治したと言っても問題ないでしょう」


 その言葉に俺はほっとする


「しかし……別の問題があります」


「別の問題?」


「外に出ましょう、ここでは話せません」


 俺はカックルと一緒に部屋を出た


 ・・・・・・・・


 そしてやって来たのはアルガンの私室だ


 アルガンは机に座って紙を読んでいた


「んっ? 2人共どうしたんだい?」


 アルガンが俺達を見る


「お2人に話がありまして、メアリーに関係することです」


 カックルが椅子に座る

 俺も向かいの椅子に座る

 アルガンは紙を机に置いてカックルを見る


「メアリーがどうしたの? もう治ったんだよね?」

「ええ、しかし別の問題があります」

「それは何だ?」


 俺が聞くと


「ハッキリ言いましょう、このままだとメアリーはまた病気を再発します」


「なっ!?」


 治ったんだよな!?


「……あぁ、やっぱりか……」


 アルガンは納得してる


「ど、どう言うことだ!!」


 俺は叫ぶ


「オルベリン、落ち着いて」

「落ち着けるか!!」

「いいから座る!」

「…………っ!」


 俺は椅子に座りなおす


「話を続けますね? メアリーの身体には問題はありません……問題があるのは場所です、彼女の住み処です」

「住み処が?」


 俺は首をかしげる


「この間、貧民街を見てきました……あそこは不衛生ですね、それにマトモに食事もとれない……あんなの病気にならないのがおかしいくらいです」


「…………」


 確かにあそこは綺麗とは言えない

 ゴミは多いし、風呂なんて無いから身体も汚れまくりだ

 マトモな食事なんて食えるわけない、ゴミあさりか残飯を手に入れるかだ


「住民も健康な人なんて数える程度でした、そんな所に戻ったらまた病気になります」


「…………」


 そう言われたら言い返せない


「そこでオルベリン、提案です……アルガン様」


「あ、うん、ねぇオルベリン……メアリーは僕に任せてくれないかな? 使用人として彼女を雇いたいんだけど」

「なに?」

「この1ヶ月でメイド達もメアリーを気に入ってさ……ここなら食事もちゃんと与えられるし、寝床もしっかりと用意できるし、病気になったらカックルが診れるし……ちゃんとお給料も出せる、良いことだらけだと思うんだけど……」

「……それで? その代わりに俺を利用するのか?」


 メアリーを餌に俺を手に入れる

 ……アルガンの目的が果たせるわけだ


「えっ? ……あっ、その手があったか……」

「…………」


 アルガンは本当に今気付いたって顔だ


「おい、まさか本当に善意で言ってたのか?」

「う、うん……」


 恥ずかしそうなアルガン


「だって放っておけないし……色々と考えたんだけどね? やっぱりメアリーを雇うのが1番彼女の為になるかなって……休みもあるから君達とも普通に会えるし……」


 こいつは……本当に……


「お人好しだな……」

「それがアルガン様の魅力ですよ」


 カックルが、『くくく』と笑った


「う、うう……」


 顔を伏せるアルガン


 ・・・・・・・・・


 メアリーに話をする


 最初は戸惑っていたが、雇用条件の話を聞くと


「皆に会えるの!?」

「勿論!」


 そして給料の話を聞いて


「それじゃあ、オル兄に新しい服とか贈れるの? シャル兄にも! パル姉にも!」

「うん、君の稼いだお金なんだから、君の自由にしていいんだよ?」

「わぁ!」

「あー、メアリー? 別に俺に服とか贈らなくて良いんだぞ?」

「駄目! オル兄の服ボロボロなんだもん! それもう布切れだよ!」


 うっ! 痛いところを……


 そんなこんなで、メアリーはアルガンに雇われる事になった……



 ・・・・・・・・・


 メアリーの心配は無くなった

 俺は城を出ようとする

 俺を見送ろうと一緒に来るアルガン



「……なぁ、アルガン……どうして今、俺を誘わない? メアリーの事を言えば俺は断れないぞ?」


 不意に、アルガンにそんな事を聞いてしまった


「えっ? なんでって……うーん……今、オルベリンを誘ったらさ、それは借りから雇われるって事でしょ? 君は忠実な配下になってくれるとは思うよ?」


「なら何故?」


「だって、私が欲しいのは忠実な配下じゃないからね」


「えっ?」


 俺は立ち止まる

 アルガンも立ち止まる


「私が欲しいのは、対等な関係の同志だよ……じゃないと、私が間違った時に正してくれないだろ?」

「…………」

「だから、借りとか恩とか……そんなのを利用して君を誘おうとは思わない……メアリーの事は気にしないでよ、丁度使用人を雇いたいって思ってたから、利害の一致だよ」


 笑うアルガン


「はっ、そうかい…………」


 俺は歩くのを再開する

 アルガンもついてくる


 そして城門にたどり着いた


「この門を出たら、メアリーの話は終わりだな」

「うん、また毎日行くからね? その時にメアリーも連れてこようかな~?」


 イタズラをする子供の様にニヤニヤするアルガン

 悪意は一切感じない


「ああ、皆喜ぶな……」


 そして俺は城門をくぐった


 そして振り返る


「?」


 アルガンが首をかしげる


 俺は再び城門をくぐってアルガンの前に立つ


「アルガン、俺を雇え」

「えっ? でも……」

「言ったろ? 城門を越えたらメアリーの話は終わりだと、俺は、俺の意思で言っているんだ」

「そ、そうなの?……良いのかい?」

「ああ、俺はお前の事が気に入った」


 俺は見てみたくなったんだよ

 お前が領主になって、領を統治する所を……

 そして支えてやりたいと思った


「お前は人が好すぎるからな、騙されないか心配だ」

「うわ、酷いなぁ!?……でも、うん……嬉しいよ、オルベリン」


 俺とアルガンは握手する


 こうして……俺はアルガンの配下になった


 ・・・・・・・・


 また、懐かしい夢を見たな……


 ワシは身体を起こす


「……アルガン……」


 思えば……あのお人好しな性格は坊っちゃんにまで受け継がれて居るな……


「色々あったな……」


 あの後、貧民街の連中も何人か雇われて……ワシと共に戦い


 アルガンは見事に功績を挙げた


 あの頃のオーシャンの領主の跡継ぎは競争だったからな

 候補で1番の功績を挙げた者が次代の領主になる

 アルガンの父が引退するまでが期限だったな


 アルガンは兄2人からかなり遅れていたが……皆で支えて、遂に兄達を追い抜いたのだ


 そして、アルガンが領主になった

 その後、アルガンが領主になった事を不満と思う貴族と兄達が内乱を起こしたが……ワシ等で鎮圧したのだ……


 思えば……あの頃から、ワシの事が世に広まり始めたのだったな


 ・・・・・・・・・


「申し上げます! 反乱軍30,000がヘイナスを包囲しております!」


「そうか……はぁ、兄上達は私が領主になったのがそこまで不服だったか……兄上達にも立派な役職を任命したのに……」

「仕方ないだろ、あの2人はお前と違ってプライドが高いのだからな……弟に負けたとなったらこうなる」


 アルガンに俺が言う


「うーん……私としては兄弟で仲良くしたかったんだけどなぁ……」


「そう思ってるのは、貴方様だけですよ」


 中年の将『ナユル』が言う

 俺に将としての基本的な事を教えてくれた人だ


「あーやだやだ、オレっちはアルガン様に従って正解でした」


 俺よりも若い将『ベルル』は言う


「はは、さてと……軍議を再開しよっか」


 アルガンが言う


「反乱軍は30,000人……対して私達は10,000人……他の兵は其々の都を防衛してて身動きが取れないからね」


 ヘイナス以外の都は防衛に徹している

 それはアルガンの指示だ……少しでも民の犠牲を減らそうとしての事だ


「数は3倍……さて……どうしよっか?」


 笑っているが不安そうなアルガン


「籠城は厳しいな」


 ナユルは頭を抱える


「うーん」


 ベルルもだ


「俺に提案がある」


 全員が俺を見る


「まあ、策って程ではないが」


 俺は話した


 ・・・・・・・



 ヘイナスの門が開く


 そして、1人の男が馬に乗って駆け出した


 反乱軍は最初は降伏の使者だと思っていた


 しかし、男が槍を取り出したのを見て、身構えた


 たった1人、たった1人で何ができるのか?


 反乱軍は疑問に思いながら警戒する


 男は止まらない


 そして、反乱軍の1軍に突撃した


 無謀な突撃

 反乱軍の誰もがそう思った


 突撃された軍が騒がしくなる


 しかし、数分後には静かになった

 突撃した男が討たれたのだ


 反乱軍の誰もがそう思った……


 だったのだが……


 突撃された軍が急に散り出した

 逃げていく兵達


 動揺が走る反乱軍


 そして現れる……突撃した男が

 男の手には2人の首があった


 反乱軍の大将であるアルガンの兄2人の首だった


 そして男は叫んだ



「降伏せよ反乱軍!! 貴様等の大将は……このオルベリンが討ち取った!!」


 ・・・・・・・



「全く……無茶苦茶言うよ、オルベリンは……」


 アルガンは外壁の上から見守っていた


「許可するアルガン様もですよ」


 ナユルが言う

 ベルルは目を丸くしていた


「だって許可するしか無いじゃないか……ああ言われたら」


 オルベリンの提案、それは単騎で突撃して速攻で大将を討つ

 そんな無茶な提案だった


『そんなの許可出来るわけないだろ!』


 反対するアルガン


 しかし……オルベリンは言ったのだ


『それしか方法は無いだろ? お前は俺を信じてこう言うんだ!』


「……『勝て、オルベリン』……はは」


 アルガンは笑う

 意気揚々と戻ってくるオルベリンを見ながら


 ・・・・・・・・・


「…………」


 ナユル……ベルル……今は亡き同志達……


「お前達の子や孫も……立派に戦っているぞ……」


 まだ将にはなれていないがな……


「むっ?」


 気が付けば空が明るい


 どうやら朝を迎えた様だ


「…………」


 あれから数十年……ワシも歳を取るわけだ……


「……むっ?」


 人の気配が近付いてくる


 ガチャ


 扉が開いた


「オルベリン? 起きていたのか?」

「ああ、坊っちゃん……ええ、つい先程」


 坊っちゃんが椅子に座る


「そっか……あールーツから聞いたと思うが……」

「パストーレを攻めるのは3ヶ月後でしたな? それまでには復活しましょう!」


 ワシは答える


「あ、いや……それは気にしなくていい……今度のパストーレ戦ではオルベリンには留守を任せて……いや、駄目だな……そんな誤魔化しは……」


 坊っちゃんは頭を抱える……とても言いにくそうだ


 ワシは坊っちゃんを見る


「坊っちゃん……落ち着いて……伝えたい事があるのでしょう?」


「……あぁ……オルベリン」


 坊っちゃんは覚悟を決めたのか、強い目でワシを見る


「お前には隠居してもらいたい」


 それは、ワシに将を辞めろ

 そういう発言だった……
























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